「すごいねー。あんな大きな木をなぎ倒して進んでるよー」
「コブラさんったら、あんなのと戦ったっていうのですか」
じゃんぐるに響き渡るのは動物や虫たちの鳴き声ではなく、ごうごうと降り注ぐスコールや狂ったかのように川を流れる濁流の轟音。そして、破壊の限りを尽くす骨を纏ったセルリアンが大木を伐採する音。ここのフレンズたちはハンターたちの指示に従い別のちほーへ避難しました。
ですが、自分のすみかを守るために、ひいてはパークのために力を振るうことを決めたフレンズもいます。
今、木の陰からセルリアンの様子を見張るフェネックともう一人のフレンズもそのメンバーです。特徴を良く知るフェネックが彼女を案内してセルリアンを追跡しているのです。
「クジャクちゃんはどうなのー?戦えそう?」
「ええ、覚悟はできてますよ。コブラさんがあんな必死になって呼び掛けてきたのも初めてですから」
「ふーん、キングコブラちゃんとは長い付き合いなんだー」
「そうなんですよ。ああ見えて無鉄砲なところもありますからね、放っておけないんです」
クジャクと呼ばれたフレンズはため息を付きながらも、嬉しそうな顔をしました。
クジャクの羽毛のような髪や服の青はノヴァのものよりも鮮やかで見映えがよく、かどの取れた顔立ちが清楚な優しさをかもし出しています。放射状に広がった尾羽には極彩色が散らばって、あたかも格式高い芸術品のような美しさ。
その華麗な見た目に恥じない、美しい心を体現しようと清廉な振舞いを心掛ける姿勢は、誰の目にも美というものを脳裏に焼き付けます。
「…ふふ、似てるかもねー、私たち」
「アライグマさんもやんちゃなフレンズなんですか?」
「そーだよー。細かいことはなーんにも考えてなくて、何か見つけてもなぜかあさっての方向に走って行っちゃうんだー」
「それって相当おバカなんじゃ…」
「でもねー、どんなに遠回りしても必ずたどり着くんだー。途中にどんな障害があっても乗り越えちゃうアライさんだから、私はついていこうと思うんだー」
「…楽しそう、ですね。途中の景色も、たどり着いた先も」
共感する部分があった二人は自然と微笑み合いました。アライさんとキングコブラの行動理念は違うかもしれませんが、二人の行く末を想うフレンズがいるのは変わらないようです。
「だいたい予想通りの道を進んでいますね、あのセルリアン。川縁の近くでカワウソさんが待機してますので合流しましょう」
「はいよー」
「私はその先で待ってるジャガーさんや、ミミちゃん助手に状況を伝えてきます。それまでカワウソちゃんと一緒にセルリアンの様子の観察をお願いしますね」
「羽をむしられないようにねー。助手は中々不敵なフレンズだよー」
「なんでそんな物騒なこと言うんですか!確かにミミちゃん助手にはやられましたけど!」
フェネックは軽い冗談のつもりでしたが、クジャクは背筋に悪寒が走ったようでビクッとしています。目の前の化け物よりも、丁寧にお手入れした羽を抜かれる方が恐ろしいようです。
大きな声を出してしまいましたが、双頭のセルリアンは見向きもせずひたすら前へ進みます。その替わりに、一人のフレンズがフェネックとクジャクの声に寄せられてきました。
「お?きたきた!おーい!クジャクちゃーん!こっちだよー!」
「カワウソちゃん!持ち場はどうしたんですか!?」
「んー?すごい音がしたからこっちに来たよー」
にはははと笑って手を振る灰色のフレンズ。足の指が見える先のないソックスと、水泳用に作られた水の吸収量の少ない衣装、そして無邪気という言葉をそのまま形にしたようなあどけない笑顔。先の白くなった灰色の尻尾はそれに反して力強い動きをしています。
またも予想外のことが起こって声を荒げるクジャクですが、このフレンズが何を言っても聞かないマイペースの権化だということはわかっています。少し神経質な彼女の条件反射とわかっていますので、灰色のフレンズも気に留めていません。
「…まあ、いいです。フェネックちゃん、カワウソちゃんと一緒にセルリアンの追跡をお願いします。このまま行けば切り株の広場でジャガーちゃんと合流できますので、そこで交代してカワウソちゃんはミミちゃんのところに経過を報告してください」
「任されたよー。よろしくねー」
「よろしくー!わたしコツメカワウソ!あなたはー?」
「フェネックだよー。パークの危機に立ち向かうアライさんとノヴァさんと一緒に戦うことにしたんだー」
お互いに手を振って笑顔を向けました。方向性は違いますが、マイペースな二人は何か通ずるところがあるのかもしれません。
頭の羽を広げて飛び立とうとしたクジャクが、立ち止まってフェネックに質問しました。
「…その、ノヴァちゃんってどんなフレンズですか?コブラさんがそれだけ肩入れするなんて…」
「すごいよー、ノヴァさんは。頭もきれるし身体も大きくて熱いハートがあって、それにものを作るのが好きなフレンズだよー。あの剣はクジャクちゃんの羽にも負けないうつくしさがあると思うねー」
「へぇ~すっごい楽しそうなフレンズだね!戦いが終わったら一緒に遊ぼ!」
「きれいな方なんですか。…会ってみたくなりますね」
「助手のところにいると思うから、多分会えるよー。よろしくねー」
「はい!」
クジャクは枝の合間を縫って、高木の上空へ飛んでいきました。その立ち振舞いすら華麗で、彼女の努力の上にその美しさがあるんだなーとフェネックは感心しています。
「さて、さっそくセルリアンを追うよー。カワウソちゃん、準備はいいかなー?」
「もっちろん!」
「じゃあ、しゅっぱーつ」
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「…つまり、奴を川に落として押し流せばいいということだな?」
「はい。海にまで追いやればセルリアンはその形を保ってはいられなくなるのです」
思った以上にノヴァのケガは重傷らしく、歩き回ることができません。背中に突き刺さった尖った骨が傷口を広げて、動く度に疼きます。
そこで、遺された人工物に各地からセルリアン撃退のために集まったフレンズを呼んで作戦を練っているのです。
「…ノヴァでさえ抑えられないほどの相手なんだ。真正面から戦うのはダメだ」
「……あいつでダメだったのか。どんなさいきょーなんだよ、あのセルリアン」
「ヒグマ…あなたの二の舞になってしまったな」
「しょうがないさ。替わりに俺はもう大丈夫だ。なんとかやってやるさ」
各地のフレンズに声をかけたヒグマとハンターたちも、その脅威に戦慄しています。リーダーが自分よりも強いと認めたフレンズが、動けなくなるほどこんてぱんにやられたのだから。
「でも、それならどうやってセルリアンを川に突き落とすのだ…?」
「皆の力を合わせれば、たやすいことだろう」
「待つのですヘラジカ。正面から戦うリスクがあまりにも大きすぎるのが問題なのです。ちゃんとした戦略を立てて、確実に仕留める手を打たなければ」
柱に寄りかかるノヴァの目の前には、いつか見たねじれた角の竜のように誇張する枝角のフレンズが仁王立ちしています。全体的に暗い色の身なりですが、真っ直ぐにノヴァを見据える視線は勇猛果敢そのものです。その後ろに立つ彼女の家臣たちも戦意に溢れています。
助手がヘラジカと呼んだそのフレンズは正面からの戦いを申し出ましたが、彼女は却下しました。相手との力の差が大きすぎる以上、安易な接触は命取りですので。
「…うーん。キングコブラ、じゃんぐるで川の深い場所ってどこだ?あのバカデカいやつを落とすなら足のつかない場所じゃないと」
「…渓谷の下はかなり深いな。だが、谷底までかなり落差がある。…こちらが落とされたら大惨事だ」
「泳げるフレンズでも致命傷は免れない、のです。…というより雨季の今、激流の川に落ちれば戻ってこれないのです」
具体案が浮かばない面々。ひとまずツチノコが地の利を把握しようと、じゃんぐる出身のキングコブラに尋ねました。しかし、相手を陥れることができる場所は自分たちにとっても危険な場所とわかってふりだしに戻ってしまいました。
「危険、だがそこしかないな。生半可な策略では力ずくで突破されてしまう」
「…そのとおりですわ。もう私たちには後がないんですもの。やるしかないです」
「だけどカバちゃん。そんな場所で戦えるの?動きの身軽なフレンズじゃないと崖の近くじゃ戦えないし、力持ちなフレンズじゃないとセルリアンを押し出せないよ?」
「…その矛盾を覆す一手が必要か」
応援に駆けつけた二人のフレンズの言葉で更に頭を悩ませるノヴァ。誰かにさせるのはあまりに危険だし、崖の危険地帯を動き回りつつ的確に攻撃を与えて相手を追い落とす能力も必要です。
指摘をくれた二人のフレンズ…黒いライダースーツ風の衣服のカバと、露出の多い服と長いマフラーが印象的なインドゾウはいかにも重戦士に見えます。力を合わせればあのセルリアンを力ずくで押し出すこともできそうですが、足場の悪い場所で戦えるかは疑問が残ります。
この中で身軽なフレンズは、飛行能力を持つ助手とヘラジカの部下のハシビロコウ、セルリアンとの戦いに慣れているというじゃんぐる出身のフォッサとオセロット、それにハンターたちくらいです。パワーに自信があるのはヒグマくらいで、正面から当たるには力不足です。
「…両方を満たすのは私かヒグマだけか」
「だがお前はダメだ。そんなケガで戦っても良い結果はでない」
「わかってるよ。…何か、あるはずだ。起死回生の秘策がまだ隠されているはずだ」
しかし、その後には沈黙が遺構を支配します。ごうごうと屋根を打つ雨粒がそこにいる全員の焦燥感を駆り立て、薄暗い視界からどんどん光を奪っていきます。
その沈黙を打ち破ったのは一筋の雷光でした。ごく近くに落ちたのでしょう、光と音がほぼ同時に皆に届き、焦燥がパニックへと変わります。
「うおぁっ!?なになに!?」
「落ち着けフォッサ!こんなのでビビってどうするんだ!」
「まあまあコブラちゃん。みんなコブラちゃんほど肝が据わってないんだよ」
「し、心臓が止まりかけたでござるよ…」
「この前より大きいですぅ…」
「こんな時に不吉ですわね…」
「…雨もひどくなってきたね」
「それだとノヴァさんが外に出られないから、尚更私たちが頑張らないと」
「ハシビロコウの言うとおりだ。雷雨などに臆してはいられんぞ」
「…どうなっちゃうんすかね、パークは…」
「弱音はダメよ。まだ大勢は決まってないもの」
「そうだけど…見えてこないよ」
「大丈夫なのだ、ノヴァさんとアライさんがなんとかしてやるのだ」
「お前のその自信、今だけは誉めてやるよ」
「…こんなに大勢の指揮なんて採ったことないからな…。どうすればいいんだよ」
「チームワークが完全に乱れてますね…オーダーに支障が出る前に統率を回復しないと」
「……たった雷一発で…」
「悪かったわね、雷一発でそんなにビビらせて!」
「…!?…あなたは…」
「わざわざ策を弄して来てやったわよ、感謝しなさいノヴァ」
電は、消えかけた炎の前に必然として落ちてきたのです。