「…うみゃ~…。…わたし…寝ちゃったのかな…」
遠くに見える“やま”の半分だけが、陽に照らされていました。瞳に入る光が多くて視界が一瞬真っ白になります。すぐに順応すると、昨日のことを黄色のフレンズは思い出しました。
「…あっ!そうだよ!あのフレンズはっ…!?」
自分の下にいる瀕死のフレンズに視線を下げました。衣服は既に乾燥していますが、やはり顔色は蒼白のままです。呼吸も感じ取れないくらい浅くて、まぶたも開いていません。
「そ…そんな……」
もう、彼女には打つ手がありませんでした。身体を温めれば元気になると思っていましたが、体温は黄色のフレンズと同じくらいにまで回復しているはずなのに未だ意識を取り戻しません。
こうなるとどうしようもありません。このフレンズの身体は自分のとは違うんだと、助ける方法が違うんだと、それを自分は知らないんだとうちひしがれてしまいます。
「…だ、誰か……いないの…?」
朝になれば行動するフレンズが増えますが、そもそもこのフレンズを助ける方法を知っている子はいるでしょうか。
そこまで思い付かないのがこの黄色のフレンズですが、問題はそこではありません。自分一人じゃどうにもならないという状況から脱却したいのです。
「誰か………げっ」
辺りを五感を使って探っていると、誰かの気配は察知しました。
会いたくもないやつに、です。
「セルリアン…!本当に出てたんだ…!」
昨日誰もいなかったのはこいつが理由か、とまゆを潜ませました。
草の壁を飛び越して見えたのはかなりの大物のセルリアンです。肥大化した球体を支えるように4本の足が地面を踏みしめています。黄色の彼女の跳躍力でも飛び越せない巨躯。質量の大きさはそれだけで武器になります。荷が重いことは本人が一番わかっているでしょう。
その上で、彼女は守らなければならないフレンズを気にかけながら立ち回らなければなりません。逃げるにしても重いゴーグルのフレンズをかかえて走らなければなりませんし、退治するにしても標的が自分だけになるとは限りません。
「気付かれない内に逃げようか…それとも…」
「……っ…」
「!!きみっ…!起きてるのっ…!?」
ゴーグルの彼女がかすかですが意識を取り戻したようです。喜びたい黄色のフレンズですが、状況が状況です。声をひそめてしゃべりかけます。
「……ひを……」
「動ける…!?動けるなら逃げて…!セルリアンはわたしが…!」
「………………」
その沈黙はノーを意味しました。自力で動ける状態ではないようです。
しかし、黄色のフレンズの声をセルリアンは探知したようでした。進行方向を変えてこちらに向かってきます。
「き、来たっ…!?」
「………………」
「…た、戦うしかないよ…!」
黄色のフレンズはとっさにゴーグルの彼女から離れてセルリアンの方へと駆け出します。彼女が見つからない可能性を少しでも上げるために。
セルリアンの目の前に立って臨戦体勢をとります。
「わ、わたしが相手だよっ!」
虚勢をはって声をあげますが、彼女も勝てる相手だとは思っていません。ハンターたちや強豪のフレンズたちが戦ってはじめて倒せるくらいの大物です。標的をゴーグルのフレンズからそらすのが精一杯でしょう。
見下ろすようにセルリアンの目が彼女を向くと、足を繰り出してきました。動きは鈍重で、黄色のフレンズはさっとよけて反対の足に爪を突き立てます。
「みゃぁぁっ!」
バキンっ
彼女の攻撃は簡単に弾かれてしまいました。全く傷もつけられず、セルリアンは気にも止めません。
「ほ、ほら!こっち、こっち!」
攻撃が通用しない以上、戦いにはなりません。そう判断した黄色のフレンズは陽動へ移りました。姿勢を低くしてセルリアンの股の下に入り込みます。
「反対に抜け出せばっ…!」
セルリアンは目で追うのを諦めると小さく跳ねました。空中で足を伸ばしてそのまま胴体で着地するようです。
まだセルリアンの下には黄色のフレンズがいます。いくらすばやいこのフレンズでも間に合いません。巨大な質量で押し潰されてしまうでしょう。
「……!」
その攻撃に気づいた黄色のフレンズは、がく然とした表情をしました。間に合わないことを察してしまったのでしょう。
…ですが、小さな破裂音と共に黄色のフレンズは水平方向に飛ばされました。
「うぎゃっ!」
「……これ、まで…か」
「いたたた…なに?これ…?いし…?」
横っ腹に何かがぶつかったようでした。起き上がってその何かを確認すると、赤く輝く石が粉々になっていました。破片はいくばくか熱を放ち焼けた匂いを漂わせます。
その正体が何かわかりませんが、助かったんだと認識しました。そして、敵に向き直ります。
「…あっ!そっちはだめ!!」
セルリアンは黄色のフレンズの方には目もくれず、ゴーグルの彼女の方へと歩を進めます。
反射的に駆け出しましたが、セルリアンを止める手段は思い付きません。そんなものないとわかっていますが、止まれ止まれと念じてセルリアンの足を爪で叩きます。
「止まってよっ!!その子は…!!」
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「爆発音…!ノヴァなのです!」
「助手!!そっちへ向かうのだ!!」
流されたノヴァを追ってきたアライさんと助手は、さばんなの上空を飛びながら彼女を探していました。アライさんをかかえて何時間も飛び回っている助手ですが、疲れの色を見せずにノヴァの足取りを追っています。
日も昇ってきて、そろそろ休もうかと考えた時でした。二人は聞き覚えのある爆発音を耳にしました。
「あ、あっち!大きなセルリアンがいるのだ!」
「…!ノヴァも一緒にいるのです!」
「急ぐのだ!ノヴァさんの危機なのだ!」
「言われなくてもなのです!!」
すぐさま助手は進路を変えて、セルリアンが見える方へと急降下しました。アライさんもいつでも降下できるように姿勢を整えて、タイミングを伺います。
「やらせないのです!ノヴァに手出しはさせないのです!!」
セルリアンの直上まで来ると、助手はアライさんを手放しました。勢いは殺さず、更に身体をしぼめることで速度を上げて突進します。
「そこです!!アライグマ、いしを狙うのです!」
「任せるのだ!お前なんか、あのセルリアンに比べたら虫けら同然なのだ!!」
助手の突進はセルリアンの真上にあるいしを浮き彫りにしました。
続けてアライさんが、セルリアンの頭の上に飛びかかります。落下の勢いを利用して、杭だけになったノヴァの秘密兵器をいしに突き立てました。
「終わりなのだ!!」
「終わりなのです!」
アライさんの杭はいしを貫いて、砕きました。その亀裂を伝搬するようにセルリアンはキューブ状に分裂して、霧散します。
地面に降り立った二人は声を合わせて、セルリアンの最後を見届けました。性格的にはデコボコな二人ですが、息のあった連携で大物セルリアンを仕留めました。追っているものが同じだからこそ、かもしれません。
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「…す、すっごーい!」
「…む?お前は…」
「サーバルですね?奇遇なのです」
助手とアライさんはセルリアンの影に隠れてもう一人フレンズがいたことに気づきました。助手には面識があったようで、黄色のフレンズをサーバルと呼びました。
しかし二人は一度だけ視線を合わせて、即座に振り向いて倒れている赤と青のフレンズの方へ駆け出しました。
「ノヴァ、しっかりするのです!助手が迎えにきてやったのです!」
「アライさんも一緒になのだ!帰ってみんなとぱーてぃーするのだ!」
「………………」
「二人とも、もしかしてその子のこと知ってるの?」
二人の焦りように違和感を覚えつつも、もしかしたらこのフレンズを助ける方法を知ってるかもしれないと思いました。それなら協力するしかありません。
「ノヴァさんは大事な友達なのだ…!」
「サーバル、ことの経緯を教えるのです!」
「わわっ!」
逆に質問を返されました。そういえば助手はそんなフレンズだったと思い出して、少し辟易します。
「うんとね、昨日の夜はずれの川の岸に打ち上げられてたから陸地まで運んできたんだ」
「ふむふむ」
「寒がってたからなんとか暖めてあげようと思ったんだけど、夜は寒いし水で濡れてたし…一緒に寝て暖めたけどうまくいかなかったよ…」
「…いえ、サーバル。お前は間違っていないのです。お前のおかげでノヴァは命拾いしたのかもしれないのです」
「え?」
不安げな顔をしたサーバルを尻目に、助手はサーバルをじっと見つめて言葉を続けました。
「このフレンズ…ノヴァの体温は本来我々とは比べ物にならないほど高いのです」
「身体が熱いの?」
「そうなのです。だからちょっとの気温の低下くらいではびくともしないのですが…。水がノヴァの身体の燃焼を妨げてしまうのでしょう」
「???」
「そして、その状態が長く続けば体温を維持できなくなるのです。凍えてしまうのです」
「………そんな」
「ですが、お前が温めてくれたおかげでかろうじて息をつないだようなのです。感謝しておくのです、サーバル」
「………………」
珍しく助手の口から感謝の言葉が出てきてあっけに取られたサーバル。自分がしたことの意味の大きさよりも、あの偏屈な助手がそんな物言いをしたこと…そうさせたこの赤青のフレンズに驚いているようです。
二人が話している間に、アライさんは赤く光る欠片を集めて持ってきました。
「これ…ノヴァさんの宝石なのだ…」
「ノヴァの?」
「あっそれ…セルリアンに潰されそうになった時に飛んできた…」
「……つまりは、ノヴァがお前を助けたのですね」
「そうなんだ…。…ありがとう」
そう言って彼女の顔を見ますが、ゴーグルの奥の瞳に光が宿ることはありません。
「でも全然熱くないのだ…。前に見せてくれた時は火がつくくらいに熱かったのに…」
「…逆に考えれば、その宝石もノヴァの体温を維持に役立ったのです。いろいろな偶然が重なってノヴァは今瀬戸際にいるのかもしれないのです」
「ど、どうにかならないの…!?」
サーバルは悲痛な声でそう助手に問いかけました。実は命を救ってくれた、瀕死の仲間をどうにかして助けたいと強く願っています。
アライさんも同じような視線を助手に向けます。助けたい気持ちは他の二人と変わらないのです。
「……可能性があるとすれば」
「ど、どうすればいいのだ」
「火を起こすこと」
「…え?」
「低温状態が長引けば長引くほど、ノヴァの身体は壊れていくのです。悠長に日光で温めている時間はないのです」
「ど、どういうこと…?」
「そこからいち早くノヴァを救うには、森を焼き尽くすほどの大火で温める…それしか考えられないのです」
「な、なにを言っているのだ助手!」
期待の視線を向けた助手から、破滅的な答えが返ってきました。ふざけているのではなく、助手の視線も至って真面目です。
「そんなことしたら、パークはっ」
「ええ、甚大な被害は免れないのです。火をつける手段はありますが、火を消す手段など知り得ませんので」
「だ、ダメだよっ!みんなの縄張りが」
「わかっているのです。ですが、他の方法はないのです」
「でも…」
「…それとも、ノヴァを見殺しにするのですか?」
助手の視線は真面目で、それゆえに狂気じみていました。ノヴァを助けるためなら、パークの半分を焼け野原にしてもかまわないと。私は本気なのですと眼が語ります。
脈打つ鼓動がサーバルとアライさんの二人の暗い感情を煽ります。足の震えが止まらず、何もしてないのに息も上がってきました。
「…さっきも言いましたが、時間はないのです。ノヴァの身体が壊死する前にことを起こさないと」
「………………」
助手はアライさんの手から赤い欠片を半分持っていくと、さばんなの青空に飛び立ちました。
「…よく燃える木を選ばなければならないのです」
「ま、待つのだ助手!」
「待たないのです。代わりの方法が見つからない限り…私はノヴァのために火の海を作るのです」
助手が振り返ることはありませんでした。数秒の後に二人の視界から消えてしまいました。
「……やるしかないのだ…」
「…え?」
「…代わりの方法を、見つけるしかないのだ…!」
「あ、アライグマ?」
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「…どこいっちゃったんだろー…?アライさーん…」
消息を絶ったアライさんの手がかりを求めて、フェネックは川を下っていました。
ライに言われた通り崖道を逆走しましたが、見つけたのはノヴァから託された秘密兵器の残骸くらいです。匂いも雨に流されて、手がかりは何もありません。
そうなればあとはノヴァの行方を追って川を下ったか、それとも本当にセルリアンに負けてしまったか。フェネックが信じるのはもちろん前者です。
「…あ、もうさばんなに着くんだー。さばんなって、きっと広いよねー…」
ひらけた視界は砂丘続きのさばくよりも広大に感じてしまいます。ここから手がかりもなく一人のフレンズを探すのは骨が折れます。
さすがのフェネックのメンタル力でも、これは堪えました。一瞬だけ足を止めてしまいます。
「…アライさん…ノヴァさん……」
ぎゅっと拳を握って溢れそうな感情を必死で抑え込みました。本当に助けが必要なのはアライさんやノヴァさんで、こんなところで折れそうになっている場合じゃないんだと奮起します。
下を向いていた首をあげて、さばんなの青空を見上げました。すると、川の方からザバーっと大きな音が鳴りました。
「うわぁー」
「…お~?フレンズはっけ~ん」