「こんなものか、ツチノコ」
「ああ、上出来だ。その指は冷間切削もお手のものか」
「最後には熱せず研ぎ澄ます必要があるからな。…しかし、これは何の部品だ?刃にも妙な形の穴を空けて、どうやって使う?」
遺された建物の中では、ノヴァとビーバーの技師二人が武器の製作に当たっています。
しかし、それぞれの得意とする素材の特性は把握できていません。簡単なものとはいえ接合部分の強度は確保しなければならなりませんので、そこが問題になっています。
頭を悩ませていた二人に知恵をくれたのは、さばくから来たツチノコでした。
「角を立てて穴を空けるって難しっすよ…」
「本当ならのみでやるんだけどな。それを作ってる暇はないから手作業でやるしかないんだよ」
周りにあった硬木を武器の柄の形にするビーバーにも、刃と同じような穴を空けるようにツチノコは指示しました。材木を建材にすることは得意でも、かつてヒトがやったような緻密な木工はビーバーも初めてです。やはり自分じゃ力不足だったんだとうなだれてしましました。
「…この刃と柄の穴をさっき作った部品で留めるのか?すぐに外れてしまうのでは?」
「いいや、これもヒトの知恵さ。“くさび”っていう技術だ。力学的に一定方向以外の衝撃では外れにくくなってるのさ」
「ほう。…ビーバー、少し柄を貸してくれ」
「えっ、いや、まだ全然できて…」
ノヴァが少しつらそうにしながら立ち上がってビーバーの前まで来ました。彼女が加工していた柄を手に取って、ノヴァが作った刃とくさびで合わせてみます。
「…お前、少しは自分に自信を持てよ。ほぼ設計図通りに出来てるじゃねぇか」
「え、そんな、だって長さが少しずれて…」
「いいや、ピッタリだ。私のくさびも少しずれていたらしい。そのずれがお互いを補っているようだな」
かなづち代わりに使っていた石でくさびを叩いて食い込ませると、刃がピタッと固定されました。少し短めの取り回しのいい手槍を掲げて、ノヴァが歓声を上げて眼を輝かせています。
「…すばらしい。これなら他のフレンズでも使いこなせるだろう」
「…おお、本当に…!これが武器っすか…!」
「ああ、二人のおかげだ。ありがとう」
「そんなそんな」
「全部お前の熱意のせいだよ」
「ぜひ私にもヒトの技術や木工の技術を伝授してほしい。私の鉄材ばかり使っては尻尾が棍棒になってしまう」
いつになくキラキラとした視線をビーバーに向けています。初めてもの作りが好きなフレンズに出会えて、一緒に道具を作り出して、そしてその技を共有できる…ノヴァが夢見ていた理想の生き方が今見えたのです。
そして、ヒトの知恵を提供してくれるツチノコにも尊敬の念を抱かずにはいられませんでした。二人と一緒ならば、それこそライの義足も作れると確信しています。
「…変わったやつだよな、ノヴァは。これだけ努力家で真面目なのに、向いてる方向がおかしいんだな」
「上しか見えてない、っすよね。たどり着くべき高みへ一直線、というか…」
「…高いところは得意ではないのだが」
「………………」
「………………」
熱っぽかった空気が一転、沈黙と共に冷え固まりました。こういった真面目すぎるゆえの天然ボケを知るのはキングコブラくらいなものでしたので、ツチノコとビーバーも面食らってしまいました。
「…どうしたんだ?言いたいことがあるなら言ってくれ」
「あ、ははははっ!お前のギャップはひどいな!」
「ぷっ…ふふふ…!怖いくらいに真面目なのに、笑わせてくるなんて卑怯っすよっ…!」
「…事実を述べただけなのだが…」
二人の反応に納得がいかないノヴァ。へいげんでハシビロコウとキングコブラにからかわれた時と同じ状況です。
少しもやもやしつつも、油を売っている暇はないことはわかっているので作業に戻ります。
「…よし、さっさと人数分作って私たちも合流しよう」
「そうっすね!がんばるっすよー!」
「あっちは大丈夫だろうか。なんせリーダーがあのビリビリだしな」
「………………そうだな」
頭は間違いなく良いのですが、博士いわくしゃべると残念なフレンズがリーダーなのです。不安に思うのは共通認識だったようです。
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「…もう一人後から合流するって言ってたけど、全然こないじゃない」
「カリカリしちゃいけないぞっ。もっと余裕を持たないとビッグになれないんだぞ」
「そうですそうですぅ!ライさんは気性が荒すぎですぅ!」
「うるさいわね!実際余裕なんてないのよ!陽動隊に負荷を掛けすぎたら大変なことになるの!」
どしゃ降りのスコールの中、ライが率いる工兵隊は渓谷の崖で作業を始めました。片足のない彼女は直接作業を行えないので、地面に印をつけた後は石に腰をかけて監督にあたります。
工兵隊に召集されたのは、ヘラジカの部下のタテガミヤマアラシとじゃんぐるのタスマニアデビル。どちらも穴掘りの名手です。それとフェネックも工兵隊に合流するとのことでしたが、なかなか姿を現しません。
「デビル、深く掘りすぎ!迎撃隊が渡る時に崩れたら意味ないのよ!」
「はーい」
「ヤマアラシは位置がずれてる!深さも位置取りも強度に影響するから正確に!」
「はいですぅ」
「……あたしが受け持った場所が遅れたら立つ瀬ないじゃない…」
崖の中腹の道は広くはありませんが、地質が硬く掘削に手間取ります。二人の穴掘りの達人がいても、工程を全て時間通りに終えるのはシビアです。
そうして時間が延びると、セルリアンを引き付けている陽動隊の疲労がどんどん蓄積していきます。疲労は行動の鈍化を招き、致命傷を受けるリスクが飛躍的に上昇するのです。
ライが焦りを覚える理由は、そこにありました。だから、ノヴァから聞いた言葉とは真逆の態度をとって、威圧と恐怖で効率を上げざるを得ないのです。
「……あたしだって、本当は…」
「へぇ、そんな顔もするのか。お前、意外とナイーブなんだな」
「わあぁっ!あんた、いつのまに!!」
「うるせぇよ!ついでの感覚で電気を出すなー!」
多少時間が経過したのか、ライの意識がここになかったのか、やってきたツチノコの声に必要以上に驚きました。圧電甲が少しこすれて放電するとツチノコも反射的に飛び上がります。
「…まったく、脅かさないでよ」
「こっちのセリフだよー!いちいち放電するなー!」
「仕方ないでしょ!そういう体質なんだから」
「…ったく、だからお前には近寄りたくねーんだ」
「…悪かったわね」
お互いに膨れっ面ですが、別に敵対している訳ではありません。皮肉が通用する相手だからこそ、そういう態度をとってしまうものです。
「…手伝いにきてやったぞ」
「そう。…ノヴァの方は大丈夫なの?」
「ああ。技術者同士のノリにはついていけそうになかったからな、知識だけ預けてこっちにな」
「面倒な性癖を持ってるのね、あいつ」
「それはお前もだ。まあいいや、俺も作業に加わるぞ」
「了解よ。地面に直接印を刻んであるから、仕様書通りの大きさと深さに穴を開けて」
「はいよ」
「地質が硬いから気を付けなさいよ」
やれやれといった感じでツチノコは手渡された仕様書に目を通して、二人の作業員に合流します。まるでヒトが書いたような狂いのない図や文字を見て、やはりこいつは何か違うなと結論づけて何度も首を縦に振りました。
対するライも、一目で内容を理解して聞き返してこなかったツチノコを評価しています。バカばかりじゃないのねとそれなりに感心しているようでした。
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「…やはり二人一組では無茶…ですが…」
「なんの…これしき…!」
「パークのためを思えば…ですわ…!」
博士が先導する攻撃隊の面々は、渓谷から離れた場所にある岩場から大きな岩石を運び出していました。
ヘラジカが岩にくくられた縄を引き、その部下のシロサイが後ろから押します。その様子は順調とは言えず、二人ともぬかるんだ足元に体力を消耗して思うように進めません。
博士は一個に対しての人員を増やそうと考えましたが、ただでさえ人手が足りていないので却下しました。巨岩を運べるパワフルな人員は四人しかいないのです。
「まだまだだよ…まだ一個も運んでないよ…!」
「勝つためにはノヴァの計略が絶対必要なのですわ…!」
後ろからへいげんのチームを追うインドゾウとカバのチームも、苦悶の表情を見せながら岩を押し進めていきます。
博士は申し訳ないと思いつつも、それでも作業行程を遅らせるわけにはいかないと、エールを彼女たちに告げて設置場所へと向かいます。
「お前たち、この作戦の要はその岩なのです。我々が任務を完遂できなければみんなあのセルリアンに食われてしまうのです。その重みは我々の命の重みなのですから、意地でも運びきるのですよ」
「わかってるさっ!みんなが頑張らなければ共倒れだと」
「こうしている間にもコブラちゃんたちが引き付けてるんだから…!」
「わたくし達が弱音を吐く訳にはいかないですわ…!」
「絶対、成し遂げなきゃいけません…!」
「…そうです。お前たちは選ばれたフレンズなのです。必ずたどり着くのですよ」
よいしょよいしょ、と息のあった掛け声を背中にして博士は坂道を登っていきます。
その頂上に設置場所が設けられていました。オオアルマジロが地面を馴らして固定できるように工作していたのです。
「こちらは完璧なようなのですね、オオアルマジロ」
「うん!博士、いつでもいけるよ!」
「よいのです。…あとは力自慢どもが運ぶのを待つのみなのです」
アルマジロの甲羅で整地された崖は十分に岩を置ける安定性があります。パワーこそ他の四人に劣りますが、仕事をこなす要領の良さはどのフレンズにも劣りません。
掘り出した土は一ヶ所に集められていて、所々に埋まっていたであろう岩が積まれていました。この几帳面さも彼女の強みです。
「…割と大きな岩もあったようですね」
「うん。邪魔にならないようによけておいたよ」
「…!…いえ、これも使えるのです」
「え?」
ノヴァやライの閃きが鋭すぎて忘れられがちですが、博士はパーク屈指の頭脳派です。知識を蓄えることも、新たな考えを打ち出すことも得意なフレンズなのです。
博士は表情を少し明るくしてアルマジロに語りかけます。
「直接ダメージを与えるのはあの大岩二つで十分なのです。その後は土砂を大量に落とし込めば川にドボンなのです」
「ああ、なるほど!そうだよね!岩でセルリアンを倒すことばかりに気をとられてたよ」
「そのとおりなのです。四人が運び終えたら、我々も崖を削る作業に入るですよ」
落とすものは全て岩、その条件を取り除けば上の崖をタイミングよく崩落させるだけで完了します。四人の負荷も最小限で済みますし、セルリアンを川に落とすだけならそれで十分です。
翼を広げて崖の全体像を飛びながら把握します。下見は欠かすなとライに言われたことを思い出して、一応は確認しているのです。
「あっ…まだ工兵隊が作業中なのです。もしものためにまだこちらの作業は始めない方が良さそうなのです」
崖の下ではライが率いる工兵隊が地面に穴をあけています。均等に正確に位置取った模様は、彼女の性格の表れでしょうか。
何かこちらが事故を起こしたら下に二次被害が及ぶと考えて、博士は一旦アルマジロのところに戻りました。
「…ふむ、一度ライと話さなければならないのです」
「あ、戻ってきた。博士、カメレオンがきたよ」
「伝令でござる!」
「ちょうどよかったのです。私もライに伝えたいことがあったのです」
いつの間にやら来たのか、パンサーカメレオンがアルマジロと一緒に泥で汚れた服をはたいていました。
崖の登り下りが得意なパンサーカメレオンは、工兵隊と攻撃隊の伝令役を任されました。博士なら崖の下まで一っ飛びですが、責任者が安易に持ち場を離れるのは良くないということで、彼女を通して連絡を取る手筈になっています。
「あと15分ほどで作業が完了する、とのことでござる!人員が必要ならそちらに回してもよいとのことでござる!」
「それはありがたいのです。穴掘りの知識を持つフレンズに乏しいのでこちらにも工兵隊が来てくれると助かるのです」
「?」
「伝令はこうなのです。わかったのです、上の崖も崩落させるので工兵隊に手伝ってほしい、と」
「承知したでござる!」
生き生きとした様子で再び崖を下るパンサーカメレオン。ヘラジカの下では自分の能力を上手く活かせてないからでしょうか、フラストレーションを発散しているようです。
「…さて、攻撃隊も準備が整いつつあるのです」
「絶対成功させるよ!」
なおも強さを増すスコールに打たれながら、博士は時を待ちます。この危機的状況をなぜかわくわくしながら…。
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双頭のセルリアンは足を止めて立ち向かってきたフレンズたちの相手をしていました。
先陣を切ったのはキングコブラとオセロット、そしてエリマキトカゲ。コブラは前のように首に取りつき、ノヴァからもらったナイフを突き立てます。
「ほら、お前が探してるのはこれだろう!?」
「ほら、こっちもこっちも。じゃんぐるを案内してあげるよ!」
「目潰し?サミング?」
もう片方の首にはオセロットが飛び付き、目玉の部分に爪を突き立てて攻撃します。二人の下をエリマキトカゲがちょこまかと駆け回っては尻尾で首を強打して、また逃げ回ります。
セルリアンには大したダメージが入っていないようで、二人を激しく叩きつけるような動きはしません。しかし中々追い払えないうっとうしさに少しイライラしているようです。
「コブラちゃーん、こっちの準備はできたよー!」
「いつでも下がっていいぞっ」
「ああ、よろしく頼む!カワウソ、オカピ!」
何やら準備ができたと伝えに来たコツメカワウソとオカピ。木の陰からひょこっと顔を出してセルリアンを囲むように二手に別れます。
「オセロット、せーのであいつらに飛び移るぞ」
「いいよね?準備オーケー?」
「………………。…エリー、お前はもう退いていい。目立つように走れ」
「がってんしょうちだよ!」
オセロットの爪はセルリアンの目をえぐるように入り込み、青い液体をばらまきました。確かな強さを持つフレンズですが、つかみ所のない性格のせいかキングコブラはあまり得意なフレンズではありませんでした。こうして今も指示を聞いているのか聞いていないのかわからない態度をとられて、キングコブラは困惑しています。
反面同じ爬虫類のエリマキトカゲ…エリーとは気が合うことが多いのです。あまり戦いが得意なフレンズではないのですが、勇猛果敢に立ち向かって状況を見て撤退できる判断力を評価しています。独特の構造の“えり”が良く目立つので、殿に適しているのもプラスです。
「よし、せーの」
「ぴょいーん?」
エリーが泥を巻き上げて林道に去っていくのを見計らって、コブラとオセロットもセルリアンの首から飛び退きます。木と木の間にはそれぞれオカピとカワウソが待機していて、飛び込んできた前線の二人を受け止めました。
「あいつと歩幅を合わせて後退だ!」
「なかなかスリリングな狩りごっこだぞっ」
「楽しそうじゃない?」
「そうそう!絶対楽しいよー!」
「…お気楽すぎて不安だぞ…」
前に出てきたフレンズたちはどうも楽天的な性格ばかりです。一つ間違えれば致命的な相手なことは彼女らもわかっているはずですが、緊張感というものをキングコブラは感じられません。
それを不安に思うキングコブラでありますが、それは同時に彼女たちがいつもの調子であることの証明でもあるのです。じゃんぐるの住人たちの底力は知っているので、それを信じるしかないのです。
コブラがナイフを地面に走らせ熱っして、高く掲げました。その光に反応したセルリアンは木をもろともせず彼女を猛追します。
「お前のエモノはこっちだっ!」
「コブラ、それパスして?」
「…わかった」
コブラは足が速いわけではないので、そのままならセルリアンに追い付かれてしまいます。
そのフォローに回ったのがオセロット。じゃんぐるでのかけっこではかなりの実力者で、その上かなりの切れ者です。セルリアンが光るものを追いかける習性を考慮して、彼女が代わりに走ろうと考えたのです。
自分の宝物を渡すのは少しためらいましたが、コブラは素直にオセロットの提案に乗ります。
「落とすなよ。それから先は熱いから気を付けろよ」
「わかってるよ?」
セルリアンが首を伸ばせば届く距離まで詰められてしまいました。前を走るオセロットがバトンを受け取るようにナイフを手にして、木々の間を駆け抜けていきます。
その直後、一手遅れでセルリアンが首を振り下ろしました。
「ぐっ…危ないなっ…」
「おお、楽しんでるね!」
「…お前のお気楽さが羨ましいよ、カワウソ」
「ありゃりゃ、尻尾が巻き込まれちゃったんだ」
間一髪横跳びで直撃を避けたコブラでしたが、尻尾までは間に合わなかったようでした。飛び散った骨片が鱗を穿ち、出血しています。
セルリアンはコブラとその隣にいたカワウソを見失ったようで、雨降る密林で一際目立つ光源を追っていきました。
「よーし、わたしが運んじゃうもんね!」
「…すまないな、カワウソ」
「ケガしたらきょてんまで連れていく、だよね!ノヴァちゃんとの約束!」
「…ああ。…でも誰がこの後指揮を採るんだ?」
「うーん、いらないと思うよ。仕掛けを考えられるの、コブラちゃんしかいないから!」
そうなれば本能のままに陽動するだけか、とコブラは鼻で笑います。実にじゃんぐるの住人らしいなとなぜかうれしくもなります。
「あ、オカピちゃーん!わたしコブラちゃんを助手ちゃんのとこに連れてくから、あとよろしくねっ!」
「任されたぞっ」
膝をつくコブラをひょいっと持ち上げると、オカピとは別の方向へ走っていきます。
不本意ではありましたが、自身のケガはどうしようもないので大人しくカワウソに運ばれます。
「…サンドスター、使いすぎたな……」
「…お休み、コブラちゃん。よくがんばったよ」