白銀の魔道士がダンジョンに行くのは間違っている   作:ひでゆき

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皆さま初めまして、ヒデユキと言います。
このたび初の投稿なので誤字や脱字など有るかと思いますが
長い目で見て頂きたいですなにとぞよろしくお願いいたします。


プロローグ01

 

プロローグ01 魔道士リナ・インバースと少年ベル

 

「うーん、良い天気だわー」

 

雲一つない青空の下、私は草原に立っていた。

 

穏やかな風が吹き抜け、気持ちのいい陽気だ。

 

こんな日は、昼寝でもしてのんびりしたいところなんだけど――。

 

「ところで、いい加減に出てきなさいよ! ゼロス!」

 

私がそう叫ぶと、少し離れた場所にある木の後ろから、一人の男が姿を現した。

 

紫色の髪に、どこか人を食ったような笑み。

 

見間違えるはずもない。

 

魔族の神官――ゼロスだ。

 

ゼロス「いやはや、やっぱり気づいてましたか、リナさん。お久しぶりですね!」

 

「気づくに決まってるでしょうが! そんなに魔力を出してたら!」

 

私は呆れたようにため息をつく。

 

「で、ところで今度はどんな用なの! また魔族絡みじゃないでしょうね⁈」

 

そう、この男ゼロスは魔族の神官。

 

それも、かなり高位の魔族だ。

 

こいつが関わると、ろくなことがないのよね〜。

 

ゼロス「分かってしまいますか。さすがリナさんです。実は、少しお願いがあって来たんですよ」

 

「やっぱりだわ……」

 

なんだか嫌な予感しかしない。

 

「なんか厄介ごとを持ってきたわねー」

 

ゼロス「そんなことはありませんよ。ちょっとしたお願いです」

 

「で! そのお願いって何なのよ! どうせ厄介ごとなんでしょ!」

 

私が問い詰めると、ゼロスはいつもの笑顔を浮かべたまま、説明を始めた。

 

ゼロス「リナさんも知っての通り、我々魔族がクレアバイブルの写本を探して保管しているわけですが……」

 

「ええ」

 

ゼロス「その保管していた写本が、一冊なくなってしまったんですよ!」

 

「……は?」

 

思わず間の抜けた声が出た。

 

「で! なんで保管してる写本がなくなるのよ!」

 

ゼロス「実はですね……私が獣王様のところへ持っていく途中で、まあ……転んでしまいまして」

 

「……」

 

嫌な予感が、さらに強くなっていく。

 

ゼロス「その拍子に写本を落としてしまったんですよ。そして、その落とした先に、ちょうど次元の歪みがありまして」

 

「……あー」

 

なんとなく先が読めた。

 

「なんか先が分かったわ」

 

私は頭を抱えながら言った。

 

「要は、その次元の歪みに写本を落として、どこか別の世界に行ってしまったってことね!」

 

ゼロス「はい、その通りです」

 

「で、それを私に探してこいと」

 

ゼロス「ご明察です」

 

「ただでは行かないわよ!」

 

ゼロス「もちろんです。リナさんなら、そう言うと思ってましたよ」

 

そう言うと、ゼロスは懐から何かを取り出した。

 

ゼロス「報酬は、ちゃんと用意してあります」

 

「報酬?」

 

ゼロス「以前お譲りした物と同じ、タリスマン一式」

 

「……!」

 

ゼロス「それと、こちらの片手剣を二振り」

 

差し出された二振りの剣を見て、私は目を細めた。

 

ゼロス「この片手剣は、魔力を通すことで斬れ味が増します。それだけではなく、属性魔法を付与することもできますよ」

 

「へぇ……」

 

これは、なかなかの品だ。

 

さらにゼロスは、とどめと言わんばかりに付け加えた。

 

ゼロス「そして、探していただいた写本の内容を写したものも、報酬としてお渡しします」

 

「…………」

 

クレアバイブル。

 

その知識の写しともなれば、相当な価値がある。

 

ここまで用意されていたら――断る理由なんてないじゃない。

 

「は〜〜……分かったわ。その依頼、受けてあげるわ」

 

ゼロス「ありがとうございます」

 

「で、どこの世界にあるのか分かってるの?」

 

ゼロス「ええ、分かっています」

 

「あと、その報酬は前渡しよね?」

 

ゼロス「もちろんです」

 

私は渡されたタリスマンと二振りの片手剣を、マントの中へと仕舞い込んだ。

 

「で、ゼロス。その世界には、これからすぐに行くの?」

 

ゼロス「ええ。なるべく早く回収していただきたいので、これからゲートを繋げます。すぐにでもお願いします」

 

「分かったわよ」

 

ゼロス「それと、ご安心ください。こちらと彼方側では時間の流れが違います」

 

「時間の流れ?」

 

ゼロス「こちらでの一時間が、彼方側では一年ほどになるようです」

 

「はぁ⁉」

 

私は思わず声を上げた。

 

「そんなこと、しれっと言わないでよ!」

 

ゼロス「ですから、時間についてはご心配なく」

 

「……まあいいわ。じゃあ、早く済ませちゃいましょ」

 

ゼロス「そうですね。では――ゲートを繋げますね」

 

ゼロスがそう言うと、周囲の空気が変わった。

 

一瞬にして、膨大な魔力が辺りに満ちていく。

 

ゼロス「――はっ!」

 

高まった魔力とともに、ゼロスが遥か昔に失われたという古い呪文を唱える。

 

すると、目の前の空間が歪み始めた。

 

次の瞬間――。

 

薄紫色に輝く、楕円形のゲートが出現した。

 

「ゼロス! これがゲートなの?」

 

ゼロス「ええ、そうです。これを潜ってもらえば、写本のある世界へ行けますよ」

 

ゼロスはゲートの向こう側を確認する。

 

ゼロス「とりあえず、写本が落ちたと思われる場所の近くに繋げています。リナさん、よろしくお願いします」

 

「まあ、分かったわ」

 

私はゲートを見つめた。

 

「なるべく早く戻ってくるわ。姉ちゃんにも早く戻ってこいって言われてるし」

 

そう言って、私はゲートへと歩き出した。

 

そして――その中へ足を踏み入れた。

 

◆

 

ゲートを抜けた瞬間、周囲の景色が一変した。

 

さっきまでいた草原ではない。

 

目の前に広がっているのは、木々が生い茂る深い森。

 

その中に、少しだけ開けた場所がある。

 

「……ここね」

 

私は周囲を見回した。

 

どうやら無事に目的地の近くへ到着したらしい。

 

そして――。

 

「……ん?」

 

視線を感じた。

 

そちらへ顔を向けると、一人の少年が立っていた。

 

年の頃は……六歳くらいだろうか。

 

金色の髪。

 

大きな赤い瞳。

 

少年は、目の前に突然現れた私を見て、目を丸くしている。

 

「あれ?」

 

少年からすれば、何もないところから突然人間が現れたように見えたのだろう。

 

少年「お、おば……おばけーーー!」

 

「……は?」

 

次の瞬間、私は少年の目の前まで素早く駆け寄っていた。

 

そして――。

 

ゴチン!

 

「痛っ!」

 

少年の頭に拳骨を落とした。

 

少年「いた〜い!」

 

頭を押さえながら、少年が涙目になる。

 

少年「あれ……僕、いま殴られた?」

 

「何よ。人をおばけ呼ばわりするからよ!」

 

少年「じゃあ、おばけじゃないんだ……」

 

少年は私の顔をじっと見つめる。

 

そして、慌てて頭を下げた。

 

少年「あ! お姉さん、ごめんなさい!」

 

どうやら、素直な子らしい。

 

「まあ、すぐに謝ってくれたから許すわ」

 

私は腕を組む。

 

「何もないところから人が出てきたら、混乱もするしね」

 

そして、少年に尋ねた。

 

「君、名前を教えてくれる?」

 

少年「僕はベル・クラネルと言います。歳は六歳です。この近くの村で暮らしてます」

 

「ベル・クラネル……ね」

 

ベル「それで、リナさんは、このあたりの人じゃないですよね?」

 

「そうね」

 

私は周囲を見回した。

 

近くに村があるなら、この子なら何か知っているかもしれない。

 

「ねえ、ベル。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

ベル「はい?」

 

「この辺りで最近、変わった文字の書いてある本みたいなのを見てない?」

 

ベル「変わった文字の本……?」

 

少年は少し考え込んだ。

 

そして――。

 

ベル「あ!」

 

「何か知ってるの⁉」

 

ベル「これですか?」

 

少年は持っていた本を取り出した。

 

ベル「三、四日前に、ここで拾ったんですが……」

 

そう言って、私に本を差し出す。

 

「……」

 

私は恐る恐る、その本を受け取った。

 

表紙を見る。

 

そこに記されている文字。

 

見間違えるはずがない。

 

「はーーー⁉」

 

思わず叫んでしまった。

 

「こ、こ、これよーーー!」

 

私は本を抱きしめるように持った。

 

「私が探してた本は、これよ!」

 

ベル「え?」

 

私は嬉しさのあまり、目の前にいたベルを思わず抱きしめてしまった。

 

「ありがとう、ベル君!」

 

ベル「え、あ……」

 

突然、女の人に抱きしめられたベルは、顔を真っ赤にする。

 

ベル「……」

 

生まれて初めて、女の人に抱きしめられた。

 

どうしていいのか分からず、ベルは大人しくそのまま抱きしめられていた。

 

しばらくすると、リナもようやく落ち着いたらしく、ベルから離れた。

 

リナ「ありがとうね、ベル」

 

ベル「リナさん! 良かったですね。探し物、見つかって」

 

「ええ! 本当に助かったわ!」

 

私は手にした本を見つめる。

 

「ベルが本を拾って、大事に持っててくれたから、早く見つけることができたわ!」

 

ベル「えへへ……」

 

その時だった。

 

――ガサッ。

 

「ん?」

 

森の中から、何かが動く音が聞こえた。

 

【ガサ……ガサガサ……】

 

私とベルは、同時に音のした方へ振り向いた。

 

そして――。

 

茂みから三体の魔物が姿を現した。

 

【ギャー! ギャー!】

 

ベル「ア、アワワ……ゴ、ゴブ……」

 

ベルの顔が青ざめる。

 

ベル「ゴブリンだーーー!」

 

「ゴブリン?」

 

私は目の前の魔物を見る。

 

「ねえ、ベル。あれってゴブリンよね?」

 

ベル「はい!」

 

「倒してもいいかな?」

 

ベル「無理ですよ! 僕、冒険者じゃないですよ!」

 

「冒険者?」

 

私は首を傾げる。

 

「まあ、いいわ」

 

そして、ゴブリンへ向き直った。

 

「倒してもいいなら――」

 

私は右手を前へ突き出す。

 

魔力を集中させる。

 

「全ての力の源よ、輝き燃える赤き炎よ。我が手に集いて力となれ!」

 

周囲の魔力が、一気に右手へ集まっていく。

 

「ファイアーボール!」

 

ドンッ!

 

三つの火球が、一直線にゴブリンへ向かって飛んでいく。

 

【ギャアアア!】

 

三体のゴブリンに火球が命中した。

 

そして――。

 

ゴブリンたちは悲鳴を上げながら倒れ、その身体は光の粒となって消えていった。

 

その場に残ったのは――。

 

コロン。

 

三つの青白い石。

 

ベル「……」

 

ベルは、呆然としていた。

 

「……何よ、ベル?」

 

ベル「リ、リナさん……」

 

ベルは、目の前に起きた出来事が信じられないようだった。

 

ベル「凄いですーー!」

 

「え?」

 

ベル「ゴブリンを倒してしまうなんて!」

 

「まあ、ゴブリン程度ならね」

 

ベル「今のって魔法なんですか?」

 

「そうよ」

 

私は答えながら、地面に落ちている青白い石へ目を向けた。

 

「……でも、こっちは何?」

 

ゴブリンが消えたあとに残った、謎の宝石。

 

しかも――。

 

「魔力を感じる……」

 

私は石を拾い上げる。

 

「ねえ、ベル。ゴブリンから出てきた、この宝石って何なの?」

 

ベル「その宝石は、魔石って言うんです」

 

「魔石?」

 

ベル「はい。魔力が結晶化した石らしいです」

 

ベルは知っていることを一生懸命説明してくれる。

 

ベル「さっき倒した魔物の核になっているみたいで……僕も詳しくは知らないです。でも、その魔石をライトとかのエネルギーに使ってるみたいです」

 

「なるほど……」

 

私は魔石をじっと見つめる。

 

魔力が結晶化したもの。

 

こちらの世界では、魔石という形で魔力を利用しているのか。

 

興味深い。

 

すると、ベルがこちらを見上げてきた。

 

ベル「僕も、リナさんに聞きたいんですが……」

 

「何?」

 

ベル「さっきリナさんが使った魔法って……僕にもできますか?」

 

「……」

 

私はベルを見つめた。

 

魔法。

 

この世界の人間が、どの程度魔法を使えるのかは分からない。

 

けれど――。

 

この少年からは、妙に強い魔力を感じる。

 

「ベル」

 

ベル「はい?」

 

「なんで、魔法が使えるか聞いてくるの?」

 

私が理由を尋ねると、ベルは少しだけ考えてから話し始めた。

 

ベル「僕は、祖父と二人暮らしなんです」

 

「そうなの?」

 

ベル「はい。祖父がすごく強くて、魔物から村を守ってるんです」

 

ベルは拳を握りしめた。

 

ベル「でも、僕も祖父みたいに強くなって、村と家族を守りたいんです」

 

「……」

 

ベル「それに……」

 

ベルは少し恥ずかしそうに私を見る。

 

ベル「リナさんの魔法、凄く格好良かったから」

 

「……!」

 

ベル「それに、リナさんみたいな綺麗なお姉さんに教えて欲しいなって」

 

「……え?」

 

綺麗なお姉さん。

 

私は一瞬、固まってしまった。

 

「……ふふっ」

 

なんだか、ちょっと嬉しい。

 

私みたいな綺麗なお姉さん、か。

 

こんなことを言われたのは、初めてかもしれない。

 

「よし!」

 

私はベルの前にしゃがみ込んだ。

 

「ベル」

 

ベル「はい!」

 

「君が本気で魔法を覚えたいっていうなら、私が知ってる魔法を教えてあげる」

 

ベル「本当ですか!」

 

「ただし――」

 

私は真剣な表情になる。

 

「魔法は使い方を間違えると、人を傷つけることもあるわ」

 

ベル「……」

 

「それでも、覚える覚悟はある?」

 

ベルは迷わなかった。

 

ベル「はい! あります!」

 

小さな身体ながら、その目には強い意志が宿っている。

 

ベル「だから僕に……リナさん!」

 

一度言葉を止める。

 

そして、深々と頭を下げた。

 

ベル「いえ……マスターの魔法を教えてください!」

 

「……!」

 

私は思わず笑った。

 

「ベルの覚悟、分かったわ」

 

そして、胸を張る。

 

「それだけの覚悟があるなら――」

 

私は右手を腰に当て、堂々と言い放った。

 

「この私、魔道士リナ・インバースが知ってる魔法を、全部ベルに叩き込んであげるわ!」

 

ベル「はい!」

 

ベルは嬉しそうに顔を上げた。

 

ベル「マスター! よろしくお願いします!」

 

こうして――。

 

僕、ベル・クラネルは、魔道士リナ・インバースの弟子になった。

 

◆

 

それから、四年間。

 

僕はリナさん――いや、マスターのもとで修行を続けた。

 

魔道士としての基礎。

 

魔力の扱い方。

 

呪文の詠唱。

 

魔法の種類。

 

そして、剣術の基礎。

 

さらに、文字の読み書きや計算などの勉学まで。

 

マスターは、本当にいろいろなことを僕に教えてくれた。

 

時には厳しく。

 

時には優しく。

 

そして何度も失敗しながら、それでも僕は修行を続けた。

 

気がつけば――。

 

四年の月日が流れていた。

 

◆

 

リナ「ベル。この四年間、よく頑張ったわね!」

 

「マスター……」

 

リナ「私がベルに教えることも、もうないわね」

 

「……」

 

寂しい。

 

僕はマスターとの修行が終わってしまうことが、少し寂しかった。

 

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、マスターは笑顔を浮かべる。

 

リナ「ここまで頑張ったベルに、師匠の私からプレゼントがあるわ」

 

そう言って、マスターは二つの物を取り出した。

 

リナ「私と同じ、このタリスマン」

 

そして――。

 

リナ「こっちの二振りの片手剣も、あなたにあげるわ」

 

「マスター……」

 

僕は渡されたタリスマンと二振りの片手剣を、大切に受け取った。

 

「マスター、今までありがとうございました」

 

僕は深々と頭を下げる。

 

「このタリスマンと片手剣、大切に使わせていただきます」

 

リナ「ベル」

 

マスターの声に、僕は顔を上げる。

 

リナ「あなたは、この魔道士リナ・インバースの愛弟子なんだから、自信を持ってね」

 

「はい!」

 

リナ「これからも頑張りなさいよ!」

 

「はい、マスター!」

 

リナ「じゃあね。私も帰るから」

 

マスターはそう言うと、空間に魔法のゲートを開いた。

 

薄紫色の光が広がる。

 

そして、マスターはその中へ歩いていく。

 

「マスター!」

 

振り返ったマスターが、笑顔で手を振る。

 

リナ「元気でね、ベル!」

 

「はい! マスターもお元気で!」

 

そして――。

 

マスターの姿がゲートの向こうへ消える。

 

次の瞬間、ゲートも静かに消え去った。

 

僕は、ゲートが消えた場所をしばらく見つめていた。

 

そして、最後まで手を振り続ける。

 

「……さーあ」

 

僕は、もらったタリスマンと二振りの片手剣を見つめた。

 

「僕も家に帰るかな」

 

こうして――。

 

魔道士リナ・インバースの弟子として過ごした四年間が終わった。

 

そして、この二振りの剣とタリスマンが、これから始まる僕の新しい人生を支えることになる。

 

⸻

 

次回――さらに二年の月日が流れる。

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