ポケットモンスター PECULIAR PERSON 作:TOKI
どうやら本当に異世界に来たようだ
『世界には特異体質を持つ者がいる』
『それは多種多様、あらゆる能力が存在する』
『しかし、それは全ての者が手にできるものではない』
『故にその者たちは世界にとって異質の存在である』
『我はその者たちを我が世界に招待する』
『故に、その者たちを【選ばれし者】と呼ぶ』
俺はナギ、この世界に住むごく一般的な人間。単身の学生として生活している。不便なことは何もない。だが、俺にはたったひとつ不満なことがある。それは、この世界が退屈過ぎることだ。
俺のいるこの世界はつまらないものしか存在しない。何もかもが予想通りの世界、同じ事象が繰り返され、永遠に不変の世界。俺はこの世界に退屈しているのだ。しかし、何もしないのも退屈過ぎて仕方がない。結局、学校に行くしかないのだ……
学校でもつまらないことしかない。基本的に話す奴もいなければ話しかけてくる奴もいない。授業に出席するも面白味もなければ退屈しのぎにすらならない。
もちろん、勉強のために来ているのだが、ここのでは勉強にすらなりもしない。簡単過ぎるわけではないが、俺はこの授業が為になるとは到底思えない。周りの奴らはこのつまらない授業に必死になってる。馬鹿馬鹿しいことこの上ないと常々思う。
授業が終わり暇潰しに来た学校を出る。家に帰るまでそう時間はかからない。
「ただいま……って誰もいないんだったな……」
誰もいないのについ口にしてしまう。
以前は俺ともう一人、兄貴がいた。物思いついた頃には、すでに両親共に亡くなっていた。父は仕事場で不慮の事故で15年前に、母は肺がんで父を追うようにして1年後に逝ったと聞いている。そのため、親の顔は全く覚えていない。
それがあってか、兄貴には随分となついていた記憶がある。今振り返って見れば、恥ずかしさのあまり狂乱しそうになる。今思えば、あの頃からどういう人生を送ればこんなになるのだろうか、自分でも謎に思う。
そんなどうでもいいことは放っておいて、兄貴の話に戻す。
両親が他界してからは兄貴と二人で暮らしていた。子二人だけということもあり苦労も多かったが、それでも俺たちにとっては有意義な時間だった。
しかし、そんな時間も永遠ではなかった。半年前、唐突に兄貴は姿を消した。何処に行ったのかわからない。もっと言えば、生きているのかさえもわからない。
あの日を境に俺は一人この世界に取り残された。
晩飯をとり睡眠の準備を済ませれば 、退屈な一日は終わりに近づく。一体、このつまらない日常をいつまで繰り返さなければいけないのか。
そんな思いを抱きながら、ゆっくりと目を瞑る。
『……』
……何処からか声が聞こえる……
『やっとお目覚めか』
なっ!いつからそこにいた!?
『汝が目を覚ますまでずっとだ』
まず誰だ?おまえ
『我か?汝に名乗る名はないが、まぁいいだろう。セルアウズと呼ぶが良い』
じゃ早速だがセルアウズ、此処は何処だ?
『汝の夢の世界、といって分かるか?』
分かるわけねぇが嘘を言ってるように見えねぇからいいわ。じゃあ、俺ここに呼び出した理由は何だ?
『汝を我が世界に招待するためだ』
我が世界?おまえ、なに言ってんだ?
『言葉の通りだ。それとも、理解出来ないと?』
別に、冗談かと思っただけだ
『汝は我が世界にこそ相応しい存在、こんな所で腐れ果てていくなど宝の持ち腐れも同然。汝は我が世界にて己が力を解放する義務があるのだ』
俺には並の力しかねぇよ。招待する前に情報収集ぐらいしとけ!
『いや、己が力の存在に気付いていないだけ』
馬鹿馬鹿しい!そんなもんがあるって言うならこんな退屈に思わねぇだろ!
『退屈か?この世界が』
あぁ
『ならば来い!我が世界へ!汝の求めるもの我が世界にて与えよう!』
じゃあ、ひとつだけ答えろ!その世界は退屈しないんだろうな?
『無論だ!我が保証する』
フッ。いいぜ、行ってやるよ!
辺りが明るくなった。目を覚ますと朝日の光が部屋に降り注ぐ。もう朝か。……あの時の会話が気になる。俺には力ある。そんな実感はないがあいつはあると言った。どんな力か気になるし、何故そんな力が俺の中で眠っているのか、あいつに聞けば良かったと思う。
そう言えば、ここはあいつの世界なのか?俺が眠る前にいた部屋にそっくり、というよりも俺の部屋そのものだ。いつ行くかなんて話をしていなかったから、いつ向こうに行くのか分からない。あるいは、全て虚ろな夢だったのか?出来れば、後者であってほしくない。
そんなこと考えたって仕方がない。とりあえず、何かしよう。まぁここにいても暇だし、偶然にも今日は学校は休みだ。結果、とりあえず外に出るという結論に至った。軽く支度し外に出る。
そこは俺の知ってる光景は消え失せ、代わりに未知の世界が広がっていた。
「なっ!なんだ?此処」
目の前に広がる光景は周りを大自然に囲まれ爽やかに吹く風が頬を撫でる。広大な草原の香りが心の奥底まで染み渡り、住み慣れていた近代的な街と同じくらい心地いい。この世界で歩み出す最初の地がここで良かったと心底思う。
「こっから初めるんだ」
期待を胸に歩み出す。
しかし、この世界で何をすればいいのだろうか……全く考えてなかった。まぁ、何とかなるだろう。とりあえず、近くにある地図を見る。今いる所から目と鼻の先に少し大きな都市があるようだ。そこに行くことにした。
15分もしない内に目的地の前に着いた。道中の林帯は案内板がなければ少し迷うだろうがそれでも30分もかからない。林の中ですれ違うこともなかったとなると俺がいた町が100人中100人が田舎と答えるような所なのだと認識した。
街の入口には右サイドに『クロセシティ』と書かれた看板が立てられている。さっき地図を見た時にも目的地に『クロセシティ』と書いてあった。 その看板を境に足下が土や砂の道からコンクリートの道路に変化して、それはまるで国境線のようだ。その線を跨げば、今まで歩いて来た大自然の世界とは一転、近未来都市の代表とも言えよう電気と金属とコンクリートの世界が辺り一面に広がっている。俺がいた世界でもこんなに技術の進んでいる街はそうあるもんじゃない。そんな街が小さな都市のひとつに過ぎないという現実。俺はこの世界に心が踊っている。
この街なら面白いことのひとつやふたつ、すぐに見つけられそうだ。そう思った矢先、街の中央広場に人が集まっているのを見つける。 人混みをかき分け注目を集めるものを見る。
そこには、ふたりの男性がいて戦っているようだ。しかし、男たち自身が戦闘しているのではなく、互いに一体ずつ使い魔のような奴に指示を出し戦わせている。一方は緑色の体に腕と思われるものの先には赤と青のバラがついている。頭は三本の突起物が生えてる。もう一方はコウモリのような姿をしてる。深青色の胴体に二本の細長い足、そして胴体の半分を占める口には四本の牙、紫の飛膜を羽ばたかせてる。
「あいつらは何やってんだ?」
近くにいる人に来てみると、
「あんた知らないの!?あれは『ポケモンバトル』だよ。この世界では至るところでやっている人がいるさ」
『ポケモンバトル』、初めて聞く言葉だ。
「あっちの花を持ったポケモンは『ロゼリア』、でコウモリの方は『ズバット』だよ」
ポケモン?『ロゼリア』?『ズバット』?よくわからん言葉が連射する。ただ、今戦っている奴らは『ロゼリア』と『ズバット』って言うということはわかった。そして、この戦闘をたった十数秒見ただけでもただ者ではないということも理解した。
理由は単純だ。奴らは異質の能力を駆使して相手と戦っているのだ。草葉を刃物のようにして相手を切り刻むことや相手に噛みついたと思うとみるみる傷が癒えていく能力は俺の知る限り『超能力』としか言い様がない。そんなもんをホイホイ使えるってことはあいつの言った通りこの世界は退屈しなさそうだ。
気づけば決着はついていた。ズバットが勝ったというのはその場の様子を見れば一目瞭然だ。
「面白そうだな」
「あんた、初めてかい?」
「あぁ、こんなもんがあるならもっと早く来るんだったな。なぁ、どうすれば俺もやれるんだ?」
沸き上がる葛藤が俺の声に躍動感を付与する。その質問に彼女は落ち着いた声で話す。
「そうね。まずはポケモンを持たないと……」
「そう言えば、そのポケモンって何なんだ?」
「本当に何も知らないのね。ポケモンって言うのはね、この世界に住む種族のひとつ、といえばわかる?」
「まぁ」
「ポケモンの正式名は『ポケットモンスター』って言ってね……」
ここから15分くらいの長い説明が始まった。要約すると、ポケモンという生物を人と共存できるようにするための研究が行われてて、その研究結果のひとつが『モンスターボール』という道具でポケモンを捕獲し仲間にすることができるという。さらに、捕まえたポケモンをボールに戻すことで簡単に連れて行くことができるようになったようだ。そして、飼い主、通称『トレーナー』は自分のポケモンを育てて強さを求めたり、共に過ごすパートナーとして一緒に暮らしたり、中でも多いのは旅に出るということらしい。旅の途中、新なポケモンとの出会いがあり、それを求めるものもいれば、ひたすら強さを磨くために修行として旅をするなどそれぞれの目的、目標を持っているとわかった。
「なるほど、いろいろありがとうな」
「気をつけてね」
彼女と別れ、少し街を見て回る。どこもかしこもポケモンがいた。さっきのようにバトルさせるためだけでないという典型的な例に挙げられそうだ。一通り見て回ると来た道を戻る。林を抜ける時、ずっとポケモンを探してた。見つかりはしなかったが……
家に着く頃には空はもう真っ赤だ。明日からどうするか考えようと思いながら入ろうとする。その時、少し不思議な感覚が体を突き刺す。今まで感じたことのない感覚、それに全神経が反応してる。何かに誘われるように二三歩後退り見上げる。その視線の先には屋根に佇む一人の影がある。いや、違う。人のように見えるが
「おまえ、一体何……」
最後まで喋り終える前に奴は空高く跳躍し姿を消した。
その時、彼女の話を思い出した。異次元の身体能力を持った生物、あいつはポケモンなんだ。
「なんであいつここに来たんだ?」
そんな疑問を抱きこの世界での最初の一日が終わった。