『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第五部「バイオゾイド猛襲」 作:城元太
「龍宮の狙いは、バイオゾイドの完成にある」
空也は
藤原純友は、悠然と
虚ろ船を模したハコには、小さいながらも推進装置が装備されており、この痩せこけた遊行僧が最初から日振島への漂着を企んでいたことも判明している。迂闊に言葉を交わせば、辻説法の如く曳き込まれるのではないかという、純友には似合わぬ激しい警戒感が渦巻いていた。
「もったいぶらずにさっさと話せ」
堪えきれなくなった津時成が忌々しげに言い放つ。それを合図にして、評定の間に集まった海賊衆の魁師達の視線が一斉に空也に注がれる。
「ラウス
「なぜその事を」
傍らにいた佐伯是基が驚きの声をあげる。空也は笑ったままであった。
「佐伯殿、とお見受けする。拙僧の話を最もよく理解できる方と思うが、如何かな」
純友の目配せに、佐伯是基は頷いた。
「ラウス肉腫ウィルスのサークゲノムは、ヘイフリック限界を無視しテロメアを無限に増大させることで、アーミラリア・ブルボーザの生長に利用されている。だがそれは、既にゾイドウィルスに冒されてしまったゾイドを最大限に利用するため培養した物であって、通常のゾイドに使用すれば無駄に生命を削り取るだけの代物のはず」
無言の空也を前に、是基の問い掛けが続く。
「バイオゾイドと申されたな。流体金属に覆われたゾイドと聞いたが、開発が成功したとは訊き及んでいない。なにより金属生命体の新陳代謝を、ゾイドコアのみならず装甲面に於いて行う故、個体の寿命が極端に短く、運用には困難が伴うとの話を……ああ!」
是基が突然叫んだ。
「……まさか、まさか!」
「どうした是基、お前だけが驚いている場合ではないぞ」
佐伯是基の視線に、先ほどとは打って変わって厳しい眼光を放つ空也があった。
「上人殿、あなたからどうかお話をお伺いしたい。私の予想が間違っていることを願って」
空也は純友を見据えた。
「手短に申す。龍宮は、今のままでは維持が不安定な流体金属に、アーミラリア・ブルボーザのサークゲノムを埋め込み安定化させる目論見なのだ。種苗の状態での奪取を、瀬戸の内海に於いて配下が失敗している故に」
「貴様達は一体何を話しているんだ」
苛立った時成が是基の両肩を捉まえて揺する。我に返り、佐伯是基は一度純友と、副将藤原恒利を振り返った。
「つまり流体金属装甲を持つバイオゾイドとは、これまでのゾイドと違い、ゾイドコアのみならず装甲までもが活発に〝生きている〟ゾイドとなる。だから攻撃を受け傷ついても、瞬時に傷を治してしまうのだ。だが金属生命体の細胞再生は無限ではなく、通常であれば再生の度に寿命が削られていく。その限界の事をヘイフリック限界と呼ぶが、サークゲノムは、その再生度数を無限にする。
バイオゾイドは、何度攻撃を受けても瞬時に装甲を復活させることができるのだ、まさに癌細胞のように」
一部で慟哭が起こるが、大部分の海賊衆は未だ是基と空也との遣り取りを理解できずに茫然としていた。
「では、我らが瀬戸の厳島沖で、
恒利の問いに、空也は純友に視線を合わせたまま頷く。
「拙僧の知るところ、安芸の倫実と越智の村上、備前介藤原
およそ純友率いる伊予の海賊衆に仇為す敵が、全て龍宮の差し金であったことを理解し、海賊衆の間で漸く驚嘆が洩れた。
「時に純友殿。先刻都に於いて、平将門殿の操る黒き猩々、デッドリーコングと戦いましたな」
思わず純友は首肯した。既に都での英雄譚を響かせた将門が、今度は知らぬままに、純友の操るアクアコングと戦ったことは
殊更に、純友の悩ましい記憶を掘り返すこの乞食僧の態度に、恒利を初め他の海賊衆が一瞬緊張した。だが純友の興味は全て、空也の次の言葉に注がれていたのだった。
「龍宮は坂東にもその勢力を伸ばしている。その最強の
「何が言いたいのだ」
純友の姿勢が、僅かに前屈みになる。
「秀郷はエナジーライガーを筆頭に様々な新型ゾイドを龍宮から受け取り、密かに坂東に覇を成す野望を抱いている。他方で龍宮は、広大な坂東を新型ゾイドの実験場と考え、互いの利益に従い共生していると言えよう。
純友殿、桔梗の前が未だ存命なことを御存知か」
「まだ生きていたのか。確か奴は
迂闊にも、純友はこの乞食僧の思惑に完全に嵌められてしまっていた。
「知っているのであれば教えてくれ。龍宮とは一体何なのだ。そしてセイスモサウルスを率いて襲来できる群盗桔梗の前とは」
待っていた、と言わんばかりに、空也は絞り出すような声で応えた。
「まず一つ目の問いよりお答えしよう。
龍宮とは、この東方大陸、
そして二つ目。
桔梗の前とは、秀郷の妹である」
「妹だと」
〝軍需企業〟の言葉に反応できたのは、僅かに佐伯是基と、
「桔梗の前はこれまで、朝廷権力の転覆を狙うため、都の騒擾を担ってきた。そして今は孝子という名を貰い、平将門と共にある。デッドリーコングの傍らに乗っていたのが桔梗の前だ」
「将門が、龍宮の配下となって、俺と戦ったというのか」
純友は言葉を詰まらせた。あの黒い猩々の操縦席に、龍宮の息の掛かった桔梗の前が同乗していた以上、将門が己の野望を達成させる妨げに成り下がったのかと感じ愕然としたからだ。
将門よ、貴様は俺と志を同じくする者ではなかったのか。
無言で佇む空也の眼前で、潮風が海賊衆達の頬を叩いていった。
平
銀色に輝くバイオゾイドが、鎌輪の軍勢を圧倒していたから。
そして、棟梁たる平将門が、突然の病に伏していたからである。