『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第五部「バイオゾイド猛襲」   作:城元太

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第四拾八話

(うつ)(ぶね)だと」

「既に恒利(つねとし)殿が見分に向かっております。入定(にゅうじょう)の成り損ないでしょうか」

「いや、補陀落渡海(ふだらくとかい)にしてはハコが綺麗過ぎる。是基(これもと)、ここから生体反応は確認できるか」

「装甲が邪魔をして探知が及びません。せめて共和国型であれば」

日振島(ひぶりじま)の周囲沿岸には、防ゾイド網が巡らしてあったはず。どうやって奴はすり抜けた」

「あの搭乗席部分程度の大きさであれば、喫水も浅く侵入も可能。所詮完璧な防御などない」

「考えが浅くて悪かったな。俺は紀秋茂(きのあきしげ)殿ほど聡明ではないのでのう」

 津時成(つのときなり)は舌打ちをした。

(かしら)、薄気味悪い虚ろ船などソニックブラスターで早々に吹っ飛ばそう」

「急くな時成、まずは恒利の報告を待つのだ」

 拱手して海上を見つめる藤原純友の視線の先には、日振島の海岸に打ち上げられたゾイドの頭部操縦席(コックピット)と、それに接近する副将藤原恒利のシーパンツァー部隊の姿があった。

 補陀落渡海は、都の荒廃が顕著になるにつれ、盛んに東方大陸北島に於いて行われていた。虚ろ船には厭離穢土(おんりえど)を離れ『南方浄土(ポータラカ)』と語られる海の彼方の涅槃を目指すため、入定(にゅうじょう)を願う僧が望んで封印され海に流された。僧はその生命が尽きるまで、虚ろ船の中で一切衆生の安息を願いつつ念仏の称名と鉢叩きを続けるという。

 藤原純友率いる伊予海賊衆の根拠、日振島には、海流の関係で時折虚ろ船が漂着していた。概ねは島外に設置された防ゾイド網に捉えられたが、稀に港口まで到達するものもあった。出入港の障害になるため、漂着物は早々に海賊衆が撤去してきたが、危険物確認のため()じ開けられた虚ろ船の内部は一様に惨状を呈していた。

 悟りを開き心安く入定したと思われた僧は、死の直前に猛烈に生への執着を見せるらしい。その証に、虚ろ船の内壁には往々にして血の付いた爪痕が残されていた。ミイラ化した骸の表情は苦痛を叫んだ形相のまま固まっており、到底安息を願えるような即身仏には見えなかった。それでも補陀落渡海が続くのは、それほど厭世観が強いからと言える。俗世は腐敗しきっていたのだ。

 所謂〝帝国型〟と呼ばれる操縦席区画は、透明な風防部分が狭く内部を覘き難いが、だからこそ虚ろ船として頻繁に利用されていた。無法の海賊衆とはいえ封印を開くのは心地よいものではない。次将である藤原恒利が確認に向かったのもその為である。

 佐伯是基(さえきのこれもと)が操作する無電装置を前に、純友を筆頭にその場にいる全員が恒利からの返信に耳を(そばだ)てていた。

〝頭、坊主がいました。即身仏ではありませぬ、生きております〟

 通信機から響く報告は意外なものだった。周囲に緊張が走る。

「死に損ないか」

〝いや、()(やつ)ぴんぴんとしております。入定どころか大量の食料の他、真水の蒸留装置まで装備して。身形(みなり)は乞食僧の様子、錫杖(しゃくじょう)の他武器になりそうなものなどは無いが……こら、逃げるな坊主〟

「恒利、どうした」

 通信機に一瞬甲高い雑音が混じり、遠くに争う恒利の声が響く中、聞きなれない低く(かす)れた声が被さった。

〝伊予海賊衆の頭目、藤原純友殿か。拙僧は光勝と申す。是非ともお目通りしたく、此度は日振島まで伺った。謁見を願いたい〟

「恒利のジジイは何をやっているんだ」

 津時成が言い捨てる傍ら、光勝と名乗る人物の音声が短く告げた。

〝アーミラリア・ブルボーザを龍宮が狙っていることを伝えに来たのだ〟

 集音器を持ったまま純友の表情が凍り付く。

 一度溜飲し、海賊衆の頭目は光勝の目前にいるであろう藤原恒利に通達する。

「その坊主を連れてこい。話を聞く」

 魁師達の批判めいた視線を浴びつつ、純友は苛立ったように屋敷の評定(ひょうじょう)の間に向かって行った。

 日振島の屋敷の背後には残骸となったアクアコングが横たわり、島の対岸に繋がる隧道への移送を静かに待っている。シーパンツァー部隊に曳航された帝国型操縦席が桟橋に接岸すると、襤褸切れを纏った僧が錫杖と鉢を持って降り立った。海賊衆に取り囲まれる中、乞食僧は悠然と桟橋を渡って来る。

 純友は高台に築かれた屋敷から、一部始終を見下ろしていた。

「喰えん坊主め。遊行の空也ではないか」

「御存知なのですか」

 重太丸を傍らにした白浪が物珍しそうに問いかける。

「お前には都の醜さを伝えぬ故、その習俗も知るまい。今矢鱈(やたら)と〝浄土、浄土〟と騒いでいる糞坊主だ」

「阿弥陀如来様による極楽浄土へのお導きでございますね」

「馬鹿馬鹿しい。死後の幸せなど愚の骨頂だ。人は生きている時こそ大事。つまらぬ風聞が広まらぬよう〝(まやか)しの説教などに耳を貸すな〟と女房連中にはお前が伝えておけ」

 白浪は口元を押さえ、静かに頷く。

「心得ました。あなた様はカミと名の付く物が大嫌いでしたからね」

 歩みの先を見上げる空也と、見下ろす純友の視線が、日振島の潮騒の中で交叉していた。

 

 

 坂東に戻った小次郎を待っていたのは、形振り構わず復讐に燃える良兼達の軍勢であった。

 厳冬を迎える葉月十八日、子飼(こかい)の渡しの(ほとり)に現れた部隊の中央に、鎌輪勢が見たことのない異形のゾイドが出現した。

 ケーニッヒウルフの精密射撃用デュアルスコープが捉えた映像の中、そのゾイドは不自然に全身銀色に輝いていた。

 ゾイドの中には〝ホロテック〟と呼ばれる機体装甲の隠蔽能力を有する個体と、逆に〝鍍金(めっき)化〟という全身を鏡面装甲で覆った個体の存在も知られている。だがそのゾイドの機体表面は〝鍍金(めっき)化〟とは明らかに異なった輝きを放っていたのだ。

「王狼が捉えた映像です。骸骨の如き意匠ですが、これまでの諸元と照合しても適合するゾイドがありませぬ。新型には違いないのですが……どうした四郎、何か知っているのか」

「確証はありません。ですが、これは以前菅原景行公より学んだ流体金属装甲ではないかと思えるのです」

「なんだその流体金属とは。皆に判るように説明してくれ」

「私とて詳細は知りません。ただ訊く所によると、非常に特殊な装甲ゆえ、その表面に於いて実弾兵器は跳ね返され、光線兵器であれば拡散され一切傷を負わせることができないとの代物。従って通常ゾイドの武器ではほぼ対抗不可能で、唯一攻撃可能な武器はムラサメソードの如きリーオの剣のみであると」

「では俺の王狼のスナイパーライフル徹甲弾でも貫けぬというのか」

「私にもそれ以上は判りません」

「殿、如何なされますか」

 伊和員経の問い掛けに、評定の中央に座っていた小次郎は我に返った。

 意識が飛んでいた。

 この一大事に、居眠りとは情けない。

「御気分が優れぬようですが」

 傍らから桔梗が小次郎の横顔を覗き込む。だが一呼吸置いた後、勇名を轟かせる無敵の坂東武者は豪放磊落に言い放った。

「敵が脆弱過ぎる故とはいえ、棟梁自らが油断をしていては示しがつかぬな。皆許してくれ」

 その言葉に、評定は一斉に豪快な笑いに包まれる。

「兄者、余裕が過ぎますぞ」

 三郎将頼の言葉に、すまぬすまぬと頻りに笑って応える。確かに油断はあったが、同時に絶対の勝利への自信も覗かせていた。桔梗は小次郎の笑顔に安堵し、再び映像に視線を戻し銀色のゾイドを睨んだ。

 心中不安が渦巻いていた。

(バイオメガラプトル。アイアンロックの郷め、とうとうバイオゾイドの開発に成功したのか)

 バイオゾイドへの懸念に囚われた桔梗もまた、小次郎の繕った笑顔を見抜く余裕を奪われていた。

 

 平将門四度目の(いくさ)『子飼の渡の戦い』は、将門にとって当初から不穏な様相を呈していたのだった。

 

 

 

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