ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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はんげきののろし

 

 

 

『ワシミミズク、リカオン、クジャク、ちょっといいかな』

 

「わっ!誰なのです!?」

 

「ぼ、ボス!?しゃべれたんですか!?」

 

「ほ、本当にしゃべってる…!」

 

「しゃべれるのは知っていたのですが、突然はやめるのです!」

 

 

 

大きな道が合流する場所には、ヒトが残した建物が残っています。じゃんぐるの各地へ向かいやすい場所なので伝令隊はそこを拠点としました。

 

情報の管理は助手とリカオンがおこなっています。各隊から集まってきた伝令をクジャクとハシビロコウに預けて各隊に飛ばしていたのです。ハシビロコウは今もノヴァのところへ向かっているのですが。

 

ライが手配した通り、ボスは詰所に現れて二人に話しかけました。

 

 

 

『ライから伝言を預かってるよ』

 

「!ライからですか!」

 

『実際に彼女から伝えてもらうよ』

 

 

 

ボスが通話機能を起動しました。突然のことにちんぷんかんぷんな3人です。何が起こっているか理解するまで少し時間がかかりました。

 

 

 

『あー、ミミ?聞こえてる?』

 

「え…その声は…ライ…なのですか?」

 

『そうよ。ヒトが作った電話をラッキービーストは持ってるらしくてね。有効活用させてもらってるわ』

 

「待つのです、待つのです。理解が追い付かないのです」

 

『待ってられないわよ、陽動隊が危ないってのに。考えなくていいからしっかり聞いて』

 

「は、はい」

 

「そう、ですね」

 

『リカオンとクジャクはお利口ね、そのまま聞きなさい』

 

 

 

ライは説明するのも億劫らしく、一方的に内容を伝えます。彼女らしいといえば彼女らしいのですが、ノヴァ以上に脅迫的な印象が余計に威圧感を与えてしまいます。

 

 

 

『準備は全て完了したわ。伝令隊は解散、後の通信はラッキービーストに任せるわ。あんた達は陽動隊を援護しつつターゲットを崖道まで誘導して。ハシビロコウはこっちで預かるから』

 

「…わかったのです」

 

『…三人とも、生きて帰ってくるのよ』

 

「も、もちろんですよ!」

 

「陽動隊のみなさんも絶対無事で帰しますから!」

 

 

 

助手は豆鉄砲を食らった顔をしています。ボスのこともそうですが、ライが心配してくれていることにも、です。見た目通りトゲのある態度しか見て来なかった助手には、意外に思ってしまいます。

 

指示を聞くことに慣れているリカオンはすんなり受け入れました。ボスがライの声をしゃべっているのは驚きですが、その的確な指示と激励の言葉で使命を再確認します。

 

クジャクは任務中もじゃんぐるの住人たちが心配だったようで、その救援に向かえと言われて嬉しいようです。特に、特別な想いを寄せているキングコブラのことが気になって仕方ないのです。

 

 

 

『任せたわよ。さあ、このパークが誰のものか思い知らせてやろうじゃない』

 

「私たちの故郷ですから!これ以上好き勝手はさせません!」

 

「オーダー了解ですよ!こんな大がかりな作戦、後にも先にもありませんから!」

 

「誰のもの…。…少なくてもあのセルリアンのものではないのです。私もワシ的な部分を見せてやるですよ」

 

『…健闘を祈るわ』

 

 

 

温厚そうな三人ですが、勇気がないわけではないのです。その気になれば誰よりも勇敢に戦えるフレンズなのです。

 

すぐに助手は残していた記録用紙をまとめて詰所をあとにしました。ライと一緒に読み書きを勉強した助手は、文字で記録を残すことも可能になったのです。リカオンは本来の声でしゃべるようになったボスを抱いて、クジャクは詰所に残っていた発煙筒を片手に。

 

…しかし、三人はすぐに足を止めてしまいました。

 

 

 

「お?クジャクちゃん!それにミミちゃん助手にリカオンちゃんも!」

 

「えっ、カワウソちゃん?」

 

「どうしたのですか?お前は陽動隊では」

 

「うーんとね、コブラちゃんがケガしちゃってね。ノヴァちゃんとの約束で連れてきたよっ」

 

「!!コブラさん!大丈夫ですか!?」

 

 

 

丁度詰所の前に、コツメカワウソと…その肩には骨の破片が尻尾に刺さったキングコブラがいました。カワウソはいつも通り無邪気な笑顔をしていますが、キングコブラはぐったりとして視線を合わせてくれません。

 

 

 

「…ああ。少し疲れただけだ…」

 

「!!そのケガっ…!」

 

「たいしたことない…。…ただ…うっ…」

 

「キングコブラ、傷が痛むのですか!?」

 

「大丈夫、だ。…サンドスターを、使いすぎただけだ…」

 

 

 

強がっていますが、表情は苦しそうにしてカワウソの肩を借りて立つ脚も今にも崩れそうです。尻尾の傷も深いようで本人が思うよりずっと深刻な状態だと、助手は判断しました。

 

 

 

「これは処置が必要なのです。詰所に戻ってキングコブラを介抱するのです」

 

「えっ、でもライさんは」

 

「こんな状態の仲間を放っておくわけにはいかないのです。リカオン、コツメカワウソ、お前たちは予定通り陽動隊と合流するのです。クジャク、治療を手伝うのです」

 

「わかったよー!クジャクちゃん、コブラちゃんをお願いねっ!」

 

「はい!カワウソちゃん!」

 

 

 

助手はキングコブラの処置を優先させました。単純に仲間を放っておけないというのと、陽動は上手くいくという打算があったからです。ライが陽動隊に授けた策があれば、必ず目標を達成できると確信しているのです。

 

何も考えてなさそうなカワウソ、とキングコブラが心配でたまらないクジャクは快く返事をしました。しかしリカオンはライの命令に背くことになると思って快諾できません。

 

 

 

「いくよ、リカオンちゃん!」

 

「待って、助手、勝手にっ」

 

「カワウソ、連れていくのです」

 

「いいよー!ほら、こっちこっち!」

 

「はっ、放してください!カワウソさん!」

 

「キングコブラがケガしたことは誰にも言ってはいけないのですよー!」

 

 

 

 

 

 

「…よかったんですか?」

 

「いいのです。…責任者は私なのです。追及を覚悟での、判断なのですから」

 

「……私なんかのために…」

 

「…そう言うと思ったのです、キングコブラ。…そのセリフは絶対にノヴァの前で口にしてはいけないのですよ」

 

「……ああ」

 

「ノヴァさん、心配しますものね…」

 

「ええ、…本当に、危ういフレンズなのです」

 

 

 

極上の切れ味を持つ業物は、それだけ刃が欠けやすいものです。だから大切に扱わなければなりません。それを修繕する業を彼女以外のフレンズは持ち合わせていないのですから。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「その重さじゃ沼地で足を取られるのよぉ」

 

「ミナミコアリクイ、その調子?」

 

「ほら、返すよぉ」

 

「あとは任せて?」

 

 

 

じゃんぐるでも水気の多いぬかるみは、いつにも増して軟らかくなっています。その地で暮らすフレンズたちは歩き方を知っていますが、双頭のセルリアンはそうでもないようです。スピードが大幅に低下して、機敏さには自信のなかったミナミコアリクイでも十分に逃げ切れます。

 

少し休憩をとったオセロットが戻ってきて、青いナイフを受け取ります。

 

 

 

「次はマレーバクのところだね?ついてきなよ?」

 

 

 

オセロットは大きくジャンプして大木の枝に飛び乗りました。彼女のホームグラウンドは地上でもあり、木の上でもあるのです。

 

翼でも生えているかのように枝から枝へ跳び移って、沼地から離れるルートを取ります。セルリアンもそれを追って木をなぎ倒しながらオセロットを追撃します。

 

 

 

「この辺…だったっけ?」

 

「うん、オセロットちゃん、ここだよ」

 

 

 

雨粒の音が鳴っててもオセロットの耳はマレーバクの声をちゃんと聞き分けました。木の影にいた白黒のフレンズの姿を確認して地上へと降ります。

 

 

 

「じゃあ、お願いね?」

 

「やってみる…!」

 

 

 

お互いにアイコンタクトをとってから行動を始めました。オセロットはナイフを石で擦り付けて赤熱させ、マレーバクはセルリアンの進行ルート側にある二本の大木から延びた荒縄を引きました。

 

 

 

「いくら木を倒せる力があっても、直撃すれば…!」

 

「オセロットも挑発しとくよ?」

 

 

 

荒縄が引ききられると、二本の大木を支えていた支柱が外れて、中途半端に幹を削られた大木は傾き始めました。そして、セルリアンの外殼を叩き付けます。

 

いくら規格外の体躯を持つセルリアンとはいえ、自身の体高を超える大木に押し潰されればダメージは免れません。

 

裏を返せば、本来は直撃を避けられるだけの知能と技術を持っているということになりますが…。

 

オセロットもマレーバクが標的にされないように、押し潰されたセルリアンの首の一つに貼りついてナイフを突き刺します。致命傷は与えられないかもしれませんが、挑発にはなります。

 

 

 

「…よし!」

 

「ほら?これがほしかったんでしょ?」

 

「おーやるねぇ。マレーバク、うまくいったじゃん」

 

「エリー、どうしたの?この先でオセロットと走者交代じゃ…」

 

 

 

罠の効果を確かめるマレーバクのところに、エリーが走ってきました。結構急いでいたみたいで、少し息を切らしています。

 

 

 

「なんかね、ボスがライの伝言を持ってきてさ。準備オッケーだから戻って来いって」

 

「わかったよ?んじゃエリー、走るよ?」

 

「はーい」

 

 

 

ようやくなんだ?と嬉しそうにオセロットはセルリアンから飛び退きました。実際、動きがのろくて逃げるのも飽きてきたなー、と思っていたのです。ノヴァやキングコブラとは違った意味での余裕が、オセロットの強みでもあります。

 

彼女に続くのがエリー。…というより、じゃんぐるで彼女のスピードについて来られるフレンズはエリーくらいです。ただ二人ともは持久力はそれほどでもないので、バトンパスして体力を回復させながら逃げ回っているのです。

 

 

 

「マレーバク、ゆっくりでいいからミナミコアリクイと一緒に戻ってきてー?」

 

「わかったよー」

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「ノヴァさーん、セルリアンがこっちに向かってきてるよー」

 

「…とうとう来たか。誰が誘導していたかわかるか?」

 

「うーん、あれはエリマキトカゲちゃんじゃないかなー」

 

 

 

役目を終えた工兵隊はノヴァの指示のもと崖の周囲の偵察へと乗り出しました。周囲警戒は狩りの基本…横取りや余計な争いを避けるには外的要因を排除することが大事と彼女もライも身に染みているのです。

 

そして、拠点を設営した崖の横穴へ報告に帰ってきたフェネックがターゲットを捕捉したと告げました。ノヴァの予測では伝令隊が先に帰ってくると思っていたので、少しまゆをひそめました。

 

 

 

「…少し予定外だが、さいは投げられたんだ。みんな、位置についてくれ」

 

「…こういう時、なんて返事したらいいんですかね?」

 

「確かにね。何か景気付けに号令があったらいいよね」

 

「……そういうものなのか」

 

 

 

迎撃隊の面々は顔を合わせて、認識を確認しあいます。こういう場面では士気が大事だと、集団戦に慣れた彼女たちは脳に焼き付いているのです。

 

まだまだ集団に入り込んだばかりのノヴァは、そこへの理解は足りていません。この群れの指揮をとるリーダーなのは間違いないのですが、“ヒト”の心の機微を捉えられるようになるのはまだまだ先のようです。

 

 

 

「…では、…作戦開始だ。反撃の狼煙を上げるぞ」

 

「……のろしって何だろうか」

 

「わからん」

 

「………………」

 

 

 

この微妙な空気感は何度目でしょう。さすがにノヴァでも何か察してしまいます。

 

 

 

「……たぶん、けむり…火と一緒に出る雲のことだろ。私はここでお前を倒す!ってノヴァなりの号令だろ?」

 

「ヒグマ…あなたは…」

 

 

 

こういった場面でフォローに回ってくれるフレンズは初めてでした。

 

感じたことのない嬉しさと、隣で戦ってくれる“味方”がいる安心感が、彼女の負った責任を少しだけほどいてくれるようでした。

 

 

 

「…おいおい、なんで泣いてるんだよ」

 

「いや…すまない。…おかしいな、ゴーグルしてたら火の粉が眼に入ることはないのに…」

 

「…まあ、お前は為すべきを為したんだ。あとは任せてくれよ」

 

 

 

ノヴァが感じていたのが“孤独”と気付くまでにも、まだまだ時間が必要なようです。守らなければならない“仲間”は多くいても、同じ責任を一緒に持ってくれる“味方”はいなかったのです。

 

ゴーグルを上げて潤んだ視界を拭いました。こうなるのは武器を研いだ時に出る火の粉が眼に入った時くらいなのに、なぜか涙が出てきます。

 

 

 

「じゃあ、いくぞ。お前に勝利をプレゼントしてやる」

 

「ここまでお膳立てしてくれたからね、私も本気でいくよ」

 

「ここにいるメンバーは強者ばかりだけど…私だってみんなと目指す場所は一緒だから」

 

「一致団結して作戦を進めてきたんだ、私たちが失敗する訳にはいかないじゃん」

 

「私たちは絶対勝ちますので…ノヴァさん。安心して打ち上げのことを考えてくださいね」

 

「ああ…このあとは“うたげ”だ」

 

 

 

おおーっ!と歓声が上がって、直後に迎撃隊は横穴を飛び出していきました。心の機微はわからないかもしれませんが、間違いない心は一つなのです。ノヴァはそう確信しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…行っちゃったねー」

 

「ああ、…あとは祈るしかない」

 

「……って言って、その手に持っているのは何かなー?」

 

「ただのオモチャだよ。使い所がない」

 

「ううん、そうじゃなくてー…。服の内側に隠してるそれ。遺されたヒトのすみかで見たことあるよー」

 

 

 

「……他愛もないお守りさ。助手が、もしもの時はこれを使えって」

 

「ふーん…。それって…」

 

「ノヴァさん!迎撃隊が出発しちゃってるのだ!なんでアライさんに教えてくれなかったのだ!」

 

「アライサンか。…もしかして、あなたも参加したかったのか?」

 

「そうなのだ!実際にアライさんはあのセルリアンに一泡吹かせているのだ!だから戦えるのだ!」

 

「アライさーん、ダメだよー。ここから先はぷろの仕事なんだからさー」

 

 

 

「……武器はこれしかないが、使ってくれるか」

 

「えっ、ノヴァさん…?」

 

「も、もちろんなのだ!でもこれは何の武器なのだ?」

 

「…持ち手に付けた引き金を引くと、火打石が硝石と鉄粉と…私の塵粉を起爆して杭を打ち出す。構造上一回使うと壊れる欠陥品だが、…威力は保証する」

 

「わからないけど…ここを引くと木と鉄のこれが飛び出るのだな!?やってみるのだ!」

 

 

 

「ノヴァさーん、アライさんは」

 

「アライサンがやりたいって言うんだ。その意志を尊重したい」

 

「でも、すごい危ないよー…?」

 

「大丈夫なのだ!ここでおくびょうになるなんてアライさんのやることじゃないのだ!」

 

「………………」

 

「…そんな顔をしないでくれフェネック。…何かあったら、私が…」

 

 

 

彼女の手には、注射器が握られていました。

 














たつき監督の件は残念ですが、我々が為すべきは監督が帰ってこられる場所を残しておくことではないでしょうか
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