ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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のこされたもの

「…は?ノヴァが川に流された…?」

 

「…そうよ。作戦が瓦解してどうしようもなくなって、…討伐こそできたけど、ノヴァは奴に道連れにされた」

 

 

 

翌朝のじゃんぐるは、強い日射しが影をより濃くしてコントラストの効いた風景になっていました。

 

容態が回復したキングコブラと付き添いのクジャクはライのところに呼ばれました。もちろん、ノヴァのことを伝えるためです。

 

 

 

「…どうなったんですか、ノヴァさんは」

 

「…確認はしてないけど…生きてるとは到底思えないわ」

 

「…確証はないんだな?」

 

「ええ。探しにいったフェネックも行ったっきりだし、他の連中は自分の縄張りに帰っていったわ」

 

 

 

じゃんぐるの遺構に残っているのはライとツチノコ、ケガをした博士やキンシコウ、アクシスジカくらいです。じゃんぐるの住人たちは結局自分たちで復興する段取りを固めました。

 

ライ自身も博士や助手が復帰するまではしんりんのとしょかんに帰れません。

 

一つだけ事実を確認したキングコブラは即座にきびすを返しました。

 

 

 

「…あんたも行くの?」

 

「当然だ。ようやく出会えた、私の探し人なんだ」

 

「コブラさん…」

 

「ロマンチストね。あんたの熱っぽいところ、あいつにそっくりよ」

 

 

 

ライはその言葉と一緒に、何かを手で放り投げました。何かはキングコブラとクジャクの間をすり抜けて、遺構の木の柱に突き刺さりました。

 

 

 

「それ、オセロットから。コブラに返してほしいって」

 

「…!ノヴァがくれたナイフ…」

 

「あんたのなんでしょ?…形見として持っておけば?」

 

「……形見なんかじゃないさ。私の誓いだ」

 

 

 

深々と刺さった青いナイフをキングコブラは易々と引き抜きます。彼女も扱いになれてきたようです。

 

そのまま一瞥することもなく、遺構をあとにするキングコブラ。後ろにクジャクがついていきます。

 

 

 

「…あの川の行き先はさばんならしいわ。何かわかったら連絡しなさいよ。まあ、無駄骨にならないことを祈ってるわ」

 

「…ああ」

 

 

 

つくづくイヤミな奴だと思うキングコブラですが、何故か嫌いになれません。ライは彼女をロマンチストと言っていますが、助けにいきたくてもいけない自分をリアリスト称して正当化しているだけともとれます。

 

使い回されて切れ味が落ちたはずのナイフは、まるでノヴァが研磨したかのように鋭さを取り戻していました。熱して、冷まして、研いで…その工程を行えるフレンズはノヴァを除けば一人です。

 

 

 

「……全く、わかりづらい奴だ」

 

「ライさんのことですか?…何であんな態度を取っちゃうんでしょう?」

 

「それが、ノヴァの大好きな“ヒト”ってやつの感情だよ」

 

 

 

刃の峰には、黄緑の輝石がちりばめられていました。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

 

「火を…ノヴァさんが満足するほどの火を起こす方法…!」

 

「うぅー…わかんないよー…」

 

 

 

日が昇って気温はどんどん上がっていきますが、ノヴァの意識は朦朧としたままです。このまま手が打てなければ次の夜は越せないでしょう。

 

アライさんとサーバルは顔を合わせて知恵を絞り出そうとしますが、あいにく二人とも頭のいいフレンズではありません。頼れるはずの助手は狂気の策を引っ提げて暴走し、火の扱いの達人のノヴァはコミュニケーションを取れないくらいに弱っています。

 

 

 

「お前とアライさんじゃダメなのだ…誰か頭のいいフレンズを…」

 

「わ、わかったよ!アードウルフちゃんって結構物知りだから聞いてみるね!」

 

 

 

らちが明かないと判断したアライさんは頭のいいフレンズの知識を借りることを思いつきました。即座にサーバルが反応して思い付いた頭のいい知り合いのところに駆け出します。

 

 

 

「ああ、フェネックがいたらなんとかなるのに…」

 

 

 

アライさんは自分の頭脳の限界を理解しています。だからこそ、となりにフェネックがいなければアライさんは成功できないことも自覚しています。ただただ、フェネックを置いてきてしまった自分を悔やんでいるのです。

 

 

 

「縄張りまで結構距離があるけど…急がなきゃ…!」

 

 

 

瀕死の状態ながら自分を助けてくれたノヴァに、サーバルは感謝と好意を抱いています。助けるのは自分のはずなのに、助けられた悔しさと申し訳なさも小さくありません。色々な気持ちが心をかき乱しますが、サーバルの足は止まりません。考えれば考えるほどピッチは加速していきます。

 

 

 

 

 

 

________________

 

 

 

 

 

「…え、キミは目でものが見れないのー?」

 

「そうだね~。狼さんにやられちゃったんだ~」

 

 

 

さばんなの獣道を歩くフェネックともう一人のフレンズ。白と紫のフレンズ…骨のセルリアンを海へ連れていった彼女です。

 

紫の尻尾からは絶え間なくすべすべした液が染み出て、泡となって宙を漂います。風景を映し出す不思議な泡にフェネックも興味津々です。

 

 

 

「でもね~。泡のおかげで全然困らないよ~」

 

「どういうことー?」

 

「泡が全部“見てくれる”から、ぼくは聞いてるだけでいいんだよ~」

 

「???」

 

 

 

このフレンズの言っていることがフェネックには理解できませんでした。目が潰れているのに“見る”とはどういうことなのか。理屈が通りません。

 

逆に“見る”と言ったのは揶揄で、他の感覚で泡の様子を探っているのでしょうか。たとえば音なら泡を伝って認知できそうですが、それでも視覚と同等の情報量を得られるかといえば不足と言わざるを得ません。超音波でやりとりできるフレンズですら見たままを伝えるのは不可能ですから。

 

フェネックは考えてるの考えてないのかわからない表情をしていると、泡のフレンズは口を開きました。

 

 

 

「まあまあ~、深く考えなくていいよ~。ぼくも詳しくは知らないからね~」

 

「そうなんだー。…でも、名前くらいは知ってるよねー?」

 

「名前かぁ~。気にしたこともなかったな~」

 

 

 

フェネックはまたも予想外の受け答えに頭を悩ませました。自分よりひょうひょうとした性格のフレンズは相手にしたことがないので、上手な対応が思い浮かびません。

 

 

 

「あの子は“タマミツネ”って、ぼくを呼んでたけどね~。まあ、あんまり興味ないかな~」

 

「呼ぶ名前がないと面倒だよー」

 

「…そうだね~。今まではずっと一人でいたから不便もなかったからね~」

 

 

 

このフレンズを追跡していた時から、ものすごいスピードでパークを移動していたのは知っています。彼女を目撃したフレンズはいても、彼女の声を聞いたフレンズはいませんでしたし。一人でいることが好きなのでしょうか。

 

フェネックも考えている様子ですが、今度は泡のフレンズも考え中です。何も考えてそうにない表情をしていますが、決しておバカなフレンズじゃない…フェネックはそう感じています。

 

 

 

「…ねぇ、名前、つけてほしいな~」

 

「ええー…突然すぎだよー」

 

「ノヴァやライみたいに、みんなにつけてほしいんだ~」

 

「…え、ノヴァさんとライさん知ってるの~?」

 

「まぁね~。あの子がご執心だからね~」

 

「………………」

 

 

 

聞きたいことはたくさんありますが、一々確認していては昇った日が落ちてしまいます。それは追々聞くとして、名前を考え始めました。

 

 

 

「…そのタマミツネって名前じゃ不満なのー?」

 

「うーん、折角だからあの二人みたいにフレンズからもらいたいんだ~」

 

「そっかー…」

 

 

 

私にそんな大役務まるかなーとか、そういうのはアライさんの役割だよーとか思いました。

 

 

 

「…私じゃないとだめー?」

 

「うん、だめ~。アライさんの相方のフェネックじゃないと~」

 

「私のことも知ってたんだー」

 

「泡が追ってくるキミたちを見てたからね~」

 

 

 

その言葉に底知れぬ恐怖を感じましたが、スルーします。これ以上踏み込んじゃいけないことだと察して、真面目に彼女の名前を考えます。

 

川を泳いできた、泡でものを見る、ヘビともキツネともとれる見た目の、白と紫のフレンズ。

 

 

 

「…ミズネ、でどうかなー」

 

「ネズミ~?」

 

「違うよー。これでも真面目考えたんだよー」

 

 

 

 

 

 

「ノヴァさんは炎と光、ライさんは風と雷。もしキミが同じく四神の力を持ってるとすれば、その性質はセイリュウ…水と雨の力」

 

 

「それから、キミはやっぱり私に似てるんだー。耳の形状とかねー。あと少し冷めた物の見方をするところとかもねー」

 

 

「だから、水のキツネ。略してミズネ。…どうかな」

 

 

 

泡のフレンズの表情は変わりません。心情が読めない、緩んだ笑顔のままです。視線が合わさらないことがこれだけ不安を煽るんだ、とフェネックは視線を下に向けてしまいます。

 

それを知ってか知らずか、泡のフレンズは高揚したように声を上げました。

 

 

 

「うん、すごくいいよ~!ミズネ!…特別な感じがするよ~!」

 

「そ、そうかなー」

 

「うんう~ん!フェネックに会えてほんとによかったよ~!」

 

「わー」

 

 

 

こらえきれなくなったのか、泡のフレンズ…ミズネはフェネックに抱きつきました。すると彼女の被服に染みていた潤滑液が擦れて、瞬く間にすべすべした泡がフェネックを覆います。

 

 

 

「え、待ってー、泡がー」

 

「えへへへへ~」

 

「わっとー」

 

 

 

潤滑液はすぐに足元にたまって、接地面の摩擦を奪います。こうなるとさばんなの乾いた土でも簡単に転んでしまいます。

 

案の定フェネックも足を滑らせて、後ろに傾いてしまいました。

 

 

 

「危ない危な~い」

 

「わ、ありがとねー」

 

 

 

ミズネはいつにもまして素早くフェネックの腕を引いて体勢を持ち直しました。ミズネ自身は泡の上でもある程度踏ん張りが効くようで、土が足で穿たれています。

 

 

 

「ごめんね~。泡のせいで周りをズルズルにしちゃうんだ~」

 

「そうなんだー…。まあ、フレンズの特性ならしょうがないよねー。ノヴァさんだって騒音鳴らしながら歩いてるしー」

 

「はは~、すごいよね~あの音。ぼくもびっくりしちゃうよ~」

 

 

 

意外なところで共感が得られて、自然と笑顔になる二人。ノヴァが無意識に鳴らす金属音はもはや特徴として捉えられているようです。

 

その笑顔を見たフェネックは、また不思議な光景を見ました。ミズネの開かないまぶたの奥から、青白い光が透過しているのです。まるでノヴァが放つ火炎のようにゆらめく光は、遠くから見れば目にも見えるでしょう。

 

 

 

「まあ、探しにいかないとね~。ノヴァと、アライさん」

 

「アライさんがどこに行ったか知ってるのー?」

 

「知ってるよ~。流されたノヴァを追ってアライさんも川を下ってきたんだ~。あと、茶色の飛ぶフレンズもね~」

 

「あ、助手だねー、それ」

 

「あの二人がノヴァの救助に行ったはずだから、さばんなにいると思うんだ~」

 

「うん、じゃあ、一緒に探そっかー」

 

 

 

感情が言葉に表れないものの、フェネックは手がかりが見つかったことで喜びと安堵を感じています。

 

意気投合したらしい二人は、さばんなの奥の方へと歩き始めました。

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

「火、ですか?」

 

「そう、火!何か燃えるものって知らない!?」

 

 

 

サーバルはあなぐらで休んでいたアードウルフに会うなり、火が必要なの!と声を張り上げました。本人も状況を上手く説明できてませんが、アードウルフは真面目に考えて察しようとしています。

 

ツートーンの毛並みの、少し気の弱そうな彼女。さばんなの住人の中では比較的温厚な性格で、引っ込み思案なあまり友達は多くありません。やかましく騒いできたサーバルともあまり深い仲とは言えません。

 

 

 

「いきなり言われても…」

 

「そ、そうだよね…ごめん」

 

「火……雨季の時に落ちる雷で木が燃えたりしたっけ…」

 

「今は乾季だよー…!」

 

 

 

ですがアードウルフは嫌な顔をしないで、自分にできる最善をします。もっと深く心を通わせたいといつも願っているのが、彼女です。ここぞと言わんばかりに知識を巡らせます。

 

 

 

「…あっ」

 

「ど、どうしたの!?何か思い付いたの!?」

 

「この前みんなで決めた、近寄ったらダメって決めた洞窟、知ってますよね?」

 

「そ、そうだっけ。そんなのあったっけ」

 

「サーバルちゃんもその場にいましたよね?」

 

 

 

なんのことだろー…、と目を泳がせるサーバルを見て、アードウルフはくすっと笑いました。サーバルが話をよく聞かないことはアードウルフも知っていますので、予想の範囲内のようです。

 

一息ついてから、アードウルフは説明し始めました。

 

 

 

「岩場の方に陥没した洞窟があるのは知ってますよね?」

 

「う、うん」

 

「そこなんですけど、最近の異常気象で雷が落ちてきたそうです」

 

「あー、じゃんぐるちほーみたいに激しいスコールが降った時かな?」

 

「そうです。スコールが過ぎた後洞窟に近づいたフレンズが、“洞窟が光ってる”って知らせてくれました」

 

「???」

 

 

 

サーバルは話が掴めなくて頭の上に?マークをたくさん並べています。なんで洞窟が光ってるのか、そもそもそれが火につながる話なのかわかってません。

 

理解できてなさそうですね、と苦笑いしながらアードウルフは説明を続けました。

 

 

 

「ハンターさんたちが調べたところ、洞窟には“がす”や“せきたん”がたくさんあって、それが雷で燃えてしまったとか」

 

「………………」

 

「今も赤い光を放つその洞窟は危険だってことで、さばんなのみんなとハンターさんたちで立ち入り禁止にした…んです」

 

「!!!」

 

 

 

細かい話をサーバルは理解していないようですが、必要な情報は聞けました。

 

洞窟は今も燃えている。そこに行けばあの赤青のフレンズを助けられる。

 

そこまで理解した時、サーバルは反射的にきびすを返しました。

 

 

 

「ありがとう!アードウルフちゃん!これであの子を助けられるよ!」

 

「え?あ、はい」

 

「今度一緒に遊ぼーねー!」

 

 

 

大声で後ろを向きながらサーバルは来た道を戻っていきます。こうなった彼女は止められません。アードウルフも一体どうしたんでしょうと思いながら手を振りました。

 

 

 

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