ポケットモンスター PECULIAR PERSON 作:TOKI
すっかり日は沈み、辺り一面を黒が覆いつくした。通りを歩く人が1人、また1人といなくなっていき、ついには俺たち以外誰もいなくなった。勿論、ポケモンも見当たらない。
時間を確認すると、とうに10を過ぎていた。
「さて、もう少し時間はあるし、当分の間待つことになりそうだな」
「そんなに!?なんでこんな早く来ちゃたのさぁ」
「楽しみだったから」
「遠足前日の子供か」
最もらしいツッコミに、場は笑いで溢れた。
「まぁ楽しみなのはホントだが、別の目的もあるからな」
「別の目的?」
彼女は首をかしげた。
「ま、説明は後程、ってな」
「え~何?教えてよぉ」
恋バナで尋ねるような口調で聞かれた。俺は教えな~いと興に乗って答えた。
何十回か繰り返した辺りで彼女は諦め、別のことを聞いてきた。
「じゃあ、あんたのこと教えて。それならいいっしょ?」
正直、誰かに自分のことを話すのは好まなかったが、あと2時間もあるのだ。暇潰しにはなるかと思った。
「わかったよ。その代わり、お前の話も聞かせろよ」
「別にいいよ」
彼女は即答した。自分の過去に相当な自信でもあるのか、などと考えていた。
「なら、私から話してあげよう!そんなに気になっては話に集中できないでしょうから、私が
いかにも話したげな顔をしてた、というのは心の奥にしまった。
「そうかいそうかい。そんなに話したくないって言うんならしょうがない、俺のなかで勝手に想像しておくとしよう」
「え?いや、あの、その……」
思いの外カマにかかったので、俺は笑いを堪えきれなかった。
「あ!今私で遊んだでしょ!!ヒド~イ」
「あそこまで『仕方なく』を強調したお前が悪いだろ」
笑いながらも正当なことを言われた彼女は、顔を真っ赤にしていた。恥辱と激昂が込み上げたが、事実なのでなにも言い返せないと言う顔だった。現になにも言えないようだった。
咳ばらいをし落ち着きを取り戻すと、過去のことを語り始めた。
「私ね、5年くらい前から旅してるの。10歳になった頃からずっと」
「てことは15か、同い年だな」
「そうなんだ!なんか運命的」
下らないこと言ってないでさっさと続けろ。
「わ、わかったよ……」
感情を読み取った彼女はしぶしぶ答え、話を続けた。
「最初に、ポケモンを貰うためにポケモン研究所に行こうとしたの。でもこの辺りにそんなとこはないからさ、カントーの方までいかなきゃならなかったの。それでも片道半日はかかるのよ!」
「へぇ~。あのじいさん、そんなに時間使って俺に会いに来たってのかよ……」
後半は聞こえないほど小さな声で言った。
「で、おまえはそのカントーまで行ってきたのか?」
「ま、まぁね」
彼女は歯切れが悪い口調で答えた。理由はすぐにわかった。
「行ったには行ったんだけど……もらえなかった」
「…………」
「初心者用ポケモン全部他のトレーナーが貰っていって、私の分は丁度なくなってた」
そんなことがあるのか。
聞いた話によると、初心者用ポケモンは3体の中から選ぶそうだ。例外はあるが、その3体が先に誰かの手に渡った時点で、そのあとに来たトレーナーは出遅れたと言うことになる。彼女は正しく、その1人なのだ。
「それで博士に他の研究所がある地方を聞いて、急いで飛んだんだ。そこでも……」
「時すでに遅しか」
「そう……なの…………」
なるほどな。こいつ、とんでもないほどツイてないな。
それを読み取った彼女は、返す言葉もなく縮こまっていた。
「それで、どうしたんだ?まさか5年間ずっと飛び回ってた訳じゃないだろ?」
そう聞くと、彼女は頷き、答えた。
「1年間経ってから、もう自分で捕まえるしかないって思ってね、ボールを買い集めてはポケモンを探してた」
基本的にはパートナー、最初に貰うポケモンと共に野生のポケモンと闘い、ゲットするのだ。ま、例外は多々あるが……
つまり、単身でポケモンに挑むことは異例中の異例だ。その異例にはおれ自身も含まれるが……
「そんなことでよく生きてたな」
「流石に死ぬことはないよ。なんたって“10万ボルト”受けて生きてるって言う噂もあるから」
「今回の件で死にかけが出てるの忘れてないか?」
「ま、まぁ死ななかったからそこはセーフってことで……」
無謀にもほどがあるが、その無茶ぶりは評価に値した。
「でも、うまくいかなくてね。未だにポケモン1体も持ってないわけ」
「よく続けようと思ったな」
これには彼女も苦笑いするしかなかった。
「まぁ、そんなんで旅してたわけだから、周りからは放浪者なんて言われたこともあるけど……」
「やめるつもりはないと」
「そ、絶対ポケモントレーナーになるまでは諦めないから!」
「へー」
「今『下らねぇ』って思ったでしょ!ヒッド!最低!人でなし!幼稚!!」
「最後の一言、そっくりそのまんま返す」
ぐうの音も出ない彼女は八つ当たりぎみに聞き返してきた。
「じゃあ、あんたの過去はどんなのよ!これで私のより下らなかったら、ひっぱたくから!」
「はぁ……聞いて後で泣いたりすんなよ」
「させられるもんなら、やってみなよ」
威勢がいいって言うのかヤケになってるって言うのか……
そんな思いを仕舞い込み、本題に入った。
「旅に出たのは、ほんの数日前だ。それまではずっと引きこもりに近いもんだったかな」
実際、向こうではダチと呼べる奴は居なかったし、作ろうとも思わなかった。常に独りで過ごしてた記憶が鮮明に浮かんできた。
「俺が出てきたのは、退屈なあの時を変えたかったからでよ、それ以外何にも考えてない」
「ふ~ん。それで、その前はとうなのよ?」
「……別に。ごく一般的な生活を送ってただけだが」
彼女は俺の方をジッと見つめると、真剣な顔で言った。
「嘘ね」
そういえば、ブラフは通じないっていっていた。
「……」
「…………」
「………………わかったよ。ホントのこと話してやる」
そう言うと、過去の記憶を掘り返した。
「俺が物心ついたときには、両親はもう居なかった。その代わり、兄貴と一緒に過ごしてきた。15年間、ずっとな」
懐かしい日々を思い出しながら、俺は語り続けた。
「今では想像もできねぇことだが、昔はよく兄貴になついてたみたいなんだ」
それを聞き、彼女は吹き出した。そのあとすぐ、ゴメンゴメン、と軽く謝るとそれで?と楽しそうに訪ねてきた。
「俺は周りの奴とは馴染めなくてな、まともに話したのは兄貴以外いないんだ」
「あ~そんな感じするわぁ。あんた、誰彼構わず喧嘩ふっかけそうだもん」
「否定はしない」
現にここに来て早々、喧嘩を売って1人叩き潰してきたのだ。
「そんなんで、兄貴とはめっちゃ仲が良かったんだ」
「へ~、けっこう可愛いとこあるんじゃん」
「うるせぇ……」
「でも、どうしてあんただけ出てきたのよ?お兄さんのこと誘わなかったの?」
ま、気になるのは仕方ないよな。
「……兄貴は、いなくなっちまったんだ」
「え?いなくなったって、どういうこと……?」
彼女は少し心配そうな顔で尋ねてきた。
「半年前に突然、な~んの前触れもなく……正直、何処にいるのかもわからねぇ」
「……」
「あん時以来、俺があそこで生きてる意味がわからなかったな。ホント、どうやって今まで生きてたんだか」
自分で話していながら、何を言っているのかと思った。変に暗い雰囲気になり、それを振り払おうと無理矢理話を進めた。
「とにかくいろいろあったんだよッ!柄でもないこと喋らすな」
久しく沸き出た感情に一瞬戸惑った。それを隠そうとしたのか、彼女に文句をぶつけた。しかし、そんなこともお構いなしに彼女の眼は“ハイドロポンプ”の繰り出していた。
「うぅ~、苦労してきたんだね?辛かったよね?でも大丈夫だよ、これからはお姉さんがいるからね。いつでも頼りなさいな」
「いやいや、触りだけしか話してないし。そんなんでわかった気になられても困るし。てか、お前じゃ頼りないし」
「ひどいなぁ、お姉さんけっこうマジで心配してるんだよ」
数分前に意気がったこと言った奴の言う言葉か。
俺の心の中でそう呟いた。
「……さて、もうそろそろかな。ルカリオ、出番だぜ」
『承知』
ボールの中のルカリオに話し掛けた。そのあと、ボールを真上に投げあげ、ルカリオを出す。
「半径1㎞圏内は常に警戒しておけよ。ま、お前の場合は耳を頼りにしてな」
「え?なに?……まさか!?」
「そろそろいい頃合いだからな」
彼女が慌てふためく間に、辺りは薄っすらと変容していくのを感じた。
「来るぞ!」