ポケットモンスター PECULIAR PERSON   作:TOKI

6 / 7
過去の記憶

 すっかり日は沈み、辺り一面を黒が覆いつくした。通りを歩く人が1人、また1人といなくなっていき、ついには俺たち以外誰もいなくなった。勿論、ポケモンも見当たらない。

 時間を確認すると、とうに10を過ぎていた。

 

「さて、もう少し時間はあるし、当分の間待つことになりそうだな」

 

「そんなに!?なんでこんな早く来ちゃたのさぁ」

 

「楽しみだったから」

 

「遠足前日の子供か」

 

 最もらしいツッコミに、場は笑いで溢れた。

 

「まぁ楽しみなのはホントだが、別の目的もあるからな」

 

「別の目的?」

 

 彼女は首をかしげた。

 

「ま、説明は後程、ってな」

 

「え~何?教えてよぉ」

 

 恋バナで尋ねるような口調で聞かれた。俺は教えな~いと興に乗って答えた。

 何十回か繰り返した辺りで彼女は諦め、別のことを聞いてきた。

 

「じゃあ、あんたのこと教えて。それならいいっしょ?」

 

 正直、誰かに自分のことを話すのは好まなかったが、あと2時間もあるのだ。暇潰しにはなるかと思った。

 

「わかったよ。その代わり、お前の話も聞かせろよ」

 

「別にいいよ」

 

 彼女は即答した。自分の過去に相当な自信でもあるのか、などと考えていた。

 

「なら、私から話してあげよう!そんなに気になっては話に集中できないでしょうから、私が()()()()話してあげる!」

 

 いかにも話したげな顔をしてた、というのは心の奥にしまった。

 

「そうかいそうかい。そんなに話したくないって言うんならしょうがない、俺のなかで勝手に想像しておくとしよう」

 

「え?いや、あの、その……」

 

 思いの外カマにかかったので、俺は笑いを堪えきれなかった。

 

「あ!今私で遊んだでしょ!!ヒド~イ」

 

「あそこまで『仕方なく』を強調したお前が悪いだろ」

 

 笑いながらも正当なことを言われた彼女は、顔を真っ赤にしていた。恥辱と激昂が込み上げたが、事実なのでなにも言い返せないと言う顔だった。現になにも言えないようだった。

 咳ばらいをし落ち着きを取り戻すと、過去のことを語り始めた。

 

「私ね、5年くらい前から旅してるの。10歳になった頃からずっと」

 

「てことは15か、同い年だな」

 

「そうなんだ!なんか運命的」

 

下らないこと言ってないでさっさと続けろ。

 

「わ、わかったよ……」

 

 感情を読み取った彼女はしぶしぶ答え、話を続けた。

 

「最初に、ポケモンを貰うためにポケモン研究所に行こうとしたの。でもこの辺りにそんなとこはないからさ、カントーの方までいかなきゃならなかったの。それでも片道半日はかかるのよ!」

 

「へぇ~。あのじいさん、そんなに時間使って俺に会いに来たってのかよ……」

 

 後半は聞こえないほど小さな声で言った。

 

「で、おまえはそのカントーまで行ってきたのか?」

 

「ま、まぁね」

 

 彼女は歯切れが悪い口調で答えた。理由はすぐにわかった。

 

「行ったには行ったんだけど……もらえなかった」

 

「…………」

 

「初心者用ポケモン全部他のトレーナーが貰っていって、私の分は丁度なくなってた」

 

そんなことがあるのか。

 聞いた話によると、初心者用ポケモンは3体の中から選ぶそうだ。例外はあるが、その3体が先に誰かの手に渡った時点で、そのあとに来たトレーナーは出遅れたと言うことになる。彼女は正しく、その1人なのだ。

 

「それで博士に他の研究所がある地方を聞いて、急いで飛んだんだ。そこでも……」

 

「時すでに遅しか」

 

「そう……なの…………」

 

なるほどな。こいつ、とんでもないほどツイてないな。

 それを読み取った彼女は、返す言葉もなく縮こまっていた。

 

「それで、どうしたんだ?まさか5年間ずっと飛び回ってた訳じゃないだろ?」

 

 そう聞くと、彼女は頷き、答えた。

 

「1年間経ってから、もう自分で捕まえるしかないって思ってね、ボールを買い集めてはポケモンを探してた」

 

 基本的にはパートナー、最初に貰うポケモンと共に野生のポケモンと闘い、ゲットするのだ。ま、例外は多々あるが……

 つまり、単身でポケモンに挑むことは異例中の異例だ。その異例にはおれ自身も含まれるが……

 

「そんなことでよく生きてたな」

 

「流石に死ぬことはないよ。なんたって“10万ボルト”受けて生きてるって言う噂もあるから」

 

「今回の件で死にかけが出てるの忘れてないか?」

 

「ま、まぁ死ななかったからそこはセーフってことで……」

 

 無謀にもほどがあるが、その無茶ぶりは評価に値した。

 

「でも、うまくいかなくてね。未だにポケモン1体も持ってないわけ」

 

「よく続けようと思ったな」

 

 これには彼女も苦笑いするしかなかった。

 

「まぁ、そんなんで旅してたわけだから、周りからは放浪者なんて言われたこともあるけど……」

 

「やめるつもりはないと」

 

「そ、絶対ポケモントレーナーになるまでは諦めないから!」

 

「へー」

 

「今『下らねぇ』って思ったでしょ!ヒッド!最低!人でなし!幼稚!!」

 

「最後の一言、そっくりそのまんま返す」

 

 ぐうの音も出ない彼女は八つ当たりぎみに聞き返してきた。

 

「じゃあ、あんたの過去はどんなのよ!これで私のより下らなかったら、ひっぱたくから!」

 

「はぁ……聞いて後で泣いたりすんなよ」

 

「させられるもんなら、やってみなよ」

 

威勢がいいって言うのかヤケになってるって言うのか……

 そんな思いを仕舞い込み、本題に入った。

 

「旅に出たのは、ほんの数日前だ。それまではずっと引きこもりに近いもんだったかな」

 

 実際、向こうではダチと呼べる奴は居なかったし、作ろうとも思わなかった。常に独りで過ごしてた記憶が鮮明に浮かんできた。

 

「俺が出てきたのは、退屈なあの時を変えたかったからでよ、それ以外何にも考えてない」

 

「ふ~ん。それで、その前はとうなのよ?」

 

「……別に。ごく一般的な生活を送ってただけだが」

 

 彼女は俺の方をジッと見つめると、真剣な顔で言った。

 

「嘘ね」

 

 そういえば、ブラフは通じないっていっていた。

 

「……」

 

「…………」

 

「………………わかったよ。ホントのこと話してやる」

 

 そう言うと、過去の記憶を掘り返した。

 

「俺が物心ついたときには、両親はもう居なかった。その代わり、兄貴と一緒に過ごしてきた。15年間、ずっとな」

 

 懐かしい日々を思い出しながら、俺は語り続けた。

 

「今では想像もできねぇことだが、昔はよく兄貴になついてたみたいなんだ」

 

 それを聞き、彼女は吹き出した。そのあとすぐ、ゴメンゴメン、と軽く謝るとそれで?と楽しそうに訪ねてきた。

 

「俺は周りの奴とは馴染めなくてな、まともに話したのは兄貴以外いないんだ」

 

「あ~そんな感じするわぁ。あんた、誰彼構わず喧嘩ふっかけそうだもん」

 

「否定はしない」

 

 現にここに来て早々、喧嘩を売って1人叩き潰してきたのだ。

 

「そんなんで、兄貴とはめっちゃ仲が良かったんだ」

 

「へ~、けっこう可愛いとこあるんじゃん」

 

「うるせぇ……」

 

「でも、どうしてあんただけ出てきたのよ?お兄さんのこと誘わなかったの?」

 

ま、気になるのは仕方ないよな。

 

「……兄貴は、いなくなっちまったんだ」

 

「え?いなくなったって、どういうこと……?」

 

 彼女は少し心配そうな顔で尋ねてきた。

 

「半年前に突然、な~んの前触れもなく……正直、何処にいるのかもわからねぇ」

 

「……」

 

「あん時以来、俺があそこで生きてる意味がわからなかったな。ホント、どうやって今まで生きてたんだか」

 

 自分で話していながら、何を言っているのかと思った。変に暗い雰囲気になり、それを振り払おうと無理矢理話を進めた。

 

「とにかくいろいろあったんだよッ!柄でもないこと喋らすな」

 

 久しく沸き出た感情に一瞬戸惑った。それを隠そうとしたのか、彼女に文句をぶつけた。しかし、そんなこともお構いなしに彼女の眼は“ハイドロポンプ”の繰り出していた。

 

「うぅ~、苦労してきたんだね?辛かったよね?でも大丈夫だよ、これからはお姉さんがいるからね。いつでも頼りなさいな」

 

「いやいや、触りだけしか話してないし。そんなんでわかった気になられても困るし。てか、お前じゃ頼りないし」

 

「ひどいなぁ、お姉さんけっこうマジで心配してるんだよ」

 

数分前に意気がったこと言った奴の言う言葉か。

 俺の心の中でそう呟いた。

 

「……さて、もうそろそろかな。ルカリオ、出番だぜ」

 

『承知』

 

 ボールの中のルカリオに話し掛けた。そのあと、ボールを真上に投げあげ、ルカリオを出す。

 

「半径1㎞圏内は常に警戒しておけよ。ま、お前の場合は耳を頼りにしてな」

 

「え?なに?……まさか!?」

 

「そろそろいい頃合いだからな」

 

 彼女が慌てふためく間に、辺りは薄っすらと変容していくのを感じた。

 

「来るぞ!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。