ジャパリパークのかじやさん   作:Kamadouma

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すとーくすとーかー

「どうやらノヴァの後を追っていったらしいな」

 

 

 

川沿いを少しの距離進んで後ろを確認しますが、キングコブラの後には誰もいません。追跡者はあちらを追っていったということです。

 

 

 

「さて、急ぎ目で戻るか」

 

 

 

ノヴァは林に誘導すると言っていたので、川の土手の上から遠方の林を探します。高低差のないなだらかな土地なので、土手の上くらいの高さでもかなり遠くまで見通せます。

 

キングコブラは目がいいわけではありませんが、捜し物はすぐに見つかりました。

 

 

 

「林って…一ヶ所しかないじゃないか」

 

 

 

ノヴァの向かった方向には、木々が生い茂る場所はわずかに一ヶ所。ただの幸運なのか、それともそこまで計算ずくで罠を張っていたのか。どちらにせよ、やることがわかりやすくて好都合です。

 

 

 

「…一応、他のやつがいないかも確かめておかないとな」

 

 

 

抜け目のなさはキングコブラだって負けていません。狡猾で執念深い蛇の王ですから、獲物を横取りされないように気配を探るのも習慣です。

 

幸い周辺にはフレンズや大型の動物はおらず、歩を進めるスピードは落ちませんでした。しかしながら、ノヴァや追跡者すら感知できなかったのは、懸念の材料になります。

 

 

 

「ノヴァ、一直線に林に向かったんじゃないのか?」

 

 

 

博士や助手が言ったとおり、実直すぎるノヴァの性格なら妥当です。寄り道や休憩をはさまず作戦をひたすら実行するのは、ある意味部下としての資質かもな、と鼻で笑いました。彼女が家来ならへいげんで争う二人の王を打ち倒して頂点に立てるかもな、とも思えてきます。

 

 

 

「…これはたぶんノヴァの尻尾の跡だな。まだ焼けた鉄のにおいがする」

 

 

 

林へ向かう途中に、短い草が根こそぎ掘り返された跡が道を作っていました。硬くて重い尻尾でいつも地面をえぐっているのはキングコブラも知っています。つまりこの大地の傷痕は、ノヴァがそこを通った証なのです。

 

方向を修正して、ノヴァの残した跡を静かに追跡します。

 

 

 

ぎぃぃ、ぎぃぃ

 

 

 

跡を追えば追うほど、パークでは聞き慣れない金属が擦れる音が近づいてきます。聴覚が主な感覚器官のフレンズならその音だけでも耳を塞いで震えてしまいそうです。

 

 

 

 

 

 

提案した作戦どおり、ノヴァは林の中を進んでいるようです。林に響く金属音はさらに大きく聞こえ、その存在を主張しているようでした。

 

 

 

「あいつ、わざと鳴らしてるんじゃないのか」

 

 

 

一緒に歩いていた時は会話に支障がないくらいだったのに、この音は大げさです。私が位置を特定しやすいように手掛かりを残している、とキングコブラは少し面白くない顔をしながら結論付けました。

 

ただ、この不気味な音を聞いて追跡者が逃げ出さないか心配です。意識を尖らせて追跡者を探します。

 

 

 

「……?あれか?」

 

 

 

キングコブラが何者かの成分を捉えました。視覚もそちらに合わせて相手の様子を確認します。

 

追跡者…グレーの服を着たフレンズは木の影に隠れながら音源の様子を観察していました。そちらばかりを気にしてキングコブラが後をつけていることには気づいていないようです。

 

 

 

「……鳥のフレンズか?」

 

 

 

側頭部を覆う羽毛があり、横の髪の片方がくちばしをかたどるように黄色くなっています。種族はキングコブラにはわかりませんが、鳥のフレンズであることは確かです。

 

そのフレンズの視線の先には、焼けた鉄の成分が確認できます。おそらくノヴァの尻尾でしょう。枯れ葉を燃やさないように勢いをつけて地面を刻んでいます。

 

そっちにも視線を合わせると、一瞬だけ強い反射光がキングコブラの視界に入りました。ナイフが反射した光でしょうか。

 

 

 

「…ん?止まった?」

 

 

 

赤熱した尻尾は動きを止めてその場で停止します。木の影から木の影へと静かに移動していたグレーのフレンズもその場で隠れます。

 

キングコブラも姿勢をかがめて気配を殺します。藪の中から強襲をかけるのは得意ですので、同じ要領でタイミングを計ります。

 

 

 

ザクッザクッ

 

 

 

赤熱した尻尾が再び動きました。素早く二回、朽木を叩きます。それはつまり、打ち合わせた通りに仕掛ける、という合図です。

 

順調すぎて少し心配になるキングコブラでしたが、約束は果たさなければならないと木の影から乗り出します。

 

 

 

「しゃぁぁあっ!」

 

「ひっ!!」

 

 

 

地を這うように低姿勢のまま駆け出して、とぐろを巻いた時のように足のバネで跳躍しました。狩りに生きる種族の血は、ヒトの姿になっても流れています。

 

背後から潜り込まれて驚くグレーのフレンズ。とっさに頭の羽をはばたかせて上空に逃げます。こうされるとキングコブラの跳躍では届きません。

 

 

 

「ちっ!」

 

「あとは任せてくれ」

 

「えっ!?」

 

 

 

ノヴァの声は上から聞こえてきます。鳥のフレンズの上から。

 

重装備のノヴァがどうしてこんなにも跳躍できるかは謎ですが、現に彼女の脚力だけで鳥たちの高さを越えているのです。

 

勢いはそのまま、鳥のフレンズの首もとに腕を回して一緒に地面に転げ落ちました。もみくちゃになってゴロゴロ転がる二人ですが、ノヴァの硬化した後ろ髪が木に刺さり止まりました。

 

 

 

「うっ…」

 

「まさか自分がつけ回されているとは思っていなかっただろう?」

 

「ノヴァ、すごい勢いだったけど無事なのか!?…お前は無事なようだな」

 

「鱗と骨の硬さには自信があるからな。…でも、抜けなくなってしまった」

 

 

 

ノヴァの髪は大木の幹を深くえぐってがっちりはまっています。自力で足や尻尾を使ってじたばたしますが、空しく地面を掘り起こすだけです。

 

 

 

「意外にドジなのか、お前」

 

「…返す言葉もない。恥ずかしいところをお見せした」

 

 

 

確かに自分から木に貼り付けになるのは間抜けな始末ですが、捕らえた獲物はがっちりと掴んで離しません。剣呑なグローブの牙がグレーのフレンズの首もとで食らう機会を待ち構えています。

 

 

 

「や…、たすけ…」

 

「おっと動くなよ斥候。動いたらノヴァの重厚な牙がお前の喉をかっ切るぞ」

 

「やりはしないさ。ただ、こそこそとつけ回すのが気に入らないんだ。正面きって話そうか」

 

 

 

怯える様子のフレンズを見て、無意識に絡めた腕を解きます。

 

 

 

「…ご、ごめんなさい!」

 

「待て、逃げるのは無しだ」

 

「うわっ!」

 

 

 

すかさず逃げ出そうとしたグレーのフレンズ。それを見計らっていたかのように、キングコブラは尻尾を振るって彼女の足に絡めます。飛び立とうとしたところで転んで、今度はキングコブラに取り押さえられます。

 

 

 

「…私はフレンズに振るう剣は持っていないが、キングコブラは別だ。蛇の王の毒牙は不届き者に裁きを与えるかもしれない」

 

「お前の態度次第だ。私たちと友達になるのも、痛い思いをするのも」

 

「……はいぃ…」

 

「……あと、私のことも助けてくれ。このまま抜けないと、最悪この木を燃やすことになる」

 

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

木漏れ日が心地よい林はキングコブラが体温を整えるのに丁度いい場所でした。休憩がてら切り倒した大木に腰をかけて話を聞きます。もちろん、グレーのフレンズを挟むようにして逃げられないようにしていますが。

 

 

 

「…で、あなたは何者だ?」

 

「………………」

 

「黙秘、か。よく訓練されているようだな」

 

 

 

この二人の威圧感のせいなのか、素性をバラすのを良しとしないのか、グレーのフレンズはしゃべりません。ただ、その鋭い眼光でノヴァをじっと見つめるだけです。

 

 

 

「ただ、名前くらい教えてくれないと私たちも手の打ちようがない。何もせず手放すほど愚かでもないからな」

 

「………………」

 

「…少し痛い目に遭わないと口を割らないようだな」

 

「まあまあ。気長にやろう」

 

 

 

少しピリピリし出したキングコブラをなだめます。力に寄らない解決を求める、ノヴァのやってみたいヒトの営みですから。

 

 

 

「黙秘も結構だが、それだとあなたも困るのでは?あなたが帰らなかったら、他のフレンズがあなたを探しにくると思われるが…そんな大事にしていいのか?」

 

「それが狙いか?救援を待つって」

 

「………………」

 

「…あなたが百獣の王や森の王の手先かどうかは知らないが、私たちがつけ回された理由を知りたいんだ」

 

 

 

あくまで平静を保って質問をします。相手の事情も考えながら、自分が敵対するつもりはないことを伝えようとしているのです。

 

 

 

「……まあ、話す気になるまで待つさ。元々休憩したいと思っていたしな」

 

「…そうだな。ノヴァ、さっきのアレ、もう少しくれないか。としょかんで食べた料理より気に入ったんだ」

 

「ああ、私も食べ足りなかったところだ」

 

 

 

ポケットからビン詰めのジャムを取り出して、キングコブラに投げ渡しました。その軌道をグレーのフレンズは目で追いかけます。

 

さっそくキングコブラがふたを開けて、もらったナイフで自分のじゃぱりまんに塗りました。その様子もグレーのフレンズはじっと見つめています。

 

 

 

「…なんだ?お前も食べたいのか?」

 

「………………」

 

「沈黙は肯定、と捉える。…キングコブラ、私の分をこいつにやれ」

 

「いいのか?ノヴァ、さっきほとんど食べてなかっただろう」

 

「いざとなったら何か探して食べるさ」

 

 

 

珍しく命令口調で言われて、ノヴァの心配をしながらも遂行します。ノヴァの分のじゃぱりまんにもジャムを塗って、隣のフレンズに手渡しました。

 

 

 

「ほら、あの怖そうな剣のフレンズがお前のために料理を恵んでくれたぞ。ありがたく頂戴しな」

 

「そんな恩着せがましく渡したわけじゃないが…。でも、私の作ったものに興味を持ってくれたなら、それはうれしいことだ」

 

「……あ、ありがとう…」

 

 

 

グレーのフレンズが捕まえたあと初めて口を開きました。キングコブラとノヴァの両方に振り向きながら、ジャムの塗られたじゃぱりまんを受け取ります。

 

そして、小さく一口食べました。

 

 

 

「……甘い…すごくおいしい…」

 

「だろう?ノヴァは強いだけじゃなくて、ヒトの知恵を実践できる賢さもあるんだ」

 

「それを従える蛇の王はさぞかし偉大ですな」

 

「お前、まだそれ続けるのか…?」

 

 

 

さっきノヴァが自分をちゃかしていた言葉は、ただの冗談ではなかったことに今さら気付きました。言われてみれば、冗談を言うタイプではないという第一印象通りの性格です。

 

少し頭を抱えて首を振るキングコブラ。勝手にノヴァの言葉を冗談だと受け止めて、実は真意でしたと冷や水を浴びせられた気分です。

 

 

 

「…蛇の王、ですか?」

 

「そう、ここにおわす蛇の王がじゃんぐるちほーへ戻られる。その道中に立ちふさがるならば、何人たりとも灼熱の刃が退ける」

 

「おいおい、いい加減やめろよ…こっちが恥ずかしくなるから…」

 

「……ふふ」

 

 

 

真顔で芝居くさいセリフを放つノヴァと、顔を赤くしながら嫌がるキングコブラ。さっきの捕り物の時とは空気感がまるで違うゆるさに、グレーのフレンズもくすっと笑いました。

 

 

 

「…面白いフレンズだね、ノヴァさん」

 

「私がか?笑われるようなことをしたか?」

 

「真面目もここまでくると、ぽんこつなのかもしれないな」

 

「…何を言っているんだ?私は真面目に警告をしているんだが」

 

 

 

二人の態度に納得のいかないノヴァ。これ以上追い回さないでほしいと威圧しているのに、仲間のキングコブラにまで笑われるのは不可解でした。

 

緊張がほぐれたのか、グレーのフレンズから口を開いて話しかけます。

 

 

 

「ごめんなさい、視線が気になったのなら謝るよ。…私はハシビロコウ。ヘラジカさまのところで合戦に参加しているんだ」

 

「ヘラジカ…森の王、だな」

 

「うん。次の合戦に向けて仲間になりそうなフレンズを探していたんだけど、その時にあなた達を見つけてね」

 

 

 

ハシビロコウが言った意味を、二人は顔を見合わせて確かめます。二人の出した結論が早とちりだったと気づくのに時間はいりませんでした。

 

 

 

「……つまりは、間者を監視する斥候ではなかったと?」

 

「そんなそんな!そこまでフレンズを疑ったりしないですよ」

 

「…ノヴァ、私たちの思い違いだったようだな」

 

「……そのようだ。すまなかったな、ハシビロコウ。手荒な真似をして」

 

 

 

ノヴァは素直に頭を下げました。本物の狩りではないとはいえ、悪気のない彼女に恐怖を与えてしまったことには変わりないのです。真っ直ぐなノヴァは罪悪感を覚えてしまいます。

 

 

 

「い、いえ。こちらこそ、疑われるような視線で見ちゃってごめんなさい。私、気になるものをじーっと見つめちゃう習性があるの」

 

「いいや、事実の確認を怠ったのは私達だ。すまない、謝らせてくれ」

 

「キングコブラの言うとおりだ。あなたに怖い思いをさせてしまった」

 

「ふ、二人とも、頭をあげてください」

 

 

 

一方的に頭を下げられてハシビロコウはあたふた。地上最強の生き物すら毒殺するという蛇の王と、断てぬものはないと反射する光が言い放つ灼熱の刃…厳かな雰囲気を纏う二名に謝られては、逆に萎縮してしまいます。

 

 

 

「…わかった。このままだと話が平行線だし、お互いに謝罪したということで終わりにしよう」

 

「そ…そうだね…」

 

 

 

こっちの方が落ち度あるのにな、と思っても口にしないのが得か、と思うキングコブラでした。ノヴァは無意識の内にしたたかな手を打っているのでしょうか。そういう卑怯な真似は好まない、とキングコブラは思っていたのですが…。

 

 

 

「……でだ。ハシビロコウはヘラジカの下で百獣の王と戦うと言ったな」

 

「うん。なかなか勝てないから助っ人を探してたんだ。…二人とも、手伝ってくれないかな」

 

「…キングコブラ。あなたの判断に任せる。じゃんぐるへ早く帰りたいなら断るべきだし、興味があるなら私も追従する」

 

 

 

キングコブラとしては、ハシビロコウの手伝いをしたいのはやまやまなのですが…。助手との約束の手前、ノヴァを戦場に放り込むのはいけないとも思っています。

 

 

 

「……すまないが断らせてくれ。ノヴァはフレンズと戦ってはいけないんだ。そして、私はノヴァと一緒にじゃんぐるちほーへ帰ると約束している」

 

「…そう、なんだ。残念です…」

 

「ああ、すまない」

 

 

 

自分をああも簡単に捕らえた二人組が加われば百人力と思っていたハシビロコウでしたが、ノヴァの武器や尖った部位は簡単にフレンズを傷つけることができると理解しました。本人にその気はないとしても、身体は殺意をむき出しにしているようなものです。

 

残念がるハシビロコウに二人ともやるせない気持ちになって、また謝ってしまいます。

 

 

 

「…代わりと言ってはなんだが、他の困ったことかあったら話してくれ。解決法を一緒に考えるよ」

 

「わかったよ。その時はお願いします」

 

「あと、気になっていたようだがらそのジャムは差し上げよう。誰かさんが大量に使ったせいで残り少ないしな」

 

「私のことか?」

 

「自覚はあるんだな。…やはり私が塗るべきだった。あと五回分は使えたはずなんだが」

 

 

 

キングコブラから返されたビンをハシビロコウに手渡します。容量いっぱいまで詰め込んだはずのジャムは、半分以上減っていました。その代わりにキングコブラとハシビロコウが持ったじゃぱりまんにはこれでもかとジャムが乗っています。

 

元々じとっとした目をさらに細めながらも、口角は上がって笑っているように見えます。ノヴァは冗談は言えなくても皮肉を笑えるようです。

 

 

 

「では、休憩もとったし出発するとしよう。もたもたしてると日が落ちてしまう」

 

「私はその方が動きやすいんだがな。砂漠と違って夜でもそんなに寒くないし」

 

「このランプにも限界があるんだ。足元が見えなくて水の中に落ちるリスクは避けたい」

 

「わかったよ。尻尾の騒音で寝てるフレンズを起こしては可哀想だしな」

 

 

 

逆襲と言わんばかりに毒を吐きます。毒を扱うだけあって、なかなかに毒舌です。痛いところをつかれたようで、ノヴァは冴えない顔をします。

 

 

 

「二人のことはヘラジカさまに言っておくよ。他のフレンズにも絡まないようにって」

 

「ああ、お願いする。蛇の王の逆鱗に触れれば毒牙があなたに向くと」

 

「…ノヴァ、お前そのキャラ気に入ったのか?」

 

「あなたの大袈裟な噂が広まれば、楽しそうだ」

 

「やめろよ…。お前、どこまでが本気なんだ…?」

 

「ふふ、じゃあそのように伝えますね」

 

「おい、ハシビロコウまで…」

 

 

 

ノヴァもノヴァで負けず嫌いです。痛いところをつかれたなら、痛恨の一撃で返す。したり顔でキングコブラに向かって笑いかけました。ハシビロコウも悪ノリして便乗します。

 

ノヴァは頼りになる相棒かもしれませんが、少し加減を知らなさすぎると思ったキングコブラでした。これなら、合戦に参加させなくて正解です。

 

 

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