ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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ぬくもり

 

「何度来てもここは暑いのだ…」

 

「………………ああ。……頭が…沸騰しそうだ…」

 

 

 

真上から容赦なく照り付ける日光。焼かれた砂は熱を跳ね返して上にあるものに浴びせます。

 

フェネックやノヴァはいつもと表情を変えませんが、熱砂に慣れていないアライさんとキングコブラは非常につらい顔をしています。

 

 

 

「二人ともがんばってー。どうやら泡のフレンズの行き先は岩地みたいだからさー」

 

「そこまでいけば日陰も多くなる。多少はマシになるだろう」

 

 

 

さばくちほーと言っても、全てが砂砂漠というわけではありません。周りの風化についてこられなかった硬い岩石が谷を形成している場所もあるのです。そこなら多少は気温も下がるでしょう。

 

 

 

「ノヴァ…何でお前は平気なんだ…?」

 

「後ろの炎状殻はただの飾りではないんだ。不要な熱を放出する放熱板の役割を持っている」

 

「フェネックの耳みたいなのだ…」

 

 

 

さばくに入ってから、ノヴァの後ろ髪の端は自然と赤熱して陽炎を作っています。うねって逆立つそれは、さながら炎にも見えます。放熱板というには少し暑苦しい見た目ですが。

 

ノヴァが暑い場所を得意とするのは単に身体の耐熱性が高いだけではなくて、高熱をコントロールできる器官があるからです。逆に低温状態では生命を維持できなくなってしまいますが、彼女の灯火を消すことは容易ではありません。

 

 

 

「…うーん。今日は一段と暑いねー。泡が蒸発しちゃってるし、流砂でセルリアンが通った跡も消えかかってるし。…急いだ方がいいかもねー」

 

「そうしたいのはやまやまなんだが…私たちが急いでは二人がついてこられないだろう」

 

「……すまないな…。…なんだか…ぼーっとして…」

 

「いつもより全然暑いのだ…」

 

 

 

湿潤な緑地に生息するアライさんとキングコブラにとっては想像を絶する過酷な環境です。熱だけではなく渇きも猛烈に体力を奪います。

 

あらゆるちほーを渡り歩いたと自慢していたアライさんは口だけ泣き言を言っていますが、キングコブラは口だけではないようです。息が浅くまぶたも力なく半開きでまっすぐ歩くのもつらそうでした。

 

 

 

「……大丈夫ではなさそうだな」

 

「キングコブラちゃんは体温調整が苦手そうだねー。元々変温動物だったからかなー」

 

「言ってる場合ではない。日陰のある岩地へ急がなければ」

 

「へ…?…お、おい…ちょっと……」

 

「あなたに倒れられたら困るんだ。少し振動するかもしれないが我慢してくれ」

 

 

 

今にも倒れそうなキングコブラを、ノヴァは突然肩に担ぎました。意識レベルも低くなっている彼女は、何がどうなったか把握できずにノヴァの成すがままでした。

 

 

 

「ノヴァさん、担いでいくのー?」

 

「ああ、とりあえず涼しい場所まで走ってく。奴らの行き先もそこなんだろう?」

 

「そーだねー。地底湖につながる洞窟の入り口も近くにあるみたいだから、そこで待っててほしいなー」

 

「うらやましいのだ…。ノヴァさんが運んでくれるなんて…」

 

「アライさーん、へばってないでがんばろーよー」

 

 

 

ノヴァの歩く振動がなぜだか心地よくて、抵抗を感じてこわばっていたのも解けていきました。ぐったりと彼女の肩に身体を預けます。いつも毅然としていたキングコブラの表情も、休息をとる時の安らかなものになりました。

 

 

 

「……すまないな……ノヴァ……」

 

「あなたもあなただ。苦手なら前もって言ってくれ。…何かあったらと、心配してしまうんだ」

 

「……ああ、…すまない…」

 

 

 

背中で語るノヴァの顔は見えませんが、声色はいつもどおりの真摯なものです。優しいヒトの心を何よりも大切に思う、真面目な努力家の声です。

 

仕えるべきものを探していたキングコブラには、その理想の姿として映りました。自分が付き従うべきはやはり彼女なのだと。

 

 

 

「悪いなフェネック、先に行かせてもらう。地底湖の洞窟というなら水もあるし十分涼しいだろう。キングコブラを休ませるのに最適だ」

 

「あいよー。私はアライさんの面倒みてるねー」

 

「ああ、待っているからな」

 

 

 

フェネックに軽く謝ってから、ノヴァは砂丘を駆け出しました。大きめの安全靴は砂に足をとられることもなく、砂ぼこりを巻き上げて泡の跡を追いかけます。

 

 

 

「すごいねー。あの重さで砂の上を足だけで爆走するなんてねー」

 

「…ノヴァさんはただ者じゃないのだ…」

 

「アライさんもただ者じゃないよー。全然まだまだ余裕そうじゃないかー」

 

「この程度で止まるアライさんじゃないのだー!…と、ホントは言いたいのだ…」

 

「アライさんは底力しかないからねー」

 

 

 

アライさんを奮い起てつつも、ノヴァに奇妙なフレンドシップを感じるフェネックでした。どことなく似た部分があるのかなぁ、と理由を探しますが結論には至りません。

 

腰を落として息を整えるアライさんに手を差しのべて、二人を追いかける準備をしました。

 

 

 

「アライさーん、急ぐよー」

 

「えっ、フェネック!?」

 

「れっつごー」

 

 

 

アライさんの手を引いてフェネックも走り始めました。強引…というわけではなく、アライさんの足がついてこられるペースでノヴァの足跡を追いかけます。

 

長い一日になりそうだなー、と思うフェネックでした。

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

そびえたつ岩が遠景に見えてくると、足元の砂の量はどんどん減っていきました。この先は硬い岩場の峡谷のようです。

 

 

 

「ここだな…」

 

 

 

キングコブラを担いだノヴァは、見上げるほど大きな岩石の間を歩いて周囲を見渡します。回廊に吹く風は幾分か涼しく、舞い上がる砂も少ないです。追ってきた泡もそこでなら形を保っています。休むにはもってこいの場所でしょう。

 

 

 

「洞窟……どこだろうか」

 

 

 

今でも顔を赤くしてつらそうにしている相棒のために、水を用意しなければなりません。フェネックの話では岩地のすぐ入り口に洞窟があると聞いたのですが…。

 

 

 

「……うぅ…」

 

「…大丈夫だキングコブラ。すぐに休める場所を見つけるさ」

 

 

 

相棒のうめき声にらしくもなく不安になるノヴァ。周囲を警戒していますが、やはり焼けた岩しか見当たりません。

 

しかし、赤茶けた岩に溶け込む色のフレンズを見逃しはしませんでした。

 

 

 

「ん、誰かいるのか。避難させたんじゃなかったのか。…まあ、好都合だ」

 

 

 

ノヴァは大きく響く声で茶色のフレンズを呼び掛けました。

 

 

 

「おーい、そこのフレンズー!洞窟ってどこにあるー!?」

 

「ぎぃゃゃやあああああ」

 

 

 

返ってきたのは文字に再び書き起こせない、奇妙な絶叫でした。間近で聞けばそれだけでビックリしてしまうでしょう。

 

唖然としながらも、ノヴァはゆっくりとそのフレンズに近付きました。

 

 

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

「な、なんだお前ー!」

 

「…驚かせてしまったか。悪いことをした」

 

 

 

フードを被った緑の髪のフレンズ。珍しい木でできた履き物をしていて他のフレンズとは何か違う印象がありますが、どことなくキングコブラと似ています。

 

どうやら彼女の方がノヴァの声に驚いたらしく、少し怒り気味にまくし立ててきました。素直に頭を下げて謝ります。

 

 

 

「私はノヴァ。この近辺にある洞窟の入り口を探してるんだ」

 

「なんだよ、そんなことか。遠くから大声で話しかけるなよ」

 

「すまないな。あなたが岩に擬態しているように見えてな。見失わないようにと」

 

「そうかよ」

 

 

 

不服そうにノヴァと視線を合わせませんが、真面目に謝る気持ちは伝わっているようです。威嚇するように持ち上げていた尻尾も下に垂れ下がりました。

 

 

 

「入り口ならあの柱の陰だが…何でわざわざそんな危ないところに行くんだ?」

 

「…私の相棒が熱にやられてな。涼める場所を探していたんだ」

 

「キングコブラか…。…てか、お前は何なんだ?」

 

「種族不明、らしい。としょかんの博士に聞いたがわからないと」

 

「またかよ。これで三人目だぞ」

 

「……?三人目…?」

 

 

 

フードのフレンズの言葉に少し違和感を覚えました。泡のフレンズがここを通ったのは確定として、ノヴァがその後を追っていて二人目。では、三人目は誰なのでしょう。まったく知らない誰かなのでしょうか。

 

 

 

「ああ、今も残ってる泡で洞窟に滑っていったやつと、しゃれこうべで顔を隠していたやつ、それでお前だ」

 

「しゃれこうべ…?」

 

 

 

その言葉の意味をノヴァは理解していませんでした。ですが、仮面を着けたフレンズだということがわかればそれだけで十分です。

 

 

 

「…まあいいさ。とにかくキングコブラが休める場所に行きたいんだ」

 

「なら、洞窟の入り口付近がいい。奥へ行きすぎると気温が大きく下がるからな。俺もそのせいでなかなか先に進めないんだよ」

 

「あなたも変温動物なのか?」

 

「そうだよ。ツチノコだからな」

 

 

 

ツチノコと名乗ったフレンズは踵を返してそびえたつ岩に向かって歩を進めます。ノヴァもその後を追うように歩きはじめました。

 

 

 

「洞窟に超大型のセルリアンは入っていかなかったか?」

 

「はぁ?入るわけないだろう」

 

「その泡のフレンズをそいつが追い回してると聞いたのだが」

 

「泡のやつを見たのも一瞬だよ。坂でもないのにものすごいスピードで滑ってそのまま洞窟に入っていったんだ」

 

「…それが彼女の移動方法か」

 

 

 

泡のフレンズはセルリアンを振り切ったようです。それには安心しましたが、そうなるとセルリアンの行方がわからなくなります。

 

嬉しい半面、また広い砂漠に奴を探しにいかなければならないのかとノヴァはうんざりしました。

 

 

 

「…顔を隠したフレンズはどんな奴だった?」

 

「青いドレスのなまった言葉をしゃべる変な奴だった。…まあ、知識が豊富そうで面白い奴だけどな」

 

「どこへ向かったのかわかるか?」

 

「あいつも洞窟の奥に行った。セルリアンがいっぱいいるからやめとけって言ったんだが聞かなくてな。なんでも、 あのフレンズを保護しなきゃとかなんとか言ってた」

 

 

 

どうやら気にする必要もないことのようです。お節介なお姉さんが迷子を迎えに行ったようですから。

 

ならばセルリアンを探してじゃんぐるまで誘導するのが仕事か、とノヴァは目的を切り替えます。

 

 

 

「……というか、ハンターたちから避難勧告が出てたんじゃないのか?」

 

「輝きを奪うセルリアンの出現と聞いて黙っていられるか!かつてヒトが撃滅したはずの存在がまた現れたんだ、何か天変地異が起きてるに決まってんだろ!」

 

「…嬉しいそうだな、ツチノコ」

 

 

 

嬉々として熱弁するツチノコに、ノヴァは片手の平を天に向けて肩を上げます。どうやらこのフレンズは自分と似た好奇心を持っているようです。ため息と共に半笑いになります。

 

そしてまもなく洞窟の入り口に差し掛かりました。光が遮られて、中から冷気が吹き込んできます。

 

 

 

「この辺でいいか」

 

「水を飲ませないといけないが、水源がある奥はすごく寒くてな…」

 

「私が汲んでこよう。ついでに進入したフレンズの様子も見てくる」

 

 

 

大きな岩石の上にキングコブラを寝かせました。ひんやりとしていて身体を冷ますのには丁度いいでしょう。

 

 

 

「確かに冷えているな。私の熱も引いてしまっている」

 

「…お前、そんなに身体に熱を溜め込んで大丈夫なのか?全身真っ赤だぞ?」

 

「火で自らを鍛える生き物なんだ。溶岩風呂に一日中浸からない限り大丈夫さ」

 

「そんな生き物いるわけ……」

 

 

 

少し止まっただけで尻尾の熱が少し逃げたのが気になって、壁面に尻尾を擦り付けます。バツの字を刻むように二回尻尾を振るうと、それだけで真っ赤な熱を取り戻しました。予想外の早さに驚いています。

 

 

 

「…なんだこの岩…?一瞬で熱が回ったぞ」

 

「お前の尻尾は鉄なのか?」

 

「鉄鉱石を焼いて付けてある。それ以外の鉱物も含んでいるかもしれないが」

 

「…それなら納得だ」

 

 

 

ツチノコは理屈がわかったように首を縦に振っています。刻まれた赤熱のバツを眺めてさらに納得している様子です。

 

ノヴァは首を傾げて何に納得したのかを問いました。

 

 

 

「どういうことなんだ?」

 

「硝石さ。天然の硝石がこの洞窟にはあるんだよ」

 

「硝石…」

 

「お前の尻尾の鉄、壁面の湿気、そして洞窟の硝石。これが化学反応して熱を発したんだよ」

 

「…かがくはんのう?」

 

 

 

聞き慣れない言葉に更に首を曲げるノヴァ。助手や博士のように半円を描いてしまうかもしれません。

 

ノヴァの反応を見ているのか見ていないのか、ツチノコは更に早口で解説します。

 

 

 

「正確には酸化熱だな。鉄が硝酸と引っ付いて、余った酸素が酸の水素と引っ付いて水になる…その時に強烈な熱反応が起きるのさ」

 

「……すまない、理解できない」

 

「要するにお前の尻尾の錆を、この壁が取ってくれる」

 

「私の尻尾の錆はいつも丁寧に取っているのだが」

 

「目には見えないんだよ。例えば、表面についた鉄粉は」

 

「…で、なぜ熱が出るんだ」

 

「世界の摂理だ!それがヒトが挑んだ科学の世界なんだよ!」

 

 

 

理屈は全然理解できませんが、ヒトが自らの知恵で挑んだ事象というのならそれだけで納得です。ノヴァもそれが摂理なのだと結論を下します。

 

と同時に、一つのアイディアが頭を走ります。ライに電撃を放たれた時のように全身に衝撃が走りました。

 

 

 

「ならばそれを活かさなければならないな」

 

「ん?どうしたんだよ」

 

 

 

おもむろに自分のグローブを外すノヴァ。指の長い手が露になります。その長さは指の先の牙のおかげなのですが。

 

そしてその牙でバツの字を刻んだ壁をガリガリ削って、粉をグローブの中に入れました。

 

 

 

「おい、お前…何をしてるんだ?」

 

「寒くて中を調べられないのだろう?暖をとれるものを作ろうと思ってな」

 

「…はぁ?」

 

「大丈夫だ。私のグローブは燃えない。どんなにこれが熱を発してもあなたを燃やすことはないさ」

 

 

 

壁の粉をたくさん詰め込んだら、今度は自分の尻尾の峰を牙で削っていきます。激しく火花が散って金属音も洞窟に反響しますが、ツチノコはあまり驚きませんでした。

 

 

 

「…お前、鍛冶屋みたいだな」

 

「かじや…金属で物を作ることを職とするヒト、か」

 

「…今からお前が何を作るかは知らんが」

 

 

 

飛び散った鉄の粉もグローブに詰めて口に封をします。その後、中身の詰まったグローブをシャカシャカ振り始めました。

 

 

 

「……ああ。予想通りだ。熱を持ってきたぞ」

 

「…え?」

 

「あなたのおかげだよ、ツチノコ。あなたの知識のおかげで、あなたを助ける道具を作り出せた」

 

 

 

今度はツチノコが疑問符をたくさん並べています。このフレンズの作ったものといい、自分のおかげだと言い張るのといい、自分を助けるものだというのといい、わからないことだらけです。

 

砂で少し汚れたゴーグルの奥には、暖かい炎が優しい瞳に映っていました。同時に嬉しそうな顔もしています。

 

 

 

「これなら、寒い場所でも熱を発し続けられるだろう。血の良く巡る場所に当てて暖をとってくれ」

 

「……お、暖かい…」

 

 

 

ノヴァから手渡されたグローブは、ほのかに熱を帯びていました。本来の反応熱は動物を火傷させるくらいに高いはずですが、ノヴァのグローブが断熱材となって丁度いい塩梅になっているようです。

 

 

 

「……そうか!これがかいろか!」

 

「…かいろ、というのだな?」

 

「そうだよ!反応熱を暖房として使う…まさしくヒトの叡知じゃないか!」

 

「やはり先を越されていたか。ヒトには敵わんな」

 

「いいや、お前すごいよ!頭のいいフレンズはいるかもしれないが、頭を使えるフレンズはそうそういないからな!」

 

 

 

我を忘れてツチノコはノヴァの手を握ってよろこびを露にします。寒い場所の探索ができるようになったのもそうですが、ヒトの叡知への挑戦をしている仲間に出会えたことに感謝しているのです。

 

ノヴァがそれを知る由もないのですが、自分の作ったものでこんなに喜んでもらえてうれしくなります。

 

 

 

「よーし、ノヴァはここでキングコブラを看てろよ!俺がこのかいろの性能を確かめてくるからな!」

 

「そうか、すまないな。水をこれに汲んできてくれ」

 

 

 

ツチノコの好意に甘えて、水を汲んできてもらうことにしました。あまりキングコブラから離れたくなかったのも事実ですし。

 

何か見つけた時に保存しておこうと持ってきた空きビンを複数個ツチノコに手渡しました。違う場面で役に立つようです。

 

 

 

「おうよ!ちゃんと待ってろよー!」

 

「ああ、待ち人もいることだしな」

 

 

 

からんころんと独特の足音を立ててツチノコは洞窟の奥の方へ走っていきました。

 

何かをやり遂げた思いになったノヴァ。黙っていられないほど浮いた気持ちになって、横になるキングコブラの隣に座って話しかけました。

 

 

 

「誰かの役に立つのは、嬉しいことだな。あなたの気持ちもわかった気がするよ」

 

「…うぅん……」

 

「…まだつらそうだな。ゆっくり休んでくれ」

 

 

 

頭の位置を高くして血が登らないようにしようと、キングコブラの頭を自分の太ももの上に置きました。熱が籠らないようにフードを下ろして、タイを緩めて襟元も解放します。

 

 

 

「………………」

 

 

 

少しは赤みの引けたキングコブラの寝顔を見て、なぜかきれいだと思ったノヴァでした。それと同時に、これ以上見つめてはいけないとどこからか警鐘がなっている気がしました。

 

鉱山で採掘して見つけた宝石や自分が磨き上げた刃をきれいと思うことはありましたが、生き物を美しいと感じたのは初めてです。

 

自分の顔もなぜだか赤く熱を持っているのに気づいて、違う違う首を振ってとゴーグルを額に上げて熱を逃がしました。

 

 

 

「これもヒトの性なのか…?」

 

 

 

洞窟の冷気で冷えかけた尻尾は、何もせずとも熱を取り戻しました。

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

「…う……」

 

「…お目覚めかな、王女様」

 

「…ノヴァ……?」

 

 

 

赤い斜陽の光は洞窟には届かず、目覚めたキングコブラの視界に入ってきたのはランプの光でした。それに照らされたノヴァの青い瞳を見て意識がつながりました。

 

 

 

「よかったよー。ノヴァさんの看病のおかげだねー」

 

「妙に手際がよかったよな。誰かに教わったのか?」

 

「助手にさ。安静にする方法を教わったんだ」

 

「ノヴァさんは何でも知っているのだ!」

 

「アライサンそれは違う。私は知ってることなんて砂の一粒くらいだ」

 

 

 

フェネックやアライさんが合流してから時間が経っているようで、キングコブラの回復を待っている様子でした。申し訳なく思って上体を起こすと、キングコブラの腹部あたりに濡れたノヴァのグローブが落ちました。

 

 

 

「…なんだこれ」

 

「熱を冷ますのにいい布が無くてな。私のグローブを手拭い替わりにしたんだ」

 

「ああ……手間をかけたな…。…ありがとうノヴァ」

 

「礼には及ばないさ。あなたの役に立てて嬉しいんだ」

 

 

 

濡れたグローブを熱い息で乾かしながらいつもどおりのやる気に満ちた顔を見せました。幾度となく見た頼りになる笑顔は、熱すぎるくらいに光を浴びせてきます。

 

 

 

「動けそうか、キングコブラ」

 

「ああ、問題ない。日が暮れて寒くなるが、…なんとかしのいでやるさ」

 

「なんとかならない。あなたの身体は熱にも冷気にも弱いんだ。…少しは私を頼ってくれ」

 

 

 

ノヴァが少しだけ怒気をはらんだ声で食い気味に言いました。

 

幾度となく仲間に言ったセリフをそっくりそのまま返されるとは思っていませんでした。豆鉄砲を食らった顔をして呆然とします。

 

 

 

「こっちのグローブもかいろにしてしまおう。キングコブラの分も必要だ」

 

「ノヴァさん、アライさんにも手伝わせるのだ!」

 

「そうか、ならそこのバツの字の岩を削って粉にしてくれ。手頃な石が落ちてるからそれを使えば簡単に採掘できるさ」

 

「任せるのだ!」

 

「じゃあその粉をグローブに詰めるねー」

 

「フェネック、頼んだ。配合は後で調整するから適当でいい」

 

「水は大丈夫か?足りないなら汲みにいくぞ?」

 

「いいや、さっき大型セルリアンを目撃したのだろう?…今ある分で間に合わせる」

 

 

 

そこにいた四人は、まるで群れのようなチームワークで仕事に取りかかりました。その上で群れとは何なのかを知らないと言ったノヴァが、立派にリーダーをしています。

 

更に衝撃の事実を突きつけられて呆然とするばかりのキングコブラでした。

 

 

 

「………………」

 

「…あなたの体温を保てるよう、即席のかいろを今作っている。同じ変温動物らしいツチノコが寒さに耐えられると太鼓判をおしてくれたから、たぶんあなたにも効果があるはず」

 

「…私の目に狂いはなかったな。やはりお前は王となる者だ」

 

「私は王ではないさ。皆が力を貸してくれるだけで」

 

「力を貸したくなるのも王の素養だ」

 

 

 

ノヴァの言葉で、推測は確信となりました。今自分が見たものが、自身が探し求めてきたものであることを。もう見極める必要もなさそうです。

 

キングコブラは立ち上がって、座ったままのノヴァに視線を向けます。ゴーグルの向こうの青い瞳はじっとこちらに眼力を返してきました。

 

 

 

「ノヴァさん、できたよー」

 

「ほっかほかなのだ!」

 

「よし、これで地底湖に行けるな!」

 

「ああ、ありがとう。フェネック、アライサン、ツチノコ。…さあ、奴とご対面といこうか、キングコブラ」

 

「ふっ、…御心のままに」

 

 

 

ノヴァの後ろにぞろぞろと集まった仲間たち。フェネックから中身の詰まったグローブを受け取り、キングコブラに手渡しました。

 

熱すぎず身体を暖めるのに適した温度は、彼女が群れに適応したことに他ならないでしょう。

 

しっかりと青いグローブを握りしめて、歩き出したノヴァの後ろにつきます。彼女に付き従うものは増えていくことでしょうが、キングコブラこそその筆頭であるということは譲れないのです。

 

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