ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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しゃくねつのやいば のおはなし
しゃくねつのやいば


うっそうと茂る草木に紛れる洞穴は、今日も暖かい光で照らされています。大雨で薄暗くなった森林では特に目立つ場所です。

 

洞窟が明るい?変だと思いませんか?

 

 

 

…この中には“火”を自ら扱うフレンズがいるのです。

 

 

 

「…しばらくは外に出られないな」

 

 

 

朽ちた木や葉をくべてたき火を眺めるこのフレンズは、鐘が鳴るような無機質ながら荘厳な声でひとりごちました。

 

赤い作業着の上に、濃紺のベストとサポーター、それに青いゴーグル。伸ばした青い髪はまるで目の前の炎のように後ろに逆立っています。長い尻尾は先が硬く尖っていて、地面を擦るたびに火花を散らしています。

 

そして目を引くのが、背中に負った背丈ほどある大きな剣。よく磨かれているのか、火の光を青く反射させています。

 

 

 

「…誰もここに雨宿りに来なければいいが…」

 

 

 

本来野生の生き物は火には近寄りませんから、他に雨宿りしたいものがいても断念するしかありません。この子を力ずくで追い出して火を消すことも考えられますが。

 

そんなことはなるべく避けたいこのフレンズは、誰もこないことを願いつつ雨で濡れた身体を暖めます。

 

 

 

「…止むまで寝ようか」

 

 

 

遠くで雷が鳴って、ため息を付きました。それと同時に火の粉が口から吹き出ます。

 

たき火の隣に身体を倒してまぶたを閉じると、この身体になる前に見た景色が思い出されます。

 

最後に見たのは…“ヒト”のすみか、でした。身体に毒を盛られて身動きが取れない中運ばれて…。

 

そこで見たのは、石と木で作られた風雨をしのぐすみかと、色とりどりの食べ物が並ぶ塚と、火で“何か”を作る場所。

 

今考えてもその意味はわかりませんが、わかったのはそこにすむヒトは、とても幸せそうだったということです。

 

 

 

 

 

 

__________

 

 

 

 

 

 

「おい、起きろ!セルリアンがそこまで来てるぞ!」

 

「……?」

 

 

 

身体を揺すられて目が覚めました。火はまだ消えておらず、あまり時間は経っていないようです。

 

そしてゴーグルのフレンズを起こしたのは…。

 

 

 

「…あなたは?」

 

「セルリアンハンターのヒグマだ。…お前、見かけない顔だな」

 

「ああ、この姿になったのもつい最近だ。…というか、虫以外の生き物と出くわすのは初めてだ」

 

 

 

黒い髪のフレンズ、ヒグマは少し怪しむ顔をしましたが、ゴーグルが割と落ち着いた性格だとわかると警戒を解きます。

 

一方ゴーグルのフレンズは、同じ種類の生き物以外で意志疎通が取れることに少し驚きましたが、ヒトの姿になったのなら当然かと納得もしました。なにしろ、自分を狩った“ヒト”なのだから。

 

 

 

「そうだったのか。こんなしんりんちほーの奥地にいたら、誰にも会わないだろうしな」

 

「…その方が好都合だ。武器を研いでいる間は誰にも会いたくない」

 

「へー、なかなかすごい武器を持ってるじゃないか。お前、戦えるのか?」

 

「外敵がいるなら」

 

 

 

ヒグマの視線は背中の剣に注がれます。元の動物はどんなものか。こんな立派な武器を持っているならどれだけ強いのか。

 

 

 

「ああ、外敵ならもう来てるぞ。セルリアンがな」

 

「…なんだそれは」

 

「フレンズを襲う謎のやつらさ」

 

「フレンズ?…ああ、ヒトの形になったやつのことか」

 

「そう。そいつらからフレンズを守って退治するのがハンターってわけ」

 

「………………」

 

 

 

ゴーグルのフレンズはいぶかしげな顔をしましたが、同時に納得もしました。ヒトの姿になったのなら、“ヒト”と同じ行動をとるのも当然かと。

 

仲間のために外敵を狩る者。それは皮肉にもこのフレンズを終わらせた者と同じ名前を持つのでした。

 

 

 

「…おしゃべりはここまでだ。もうそこにやつらがいる」

 

「退路はすでにないな。なら斬り倒すまで」

 

 

 

ゴーグルのフレンズは腰を上げて背中の剣を引き抜きました。刃を地面に置いて走り出します。火花と金属音を上げて地面を刻むと、刃は熱を取り込んで赤熱していきました。

 

その異質な音にヒグマはびっくりしましたが、ただのフレンズを一人で戦わせるのは筋が通らないのであとを追います。

 

 

 

「本当に戦う気なんだな」

 

「あの森で私の縄張りにのさばるやつなんて、腹ペコのあいつと金色の猿くらいだ。それ以外は全部倒してきた」

 

「…暴れ者なのか、お前」

 

「昔は。今は山火事を起こさないように気を遣う小心者だ」

 

 

 

刃全体に熱が回ったところで剣を肩に担いで、外敵の気配を探ります。雨粒が剣をうつとジュウジュウと音を鳴らして湯気を立てました。これだけでも威嚇に見えてしまうものです。

 

ヒグマも手にもった熊手のような武器を構えて視線を辺りに配ります。雨のせいで匂いや音で察知するのは難しいので、ひたすら目を凝らしてセルリアンの姿を探します。

 

 

 

「…そのセルリアンとかいうのはどんな見た目だ?」

 

「種類はたくさんあるが…自然にはほとんど見られない極彩色の丸いやつだ。移動速度からしてもうこの辺りに来てると思うが」

 

「少し準備をしよう。下がれ」

 

「えっ?」

 

 

 

ゴーグルのフレンズは剣を担いだまま高く飛び上がって、前方の大木にけさ斬りをしました。まるで竹を割るように簡単に両断したかと思うと、さらに隣の木に飛びかかって胴抜き。これも一撃で両断します。

 

とんでもない切れ味の剣と、それを扱うゴーグルの技と身体能力。あっという間に前方は切り株だらけになって、視界が開けました。

 

 

 

「…あそこの石はいいな。熱の蓄積と堅さがいいバランスだ。もう少し刷り込んでおこうか」

 

「な、何したんだお前…」

 

「戦いやすいように木を切って広くした。ここで迎え撃ったほうが探すより楽だろう」

 

「…なるほどそうか。でも、この奥地以外ではやるなよ?他のやつらのすみかも壊してしまうからな」

 

「…心得た」

 

 

 

ゴーグルの戦術の斬新さに感心しつつも、パークの環境を破壊する危険性があるとヒグマは諭しました。それでも彼女が十分に戦えるフレンズであると知って、少し嬉しくなります。

 

 

 

「ところでお前、なんて言うんだ?」

 

「…知らないな。ヒトのことは知ってても、自分がヒトになんて呼ばれてたかなんて知らない」

 

「…ヘビ、でもないし…羽はないし…。…元はどんな動物だったんだ?お前の仲間はどんなやつに似てた?」

 

「…二つの足で走り回って、手はこんなに立派なものじゃなくて…この剣みたいな尻尾があって、…火を身体の中で燃やしてたな。…わかりそうか?」

 

 

 

武器を構えて警戒しながらも、リラックスしながら話しています。お互いに何か通じるものがあったのでしょうか。

 

ゴーグルの正体を考えているヒグマでしたが、途中で結論を出すのをあきらめたようで首を振りました。

 

 

 

「ダメだわからん。その“火”なんてものは今日初めて見たしな」

 

「…あなたは火を怖れないのか?」

 

「別に。洞穴に寄ったのだって、もしかしたら誰か逃げ遅れたやつがいるかもと思っただけだし。そしたら案の定お前がいた」

 

「逃げていたところだったか。…なんだか付き合わせてすまないな」

 

「いいや、仲間と合流して倒す手はずだったんだ。…まあ、頼りになりそうなやつが一緒にいるなら問題ないさ」

 

「あまり頼りにするなよ。加減がわからないからあなたまで巻き込んでしまうかもしれない」

 

「わかってるよ。…さあ、やつらのお出ましだ」

 

 

 

ヒグマの視線の先には、暗い森に溶け込まないどぎつい緑の動体が複数。彼女たちより少し小さいくらいの大きさです。正面には目玉のような板状のものがあり、一つ目の化け物を連想させます。

 

異形の相手に少し嫌悪感を感じながらも、ゴーグルはジリジリと歩いて距離を詰めて出方を伺いました。同時に身体の中の燃えるすすを喉元にためて吐き出す準備をします。

 

 

 

「…6、か。群れで戦う生き物なのだな」

 

 

 

最後尾の個体がゴーグルの跳躍力で届く範囲に来ると、彼女は軽やかに飛び上がりました。落下の勢いを殺さず剣を振り降ろすと、最後尾のセルリアンは真っ二つになります。

 

 

 

「…手応えがないな。骨を断った感覚がない」

 

「セルリアンの弱点は“いし”だ!そこを狙わないと倒せない!」

 

 

 

ヒグマは正面から突っ込んで、最前列のセルリアンのいしを熊手でヒットしました。そこから亀裂が走ってセルリアンはキューブ状に砕けます。

 

一方のゴーグルは反転してきた他のセルリアンを剣で薙ぎ払います。浅い一撃でしたが、セルリアンの目玉に横一文字の傷を入れました。

 

 

 

「いし…これか?」

 

 

 

真っ二つになったセルリアンの片割れに、こぶになった部分を見つけました。先ほどヒグマが叩いたものと同じです。

 

ゴーグルは剣を持っていない方の手でそのこぶを握りつぶしました。まるで牙のように尖った硬いグリップがついたグローブで握られれば、鉄の鉱石だって粉々です。セルリアンも身体ごと分解しました。

 

 

 

「そうだ、それだ!その調子だ!」

 

「…性にあわないな。剣で斬ってこその戦いだ」

 

 

 

ヒグマは迫るセルリアンをものともせずその場で押し止めます。数の差があるので隙を出さないようにして、いしをチャンスをうかがっているようです。

 

握りつぶしたものの質感をパラパラとほろって確かめるゴーグル。しかし、そこに目玉を潰したセルリアンが襲いかかります。

 

 

 

「!!危ない!!」

 

「!!」

 

 

 

頭上に迫るセルリアン。青いゴーグルに緑の影が映り込みます。

 

剣は間に合わない。拳も追い付かない。ヒグマの援護も届かない。絶体絶命です。

 

ですが、ゴーグルは不敵に笑います。そして、口角からは火の粉が舞い上がります。

 

 

 

「すぅーっ、ばぁっ!」

 

 

 

大きく息を吹き出すと、身体に溜まったマグマのように燃えるすすが口から飛び出します。剣と同じく赤熱したそれは弾丸のように飛翔して、セルリアンに向かって光の直線を描きました。

 

 

 

ばかーん!

 

 

 

傷のついたセルリアンは爆炎に包まれ、跡形も無く消え去りました。その爆発がいしごとセルリアンを砕いたようです。

 

 

 

「…あまりこれは使いたくないんだがな。雨が降ってなければ火事になってしまう」

 

「大丈夫!?…ほんと、お前は得体がしれないな」

 

 

 

目の前の現実離れした光景に驚いてばかりのヒグマですが、彼女が無事なのを知って安堵しました。言葉は荒いですが、不器用なりにも心配しているのです。

 

ゴーグルは一歩後退して剣を脇に構えてます。牙のついたグローブで強く刃を握って引き抜くと、また熱を帯びて鋭くなりました。

 

 

 

「ヒグマ、三歩下がってくれ。巻き込んでしまう」

 

「あ、ああ」

 

 

 

ゴーグルの彼女が自分より強い生き物だったと何となくわかったヒグマは、大人しく彼女の指示に従います。強さとは他者を傷つけるレベルの高さでもあるのだから。

 

切っ先まできっちり研いで手から刃が離れると、剣はゴーグルのフレンズを軸にして一回転します。ヒグマには、その熱っぽく光る刃の軌道が空に円を描くように見えました。それを、なぜかきれいだと思いました。

 

刃に捉えられたセルリアンは一匹残らず真っ二つになります。

 

 

 

「…さて、後始末だ」

 

「…お前、さいきょーだな。敵を挟み撃ちにする手際も見事だったし、単純な強さも十分。おまけに火も吹けるって…」

 

「でも、負けたんだ。…力を合わせたヒト、に」

 

 

 

あとはいしをチマチマと潰す作業なので、肩の力を抜いて言葉を交わします。

 

最後の一つをヒグマが砕くと、ゴーグルのフレンズは彼女とすれ違って背中を向けます。

 

 

 

「…じゃあ、これで。しばらくはここで剣を研いでるけど、本当は雨の降らない場所がいい。近々移動するから、それまでここには誰にもいなかったことにしてくれるか」

 

「待てよ。お前、自分の正体が気にならないのかよ」

 

「知る由もないだろう」

 

「いいや、ヒトが残したものならある。としょかんにはフレンズのことが記されたものがあるんだ」

 

 

 

ゴーグルのフレンズは足を止めました。振り向かずそのまま言葉を続けます。

 

 

 

「記す…?…ヒトが残したものを、私たちが読み解けるのか?」

 

「それくらい頭のいいフレンズもいるってことさ。…それに、お前もなんだか頭が良さそうだ」

 

「褒めても出るのは火くらいだぞ?」

 

「ああそれが欲しいね。お前、一緒にハンターやらないか?他の仲間と一緒にこのジャパリパークでの生き方を教えてやるよ」

 

 

 

少し考え込んだ様子でしたが、背中の剣から熱が引いた所で返事をしました。

 

 

 

「考えておく」

 

「そうか。いい返事を待ってるよ」

 

 

 

背中を向けたまま手を振って来た道を戻ります。身体が雨でまた冷えてしまったので、早く暖め直したいところですし自然と歩みが早まります。

 

 

 

「としょかんはこのしんりんちほーの真ん中だ。そこで博士に教えてもらうといい」

 

「ありがとうヒグマ。また会おう」

 

 

 

ゴーグルのフレンズはそう言って、走って洞窟へ戻っていきました。

 











[竜盤目ディノバルド科]

ディノバルド

Glavenus


砂漠や火山、深層林に棲む獣竜種の一つで、まるで剣のように研ぎ澄まされた尻尾と、それを身体の中で生成した炎で熱して殺傷力を高めることから〈灼熱の刃〉だとか〈斬竜〉だとか呼ばれてますね。尻尾の手入れもぬかりなくて、なんと自分の牙で研いじゃうんですよ。そして一番のチャームポイントは、尻尾と研ぐ時に火の粉が目に入らないようにとせり出した顔の甲殻ですね!あんないかつい顔して目にごみが入るのが怖いお茶目さんなんですよー!

われらのだん そふぃあおねえさん
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