ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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のこしたいもの

 

 

「ぬぅぅ…ノヴァさんみたいに上手くいかないのだ…」

 

 

 

カチン、カチンと杭と赤い石を打ち付けていたアライさん。しかし杭に熱は回らず、赤い石も反応しません。

 

ジリジリと照り付ける日射しに体力を奪われて、アライさんもノヴァの隣に横たわりました。青い怪物と戦った時の傷もまだ癒えておらず、意識した途端痛みが走ります。

 

 

 

「…どうすればいいのだ…ノヴァさん…」

 

 

 

アライさんはなにもできないのか、フェネックがいなければなにもできないのか、そんな暗い感情がアライさんの視界に闇を作り出します。

 

 

 

「お腹減ったのだ…。今日は何も食べてないのだ…」

 

 

 

さすがのアライさんも空腹には勝てません。ぐぅーっとお腹の虫が鳴いて、顔の疲労感を色濃くさせてしまいます。

 

 

 

「……ああ、ダメなのだ…アライさんは…」

 

 

 

傷と汚れだらけの鉄の杭がアライさんの手から離れて、カランカランと音を立てました。

 

 

 

「…ごめんなのだノヴァさん。少しだけ休ませてもらうのだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…。やっと着いたよ…」

 

 

 

しばらくするとサーバルが走って戻ってきました。こんなに全力疾走を続けたのは初めてで、元々長距離走は得意ではなかったので息を大きく切らせています。

 

 

 

「あったよ!火が!今連れていくからね!」

 

 

 

横たわるノヴァの肩を担いでさばんなを歩き始めたサーバル。意識のほとんどないノヴァを運ぶのはさらに体力を消耗させます。

 

サーバルは苦しそうな顔をしながらも、一歩一歩力強く歩を進めます。ノヴァを救いたいと思う気持ちだけが、限界近くまで疲労した身体を動かしているのです。

 

 

 

「…あ、アライグマ。…あなたもお疲れなんだね…」

 

 

 

ふとノヴァの横に転がっていたアライさんを見て、サーバルはにっこりと笑いました。遠くからこの子を探しに来たんだから疲れて当然だよね、と少し労いの言葉をささやいて前に向き直りました。

 

 

 

「あとは任せて」

 

 

 

彼女にとっては耳障りな金属音に身体を震わせながらも、光る洞窟へと進んでいきました。

 

 

 

 

 

 

______________

 

 

 

 

 

 

「日射しが強いな…。日陰で上手くやり過ごさないとな」

 

 

 

じゃんぐるからさばんなの端へとやってきたキングコブラ。植生が極端に変わる緩衝地帯ですが、さばんなの日射しを長時間浴びれば彼女も消耗してしまうでしょう。

 

 

 

「…地の利もないしな、聞き込みから始めよう」

 

 

 

彼女は眼や探知器官を集中させて周りにフレンズがいるかどうかをチェックします。すると、見知った気配を感じました。

 

 

 

「…誰だ…?…じゃんぐるの連中でもないし…」

 

「……誰かいるのですか?」

 

「その声…助手か?」

 

「やはりキングコブラだったのです」

 

 

 

声の主…助手は中途半端に育った木の上から降りてきました。手には木の枝を何本もまとめて持っています。

 

 

 

「ライがお前を探していたぞ」

 

「戻っている暇はないのです。一刻を争う事態なのです」

 

「そうだな、ノヴァが流されてたって聞いて追ってきたんだが。助手、何か知ってるか?」

 

「知っているのです。…もっとも、生命の危機に陥っているのですが」

 

「え?」

 

「ノヴァは水を浴びて低体温になっているのです。このままでは明日を迎えられないのです」

 

 

 

助手は簡単に状況を説明しました。キングコブラは割と頭のいいフレンズでしたが、一刻を争う状況なので助手は手短に話します。

 

 

 

「…つまり、山火事を起こすくらいの大きな火がなければノヴァは助からないということか?」

 

「そうなのです。ですから私が“ひだね”に使えそうな木を探しているのですが…さばんなにもじゃんぐるにも、いいものがないのです」

 

「………………」

 

 

 

冷静に状況を確かめるキングコブラでしたが、助手の意見には驚きと懸念の表情を見せます。

 

 

 

「…松やしだのしなる木なら、やにもたくさん入ってて使えると思ったのですが…しんりんまで戻る時間はないのです」

 

「…どうしても火の海にしないといけないのか」

 

「いいえ、必然的にそうなるのです。燃え広がった火を消す方法などわからないのです」

 

「水をかければ消えるんじゃないのか?」

 

「その水源がないのです。大河の通ってるじゃんぐるでさえ、水を運んでかける手段がないのです」

 

 

 

火について我々は知らなさすぎなのです、と小言をもらした助手。無表情なのは相変わらずですが、不本意であることは伝わりました。

 

ですが、やめるつもりもないという覚悟も見て取れます。助手はそれだけ真剣なのです。

 

 

 

「…せめてやるなら、各ちほーのフレンズを避難させてから、だ」

 

「時間がないのです。こうしている間にも、ノヴァは…」

 

「それで助かったとして、ノヴァは喜ぶのか?いや、あいつは悲しむはずだ」

 

「…?」

 

「…みんなを守るために命懸けでセルリアンと戦ったフレンズだぞ?自分のために誰かが犠牲になるのは認められないはずだ」

 

 

 

キングコブラも強い視線で助手に言葉を突き付けます。自分が見込んだ王の器は仲間に犠牲を強いる選択を拒むはずだ…自分がそうであるように真の王たるノヴァもそうでなければならないと信じているのです。

 

だから、最良の選択を探す。誰も犠牲にならない方法を考える。ヒトの知性に与えられた、貴ぶべき力。ノヴァなら迷わずそれを実行するでしょう。

 

 

 

「…では、それはお前に任せるのです。…ノヴァが手遅れになる前に、避難を完了するのです」

 

「…本当にそれしか方法はないのか」

 

「……“かせきねんりょう”がある岩場なら、そこだけで済むかもしれないのですが…」

 

「心当たりはないのか」

 

「露天掘りできる場所はパークにはないのです。あっても洞窟の奥なのです」

 

 

 

助手もパークのあちこちを調べている情報通です。目立つ場所は随分前に調査しています。そのフレンズがないと言うのなら、やはりないのでしょう。その点においてはキングコブラも評価しています。

 

 

 

「…ああ、わかった。手始めにさばんなのフレンズから声をかけていこう」

 

「あと火が回りそうなのはじゃんぐるなのです。さばんなの目星がついたらそっちにも向かうのです」

 

「任せておけ」

 

 

お互いに意志を確認して、二人は別の方向へと向き直りました。

 

 

 

「…なあ助手」

 

「どうしたのです?」

 

「ノヴァのことで変な言い合いをしてすまなかった。…あいつだって完璧なフレンズじゃないって、気づいてなかった」

 

「かまわないのです。だって、ノヴァを支えたいのは一緒なのですから」

 

 

 

二人とも一瞬だけ立ち止まって、また歩き始めました。

 

 

 

 

 

 

_______________

 

 

 

 

 

 

既に日は高く昇って、真上から日射しを降り注がせます。休むには少々つらい明るさと気温。フレンズたちも日陰や水辺で休憩しています。

 

フェネックとミズネも孤立した大きな木の根元で一休みしていました。

 

 

 

「ごめんね~。日射しはあまり得意じゃないんだよね~」

 

「さばくを縦断した時もあったよねー?」

 

「すぐに洞窟に入ったからね~。長くはいられないよ~」

 

 

 

木の周りにも不思議な泡が立ち込めて、光を屈折させています。そのおかげか更に気温が下がった気がしています。

 

なかなか心地よい環境で、フェネックも眠気を感じてきました。

 

 

 

「まあ、無理は禁物だねー。アライさんみたいにどこでも生きていける身体じゃないからねー」

 

「へぇ~すごいね~アライさん。…なんだか近くにいそうな気がする~」

 

「えー?ほんとー?」

 

「なんかね~、ぼくの落とした石の匂いがするんだ~」

 

 

 

フェネックはハッとしました。アライさんが持っていたのはミズネの持っていた石のはずです。彼女自身が感じ取ったということは、ほぼ間違いなく近くにあるということです。

 

フェネックはそれを感じ取れませんでしたが、立ち上がってアライさんの気配を探り始めました。

 

 

 

「どこにいるかわかるー?」

 

「う~ん。あっちの草の長いところかな~?」

 

「ありがとーミズネ。私が探してくるからここで休んでてー」

 

「わかった~」

 

 

 

いても立ってもいられずフェネックはミズネが指差した方角へと駆け出します。

 

フェネックは今のようにアライさんを見失うことは初めてでした。アライさんが明後日の方向に走っていっても、後ろから見守って追うのがフェネックの役割と考えていました。実際、そのおかげで二人は苦難を乗り越えられたのです。

 

こうして離ればなれになって、アライさんが今どうしているか考えるだけで胸が苦しくなります。大変な目にあってないか、解決策が見つからなくて困ってないか、…こんなにさびしさを感じるのはなぜか、それしか考えられません。

 

 

 

 

 

 

「……はっ!思い切り寝てしまったのだ!」

 

 

 

ふと目が覚めたアライさん。思考が回復して一番大切なこと…隣で横たわっているノヴァの容態を確認します。

 

 

 

「…あ、あれ?ノヴァさん…?」

 

 

 

しかし、アライさんの周囲にノヴァの姿はありませんでした。見つけられたのはノヴァの刃の欠けた尻尾が地面をえぐった跡だけでした。

 

 

 

「ど、どういうことなのだ…?ノヴァさん?ノーヴァさーん!」

 

 

 

呼んでみても返事はきません。緩やかな風の凪ぐ音が通るだけです。

 

しかし、別の誰かがアライさんの声を聞き届けたようです。

 

 

 

「!!!アライさーん!!そこにいるのー!!」

 

「その声!フェネックなのかー!?」

 

 

 

アライさんにも聞き覚えのある声でした。置いてきてしまった相棒の、自分を呼ぶ声です。

 

アライさんも相手に聞こえるように声を更に張り上げました。

 

 

 

「ここなのだー!!アライさんはここにいるのだー!!」

 

「アライさーん!そこだねー!今行くねー!」

 

 

 

草をかき分ける音が聞こえて、アライさんは草むらを注視しました。徐々に大きくなる音と、慣れ親しんだ匂いが近づいてきます。

 

そして姿を現したのは、目尻に涙を溜め込んだ相棒。普段は表情を崩さないマイペースなフレンズが、今にも感情を爆発させそうでした。

 

 

 

「アライさーん!!」

 

「フェネックー!!うぇっ!!?」

 

 

 

駆け寄ってきたフェネックは勢いをそのまま、やっとこさ立ち上がったアライさんを押し倒しました。その時に、背中の傷に痛みが走ったのは内緒です。

 

 

 

「ど、どこに行ってたのー!!?」

 

「ごごめんなさいなのだ!ノヴァさんが流されたのを見たら身体が勝手に…」

 

「アライさんはほんとアライさんだねー!」

 

 

 

泣きぐしゃりながらもいつものようにアライさんに小言を並べました。普段感情の波が穏やかなフェネックですので、その様子を見たアライさんは更に慌てます。

 

 

 

「もう一人で突っ走ったりしないのだ…」

 

「心配したんだよー。…でも無事でよかったー…」

 

「…は!ノヴァさんは無事じゃないのだ!」

 

 

 

相棒との再会もつかの間、アライさんは大事なことを思い出しました。

 

 

 

「ノヴァさんがいなくなったのだ!さっきまでここで寝てたのに!」

 

「えー?」

 

「一人で動ける様子じゃなかったから…もしかしたらサーバルがどこかに連れていったのかもしれないのだ!」

 

「サーバル?さばんなの子かなー?」

 

 

 

アライさんは知りうる限りの情報をフェネックに伝えました。ノヴァが低体温で生命の危機にあること、それを救うには草木を焼きつくすほどの大火が必要なこと、助手がそのための準備をしていること、一緒にいたさばんなのサーバルと他の方法を探しているということ。

 

フェネックは一つずつ確認して、状況を把握しました。

 

 

 

「…じゃあ、私たちができるのは二つだねー」

 

「二つなのか!?」

 

「そうだよー。一つはそのサーバルちゃんを探してノヴァさんの様子を確認すること。もしかしたら火を見つけたのかもしれないしねー」

 

「どうとも言えないのだ…。話を聞きにいったっきり会ってないのだ…」

 

 

 

状況を判断するには情報が足りないことはアライさんもわかっています。サーバルを探すにも行き先がわからないし、ノヴァを連れていったのかも不明です。

 

続けてフェネックはもう一つの選択を告げました。

 

 

 

「もう一つは、ノヴァさんのことはサーバルちゃんに任せて、助手を止めることだねー」

 

「え?」

 

「これから走り回ってサーバルちゃんやノヴァさんを探しても見つからないかもしれないからねー。なら、助手がパークを焼くのを止めた方がいいよねー」

 

「え、でも…」

 

「…それでノヴァさんが助かったとして、ノヴァさんは喜んでくれるかなー?パークやみんなのことを守ってくれたノヴァさんが、自分のせいで仲間のすみかがなくなったって聞いたら、絶対悲しむよねー」

 

「……それはそうなのだ」

 

 

 

二人が抱くノヴァのフレンズ像は共通していました。フレンズとして生を受けたことを感謝して、パークに遺された“ヒトの遺産”に興味津々で、自分を仲間として受け入れてくれたフレンズたちが大好きな、強くて優しいリーダー。

 

だからこそ、今度は自分たちがノヴァとパークを守らなきゃいけない。彼女の成した偉業に酬いるにはそれくらい大きなことをしないといけない。

 

フェネックの言葉でそれを確認したアライさんは、言うことを聞かない身体をぐっと伸ばして、前に向き直りました。

 

 

 

「よし!目標が決まったのだ!」

 

「おーそれはー?」

 

「ノヴァさんが帰ってくるまでパークを絶対に守るのだ!」

 

「私もついてくよー」

 

 

 

拳を天に突き上げたアライさんですが、ぎゅーっとお腹の虫が鳴きます。フェネックは半分だけ口を開けて、じーっとアライさんを見つめます。

 

 

 

「私のじゃぱりまん半分こしよー」

 

「ありがとうなのだ…」

 

 

 

かっこよさとは無縁の、不器用な実直さこそがアライさんの原動力なのです。かっこよくしめられなくてもアライさんならやってのける、確証のない確信がフェネックのひび割れかけた心を埋め立てました。

 

 

 

 

 

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