戦闘に入ってから終始姿を隠していた白髪の女が実体を晒した。俺が見聞色の覇気を持っていて幻覚が通用しないと悟ったからだろう。
だが、妙な事をほざきやがった。狐の見せる白昼夢、だァ?意味の分からねェ事を…
「次はどんな手品見せてくれんだァ?」
「種無しの手品、存分に味わうといいよ」
何か変わった事をしてくるだろうという予想に反して、女は懲りずに幻覚を用いて再現した砲弾を十数個間髪入れずに投擲してきた。
それら全て幻覚であると判断し、回避せずに女に向かって一直線に突き進む。黒光りする砲弾が目の前に迫るが迷わず突き進む。初弾、次弾と体をすり抜けて行った。
「どうしたァ!さっきと変わらねーーぐぉっ!?」
腹に突き刺さった砲弾がズシンと重量感のある音を立てて地面に落ちる。
何ィ…!?本物の砲弾だとォ…!?馬鹿な、この俺が見逃すはずがねェ!!それに何だこの砲弾は…って、消えやがった!?幻覚だったのか…!?
「女ァ!!テメェ何しやがったァ!!」
「種無しの手品だから、何とも言えないねぇ」
「クソが…!!」
「ん〜次は…こんなのはどうかな」
イラつく間の抜けた声で女が銃を手に取った。そしてその背後にも計16挺展開した。
勘は全て幻覚と判断している、がしかし先ほどの事を鑑みるに。非常に癪だが、受けるのは危険。
横にあった腐蝕し切れずに残っていた建物を腐蝕させて崩し、一時的に壁として機能させる。
それと同時に「発射〜」という女の声と銃声が鳴り響いた。銃弾の音と衝撃が壁に走る。ありえない、幻覚のはずだというのに物理的な質量を持っている。まさか幻覚に見せかけた本物か…?いや、まさか…!!
「…幻覚に実体を…?」
「さて、どうだろうね」
のほほんと惚ける女。腹が煮えくり返る。ここまで俺をイラつかせたのはテメェが初めてだぞ女ァ…!!だが厄介なのは本当だ。かなりの実力者だと認めざるを得ない。
俺の予想が正しけりゃァかなりやべェ能力かもしれん…。ちっ、多少のリスク背負ってでも試す必要があるなァ…
俺は壁を腐蝕させて突き破り一直線に女へと突貫する。女は腰に下げた刀ではなく、これまた幻覚によって再現した刀を手にして構えた。当然これも幻覚だと判断する。俺は刀を無視するように女を殴ろうとしてーー
ーー咄嗟に武装色の覇気を右腕に纏わせ斬撃の通り道に割り込ませる。するとガキンッという音を立てて右手の甲に女の刀が食い込んでいた。
「ぐぅお…!?」
更に女は刀を斬り結ぼうとしたので迅速に後退したものの、何太刀か擦り傷を浴びてしまい、ツゥと切り口から血が滴る。
「粗雑な言動の癖に意外と賢いね。流石は新世界の海賊だ」
「うるせェ…!というか何が種無しの手品だァ!!タネは割れたぞコラ!!テメェ…やっぱり幻覚を実体化させてるな…!!」
「お、正解。私の見立てを超えて賢い。名付けて有幻覚。攻略法は…ない」
ドヤ顔する女が分裂して6人になる。全員が刀で武装して俺に殺到する。
「なんだと…!?」
動揺を押し殺し、此方を斬り殺そうする女共を武装色の覇気で捌く。連携がうまく、中々距離を取る事が出来ず歯噛みする。
「誰が本物でしょうか〜?ま、分かったところで意味もないけど」
「黙ってろ!!要はテメェら全員ぶっ倒せばいいんだろォ!!」
俺は能力を解放し腐蝕の波動によって左側に殺到していた女共を一掃する。煙のように消えたところを見るに左側にいた3人は幻覚だった。ともかく手薄になった故に出来た余裕を持ってして右側の女を1人2人と殴りつけていく、これまた煙のように消える。
そして最後の1人に万物を溶かす、腐蝕の手を伸ばす。最後の1人は見聞色の覇気が実体と訴えている。
「テメェかァ!!」
「あ…ぐ…っ」
腐蝕の手は女の腹を突き破り、体を内部から腐蝕させる。内臓は確実に腐り落ちた。
ーー殺った!
「ーー残念、はずれ」
「ぐァ…!!」
ーー確かに能力が発動し、女はドロドロに溶けて地面に崩れ落ちた。勝利を確信した瞬間、俺の腹を刀が突き破った。
「…馬鹿な…殺し、た…はず…」
「うん、殺したね
なん…だと…ッ!?最初から、俺は幻覚と戯れてたって事か!?そんな出鱈目な能力があってたまるか!!巫山戯るなよ!!
「…く、そッ…!」
「…それじゃあ、次目が覚めた時は暗い檻の中だよ。さようなら」
女が幻覚で作り出した大きな槌を振り上げる。
「…クソがァァァァァァッ!!」
俺の記憶はここで途絶えている。
▽
有幻覚の槌を消して、気絶したクロッゾを見下ろす。そして腐蝕してしまったコートの裾を見て冷や汗を流す。
「ふぅ、危ない能力だった…」
最後、6人がかりで攻めた時にクロッゾが放った腐蝕の波動が偶々シルヴィアが隠れ潜んでいた場所まで届いていたのだ。予想を超える射程の大きさに驚いて逃げたもののコートの裾が一部、つまりは正義の文字の義の部分が欠けて無くなってしまった。
新しいの貰えるかな…
「シルヴィア少将!!」
戦闘の終わりを感じたのか、遠くで待機していたセラちゃんが駆け寄ってきた。
「お、セラちゃん。アレ出してアレ。」
「あ、はい。海楼石の錠ですね…」
以心伝心、つーと言えばかー。長年連れ添った夫婦みたいなやり取りをしてしまった。いやー嬉しいねぇ、まさかアレで通じるとは…。いや、まてよ…よく考えたらクロッゾ気絶してるの見てるし直ぐ連想出来るか。そう考えるとなんか残念な気持ちになるな…
「あ、念のため私がかけるから。セラちゃんは艦隊に信号送っておいて」
クロッゾにその辺の石を落として見て腐蝕はないって確かめたけど一応ね。セラちゃんに危険な事させられないし。
「あ、はい。分かりました!!」
セラちゃんが電伝虫で信号を送るのを尻目に私は不用意に触らないようにしつつクロッゾの両手に錠をかけた。
「捕縛かんりょーー、これでひと段落ついたかな。」
まだ懸賞金クラスの部下もいるっぽいけどクロッゾ程手間はかからないだろう。
「あ、あの!!シルヴィア少将!質問よろしいですか!?」
「ん?なぁに?」
「い、今私と話しているシルヴィア少将は…本物なんですか!?」
セラちゃんは恐る恐るそう言った。先ほどの戦闘を見ていればそうなるのは仕方ないけど、何この子超可愛い。小動物か何か?
「…ぷっ、あははは。そうだね、本物だよ。まぁセラちゃんが不安に思うのも分かるけど。」
「そ、そうですか…」
「軽く説明するとね、普通の幻覚を見せて攻略法を掴ませる事で先入観持たせたところで実体を持つ有幻覚を織り交ぜるんだ。クロッゾは見事に嵌ってくれたなー」
「有幻覚…ですか」
「そう、クロッゾは思いの外頭が切れたから余計に引っかかったよ」
一回有幻覚見せただけで勘付いたし、対応も早かった。故にこの戦法の餌食となる。
幻覚は見聞色で見抜ける、そもそもこの前提が間違っている。
「幻覚の中に潜む
今回は物理的な接触時のみに限定して有幻覚化し、それ以外は幻覚で通した事で幻覚と有幻覚の区別をつけ辛くした。それ故にクロッゾは最後油断しきっていたところを私に刺される事になった。
「む、難しいです」
「分かる方が異常だから安心して。さて、そろそろ部隊も到着する頃だ。残党狩りだよセラちゃん。」
「はい!」
パパッと終わらせて帰って寝よう。久しぶりに神経すり減らしたわ。眠気がすごい。
この後、シルヴィアは眠気と戦いつつ、危なげなく任務を遂行し終え、本部に帰投した。
▽
「ーー見とったか!!シルヴィがやったぞ!!流石わしの孫娘じゃ!!」
軍艦から望遠鏡にてシルヴィアの戦いを見ていたガープは大きく拳を掲げて高々に笑ってシルヴィアを賞賛した。
「…な、何が起こっていたのかさっぱりなのですが…」
「馬鹿め、わしの孫娘の凄さが分からんようじゃ鍛錬が足りとらんぞ!」
あの戦いは分かるものにしか分からん。そのレベルに至っているとすれば中将以上、もしくは少数だが少将クラスでないと分からんじゃろう。流石わしの孫娘じゃ!!
「す、すみません…」
「まぁよい、帰ったら特訓……いや、シルヴィの祝賀会の準備をしなくてはならんな!!よし!本部に帰るぞ!!」
特訓なぞしてる場合じゃない!まずはケーキじゃろ?あとはシルヴィの好きな食べ物を作らせて、他にもーーー
帰還途中ずっと祝賀会の構想を練り続けたガープだが、“シルヴィアはそういうのが嫌いだからやると嫌われる”というクザンの助言により開催を断念する。
クザンの助言は正しく、もし開催して無理矢理参加させていればシルヴィアは二、三週間は口をきかなくなるという結末が待っていた事をガープは知らない。
クロッゾの見聞色の覇気は半径10m程です。かなり狭いですが感知能力は異常に高いです。H×Hの円みたいな感じ。
シルヴィアは幻覚が直撃する時に限定して有幻覚化させ、即解除というチートくさい事やってます。(ガチート)
そして本体は安全圏で観戦。
シルヴィア「いつから私が戦っていると錯覚していた?」