獣耳天国   作:黒樹

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カルラかユズハで悩んだ結果、ユズハ星五にしました。
被ったノスリ七回分の御魂を素材にして。



二人はオシュトル

 

 

トゥスクルへの手紙をカルラに託し色々と片付いたが、今も問題は山積みである。

 

「さて、どうやって金を稼ぐか……」

 

目下の問題としてまず上げなければいけないのが懐が寂しいという点か。この時代において金品の類は持っていない上、トゥスクルでは形として幹部的立ち位置にいたおかげで喰うには困らなかった故に、得る必要性が皆無であったのだ。あそこにいれば食事は勝手に出てくるし食べる必要性も半霊の身では必要なかった。故に資産はない。

 

しかし、よく考えれば自分は妻がいる身、そろそろ職を得て養う甲斐性というものが必要である。本当にトゥスクルにいた頃には気にしたことがなかったため、盲点であった。あれは一つの家族のような関係で居心地が良すぎたのだろう。

 

これではいけないとユズハ達が帝都へ来る前にそれなりの金銭を得ようと思ったのだが、どう稼いだものかと悩む始末。本当に不甲斐ない。

 

「カルラに職でも紹介してもらうか……?」

 

白楼閣で働かせてくれとは言わない。この時代における稼ぎ方というものを教えてもらうだけでいい。

 

「できればユズハ達が来る前にそれなりに欲しいところだな」

 

幸いにも賊を討伐したりすれば報奨金が出るようだ。

他にも探せば色々とあるだろう。

 

「ヨミ様、大丈夫ですか?」

 

思案に耽る俺の顔を覗き込み、フミルィルが心配そうな顔を見せる。

 

「あぁ、少し考え事をな」

 

「……では、はぐれたりしないように手を繋ぎましょうか♪」

 

「あ、おい」

 

「もう、ぼーっとしてるとおいてくよ」

 

しかし今はネコネが親切心で帝都を案内してくれているところだ。上の空では失礼というものだろう。フミルィルに手を引かれて、急かすクオン達のところに急いだ。

 

 

 

「で、此処は……」

 

それから帝都を散策すること一時間ほど、広大な敷地を誇る帝都を廻りきるばかりか未だに終わりが見えない。その途中で大内裏の門まで連れて行かれ、また門を潜る事になってしまった。一般庶民とは無縁の場所である。

 

「実は兄様がヨミさん達を呼んでるです」

 

そう言ってネコネが自分達を連れて来たのは前に荷を運んだ右近衛大将オシュトルの屋敷。門衛達は俺達を警戒したように睨んだ後、ネコネを見てその緊張を解き姿勢を正した。

 

「お役目ご苦労様なのです」

 

軽く頭を下げてネコネは門を潜る。その後ろを歩き俺達もオシュトルの屋敷へと足を踏み入れた。

 

ネコネ先導の下、屋敷を迷いなく歩くととある一室の前で立ち止まる。通い慣れているのかその所作は染み付いたものですれ違った兵も彼女を見ては頭を下げて挨拶をして来ていた。

おそらく、謎があるのはネコネの方にではなく兄であるウコンの方なのだろうが……考えても仕方ない事だろう。

 

「ヨミさん達をお連れしたです」

 

「入るといい」

 

部屋に向かってネコネが声を掛けると、簡素ながらも丁寧なそんな応えが返ってきた。

 

「失礼しますです」

 

果たして、その部屋の向こうには……。

 

「よく来てくれたな」

 

絵巻物や書物が整頓された部屋–––執務室の机の奥に、いつぞやの仮面の男、右近衛大将オシュトルが正座していた。

 

「はぁ、なるほど、そういうことか……」

 

だが、何故かオシュトルという男に違和感しか感じなかった。目の前にいるこの男は確かに強者だ。最初にクジュウリの辺境で見た時も只者ならぬ気配があった。しかし、それとも別物。僅かな差異に対する疑念が確信へと変わる。ただ、今この目の前にいる男が誰かと問われれば答えは二つ。

 

「ウコンとオシュトルは同一人物か」

 

「ほぅ」

 

感心したようにオシュトルが息を漏らした。

 

「随分と察しがいいなぁニイちゃん」

 

そして、随分と軽い口調笑みを浮かべれば別人の気配を放つ。顎に手をやると無精髭が姿を現し、髪を掻き乱して、最後に仮面を取ると俺が知るウコンという男に早変わりする。ただその顔はつまらなさそうではあったが。

 

「アンちゃんは気付くのに時間が掛かったってのに。……おい、アンちゃん、失敗だ」

 

オシュトルからウコンへ様変わりした彼が奥の襖に呼び掛けると、その襖が開き奥からハクが出て来る。ただしその格好はオシュトルそのもので知らない人が見れば別人とは判らないほどそっくりだ。

 

「お、オシュトル様が……二人……?」

 

襖の奥から現れたオシュトル(ハク)を見て、ルルティエが困惑する。それもそうだろう、オシュトルという男がいきなりウコンになったかと思えば、その奥からオシュトルに扮したハクが出てきたのだから。

 

「ど…どうして……?」

 

ルルティエの疑問に応えず、オシュトルは此方を見た。まるで其方の考えを言ってみよ、と言わんばかりに。

 

「理由までは判らないが二人は時々入れ替わってるんだろう。間違いなく」

 

でなければ、あの時、ネコネが『影武者』という言葉を使うはずがない。というかそもそも宴会の席で答えを言っていたようなもので、状況証拠が出揃えば誰にだって察することはできるはずだ。

 

「えと、ウコン様と……ハク様……どちらがオシュトル様で……」

 

しかし、此処まで言われてもルルティエの頭の中ではオシュトルの像が離れない。現状を理解できていないようである。

 

「あー、ルルティエ姫はまだ混乱してるようだな」

 

そりゃそうだろう。何の説明もなしにウコンの正体が露見した挙句、同じ格好をしたハクが奥から出てきたのだから。仕掛けた張本人が頰を掻いて困ったような顔をする。それを困った顔でネコネはしょうもない小細工をした二人に呆れた目を向けていた。

 

「兄様、ハクさん、そういうのは順序通りに話すです」

 

「いや、すまん。つい楽しくなっちまってよ。この前はアンちゃんが嵌められた側だから、今回は驚かしたいって言ってなぁ」

 

「ちょ、おい俺を売るのか!?」

 

潔く謝ったかと思えばウコンはハクを売り、売られたやつは動揺してあたふたと取り繕う。まぁ実際、予定にあったのはオシュトルとウコンが同一人物だという秘密を打ち明けることのみだったのだろう。

 

「多分、クジュウリの辺境で会ったのはハク……おまえだろう」

 

「なんでぇそこまで判ってるのかい」

 

「今、確信した」

 

はっきり言ってなんでもかんでんも判るわけではない。

それなりに情報がなければ、たどり着けはしなかっただろう。

 

「それよりこんな茶番をやった説明はしてもらえるんだろうな?」

 

いつの間にやらネコネが用意した茶を啜り、喉を潤す。クオンとフミルィルも驚いた様子はなく、しかしルルティエの動揺ぶりを見てクスクスと笑っていた。

 

「おうよ。ウコンとは世をしのぶ仮の姿。その正体は八柱将にして右近衛大将の役を授かる、オシュトルってのはオレのことよ」

 

堂々と宣言するウコンだが、ウコンと呼べばいいのかオシュトルと呼べばいいのか、同一人物ではあるんだが、しかし仮の姿という割には少し違和感を覚える。

 

「仮の姿ねぇ。どっちが本当の姿なんだか」

 

おそらくはどちらも本物である、というのが正解だろう。

 

「まぁそれは置いておくにしてだ。なんでオシュトルが二人いるのかって質問に答えようじゃねぇか」

 

腕を組んで、真剣な表情になってウコンは話し始める。

 

「もともとこのウコンって姿は身に余る官位に縛られる事なく動くために作った、いわば裏の姿でよ」

 

裏の割には楽しんでる、とは突っ込まない方が良いのだろうか。それ以上の説明は不要だと言わんばかりに色々と端折られている気がするがそこは放置してもいいだろう。

 

「なるほど、オシュトルでは街を歩き辛いからな」

 

「まぁ、それもあるんだが……なんでこうなっちまったのかねぇ」

 

ため息を吐いて戯けてみせるウコン、その言葉は本心であろう。

 

「故郷に錦を飾るために真面目にやってきたんだが、幸か不幸か右近衛大将なんて官位まで賜り、俺本来の目的である民と共にあるってやり方も満足にできなくなっちまった」

 

「それでウコンというわけか」

 

「おうよ。ウコンの生まれはそれだ」

 

その横でオシュトルに扮したハクがネコネを揶揄い、お茶を掛けられるという騒ぎがあったが無視をしておく。あの子を怒らせるあいつが悪い。

 

「だが、そのウコンも最近は動きづらくなってな。活躍し過ぎたのか妙に嗅ぎ回る連中が増えて、その正体を知られるのも時間の問題ってところで、とある策を思いついたわけよ」

 

「それがあのオシュトルに扮したハクか」

 

「ウコンの姿とオシュトルの姿が同時に目撃されれば疑うやつはいなくなる。って、寸法さ。それにやってみたら案外似てるしネコネを騙せるもんだから、ひょっとしたらって思ってよ。クジュウリの境で賊を捕らえた時も、アンちゃんには影武者の役をこなしてもらったわけよ。まぁそれから重宝してるがな」

 

「おい、そのせいで自分がどれだけ迷惑を被ったと……」

 

「金になるんだからいいじゃねぇか」

 

どうやらそういう協力体制であるらしい。

ハクが文句を言ってるが、軽い口調で戯れているだけに見える。

 

「–––とはいえ、だ。成り済ますのも続けていけばいつかはバレるだろうし此処らへんが潮時だろう。裏の雑務の方をアンちゃんに任せて表に戻ったはいいが、アンちゃん一人にはちょいと荷が重すぎる。そこでだ」

 

なんか嫌な予感がする。

そう思った直後に的中したことを知る。

 

「ニイちゃん達にアンちゃんの手伝いをして欲しいのよ」

 

これは右近衛大将オシュトルからの申し出か、ウコンという仮の姿からの申し出か、どちらにしても答えは一つに決まっているだろう。俺はフミルィル達に目配せをして、次にネコネと戯れているハクを見た。視線が合ったが俺は瞬時に逸らして、この間三秒ほど。

 

 

 

「–––だが断る」

 

 

 

俺ははっきりと拒絶した。

 

「なぬ!?」

 

そんな間の抜けた声を上げたのはハクである。

ウコンは難しい顔で、腕を組むばかりだ。

 

「よく考えろヨミナ、仕事を受ければこの獣耳娘までついてくるんだぞ。好きにしていいとウコンからも了承済みだ」

 

「うなっ!?」

 

「毎晩獣耳を触り放題、尻尾もだ。どうだ、欲しいだろう?」

 

それを言った直後、ネコネはハクの顔面をグーパンしていた。それから此方を見て、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしている。

 

「報酬は弾む、と言ってもか?」

 

続けてウコンがそう漏らした。

 

「悪いが断る。自分には守らねばならないものがあるし、故郷にだって大切な人を残してきてるんだ。危ない橋は渡れない」

 

「故郷に大切な人……?」

 

ルルティエが首を傾げた。

そういえばまだ言ってなかったか。

 

「あぁ、トゥスクルに妻がいるんだ。もう何年も会っていないがな」

 

「…ヨミナ様に……妻……」

 

「お、おい?ルルティエ?」

 

何やら呆然とした様子でルルティエはそう呟き、その手に持っていた湯飲みからはお茶が垂れ流されていた。高そうな着物にシミを作っていく様を見てクオンが慌てた様子で彼女の手から湯飲みを奪い取り、フミルィルは懐から上品そうな布を取り出してまだ染み込んでいない水分を拭き取っていた。

まるで流れるような連携にヨハネが感心していた。

 

「–––あ、ごめんなさい!…ちょっと…びっくりしてしまって…」

 

「これくらいどうってことないよ。それより」

 

気になる、と好奇心を旺盛にしてクオンが此方に視線を向けた。

 

「妻がいるってどういうことかなぁ?」

 

いや、どちらかと言えば視線が冷たい。

 

「これにはトゥスクルの歴史よりも深いわけが……」

 

「へぇ、私の故郷より深いわけ、ねぇ?」

 

兎を追い詰める獅子のような顔で迫ってくるクオンに冷や汗が止まらない。何か悪いことをした覚えはないのに、何故か悪いことをした気分になるのだから女性の笑顔は怖い。

 

「–––って、おまえに妻ァ!?」

 

今度はハクが素っ頓狂な声を上げた。

 

「相手は?」

 

「トゥスクルで一番綺麗な獣耳娘だ」

 

ユズハ、と名を言うわけにはいかないのでぼかしておく。どうせ名前を言ってもハクは判らないだろうし問題はないだろう。まぁなんとなく予想はしてた、と彼は易々と納得してしまったわけだが。

 

「そこまで危ない仕事はないんだがな」

 

「だが、右近衛大将オシュトルの協力者や配下とあって、おまえに不祥事があれば真っ先に危ないのは自分達になるだろう」

 

「確かにそういうリスクもあるか」

 

ウコンも納得してくれたのか、そう頷いていた。

もっとも納得していないのが一人いるようだが。

 

「兄様に限ってそんなことあるはずがないです!」

 

「確かにこの男はそういったことを嫌うからないだろうが、謂れもない咎を押しつけられる可能性もある」

 

「それは……そうかもしれないのです……」

 

決して君の兄を侮辱したわけではないと説明すると、ネコネは項垂れながらも自分の間違いを認めた。少し、この娘には兄のことになると周りが見えなくなる節があるらしい。俗に言うブラコンである。シスコンならトゥスクルにもいたので扱いは比較的簡単であった。

 

「ネエちゃん達はどうする?」

 

しおらしくなったネコネを珍しそうに眺めて、ウコンは他の三人娘とルルティエに声を掛けた。

 

「報酬はどれくらいなのかな?」

 

すかさずクオンが報酬の話をする。確かにそれを聞いてはいなかったが報酬で靡くような自分ではない。

ウコンがネコネに声を掛けると予め用意してあったのか、書簡や調度品の間に置いてあった木箱から小袋を取り出して盆の上に乗せて持ってくると机の上に乗せた。ずっしりと重そうな音が鳴る。

袋の中身を僅かに零すと、中からは金が出てくる。

 

「へぇ、随分と念を入れてるんだ」

 

「……おい、まさか非合法な組織じゃ……」

 

「まぁ、朝廷を通した正式な依頼じゃないのは確かだ」

 

そもそも右近衛大将では出来ないことをやっているのだから、当然の理である。今更、非合法も合法もあったものではない。非公式な組織同然なのだから。

 

「これは支度金だ。人を雇い入れるなり好きに使ってくれ」

 

「……うん。引き受けてもいいかな」

 

何を思ったのか、クオンさんはあっさり引き受けてしまう。

 

「なぁ、クオンもう少し考えた方が……」

 

フミルィルとヨハネに視線を送って助けを求めたが、片やニコニコ片や無表情で溜息を吐くばかりで助けてくれる気配がない。何処か諦めている節がある。

 

「なんで?面白そうだよ」

 

「いや、面白そうとかじゃなく……危ないから。な?」

 

親の心子知らずとは、このことを言うのだろうか。

今の自分には強く言う権利等ないのであまり強く言えないが。

それでも心配なものは心配だ。止めるのも当然のことだろう。危険な事に首を突っ込もうとしているのだから。

 

「散々、無茶を言っておいてなんだが……本当にいいのか?」

 

同情めいた視線をウコンから感じたが、そもそもの原因は奴である。しかし、再度問い掛けられても答えが変わることはなかった。

 

「うん、いいよ。こういうのやってみたかったし」

 

「……はぁ」

 

いったい誰に似たんだか。

そう思わずにはいられない瞬間だった。

 




今回のイベントで活力回復全部使ったからもう回復薬がない。
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