ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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うたかたのまい のおはなし
ねつがひくとき


 

 

 

「…メンバーは全員揃ったかしら?」

 

 

 

じゃんぐるの戦いに参加したフレンズたちは、遺構に集合してしました。指揮する者がいないので、臨時でライと、補佐としてツチノコとフェネックが取りまとめています。

 

みんな沈んだ表情をしています。戦いには勝ちましたが、それを祝える雰囲気ではないようです。

 

 

 

「……ツチノコ、あと集まってないのは?」

 

「ワシミミズクとアライグマ、あとクジャクとキングコブラだな。…ったく、ノヴァが大変なことになってる時に…!」

 

「…いいえ、好都合よ。状況を混乱させそうな連中ばかりいないのは」

 

「おまえっ、その言い方」

 

「ヒグマさん、抑えて抑えてー。ケンカしてる場合じゃないよー」

 

 

 

ライの傍若無人な発言に食ってかかるヒグマ。それをフェネックが抑揚なしに抑えます。

 

フレンズたちに集まってもらったのは他でもない、今後のことを話し合うためでした。一応危機は去ったのですが、後始末や負傷者の介護などを考えなければなりません。

 

そして、一番気掛かりなのは…。

 

 

 

「…ノヴァなら、“あなた達は決戦を勝ち抜いた英雄だ。帰って功を誇ってくれ”とか言いそうだけど。…そのリーダーが…」

 

「そうっすよ!ノヴァさんを捜しに…!」

 

「無駄よ。生きちゃいないわ。あの水量に流されてたら、泳げるやつだって溺れてしまうもの」

 

「い、いい加減にしてください!!言わせておけばっ!」

 

「お止めなさい。ライはみんなの安全を考えて探すのを止めてるのよ」

 

 

 

ノヴァの生存を信じて捜索を申し出るフレンズもたくさんいましたが、ライはそれを禁じました。二次被害を考えれば、せめて川が落ち着いてからでないと危険なのです。でも、その頃にはもうノヴァの命はないでしょう。

 

ならば、残された者たちがすべきことは何か。ノヴァが守ってくれた平和を幸福へと変えていくこと、とライは判断しました。…論理的で現実主義な彼女が下した、冷徹な判断でした。

 

 

 

「あたしが気に食わないやつは去っていいわ。感情的になるやつは、はっきり言って邪魔よ」

 

「言われなくてもそうするさ。…二人とも、いくぞ」

 

「は、はい!」

 

「おいおいヒグマ、キンシコウは結構ケガしてるぞ?」

 

「…ちっ」

 

 

 

「ヘラジカさま、拙者たちはどうするでござるか?」

 

「別にライの判断が間違ってるとは思わんがな。でも、私たちはノヴァへ義理立てにやってきたのだ。それが終わったのなら帰る」

 

「ええ、どうぞ。あんた、暗愚に見えて意外としっかりしてるのね」

 

「…どうしてお前は一言多いんだよ」

 

 

 

「…さて、私たちはじゃんぐるの復興でもする?」

 

「え、ジャガー!?ノヴァのこと気にならないの!?」

 

「さてね。私もライの意見は最もだと思うけど」

 

「…見損なったよジャガー。そんな薄情なやつだったなんて」

 

「ケンカはやめてよぉ」

 

 

 

「…ここまでのようね。やっぱり、この群れはノヴァが先導してきたものですのね」

 

「…せっかく話の合う友達ができたと思ったのに…」

 

 

 

これまで心を一つにしてきたフレンズたちは、ノヴァがいないというただ一つの事実だけで瓦解していきました。代理のリーダーの冷血さや仲間への不信が結束を断ち切ってしまったのです。

 

それぞれの縄張りへともどる者。命令に背いてノヴァを捜索する者。ライと一緒に後処理をする者。思いは様々です。

 

 

 

 

 

 

「…まず、戻ってきてないメンバーの確認をしたいわね」

 

「アライさんとミミちゃん助手、だねー」

 

「あれ?アライグマはオカピたちより先に戻っていったゾ?」

 

「あー、あれかもね。コブラちゃんの介抱をまだしてるのかもねっ」

 

 

 

ライの問いにはオカピとコツメカワウソが答えました。ライは眉をひそめてさらに事情を聞きます。

 

 

 

「キングコブラが?そんな報告受けてないわよ」

 

「あっ、これ言ったらダメなやつだったっけ?あはは」

 

「…正直に言いなさい。言わないと電気ショックよ」

 

 

 

ライは尻尾のハサミをカチンカチンと鳴らしてカワウソをにらみつけました。普通のフレンズならそれだけで震えあがってしまいますが、大胆不敵なカワウソは面白がって笑い声を上げます。

 

 

 

「すごーい!ライちゃん、面白いねー!」

 

「笑って誤魔化せるとでも?」

 

「いやいや、そうじゃなくてねー。ミミちゃん助手が内緒にしててって言ってたんだよ」

 

「あ、こいつワシミミズクを売った」

 

「それは別にいいわ。聞きたいのはミミがキングコブラと一緒にいるのかどうか」

 

 

 

ライは助手とキングコブラの居場所がわかればいいのです。助手が何を考えていようが関係ありません。

 

 

 

「うん、クジャクちゃんと一緒にって。きょてんにしてた建物で治療してたよ」

 

「そう。ありがとう、カワウソ。ミミにはあたしのとっておきでお仕置きしてあげるわ」

 

 

 

狂気じみた笑顔のライ。ノヴァがあんなことになったのは助手のせいでもあるので、痛い目に合わせないと気が済まないようです。

 

 

 

「それからオカピ。アライグマの状況を聞かせて」

 

「見つけたのはアクシスジカとキンシコウと一緒だゾ。セルリアンにやられて、倒れてたと思ったら、突然起き上がってセルリアンを追いかけていったゾ」

 

「アライさん…」

 

「…それは不可解ね。一本道で見失うわけがないのに」

 

 

 

珍しくフェネックが不安な顔をします。それを察したのかそうでないのか、ライは予測できる可能性を羅列しました。

 

 

 

「考えてられるのは、ヒグマたちが奴に攻撃を仕掛ける前に戦って敗れたか、何らかの事故で崖から落ちたか」

 

「そ、そんな」

 

「可能性の話よ。気になるなら崖の周囲を捜してくればいいじゃない。川に入らないなら止めはしないわよ」

 

「…うん。そうするねー…」

 

 

 

ライも心の機微には鈍感です。というより、その思考を無意識の内に真っ先に捨ててしまうのです。感情を優先してしまうのは論理的でなくて恥だと思ってしまうのです。フェネックに提案したのも、上の空のままでいてもらってもどうにもならないからです。

 

フェネックはライと一度視線を合わせて、そのまま遺構を去っていきました。やはり相棒の様子が気になって仕方ないようです。

 

 

 

「…あとはキングコブラとクジャクね。確認に向かいましょうか」

 

「ライ…お前、動けるのか?」

 

「ダメね。松葉杖じゃみんなの移動スピードに合わせられないし」

 

「じゃあ、誰かに運んでもらうか?」

 

「あんたはしてくれないのね、ツチノコ」

 

「バカ言え。俺はパワーバカじゃないし、お前を運ぶなんて危ないことやりたくねーよ」

 

 

 

ツチノコはそっぽを向いてぶっきらぼうに答えました。ライのイヤミも本気で言っていないとわかっていての態度なのです。お互いに信頼していると言ってもいいでしょう。

 

 

 

「あたしがいたんじゃ足手まといだから、じゃんぐるの地理に詳しいフレンズに行ってもらいましょうか」

 

「はいはーい。わたしいくよー」

 

「オカピも一緒にいくゾっ」

 

「お願いね、オカピにコツメカワウソ。あっちが動けそうなら連れてきてもらえる?」

 

「わかったよっ。じゃあ、ライちゃんもお大事にねっ」

 

「せいぜい休んでるわ」

 

 

 

コツメカワウソも夜更けのじゃんぐるへと駆け出していきました。

 

遺構に残るフレンズはライとツチノコだけです。騒がしかった場所も、雨上がりと共に静寂に包まれました。

 

 

 

「……じゃ、あたしは寝るわ。ツチノコも休んだら?」

 

「誰かは起きてないといけないだろう。お前はさっさと寝てしまえ」

 

「はいはい、昼行性のフレンズはお休みしますよーだ」

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「あーあ、今日はへんだなー。なんでみんな外に出て来ないんだろー」

 

 

 

水量が増えて大きな音を鳴らす川のそばを、一人のフレンズが歩いています。本来のさばんなの川は荒れることは少ないのですが、隣のじゃんぐるが雨季に入れば川の水はこちらまで押し寄せてきます。

 

そんなことには気づかず、このフレンズは同郷の仲間が出歩かないことを訝しんでいます。

 

さばんなの草の色になじむ黄色と黒のパターンの入った、茶店のスタッフのような服。ボブカットのように切り揃えられた黄色の髪から長い耳を立てています。周囲の音を探っているのでしょうか。

 

 

 

「おっきいセルリアンでも出たのかな?」

 

 

 

月明かりのない暗い川縁でも、彼女の瞳にはしっかりと光が映ります。しかし、特に面白いものは見当たりません。

 

どうやら夜行性らしい彼女は、あてもなくさばんなを歩き回っているようです。

 

 

 

「ん?なんだろう、嗅いだことないにおい…じゃんぐるのフレンズが遊びにきたのかな?」

 

 

 

水っ気のあるにおいが彼女の鼻を刺激しました。川のものとは違う、植物にも似たみずみずしいにおいです。

 

興味をひかれた黄色のフレンズは川の上流の方へと歩みを進めました。

 

 

 

「やっぱりなにかあるね!これは、…泡、かな?」

 

 

 

川縁に月の光を浴びて輝く泡を見つけました。このフレンズにとっては珍しいもののようで、興味を惹かれて駆け寄っていきます。

 

そこで、さらに驚くものを目の当たりにしました。

 

 

 

「えっ…フレンズ…?」

 

 

 

泡のそばで倒れているフレンズ。赤い作業着に濃紺のベスト、耳は見えず代わりに眼を覆うゴーグルが特徴的です。長い尻尾はゴツゴツとしていて、泥とサビで茶色く汚れています。

 

さらに近寄って彼女の様子を伺うと、息は絶え絶えで震えているようでした。

 

 

 

「き、きみっ!大丈夫!?」

 

「……ぅぅ…」

 

「寒いの!?溺れちゃったの!?」

 

 

 

ゴーグルの彼女の頭をかかえて表情を覗きました。蒼白な肌は月明かりのせいではなく、かすかに開くまぶたから見える青い瞳も光を捉えていないようです。

 

 

 

「ど、どうしよう…!」

 

「……さ………」

 

「だ、大丈夫だから!!わたしがなんとかするよ!!」

 

 

 

黄色のフレンズはうろたえながらも、必死にゴーグルの彼女に訴えかけます。穏やかな顔つきと同じく、心も優しさで満ちあふれているようです。

 

ずぶ濡れのゴーグルの彼女の肩を担いで、陸の方へ歩いて行きました。水気のない、暖かい場所へと運ぶつもりのようです。

 

 

 

「でも、どうしよう…。夜だから暖かいところは…」

 

 

 

夜のさばんなは日中から一転して気温が下がります。さばくほどではありませんが、変温動物たちにとっては厳しい変化です。

 

見たところゴーグルの彼女もその仲間のようですので、早く暖を取らなければなりません。しかし、十分に身体を暖められる場所を黄色のフレンズは知らないのです。

 

 

 

ひとまず川から離れて、見渡す限りの草原を突っ切ります。引きずる尻尾が金属音を鳴らして草を揺らしますが、摩擦熱はすぐに逃げてしまいます。刃を失った鉄塊が草を刈ることもありません。

 

 

 

「はあ、はあ…重いね、きみ…」

 

 

 

水で重くなった上に元々重量のある彼女を担いで運ぶのは、かなりの重労働です。黄色のフレンズの華奢な手足では力不足でしょう。

 

草の壁を抜けて土が丸出しの広場につくと、勢いよく黄色のフレンズは倒れてました。ゴーグルのフレンズも覆いかぶさるように横になります。

 

 

 

「はあ…はあ…。…お昼ならここは暑いくらいなのにな…」

 

 

 

地面はひんやりとして、火照った身体の熱を心地よく吸収していきます。

 

身体を起こして仰向けになると、夜風が吹き抜けてますます熱が抜けました。黄色のフレンズにとっては生理的によいことなのですが…。

 

 

 

「…きみは…これじゃダメだよね…!なんとかしなきゃ…!」

 

「………………」

 

「…なにか食べたら暖かくなるかな…?」

 

 

 

ヘビのフレンズは食物を摂取して体温を保つといいます。…とはいえそれは、生き餌を食べる、という意味なのですが…。

 

しかし、黄色のフレンズも食料を持ってはいません。小動物を狩ることなど、フレンズになってからしたこともありません。彼女に与えられるものはないのです。

 

 

 

「…なんにもないよー!どうしよー!」

 

 

 

頭をかかえて考えを巡らせますが、打開策は思いつきません。どうにも賢いフレンズではないようです。

 

今日に限って誰も周りにいませんし、黄色のフレンズは悩むばかりです。左右に転がって苦悩を叫びました。

 

少し疲れて横を向くと、ゴーグルの彼女が視界に入りました。今にも力尽きそうな、弱々しい表情。それを見たら、何かせずにはいられませんでした。

 

 

 

「!!なんとか…なんとかしなきゃっ…!」

 

 

 

考えることが苦手な黄色のフレンズは、衝動のまま行動を起こしました。

 

うつぶせになったゴーグルの彼女を仰向けに起こして、その上から抱きつきます。本能が知っている体温の温め方…身体を寄せ合うことで熱を逃がさないように共有するのです。

 

フレンズになる前は兄弟たちとこうした…のかもしれません。それが記憶のどこかに残っていて、そうしたのかもしれません。ただ、黄色のフレンズにできることがそれだけだったのかもしれません。

 

 

 

「大丈夫だよっ…絶対また元気になるよ…!」

 

 

 

何度も何度もそうささやいて、冷たくなった彼女の身体をぎゅっと抱き締めました。どこの誰ともわからないフレンズですが、そんなことはどうでもいいのです。助けたいと思ったから助ける。この黄色のフレンズはそういう性格なのです。

 

 

 

…ゴーグルの内側についていた雫は、川の水ではありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

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