獣耳天国   作:黒樹

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ロストフラグのガチャ。
もちろん、持ってないフミルィルで確定させました。
神ガチャすぎてテンションばくあがりよ。
あとはユズハイベントフルボイス欲しい。


てのひらのうえ

 

 

 

ホオホオと鳴く夜鳥の声に目蓋を開ける。月光だけが頼りな部屋で、視界が闇に慣れると私は上半身を起こした。隣ではフミルィルとヨハネが幸せそうに眠っている。

 

「……ヨミ様」

 

「ヨミぃ〜」

 

二人が寝言でお父様の名前を呼ぶ。でも、ふとフミルィルの目尻から溢れた涙を見て、それが決して幸せなだけではない夢だと気づいた。最近、お母様が来てからフミルィルは以前のようにはお父様に甘えられていない。そのことがどうにも引っ掛かって不憫に思えてくる。

 

「どうにかしようにも、お父様とお母様が離れる瞬間なんてないしなぁ」

 

私の両親は再会するなり片時も離れようとはしなかった。互いに想い合っているからか、二人一緒が常で単独行動を取ることがないのだ。故にフミルィルのアピールポイントも少ない。そして更に言うならば、私もどちらか一方と話すという機会を持てずにいた。頼めば一対一で会話をしてくれるのだろうけど、私には二人を引き裂くなんて事が出来るはずもなかった。

 

「はぁ、ちょっと夜風に当たってくるかな」

 

このままでは眠れそうにないので、二人を起こさないように部屋を出る。特に何処に行こうという意思はないけれど、夜風に当てられたい気分だった。

玄関から白楼閣の外に出て、ぐるりと廻る。立派な庭が見える通路の方へと歩いた。するとその縁側には先客がいて、一瞬戸惑ったのも束の間、更なる驚きが待っていた。

 

「お、お母様……?」

 

なんとそこにはお母様がいたのだ。縁側に腰掛けて中庭に視線を向けるお母様が。勿論、お母様の瞳には今私が見えている光景が映らないので観ているとは言い難いが、僅かに私が漏らした声と匂いに反応して此方を向いた。

 

「おや、こんな真夜中にお散歩ですかクオン」

 

「……よく私だってわかったね」

 

「母親ですから」

 

関心ながらにお母様の隣に座る。何をしているんだろうと口を開こうとすると、風が一際強く吹いた。それに乗って凛と鈴の音が鳴った気がしてお母様の視線を向けている方を見ると、案の定お父様の姿があった。お母様を一人にしないあたり、お父様の愛の深さが目に染みてなんだかすとんと胸に落ちる。

 

「…………」

 

会話の切り口を失って私は父の姿を眺め見た。

 

月光に煌く白刃が軌跡を描き、その度に凛と鈴が鳴る。刀の鍔に付けられた鈴のせいだろう。それもまた月の光を浴びて、煌びやかに夜を彩っていた。さながら父は踊るように刀を振るう。その姿は何処か楽しんでいるようだ。ただ一瞬、納刀したかと思うとカチリと鈴以外の音が鳴る。風が吹き荒れ、鈴が凛と鳴った。父は難しそうに眉根を寄せた。

 

私は気づく。

抜刀した瞬間も、納刀した瞬間も見えなかった。

不満なのは鈴の音が鳴った事らしい。

動けば鳴る鈴の音が聞こえるのは道理だと思うが……父の考えている事が判らない。

 

「そういえば前から聞きたいことがあったんだけど……」

 

「私とヨミナ様の馴れ初めですか?」

 

「いや、違う。違わなくはないんだけど……お母様はお父様の何処を好きになったの?」

 

父は未だに何度も納刀しては抜刀を繰り返す。

あれ以上の疾さを求めていた–––。

その姿を見遣りながら、お母様はうーんと考え込む。

すぐに答えが出なかったようだ。

 

「そうですね……言葉で表現するのは難しいです」

 

と、言う割には難しい顔をしていない。何処か懐かしむようで恋焦がれるような少女の顔をして、そのひたむきな美しさに私は引き込まれた。相変わらず、私の母は綺麗だ。

 

「ありきたりな言葉でいいのなら、全部です」

 

そんな母が出した答えは欲張りなものだ。

 

「優しいところ、甘いものが好きなところ、子供が苦手そうな顔をして面倒見がいいところ、辛いことも隠しちゃうようなところ、その全部が私は好きですよ」

 

「そっか」

 

あぁ、そうだ。確かにお父様は隠していた。お母様と本当は早く会いたいのにその辛さを押し殺して私達と接していた。それはまるで親子の間にあるはずでなかった時間を埋めるようなものだった。

 

「……ねぇ、やっぱりお父様とお母様の話全部聞きたいな」

 

お母様がこんなにも恋焦がれて、お父様に逢いたがった理由。一端では理解出来ない理由も判るんじゃないかと思って、そんな風に母と父の出会いの話を催促する。

 

すると、騒ぎを聞きつけてお父様が刀を仕舞ってやって来た。

 

「いったい二人で何の話をしてるんだ?」

 

「お父様はお母様の何処を好きになったの?」

 

ちょうど、“父が刀を帯刀して来た”ので話題を振ってみる。こういう場合、“飛んで火に入る夏の虫”と呼ぶべきか。大昔は“鴨葱”と言ったらしい。

 

「……また難しいことを言うな」

 

どんな言葉が飛び出すかと思えば、渋い面をしてお父様は私の隣に座る。奇跡的にも私が願った親子三人並んだ構図だ。私を挟んで両親が笑う。そんな光景を夢想したことは一度だけではない。

 

「言葉にするのは難しいが。……最初は、一目惚れだった」

 

恥ずかしそうに喋るお父様は何処か嬉しそうだった。その頃のことを思い出しているのか、頰が少し赤い。でも、すぐに言葉が紡がれる。

 

「だけど、その後ユズハを知っていくたびに俺は全てを好きになった。強いて言うのであれば、死を宣告されてもひたむきに生きるその姿が綺麗で、他者に優しくあろうとするその心に惹かれたよ」

 

「そのお母様をお父様が救ったんだよね」

 

私が興味を惹かれたのは、エルルゥお母様ですら治せないと言わせしめた病を治療した、お父様が持つ大いなる父の医学知識だ。

 

「お父様って“大いなる父”なんだよね」

 

「この時代ではそう呼ばれているな。もっとも、大いなる父なんて大層な名前で呼ばれているが、その実、少し頭が良いだけの人間だ。然程特別ではないよ」

 

この時代はまだ文明のレベルが低い、とお父様は言った。

 

「どのくらいのレベルなの?」

 

「昔の子供なら、誰でも学士の試験に合格できるレベルと言ったら判るか?」

 

「……それってつまり、ネコネより頭の良い人がうようよいるってこと?」

 

「学士の試験がどの程度か判らんが。まぁ、そうだな」

 

恐ろしや、大いなる父。

 

「俺の生きていた時代にネコネが生まれていたら、あいつは科学者になれたかもしれん」

 

手放しにお父様が称賛するのはこれが初めて。

ネコネってそんなに凄いんだ。

そう思う反面、白塗りの貴人の顔が思い浮かぶ。

学士である、不憫な男の顔が。

 

「じゃあ、マロロは?」

 

「あれはそれなりの知恵者だが、広い分野で見ればネコネに負ける。でも、軍師としてなら、才能の塊だろう。環境が良くてあいつに自信さえあればかなり違う結果になるんじゃないか」

 

聞けば、マロロの上司は最悪の一言で才能を潰す原因だとか。借金の件もそうだし、不憫過ぎてなんて声を掛けていいのか判らないというのが皆の意見。ウコンも酒を奢ったりしてるらしい。

 

話を戻そう。

 

「実はお父様にお願いがあるの」

 

「なんだ?」

 

「大いなる父のこととか、古代のこと教えて欲しくて……」

 

私の趣味嗜好は大いなる父が遺したという遺跡や文献の調査だ。その大いなる父が父親とは大層驚いたが、俄然興味が湧いてくる。多分、これはきっとお父様についてもっと知りたいと思っているからだろう、なんて恥ずかしくて言えないけど。

 

「それはいいんだが、何を教えればいいんだ?」

 

お父様は二つ返事で了承してくれた。

 

「うーん。私もよくわかんないかな」

 

喜んだのも束の間、何を聞いていいか判らなくて考え込む。一旦、この件は保留にする。

 

「ところでもう一つ聞きたいことがあるんだけど……」

 

私情も大事だったが、此方が本題だ。

首を傾げる二人、私は爆弾を思い切ってぶん投げる。

 

 

 

「お父様はフミルィルのことどう思ってる?」

 

 

 

言った。言ってしまった。不和の種。お父様の返答次第できっと家族会議になってしまうだろうが、そんなことは知ったことか。お母様の反応も怖いけど、フミルィルのためを思えば致し方ない。

 

そんな覚悟を決めて、緊張感を飲み込む。

するとお父様はお母様の方に視線を移す。

 

「どう思ってると言われても……」

 

「ふふっ、ヨミナ様はどう思いますか?さぞ、可愛らしいでしょう」

 

なんだかお母様は楽しげだ。

その様子にお父様は肩を落とし溜息を吐いた。

そして、予想もしなかった事を告げる。

 

「フミルィルを俺にけしかけたのはユズハだろ」

 

「えっ?」

 

「おや、ばれてしまいましたか」

 

「ええっ!?」

 

二人だけで判り合ったような雰囲気に私は戸惑って、目を白黒とさせているとお父様が月を見上げた。その横顔は何かを思い出しているようで、何処か懐かしげ。

 

「サクヤをたきつけたのも君だったな」

 

「クスッ、懐かしいですね……随分と前のことなのに、昨日のことみたいに思い出せます」

 

除け者にされた私は、お母様に掴みかかった。

 

「ど、どういうことなの!?」

 

「サクヤの話は聞いていたんでしたっけ。フミルィルのことですか?」

 

「そうだよ、けしかけたって!」

 

「そのままの意味ですが」

 

きょとんと首を傾げる母、ますます意味が判らない。

お母様はのほほんとした様子で続ける。

 

「昔からフミルィルもヨミナ様のこと好きでしたから。ならいっそヨミナ様好みの女の子に仕立て上げてしまえばいいかと」

 

「なんでそうなるかな!?」

 

「ヨミナ様はモテますから。それなら此方で用意してしまおうかと」

 

あぁ、確かにお父様の周りには女が増えつつある。それの邪魔をするためにフミルィルを利用したというのも頷ける話だ。それがまさか数年規模どころか、だいぶ前から画策していたと思うとお母様の本気度が窺えるというもの。

 

「……それでお父様がフミルィルに手を出していたら、どうするつもりだったのかな?」

 

「その場合はエルルゥ様がハクオロ様を宗廟の奥にかんき–––大切にしまっているように、私もなんらかの手立てをするつもりではありましたが。もちろん、嫉妬はしますよ。待っていたのに浮気なんてされたら」

 

ねぇ、今、エルルゥお母様がハクオロ様を監禁してるって言い掛けた?

思い違いだと思いたく、私はその話題には触れまいとした。

 

「そういうわけで私とサクヤはフミルィルがヨミナ様の妻になるのは大歓迎ですよ」

 

もしかしなくても、全て私の取り越し苦労な事に気づいてしまったのだった。




裏タイトルをつけるなら『首輪』『黒幕』とあったんだけど、この話の内容はシリアス一割の奮闘記(笑)ですから仕方ありませんね。
というわけで、この章は終わりです。
そろそろカミュとアルルゥにも出番はあるはず。
例によって不定期更新ですが。
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