『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』第五部「バイオゾイド猛襲」 作:城元太
無理を押してのレインボージャークでの上洛と略門。都暮らしでの偏食と、帰郷直後からのバイオゾイドの襲撃。如何に平将門が強靭とはいえ、ゾイドならぬ生身の身体には過度の疲労が蓄積され続けていた。
小次郎は何度も村雨ライガーの操縦席の床を踏み締め、操縦把を握り直し、虚ろな視界に目を細めた。
指が、足が動かない。自分の身体が自分の物ではない感覚に、戦場を前にして焦燥感を募らせる。
「村雨、俺は一体どうしたというのだ」
もし仮に、小次郎がその様態を村雨ライガーではなく、弟四郎将平に打ち明けていれば、或いは状況が変わっていたかもしれない。小次郎は過労から
〝兄者、二本足が突っ込んで来る〟
子飼の渡しでの戦い同様バーニングジェットを噴き出し、バイオメガラプトルが鉤爪を振り立て猛襲する。三郎将頼の声に我に返った小次郎は、先の戦いの屈辱を思い起し感情を燃え上らせた。
操作盤に〝疾風〟の文字が浮かび上がる。炎の繭に包まれた獅子は、瞬時にエヴォルトを果たしていた。
「今度こそ目に物見せてくれる」
背負ったブースターのフィンから、HYT粒子を雲母の砕片の如く煌めかせ疾駆する。途中、バイオメガラプトルの口腔から撃ち出されたヘルファイヤーが次々と着弾するも、疾風ライガーは難なく回避し敵の懐に斬り込んでいた。
ムラサメナイフがヒートハッキングクローと火花を散らし切り結ぶ。
「小賢しい真似を」
右前肢のパイルバンカーを大地に穿ち、勢いのついたまま機体を半回転させ、妖しく光るバイオゾイドコアをムラサメディバイダーで狙う。
バイオメガラプトルは手練れであった。ムラサメディバイダー渾身の斬撃を、片足を持ち上げ爪先の鉤爪ヒートスパイクで受け止めたのだ。小次郎が舌打ちする。〝
万全の体調であれば、小次郎は不敵な笑みを浮かべ舌なめずりをして戦に臨んだであろう。だが、病に冒され全力を出し切れない身の上では、バイオゾイドの動きは只管に忌々しいだけであった。
〝無事か兄者〟
〝殿、無理は禁物です〟
優速の疾風ライガーに、漸くソードウルフとデッドリーコングが追いついた。後方からは多治経明のディバイソンによる精密支援射撃が降り注ぎ、バイオメガラプトルと疾風ライガーの鍔迫り合いは中断させられる。硝煙の奥より、怒涛の土煙を舞いあがらせてランスタッグ部隊が現れた。
〝藤原
グラビティホイールが唸りを上げて回転する。真鍮色のブレイカーホーンとスラスターランスを振り翳し、生け垣の如き障壁を築いた。僦馬の党とも繋がりがあると噂される玄茂の部隊だけに、振舞いは泥臭く荒々しい。その角がメタルZiで精錬されていると知られている以上、バイオメガラプトルも迂闊には近寄れず、驚異的な跳躍力を生かし跳び退いた。
形成されたブレイカーホーンの生け垣を、バイオメガラプトルとは入れ替わりに横合いから切り崩す骸骨竜があった。低姿勢からの突撃は、新たな敵に対応し切れないランスタッグ数機を跳ね飛ばし、生け垣の壁に穿孔する。
十七門突撃砲の弾幕が、フレアシールドによって切り取られたように弾かれる。ヘルツインホーンを振り翳したバイオトリケラは、脇目も振らずに小次郎の疾風ライガーを狙い雪崩れ込んだのだ。
「電磁障壁、厄介なものを」
〝是奴の相手は私が〟
疾風ライガーとバイオトリケラの間に、背負ったヘルズボックスから凶悪な得物を繰り出すデッドリーコングが立ち塞がった。アイアンハンマーナックルの剛腕が、物理的な打撃によって電磁障壁ごとバイオトリケラを殴り飛ばす。横転寸前になるものの、四肢を開いて踏み止まり、銀色の角竜は突進を再開した。
左腕に捲かれた布切れが電磁障壁によって焼かれ燻っている。背後には間合いを読んで再び襲来したバイオメガラプトルが、緋色の獅子を圧していた。漸く桔梗も、疾風ライガーの動きの鈍さに気付いた。だがそんな負い目も補って余りある程に、桔梗の戦意は昂ぶっていた。
共に呼吸を合わせ、倒せばいい。
左腕の焦げ付いた包帯を棚引かせ、バイオトリケラの突進を紙一重で躱す。辛うじてヘルツインホーンを躱したその身を、恰も疾風ライガーの進路を妨げるように晒した。
黒い棺桶が斜面を成すのを目の前に、小次郎は一瞬にして桔梗の真意を読み取っていた。
〝今です〟
棺桶を飛躍の足掛かりとした疾風ライガーが矢となって跳び上がった。
重力加速を付けたストライクレーザークローが、銀色の竜の
「ひとおぉつ……」
同時に小次郎の勝鬨も、息も絶え絶えであった。
刹那、小次郎達は機体に不快な衝撃が響くのを覚えた。視界に無数の刃の雨が降り注ぎ、ランスタッグ数機がばたばたと膝を着く姿が映る。操作盤の警告にハヤテブースターのフィン欠損が示され、デッドリーコングの黒い装甲を鋭い影が貫くのも視止める。
「落ち着くのだ、攻撃の正体を見極めよ」
優速を生かし、刃の豪雨から擦り抜けた疾風ライガーの先に、妖しくバイオゾイドコアを輝かせる機体がある。舞い踊るクナイの群れを操る
「新手か」
〝バイオケントロです〟
所どころに刃傷を負ったデッドリーコングも渦中を抜け出し、疾風ライガーと共に突き刺さったクナイを振り落とす。
魚群の如きバックランスが一度バイオケントロの背に舞い戻った。剣を背負った新たな骸骨竜は、バイオトリケラとは異なる動きで間合いを詰める。
唐突に、バイオケントロがデッドリーコングの視界から姿を消した。息を呑む桔梗の背後で、ビーストスレイヤーとムラサメディバイダーが剣を交えていた。死の剣舞ソードダンスは、容易に桔梗ほどの上兵をも眩惑していたのだった。
浮腫みによって感覚を失いつつある両腕を酷使し切り結びながら、小次郎は忌々しい強敵の正体について訝っていた。
「誰が乗っているのだ」
刃渡りが長く、更に刃先を自在に操れるバイオケントロの剣捌きは、初めて戦場に立ったとは思えぬ程圧倒的である。荒々しい太刀筋は確かに坂東武者のものだが、果てしなく冷淡で人間味が無い。まるで傀儡の木偶人形のように。
思い悩む猶予など無かった。再び背のバックランスが放たれ、一斉に疾風ライガーに襲いかかる。しかし同時に、バックランス発射の瞬間、バイオケントロの剣舞にも隙が生まれる。チェストパイルバンカーを打ち出し、疾風ライガーは僅かな間合いを得た。
傷ついたブースターを最大出力で噴き上げ、緋色の獅子が跳び退く。
その時一条の筋がすっと昇った。鎌輪の方角に黒煙が棚引いている。館が燃えているのだ。
都で見た夢と同じ情景だった。
「良子! 多岐!」
がら空きとなった鎌輪の館目掛け、残りのバイオゾイドが殺到していた。