ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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いなずまのはんぎゃくしゃ

日が沈みかけ、オレンジの光がとしょかんを照らし始めました。

 

本から必要な情報を抜き取るのはノヴァの得意とすることではないので、漂流したフレンズの看護をすることにしました。

 

助手の指示の下、漂流したフレンズのケガした部分の衣服を切り取り、水で濡らした布で患部を冷やします。助手が“ちょいちょい”したという消毒液で傷口をきれいにしてやるのが大事だそうです。

 

 

 

「…あなたも、大変だったな」

 

 

 

くすんだ金色と黄緑の前髪をかき分けて顔を覗きます。今は安静で睡眠しているようですが、それでもわかる表情の鋭さ。眉間のシワは緊張していない今でも消えることはなく、つぶったまぶたは目尻で跳ね上がってます。

 

ノヴァ自身も強面といえば強面ですが、どちらかといえばジトっとした目で表情も固いのでこんなに攻撃的な顔をしていません。

 

 

 

「…うっ…うぅん……」

 

「!…目が覚めたか?」

 

 

 

ギラついた赤い瞳がノヴァの姿を写します。意識はまだぼんやりしているのか、言葉は中々出てきませんが。

 

起き上がろうとしますが、ノヴァは頭を押さえて止めます。

 

 

 

「おっと、まだ安静にしているんだ。あなたは重篤なケガをしている」

 

「う…」

 

 

 

足に痛みが走ったらしく、つらそうな表情をしました。その時に身体に電流が走ったらしく、ノヴァの手からバチっと破裂音が鳴ります。

 

 

 

「…雷の力を持つのだな」

 

「……そうよ。気安く触らないで」

 

「それはすまなかった。私も電撃を食らうのは嫌なので気を付けるとしよう」

 

 

 

ソファから少し離れて座り直しました。

 

彼女は雷のように気性の荒い性格らしく、ノヴァも少し遠慮がちになります。雷のフレンズを救ったのが事実とはいえ、恩着せがましくすり寄るのはあまり好ましい態度とはいえない、とノヴァは自重してしまっているのです。

 

 

 

「…!こんなにヒドイ怪我してたの、あたし…」

 

「傷口がずっと水に浸かっていたみたいで、治癒が遅れているようだ。それどころかこのままでは治らないと言っていた」

 

「え?」

 

「壊死、が進んでいるとか何とか。放置すれば全身に広まって腐っていく、らしい」

 

 

 

自分の傷を見て、雷のフレンズは顔を歪ませました。一目見れば、自分がどんな状態かイヤでもわかるくらいに重傷なのです。

 

ノヴァは事実を淡々と口にします。それがどれだけ残酷なことかは、彼女にはわかっていません。高度なコミュニケーション能力を得て間もないノヴァには、それが他人にどれだけの影響を与えるかなど知る由もないのです。

 

 

 

「そ、そんな、ウソよっ…!あたしの足が、腐るだなんて…!」

 

「残念だが、事実なんだ。あなたのその足でもう歩くことはできない」

 

「…バカ言わないでよっ!!」

 

 

 

バチバチバチっ!!

 

 

 

雷のフレンズの至る場所に黄緑に光るスリットが走って、放電します。ソファの革張りに黒い焦げ目がつき、水の入った桶が破裂しました。

 

頭のとさか状の髪、横のガラスのような翼、ハサミのついた尻尾、着ていたパイロットスーツにも光が宿って…しかしながら傷のついた足だけは光ることはありませんでした。

 

 

 

「……それが事実なんだ。受け入れるしかない」

 

「ウソよっ…ウソよ…!」

 

「さわがしいですね。どうしたのです?ノヴァ」

 

「助手か。…あいつが目を覚ました」

 

「お目覚め早々ド派手にやってくれたのですね」

 

 

 

放電の音を聞きつけて、いぶかしげな顔をして助手が上から降りてきました。

 

 

 

「まず落ち着くのです。落ち着いてお互いに情報を確認するのです」

 

「落ち着いてなんてっ、いられないわよっ!あんた達もそうやって、人間どもみたいにっ!」

 

「落ち着け」

 

 

 

なおも放電をやめず黄緑の雷光でとしょかんを照らしますが、ノヴァが濡れた布を丸めて投げつけます。とさかにクリーンヒットして電力をすべて放出してしまいました。

 

 

 

「ぎゃんっ!」

 

「彼女…ノヴァはお前を助けた命の恩人なのですよ?感謝こそすれ、邪険に扱うのは筋が通らないのです」

 

「良心が残っているのなら、とりあえず話を聞いてくれ」

 

 

 

「私はワシミミズク。このとしょかんで博士の助手をしているのです。そしてこの赤と青のフレンズはノヴァ。お前と同じく正体不明のフレンズなのです」

 

「…フレンズって、なんなのよ」

 

「サンドスターの影響で、ヒトの特徴を持った動物のことなのです。お前もその一人なのです」

 

「違う種でありながらヒトの特徴というつながりで共存できる、そういう生き物なんだ」

 

「だから、あたしを助けたと?」

 

「そうだとも。私だって、フレンズになる前は他者をただ切り捨てる暴れものだったんだ」

 

「…知らないわよ。あたしは生まれた時から一人なのよ。親の顔なんか見たことないし、周りにいたのはあたしを食おうとするやつらだけ」

 

「……そういう種だったのですかね。周りにいるものは全て敵で、排除しなければ気がすまないという」

 

 

 

親に見放されれば自ずとそうなるだろうとノヴァは納得しました。他を思いやることなど無駄でしかないとわかるのだから。

 

前のノヴァならその考えに賛成していたでしょう。自分とて獰猛に外敵を狩るヒエラルキーの頂点の一つだったのだから。

 

ですが、今はヒトです。本物のヒトとは呼べないかもしれませんが、尊敬すべき“心”を持った存在なのです。それに気づいてほしいと思いました。

 

 

 

「…話を戻すのです。今一番問題なのは、お前の足が骨折と化膿…そして壊死で蝕まれているということなのです」

 

「聞いたわよ。もうこの足で歩くことはできないって」

 

「ええ。ですので、壊死が広がる前に足を切除しなければならないのです」

 

「!!!」

 

「………………」

 

 

 

雷のフレンズはさっきよりも酷く絶望に表情を歪めました。それを見る二人は表情を変えたりはしませんが、心をえぐられる思いをしています。ただ、表情に出さないだけで。

 

間髪を入れず助手が説明を続けます。

 

 

 

「博士が今“しゅじゅつ”に必要な物資を揃えているのです。日が落ちてきているので明日の朝になりそうですが」

 

「え…ちょっと……」

 

「そのしゅじゅつのやり方はわかるのか?」

 

「全て完璧にわかる、とは言えませんができるはずなのです。おそらくもう血は止まっているので、壊死していない部分を残して切断して、糸で縫い合わせるのです」

 

「私に手伝えることはあるか?」

 

「執刀はノヴァにお願いするのです。刃物の扱いは我々より慣れていると思うので」

 

「…わかった」

 

「…に、逃げなきゃ…!」

 

 

 

敢えて雷のフレンズの様子を見ずに、助手とノヴァは話を進めます。雷のフレンズから見れば、とてつもなく残酷なことをしようとしているようにしか思えませんから。

 

ガタガタと震え出した雷のフレンズは頭の翼を広げて飛び立とうとします。

 

 

 

ドシンっ

 

 

 

「うっ…くっ…」

 

 

 

しかし足の跳躍なしでは高さが足りず、バランスも取れないので途中で墜落してしまいました。

 

 

 

「ほうほう、飛べるフレンズなのですか。しかし怪我していては満足に動けないでしょうに」

 

「逃げる必要はない。何もあなたをとって食おうなんて考えてはいない」

 

「…そう言って、あんた達は…!」

 

「これを見てくれ。あなたのために新しい足を作ろうと思うんだ」

 

 

 

さっき切り抜いた義肢のページを彼女に見せました。その他にも助手が集めた、いろいろな動物が義肢をつけて動き回っている写真がノートを埋め尽くしています。としょかんにもこうした切り抜きがいくつかあったので、博士と助手は以前から真似て作っていたとか。

 

ノヴァの真摯な眼差しと、写真の動物たちの生き生きとした表情を見て、雷のフレンズは言葉を詰まらせます。

 

 

 

「義肢、というらしい。失った肢を人工の肢で補い身体機能を保全する。…あなたがこのジャパリパークで、私たちの仲間として楽しく暮らしていくためのアイディアだ」

 

「高度な加工技術を我々がどこまで再現できるかわかりませんが…。火を自分のものにするノヴァと文字から知識を起こす我々が、絶対に作り上げてみせるのです」

 

 

 

自分の力で生きていかなければならないのがパークの掟ですが、自分一人ではどうにもならないことは力を合わせて乗り越える。パークを見守ってきた助手にも、新参者のノヴァにも共通の意識が芽生えています。

 

単に興味本位な部分もありますが、だからこそ団結できるのかもしれません。

 

 

 

「あなたも仲間なんだ。今までの孤独に生きる自分を否定しなくてもいいが、仲間がいることは忘れないでほしい」

 

「…あたしに…仲間…?」

 

「少なくとも私と博士と、そしてノヴァはあなたの仲間なのですよ」

 

「………………」

 

 

 

本当に仲間と認めてくれたのか、それともこれ以上の抵抗は無駄だと判断したのか、雷のフレンズは身体の力を抜いて床に倒れます。

 

 

 

「…でも…足を切るだなんて…」

 

「それしか方法がないのです。…残念ながら」

 

「痛いかもしれないが…頑張ってくれ。…ああ、あの虫どもの痺れる毒でもあれば痛みが抑えられるのにな」

 

「…痺れる毒?」

 

「そうだ。あの虫に刺されるとしばらくその部分の感覚がなくなるんだ。…まあ、命に関わることはないんだが」

 

「それなら、あたしも知ってる。確かに感覚がなくなったわね」

 

 

 

助手は疑問符をたくさん並べていますが、ノヴァと雷のフレンズは妙に共感していました。同じ経験をしたことがあるようです。

 

しばらく首を180度かしげていた助手でしたが、はっと何かを思い付いたように首を元に戻しました。

 

 

 

「確かコブラの毒は最初に痺れがくるとかなんとか。やがては生命を奪いますが…お前たちが余程大きな生き物だったのであれば、些細な痺れだけで済むのも納得いくのです」

 

「??」

 

「…まあ、あの虫とは比較にならないわね」

 

「分量を間違えなければ、“ますいやく”として使えるのでは…」

 

「助手、わかるように説明してくれ」

 

 

 

雷のフレンズを抱っこしてソファに戻しながら、今度はノヴァが首を斜めにします。少し雷のフレンズが顔を赤らめたのは誰も気づいていませんが。

 

 

 

「毒をしゅじゅつの時に使うのですよ。動物の毒は致命的かもしれないので、毒草から少し抽出するのです」

 

「危なくないのか、それは」

 

「使う量さえ間違わなければ。おそらく一滴ですら多いくらいですが」

 

 

 

大きい獲物を仕留めるにはより多くの毒が必要と仮定すれば、ごく少量の毒では誰も仕留められない、と助手は結論づけました。

 

元々彼女らが大きな生き物であったことは背丈を見ればわかりますので、虫の毒で死に至らないのは量が足りないからと推測できます。

 

…とはいえ、彼女らの指す虫はこのジャパリパークでは考えられないくらいに大きい虫なのですが。

 

 

 

「まあそれは博士が帰ってきてからにしましょう」

 

「そうか。なら博士の帰りを待つとしよう」

 

「…その博士って何者?」

 

「コノハちゃん博士はコノハちゃん博士なのですよ」

 

 

 

どこからか博士の声がして、雷のフレンズはキョロキョロします。

 

当の博士はバスケットにものをたくさんつめてとしょかんの上の方から降りてきました。

 

 

 

「お帰りなさいなのです博士」

 

「ただいまなのですよ助手」

 

「……その合言葉みたいなのは?」

 

「あいさつ、というのです。ヒトが行っていた、記号化されたコミュニケーションの一つなのです」

 

「記号化、ね…」

 

「…ヒトの考え方は、時に理解できないな」

 

 

 

ヒトの思考を積極的に理解しようとするノヴァでも、頭が追い付かないことは多くあるようです。ですが、それを理解しようと必死で頭を回転させます。

 

 

 

「お前も目が覚めたようですね。聞いているとは思いますが、すぐにでも足を切除しないと不具合が起きるかもしれないのです」

 

「…わかってるわよ。もう、動かないくせに痛みだけが跳ね返ってくるもの」

 

「そこまで進行しているのですか。やはり、施術は明日の朝にしましょう」

 

「……一つ確認させて。…本当にその義肢を作るの?本当に仲間として受け入れてくれるの?」

 

 

 

雷のフレンズの反応に、いまいちしっくりこない様子の博士。疑り深いフレンズはいないことはないのですが、あまりにも誰も信用していないような反応は初めてでした。

 

代わりに答えたのは助手でした。まじまじと彼女の赤い瞳を見つめて、言い放ちました。

 

 

 

「…では物わかりの悪いお前のために、言い方を変えるのです。お前が我々にあだなす暴徒ならばノヴァに叩き斬ってもらうのです。身動きの取れないお前など、あの剣の錆になるのが落ちでしょう」

 

「助手、私はそんなことしない」

 

「お前がこのジャパリパークのフレンズならば我々が新しい足を授けてやるのです。我々のものを作りたいという欲望の手段にすぎないですが、誰も損しないのです。…選択肢は二つに一つなのです」

 

「………………」

 

 

 

「暴徒かフレンズか。どちらか選ぶのはお前なのです」

 

「…あたしが…?」

 

「もう、答えは出ているのだろう。実質選択肢は一つしかないのだから」

 

「変わるのです。反逆者から雷のフレンズに」

 

 

 

仲間になると認めなければ、命を奪う。のたれ死ぬより屈辱的で残酷なことです。

 

この雷のフレンズが踏み切れないのは、自分が助手やノヴァの仲間である、依存してもいい存在であるという意識に欠けることが原因であるとにらみました。助手は敢えて残酷な選択肢を見せることで、逆の選択肢にすがるしかない状況を作り出したのです。

 

 

 

「……わかったわ。…そこまで手の内を見せられたら、疑うのもバカバカしいじゃない…」

 

「ありがとう。信じてくれて」

 

「…そんなこっ恥ずかしいセリフ言わないでよ…」

 

「ノヴァは実直すぎるのです。見ているこっちが恥ずかしいのです」

 

 

 

博士にダメ出しをくらいながらも、表情は少し柔らかくなったノヴァ。いい意味でも悪い意味でも気持ちに正直なのが彼女です。博士の皮肉の意味は通じたのかどうか。

 

そんなとぼけた様子にあきれながら助手は雷のフレンズに語りかけます。

 

 

 

「では、もう一人の新しいフレンズ。…お前の名前はライとしましょう」

 

「ライ…?」

 

「雷を別の読み方でライと読むのです。同時に我々の信用を裏切った時は反逆者(ライオット)の名前となるのです」

 

「…肝に銘じておくわよ」

 

 

 

全幅の信頼をかけられるより、利害関係で信用した方がこのフレンズ…ライにとっては過ごしやすく感じます。常に監視されているという名前も、自分をつなぎ止めてくれている鎖に思えます。

 

ですが、本気で変わりたいライがいるのも事実です。自分を助けたこのフレンズのように、信頼の中で生きてみたいとも思います。

 

 

 

「では二人の新しいフレンズの仲間入りを記念して、景気づけといこうじゃないですか」

 

「そうですね博士。せっかく火を扱えるフレンズがいるのですから」

 

「?どうしたんだ博士、助手」

 

 

 

博士と助手の視線がノヴァに注がれます。その意図を彼女は推し測れません。

 

 

 

「…おいしいものを食べてこその人生なのです」

 

「…同じ釜の飯を食う、ということわざがあるのです」

 

「なんだそれ」

 

「…さあ、ノヴァ。飯を作るのです」

 

「……え?」

 

「火の申し子ならば料理くらいお茶の子さいさいなのです」

 

「写真から内容を推測できる思考能力も把握しているのです」

 

 

 

どこからか本を持ち出してノヴァに迫る二人。写真には色とりどりの食材が、何らかの加工をされて並べられています。

 

博士と助手の要求は、これを読み解いて実際に作り出せ、と。この料理には火を使うことがあるので、助手たちにはできないと。

 

…私を手厚く受け入れてくれたのはこのためだったのか、とまで考えて悲しくなってきました。邪推はやめようと首を降って思考を正します。

 

 

 

「……わかった。できる限りやってみよう」

 

「本当ですか!?」

 

「本当なのですか!?」

 

「すごい食い付くわね。そんなにこの料理に執着があるわけ?」

 

「我々はグルメなので。じゃぱりまんも自生している食材も飽きてしまったのです」

 

「ヒトは食材を加工してよりおいしく食べる方法を知っていたのです。全ての生命に感謝すら覚えるこの技を、味わわずにはいられないのです」

 

「これもヒトのことを知る手段か…」

 

 

 

そう考えればノヴァのやる気の導火線に火がつきます。

 

そして、実はノヴァは料理を見たことがないわけではないのです。

 

 

 

「あの獣人たちもヒトに倣って料理をしていたな。そこから真似てみよう」

 

「実際に料理を見たことがあるのですか?」

 

「ああ。私の最後の時に。ヒトのすみかで、鉄の器を火にかける獣人を見た」

 

「…これは期待大なのです。…じゅるり」

 

「本当にカモがネギを背負ってきたのです。…じゅるり」

 

「悪どい顔してるわね。けど、それを真に受けないあんたもなかなかよね」

 

「さあな。私にできることをやるだけさ」

 

 

 

ヒトへの挑戦は、まだまだ始まったばかりなのです。

 

 











[竜盤目ゼクス科]

ライゼクス

Astalos




飛竜種の中でも特に獰猛で、気に入らないものがいれば問答無用で戦いを挑む暴れん坊ですね!圧電甲と呼ばれる器官で電力をチャージして放電しまくる姿から、“空の悪漢”だとか“電の反逆者”とか“電竜”という異名もあります。でも、卵から孵ったばかりの子供を放置しちゃうネグレクトな種族なのでちょっと可哀想ですよね…。
ああ、私が愛を教えてあげたい!



われらのだん そふぃあおねえさん
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