ポケットモンスター PECULIAR PERSON 作:TOKI
ポケモンセンターで聞いた話を確かめるべく、俺は夜の街を歩いていた。
あの噂の所為か、今の時間出歩く人はなかった。今夜の辻斬りの標的になるのは間違いなく俺たちに向くだろうと思えた。
これは寧ろ好都合、わざわざむこうから来てくれるんだ。
「イヤイヤイヤイヤ、『好都合』じゃないでしょ!なに考えんのよあんたは!」
「探す手間が省けるんだぜ。好都合じゃねぇか」
「狙われてるのに好都合もありゃしないでしょ!さっさと戻った方が……」
彼女の言葉は途中で途切れた。それは前方に現れた霧の所為だ。
「何でこんなときに霧が出てくるのさぁ~」
完全にビビった彼女の声がさらに恐怖を駆り立てる。
すると、遠方で微かに音がした。俺とルカリオはそれに意識を集中させた。
『南西……いや、南南西だな』
「移動速度は約25km/h、やっぱ人間じゃないな……あと5秒か」
「えっと~、何が何だかわからないんだけど……」
俺の言っていることに困惑した彼女に向けて叫んだ。
「しゃがめ!」
言われるままにしゃがんだ彼女の頭上3cmを何かがすり抜けていった。
「……ポケモンでもなかったか。ルカリオ!」
『ダメだな、気配を限りなく小さくしているのだろう』
「面白ぇ!良いハンデだ!」
思考を巡らせ、微々たる気配の居場所を追った。沈黙が続く中でも互いに一歩も引くことはなかった。
「………………っ!」
『北東か!』
超速で飛んでくるのを察知したルカリオは、手から棒状のものを作り、弾き飛ばした。
「ナイスショット!ってかそんな技あるなんて聞いてないぞ」
『“ボーンラッシュ”だ。だが使えることくらいは気づいていたであろう』
まぁな、と短く答えた。未だに本体は掴み取れないが、むこうも焦り始めているだろう、そう思った。
後の3発も、ルカリオは軽々しく弾き返したが、何か違和感を覚えた。
しかし、このときは完全に圧倒していると思い込んでいた。
「そろそろ出てこいよ!これ以上は無意味だぜ」
答えは返ってこなかった。その後は、完全に気配を消したようだった。
その翌日、ポケセンロビーで唸る俺とルカリオ。そこへ眠りから覚めた彼女がその様子を見て呟いた。
「朝早くから何をやっているのかと思えば……昨日のことで悩んでるわけ?」
「あぁ、あいつ最後の最後まで姿を見せなかった。正直言って、手詰まりだ」
「え?あんたでも?」
驚きのあまり口から出た問いに答えた。
「あいつがどんな攻撃を使えるのかまだわかってねぇんだ。その上姿もわからねぇとなると、向こうが不意打ちしようと思えば容易に出来るってこと。つまり、こっちからはなにも出来ないって話だ」
話の後半ぐらいからは彼女もやっとこちらの状況を理解したようだった。
「じゃ、じゃあ私たちはただやられるのをじっと待ってなきゃいけないの!?」
「極端に言えばそうなる」
彼女は肩を落し放心寸前まで意気消沈した。それを振り払うように、更に付け加えた。
「今のままならな」
「へ?」
「今のままならやられるのを待つしか方法はない。だが、それをひっくり返すことが出来れば話は別だ」
「ホント!?どうすればいいの?」
死んだ魚の目が一気に息を吹き返し、ズズィと迫ってきた。
「少なくとも、あいつの正体に繋がる情報が必要だ」
「でも、あんたぐらいの力があれば大丈夫なんじゃ……」
「無理だな。さっきも言ったが向こうとの情報の差が激しい。それじゃ最初から弱点さらけ出して戦うのと同じってことなんだよ」
成る程、とポンと手を叩いた。
「じゃあ、何か手掛かりがあればいいんだね。なら、ここのジョーイさんに聞いてみれば?襲われた人のこととか」
「俺がそれを考えなかったと思うか?」
正直、ここまで気づくのが遅いと哀れに思えてきた。
「し、仕方ないじゃん!それで、どうだったの?」
今この状況のことではなく、詳細を尋ねてきているのだと少し遅れて悟った。
「襲われた人々に関連性はなく、誰1人としてその犯人を目視できなかったらしい」
それを聞いた彼女は少し唸るとこう尋ねてきた。
「何で誰も姿を見てないんだろうね……」
「そうなんだよ」
同感した俺はさらに続けた。
「1人2人ならまだしも、やられた全員がその姿をとらえられてないんだ。どう考えてもおかしいと思うのが普通なんだが……」
実際に体感して、あながち異常というわけでもないと思えてしまった。
「となると、後は…………と、透明化とか……?」
「んなわけねぇだろ」
彼女が絞り出した答えを電光石火の勢いで否定した。
「そんな能力があったら、真夜中にしか襲われないなんて状況になってねぇだろ。透明化出来るんなら、昼間の方が狙いやすいしターゲットも増えるからな」
「じゃ、じゃあ夜じゃなきゃいけない理由でもあるとか?」
「或いは、昼間では出来ない芸当ってところか……」
しばらく妙案が浮かばないかと思考を巡らせたとき、またしても彼女が何かを思い付いた。
「な、なら……
「そんなわけ……」
アホらしい考えを否定しようとした矢先、ふとあることを思い出した。
「…………いや、あるかもしれねぇ」
「ほへ?」
すっとんきょうな声もガン無視して頭をフル回転させた。イメージが固まらず空回りしてると、俺の頭のなかを覗き込んだルカリオが隣で閃いた。
『これかもしれん!』
今度は俺が、ルカリオの頭のなかを覗き込んだ。
「あぁ、これだ!これがあいつの正体か!」
「え、何?何が起きたの?」
ルカリオの声は俺にしか聞こえず思考も互いに干渉し合っているため、周りから見るとただの独り言にしか見えない。
「話は後だ。とりあえず、夜になったらここを出るぞ。準備しとけよ!」
「え?何が?何で突然?てか逃げるなら昼の方がよくない?」
理解が追い付かない彼女はもう混乱状態だっただろう。そんなことはこれっぽっちも気にせず、最後の質問に答えた。
「逃げる?そんなつもりはねぇよ!今夜でケリをつけてやる」
そう言うと、昼間の賑やかな街へと出た。
辺りはオレンジ色の輝きをまとい、一風変わった町並みを写し出した。夕暮れ時だ。
昨日より大分早い時間だが、私たちは昨日の戦闘場所に向かった。
「ねぇ……本当に、大丈夫なの?」
震える声で問い掛けてきたが、返す言葉は決まって、
「問題ない」
「さっきからずっとそれしか言ってないじゃん。心配しかないんですけど……」
「ならここに残ってくか?永遠に狙われ続けるだろうが」
そう聞くと、彼女はブンブンと首を横に振った。
「ならつべこべ言わずついてこい。今回は負ける気はしねぇからよ」
「ってことは、勝てる?」
「ほぼ100%勝つ」
「どこからそんな自身が出てくるのか……」
半信半疑の彼女は大きくため息をついた。その彼女にもうひとつ伝えることがあった。
「今回の件、正直お前には助けられたわ」
「へ?それって?」
不思議そうに聞き返してきた彼女に説明した。
「あいつの正体にたどり着いたのは、お前が出した答えのお陰だ。礼は言わないが、正直感謝はしてる」
「そ、そう?」
「だが、向こうの奇襲も十分にありえる。気は抜くなよ」
完全に緩みきった顔を引き締めさせるように脅した。
「わ、わかった!」
そうこうするうちに、目的の場所に着いた。
「さて、ここからはあいつが出てくるのを待つか」
「……ねぇ、本当に、大丈夫なんだよね?」
再び心配になりだしたようだった。俺はため息をつき彼女に返した。
「来るときにも言ったろ、ほぼ100%勝つって。負けるなんてことはねぇよ、ぜってぇにな」
彼女はホントかなぁ、と言っていた。
道端の露店にはまだ人垣が出来ていた。夕食の食材を求めてたり、あれこれ悩んで店の前をウロウロとしてたりと。まさか、未だに人がいるとは思ってはいなかった。
ふと隣に目を向けた。まだ不安の表情を浮かべていた。
「…………まだ時間はあるし、店見て回るか?」
その言葉を聞いた彼女は呆気にとられた。
「……うん。そう、する」
互いにぎこちない雰囲気にどうしたらいいか戸惑った。
夕時とはいえ、たくさんの店が出ていたのは驚きだった。とりあえず、端から順に見ていくことにした。いろんなものが店頭に並んでいた。新鮮な野菜や花などに加え、惣菜やら魚やら多種多様だった。
「旨そうなものが揃ってるな」
「ほとんど食材だから今すぐ食べられそうなものはないけど……」
「そうでもないぜ。あそこには串焼きがあるってよ。1
本食うか?」
「ん~、じゃあもらう」
俺たちは串焼き屋の方に行った。俺は串焼きを1本注文し、店主があいよ!と活気のある声で答えた。
「はい、串焼きお待ち!」
品物が入った袋を手渡してきたのを受け取った。中を確認すると、串焼きが2本入っていた。どういうことか聞こうとするのより先に店主が耳元で囁いた。
「まあ、サービス!あの姉ちゃんと一緒に食いな、1本まけてやっからよ」
「…………そう言うことなら、ありがたく」
そう言って、1本分の代金を支払った。毎度!とこれまた活気のある声を返す店主の店をあとに彼女の待つところへ戻った。
俺たちは近くのベンチに腰下ろし、買った串焼きを食べた。
「おお!けっこううめぇじゃん!」
「ホント!こんなに美味しいの食べたのはじめてだよ!」
これから死ぬかもしれない戦いに挑むというのに、緊張感がまるでない様子だった。
「このあと熾烈な戦いがあるってるに、こんな雰囲気でいいものか?」
「いいんじゃない、勝てるんでしょ?」
「当たり前だ、さっきからそう言ってるだろ」
「ならちょっとした息抜きだよ、息抜き」
ついさっきまでビビってた奴が言うことかよ。
「い、いいじゃん別に!」
感情を読んだ彼女は頬を膨らませながら赤面した。
以外と悪くないかもと思いつつ、串焼きにかぶりついた。