戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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OTONAは一話からで装者は四話からです。


過去編
#1『特異の覚醒』


「ホンギャアー! オギャあー!……」

 

 目が覚めたら知らない天井だった。そんなセリフを言った主人公が創作にいたが、彼の今の心境は正しくそのような感じだろう。

 彼の口から産声をあげる。

 その声は耳から歪んで聞こえ、視界は全く見えず、体がまともに動かない。

 

 自分が誰で、ここは何処なのかもわからない。分からないなりに頭を動かそうとしていたが、体が睡眠を欲しているようで精神もそれに引きずられるように眠りについた。

 

 

 

 彼は赤ん坊になってしまったようだ。それを理解出来たのは、彼が産まれてから何日か経ってからだった。

 覚醒と睡眠を何度も繰り返し、やっと自分が赤ん坊になっている事に気がついた彼は愕然としたが、自分の名前すら思い出せない為か、それとも彼が人と接していたはずの記憶を喪失しているからか、赤ん坊である事を簡単に受け入れられた。受け入れられた?

 

「だああああー!(恥ずかしいー!)」

 

 精神がある程度成熟しているため、母親の胸から母乳を貰うことに羞恥してしまう。だがお腹は空くし、おしめを取り替えてもらうための下半身露出が繰り返し行われ、彼は考えるのをやめた。

 

「だああき、だあえ(轟流(とどろきながれ))」

 

 生後半月ほどで、耳がある程度聞こえるようになり、自分の名字が轟、名前が流だということを知った。

 他にも耳が聞こえるようになってわかった事は、日本語が母国語である事。少しお金のある家であることが分かり、とても安心した。

 

 小説や物語では全く知らない別世界。流は魔法やファンタジーな世界に転生する作品を、いくつか読んでいた気がするので不安であったが、それは杞憂であったようだ。

 

 

 

 

 それから6年ほどが経過した。

 

 流は何故転生したのか、何故知識はあるのに想い出(. . . )がなくなっているのか、それ以外にも分からないことが多かったが、それに意識を向けて人生を無駄にはしたくなかったので、一旦考えないことにして精一杯生きてきた。

 

 両親やその周りに天才と言われるが、ほかを見ればこの位なら少ないながらもいる。そのくらいの受け答えをしつつ、ネットで勉強をしてきた。幼児の時間を最大限有効活用した。

 小さい頃はあまり筋トレで体を鍛えない方がいいと調べたらわかったので、色々なスポーツをやる事で体力や基礎能力をつけることに務めた。

 

 出来る限り難しく考えず、無邪気に一所懸命生きてきた。だが、転生という奇っ怪な事があったのに、平和に人生を謳歌できるわけもなく、流は色々なものを失った。

 

 

 両親は考古学(. . . )の研究家らしく、最近は発掘作業をしているとの事。その近くは自然が豊かでキャンプ場もあり、仕事の合間に見に行ったところ、とてもいい所だ! と父親が熱弁したキャンプに来ることになった。

 

 昼飯のバーベキューも食べ終わり、三人は野原でフリスビーやサッカーなどをして遊んでいた。そこにある存在が現れた。

 

 

 ピコっピコっピコっ

 

 

 そんな足音を耳にした。彼はその足音の正体をまだ知らないし、現時点ではほとんど出現しないはずのもの達。そしてただの人類には勝てない悪魔、その足音を聞いた大人二人は……OTONA二人は即座に動き出した。

 

「なんでノイズが!」

 

「あなた!」

 

「流は俺に捕まっていろ!」

 

 両親が顔を歪ませた方向を見ると、ピンクやオレンジ、青などの不思議な色の人外のバケモノがいた。

 流はこの時はじめて、この世界がどんな世界か知ることになった。

 

 この世界はただの平和な世界などではなく、ノイズという位相差障壁を持ち、物理的な手段では対処できず、それにも関わらず人類を炭素変換してしまう脅威のバケモノ。それは過去のオーバーテクノロジーによって生み出された自立兵器。ある女やあるロリが操ることになる便利な駒。

 

 そんな化け物とシンフォギアという聖遺物を歌によって起動して纏い、少女達が戦うアニメ、『戦姫絶唱シンフォギア』。その世界に転生してしまった事に、この時になって気がついた。

 

 

 父親はノイズを見るとすぐに人のいる方へ流を担いで逃げ出した。母親も荷物を全て捨てて、父親に合わせるように走り始めた。

 後に、この時の行動は家族を生かすために他を犠牲にする行動だとわかったが、自分の大切なものを守るためになりふり構わず動ける父親を尊敬することになる。

 

 流はノイズというバケモノ、それとモブにはとてつもなく厳しい、戦姫絶唱シンフォギアという世界に転生してしまった事にパニックになっていた。

 

「なんでこんな所に!」

 

「わからない。お父さん頑張って!!」

 

「わかっている!!」

 

 両親は必死な形相で、ゆっくりと楽しむように近づいてくるノイズ達から逃げる。両親が向かっている方向にいる人々は、必死に走ってくる人がいる事に不審がりながら観察すると、背後からノイズが迫ってきていることに気がつき、悲鳴をあげながら逃げ出した。

 

「左右に避けて!」

 

 後ろを見ずに全速力で走っている両親。父親に担がれている流は、恐怖のあまりノイズから視線が外せなかったことが功を奏した。

 ノイズは基本的に動きが鈍いが、体を引き絞って一気に突撃してくる攻撃をする時はとてつもない速度を出す。

 

 その攻撃の予兆はアニメを見ていた事で知っていた流はすぐに両親に警告を出し、二人はその警告に対して素直に従って左右に飛んだ。

 

 二人を目標に飛んできたノイズは避けられたが、両親よりも前を逃げていた人に突き刺さり、突き刺さった人は悲鳴をあげながら炭素の粉となり、変換を終えたノイズは世界から消えていった。

 

了子(りょうこ)! 走れるか!?」

 

「ええ!」

 

 父親が母親の名前を呼んだ時、了子という名前の意味を思い出し、母親を見るが、あの(. . )了子ではない事に安堵した。だがノイズは待ってくれない。

 

 ノイズが待ってくれるのは、シンフォギアを纏った 少女達の語り合いの場(ご都合会話)のみである。ノイズはモブにはとても厳しいのである。

 

 

 

 息子の指示に従ってノイズを避け、キャンプ場から逃げるように走っていた両親だったが。

 

「危ない!」

 

 後方からではなく、真横から突撃してきたノイズから、父親と息子を庇うように体を晒した母親がノイズと接触した。

 

「二人共、愛していま……」

 

「ああああああああ!!」

 

「母さん!!!」

 

 言葉を言い終わる前に、母親は炭素の粉となり死んだ。父親はそんな妻の言葉に胸に、さらに闘志を燃やして絶対に生き延びてやると意気込み、走り出そうとしたがそのまま立ち止まった。

 

「父さんなんで止まるの!」

 

「あははは、くそおおおおおお!!」

 

 父親の枯れた笑い声を不審に思い、周りを見てみる。

 前から聞こえていた人間の悲鳴は聞こえず、辺りは静寂に包まれていた。二人は静寂だけでなく、ノイズにも囲まれていた。

 

 

 ピコっピコっピコっ

 

 

 絶望的な状況に自然と流の目から涙がこぼれ落ちる。そんな息子を奮い立たせるように、父親は息子を抱きしめた。

 

「いいか、流。お前の名前の由来は母さんが川で溺れて流されて来た時に父さんが助けたんだ。母さんが流されてきたからこそ、父さんと出会った。二人の出会いの理由を流の名前につけて、お前にもいい人が出来ますように。人の流れから母さんのような人をすくい上げられますように、そんな願いが込められている!」

 

「なんで、なんでそんな事言うの! なんで今言うの!」

 

「今だからこそだ! 名前の由来っていうのはしっかり知っていた方がいい。もしお前が生き残って天涯孤独になったとしても、父さんと母さんとの思い出と自分の大切な人を人の流れから掻っ攫えるように励め。お前は絶対に守ってやる!」

 

「嫌だ! 遺言みたいなこと言わないで!」

 

 まるで本当の子供のように駄々をこねてしまう。前の世界では両親は死んでいないような気がする。想い出はないが両親を失う感覚は初めてだと悟ったからだ。

 だからこそ、母親が死に、父親が死を覚悟し始めたことに恐怖を覚えた。

 

 

 ピコっピコっ

 

 

「いいや、言うぞ! 俺は母さんの第一位印象は胸がでけえ! 柔けえ! だったんだ。そして一目惚れした!

お前も何となく俺と同じようだし、言ってやるが、あまり大きすぎても垂れるから気をつけるんだぞ? 一目惚れしたらすぐに突撃しろ! 他の男の女になる前に……まだわからないと思うけどな!!」

 

「本当に何言ってるの!?」

 

 おちゃらけて見せる父親だったが、すぐ側まで来ているノイズが視界に入り、ビビるがそれを表に出さず覚悟を決める。

 

 

 ピコっ

 

 

「そ、それからな。俺も、母さんも言っていたが、お前を、轟流を愛している。離れ離れになっても、絶対に、お前、を、愛しているからな」

 

 父親は震える声でそう言うと、流を強く抱きしめながら、結婚指輪を息子に握らせた。そして流を地面に伏せさせて覆い隠す。息子をノイズから守るように覆い被さった。

 

「俺は了子も、流も愛してい……」

 

 流の父親、轟轟(とどろきごう)は息子を護り、愛を叫びながら死んだ。

 

「……あは、あははは、あははははははは!」

 

 転生してから少しの間は自分の本当の両親ではないという意識があったため、赤ん坊の癖によそよそしかったはずだ。だが、流が高熱を出した時、二人は寝ずに付きっきりで介護をしてくれた。それから二人を自分の両親だと思えるようになり、幸せに暮らしてきた。

 

 そんな母親という温もりをなくし、父親という支えをなくした流はおかしくなり、立ち上がった。

 6歳の流には大きすぎるエンゲージリングを親指にハメ、ノイズに向き直る。

 

「父さんと母さんを返せえええええ!!」

 

 両親を追いかけるようにノイズに突っ込み、恐怖に目を瞑りながら拳をぶつけた。両親の絆である結婚指輪をつけていない手で殴った。

 

 

 ドシュッ

 

 

「…………え?」

 

 何故か物に触れた感覚があった。それなのに自分の体は炭化することなく、殴った勢いのまま目を閉じていたのでコケた。不思議に思い、目を開けて後ろを見るとノイズが逆に黒灰色の粉になって消えているところだった。

 

 その現象はシンフォギアを纏った少女達が、ノイズに有効な攻撃を与えて消滅させた時のように見える。

 

「は?」

 

 彼は確かめるように、接近して攻撃をしようとしているノイズを殴る。簡単にノイズの体を貫通して、そこからノイズのみが灰になって消えた。

 

「父さんと母さんが俺を守ったのは意味がなかった?

俺が率先して前に出てれば死ななかった? じゃあ、父さんと母さんが死んだのは、無……そんなことは無い! 死ねえええええええええ!!」

 

 流は狂ったように叫びながら、ノイズ達に向かって行った。ノイズの攻撃を受けると怪我をするが、炭素変換されることもない。流は小さい体だが、接近しているためか、鈍い動きしかしないノイズの攻撃なら避けられる。あとは殴る、避けて殴る殴る殴る殴る……。

 

 

 

 

「なんだ……これは?」

 

 機関銃を携えた軍人の後ろからこちらに近づいてきた赤い髪の大きな男性の声、聞き覚えのあるその声に振り向くとそこには風鳴弦十郎、シンフォギアにて対人戦最強のOTONAがいた。

 

「……」

 

 それから流は周りを見ると、自分の血液と両親の灰、ノイズの成れの果てが辺り一面に広がっていた。

 体がとても重く、眠く、全身が痛い事にようやく気が付き、シンフォギア屈指のいい人である風鳴弦十郎もいる事から緊張が緩み、その場で流は倒れた。

 

 

 

 

 後に関係者だけが知る事の出来る情報で、今回のノイズの自然発生(. . . . )による事件は、記録されてから人類初となる周りの環境を一切変えずに、ノイズを撃退した事件として一部の者にのみ知られることになる。

 

 だが、その事件の備考にはこの事件による生存者はなし(ゼロ)となっている。




何故炭素変換されないの? なんで位相差障壁が機能してないの? などは後ほど明かされます。

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