ソロモンが流の中から消滅した後、彼は頭の中で情報を纏めていた。しかし流は自分が何故ソロモンの息子扱いされていたのかがわからない。
確かに弦十郎と同じようにソロモンは流を
「……まあいいか」
流はあの人のことだから、後からわかるような仕掛けをしているのだろうと考え、セレナが呼びに来るまでイザークの錬金術を復習していた。
マリアはセレナ曰く、泣きすぎて酷い顔になっているから先に帰ったらしい。セレナがいつもよりも元気で笑顔だったので、流も満足して家に帰った。久々に歩いて帰った。
その日は調と一緒に夜飯を作ったり、響に微妙に距離を置かれたり、風呂に入ってこようとしたクリスを奏がインターセプトしたりと色々あった。
そしてその日の夜、流は考えを放棄したはずのソロモンの事をまた考えていた。
『まだ夜は蒸し暑いのに、なんでベランダになんて出てるんですか?』
「……ちょっとね。月が見たくて」
流はベランダで椅子を出して月を睨みつけていた。何故かソロモンの事が気になるのだ。
『え? 月が綺麗ですねって言いました?』
『セレナは可愛いよ』
『し、知ってますよ……それでなんで月を見ているんですか? まず私に体を貸していた時に何があったんですか? あの後からおかしいですよ』
流を欠片の中の部屋に向かいに行った時、流は頭を抱えて考え事をしていた。普段ならセレナの気配に気がついてこちらを向くのに、彼女が触るまで流は気が付かなかった。
「ソロモンが死んだ……じゃないか。俺の中から消えたんだよ、イザークみたいに」
『……そうですか。もしかしてソロモンが流さんのお父さんである事について悩んでいるんですか? 流さんが悩むことなんて身内以外ありませんし』
「なんか知ってるの!?」
流はセレナとソロモンに接点があるとは全く知らなかった。だが、セレナにとってソロモンは師匠だ。
ソロモンはセレナのアガートラームの性質が流の今後に役立つと思い、セレナのあの空間に引き込んで
セレナだって流と奏と一緒に学んできたが、ソロモンはそれ以上、下手したらキャロルよりも錬金術に詳しいかもしれなかった。ソロモンはカストディアンより与えられた知識を発展応用させて、流がカストディアンを殺す補助をする錬金術を教え込んだ。
その時にセレナは何故ソロモンが神を殺す兵器以上に流の事を色々考えているのかを質問すると、ソロモンは色々とセレナに教えていた。
『ソロモンは流さんの育ての親ですよ。育ての親といっても、流さんが生まれてくる前の培養層の調整から、成分検査、その他の作業をしていたのがソロモンです』
「だから俺の親なのか。確かに親だな……意味深な言い方してたくせに微妙な情報じゃねえか!」
『あの人も少し前の流さん同様、色々縛りがあるみたいですからね』
セレナはやれやれといったポーズをして、流の頭の上に座った。
「そういえばなんでソロモンの事はさん付けしないの? セレナって基本的に皆にさん付けかちゃん付けだよね?」
『……だって聞いてくださいよ。私ってソロモンが流さんの役に立つと思ったからって無理やりあの空間に呼び出されたんですよ? で、そのあと色々教えてくれたのは感謝していますけど、その間に話す惚気がうざいのなんの』
「お、おう。でも了子ママよりはマシだろ?」
『了子さんの方がマシです』
「マジか」
了子の惚気は物凄く面倒なので、S.O.N.G.の皆はその話に移行しそうになると途端に別の仕事へと向かう。そして毎回被害に遭うのは藤尭と緒川なのだ。
『マジです。それでファラオの娘を娶った歴史ではありますよね? あれってファラオとの関係を重視してとかではなくてその娘の胸が大きかったからってアホですか。大きいからいいってもんじゃないですよ? 私くらいの……』
そのあとセレナの普通サイズの胸の良さの講義が数時間続いた。流はどちらもOKだからいいようだが、ソロモンは貧乳は人にあらずと言っていたようなので、セレナはソロモンにさん付けは絶対にしないとか。
その日はクリスを抱き枕にして
今の流には一日一度の睡眠は不要だが。
**********
次の日、パヴァリアが日本にいて色々しているが、装者達が何かをして解決する類の問題ではない。こういう敵の目的や手段を探るのは了子達に任せておけばいい。
ということで、リディアンに通っている人達は全員学校へ行くことになった。
響はあと少しの課題を徹夜して仕上げていた。夜食を流が持っていった時、響が色々テンパっていたがやる事はしっかりやったようで宿題を終わらせられた。
「……」
「まだ勝手に気まずいとか思ってるの?」
「当たり前じゃない。確かに流は何も言ってなかったけど、結局裏切っていたわけではなかったのよ? 裏切ってなかったとしても、軟禁しておくのは証明のために必要だったけど……クリスだって凄い怒っているわよ」
「いや、クリスはもう怒ってない」
「なんでよ」
「昨日抱きしめて寝たから」
「…………そう」
今家にはマリアと流と翼と奏、それに霊体でセレナがいる。他の人は学校へ行ったし、キャロルは城に泊まっているらしい。エルフナインはキャロルと一緒にいるとのこと。
翼はソファーで奏と座りながら色々な話をしている。昨日は一緒に夜遅くまで話して同じベットで寝たと言っていた。翼が防人していないただの可愛い翼になっていて、響やクリスが目を何度も擦っていたが、色々あった反動で奏にベッタリになっている。少しすれば直るはずだ。
「……ねえ、翼ってあんなに可愛かったかしら」
「レズビアン?」
「……は?」
「ごめんなさい。未来でいう響、ママでいう弦十郎父さんみたいなものだからね」
「それって大丈夫なの?」
「翼だし、大丈夫でしょ」
学校組が使った食器をマリアと洗いながら、奏に頭を撫でられてデレデレしている翼を見ながらの会話である。
片付けがひと通り終わり、四人は一つのテーブルを囲んで座った。
「改めて初めまして。第三のガングニールの適合者であり、アガートラームの適合者でもあるマリア・カデンツァヴナ・イヴ。あたしは天羽奏だ」
「初めまして……えっと、私の妹のセレナがお世話になったわ、あ、ありがとう」
「……マリアは何故そんなに緊張しているのだ?」
「奏、やめてやれよ」
「翼と同じステージに立つ者として、相応しい奴か見てただけだよ」
奏は先程からマリアにずっと敵意を向け続けていた。マリアもそれを感じ取っていたが、奏は流を軟禁したことを怒っていると思ったのか何も言い返せていない。
奏がそんな事をするとは思っていない翼は表情柔らかく、マリアに頭をこてんと傾けて質問している。
「この剣、天然でここまであざとくなれるというの」
「それが翼のいい所でもあるからな」
「わかる」
「え?」
色々気が抜けてほわほわしている翼を肴に、三人は軽い雑談を続ける。
「……それで、そろそろこの四人を集めた理由を教えてくれないかしら奏さん」
雑談が一区切りした後、マリアが話を進めるべく奏に問う。奏が他三人を引き止めてこの席に付かせたのだ。ただの雑談ならいいが、何かしら話すべきことがあるなら進めるべきだとマリアは思ったので言った。
「そうだな。マリアの緊張も解れてきたことだし」
「そんなに緊張していたかしら?」
「流の事を一々引きずってたからな。まあ、あたしも簡単には許さねえけど、話している時に一々挙動が不振になられると話せるものも話せねえしな」
「……そうなのね。気を使わせたわ」
マリアが一度頭を下げ終わったのを確認して奏は口を開こうとした。
その時タイミングが悪く、流の端末がバイブレーションで通話が来たことを告げた。
「……すまん、出るね」
「ああ」
流は連絡をしてきた相手に表情を変えそうになるが、さっきまでしていた表情のまま電話に出た。
そして数分話したあと、流は通話を切って席を立ち上がった。
「どうした?」
「ちょっと呼び出し」
「ふーん、そいつは?」
「カリオストロ」
「「ブフっ!」」
奏とマリアは飲んでいたお茶を盛大に吹き出し、流と翼を思いっきり濡らした。二人はゲホゲホとむせた後、席を立ち上がって流の肩をつかむ。
翼はどうせいつものだと思い、流の手をつけていない茶菓子に手を伸ばしていた。
「今あなたが言った言葉の意味をわかってるの?」
「あのよ、どうせ流の事だから向こうが会おうって言ってきたから、特になにも考えずに行こうとしてたよな?」
「意味? そうだよ、カリオストロが相談したいことがあるって」
「相手はあのパヴァリアの幹部なのよ!」
「別に関係なくね?」
流にとって相手が犯罪者であろうと魔王であろうと、神であろうと話したいのであれば話を聞いてあげる。対話こそ愛を育む最も簡単行為なのだ。それを流は拒む気は無い。アメリカ以外は。
流の中でセレナを実質的に殺しただけでなく、はじめの一回の赦しを超えるほどの憎悪があり、更に母親である了子に銃を向けた時点で関係修復は不可能になっていた。
「……なんで流はそんなにパヴァリアに入れ込んでいるんだ? 皆に愛をとか本気で言ってるのはわかってるんだけどさ、その行動でマリアを不安がらせているのは分かっているだろ?」
「……ああ。だけど、なんで俺がパヴァリアのあの三人に入れ込んでいるのかは言えない。お願いされても言わない」
流は未だに頭の中で再生される、カリオストロがクリスとマリアにどう考えても殺された場面、翼と調にプレラーティが殺された場面、そしてその後に響がサンジェルマンに手を伸ばしている場面もあった。
だが、親友といえるであろう仲間を殺されてサンジェルマンが手を取り合えるとは思えない。
こんな悲劇を絶対に起こさせないため、装者に殺させないため、パヴァリア三人娘が死なないためにも流はどうしても動かなければならない。
「どうしても駄目なのだな?」
「ああ。皆には絶対に言いたくない」
「……わかったわ」
翼の言葉に流は強くうなづき、マリアが折れることになった。だが、タダでは折れないのがマリアだ。
「その代わり私達も連れていきなさい。戦力的にも、頭的にも役に立つし、何より……流ってハニートラップで負けそうよね」
「あたしはあのカリオストロはずっといけ好かねえと思ってたし、あたしもそれならいいと思うぞ」
「私はなんでも良い。どうせ流は誰かを救うためか、守るために動くのであろう?」
三人はそれだけ言うと、外に出る準備を始めた。
『良かったですね』
「何がさ」
『この流れならきっと流さんが魘されていた、皆さんがカリオストロ、プレラーティ、サンジェルマンを殺してしまうこともなさそうですよ』
「え? なんで知ってんの?」
流は既に記憶の共有が発生しないように手段を施している。それなのに、セレナは流が何度も見続けた悪夢を知っている。
『流さんは私や奏さんにすら秘密事をして、一人で抱え込もうとするのに記憶の共有を切ってしまいましたよね? まず謝っておきます、ごめんなさい。マリア姉さんと話している時に流さんの体の記憶から読み取らせていただきました』
「え?」
『流さんって憑依は体を操るだけだと思っていますよね? でも、やり方さえわかればその体の記憶を読み解くくらいはできますよ? ソロモンが息子の隠し事癖を暴いてやれといいながら五分で教えてくれました』
「……またお前か」
『あと、ですね? その、私で性的妄想をするのはいいですけど、貧乳で妄想するのはキレますからね? 今のサイズで妄想してください』
セレナがそう言うと、何故か巨乳のセレナが乱れている映像のような想いが流に流れてきた。
「まず俺はお前達で妄想したことなんてない。あとセレナの妄想を俺に共有しないで! なんでこんな無駄な……いや、有用だけどさ、技術の無駄使いするの? やめて? あと胸でか過ぎ」
『デカくないですー! マリア姉さんのサイズなので、私もあと何年かすればここまで大きくなりますから』
「……そうか」
流はそう言って、セレナの肩を軽く叩いた。
『流石の私もキレちゃいましたからね?』
準備が終わってリビングに戻ってきた三人が見たものは、力の抜けた人形のように体を崩れさせて、地面で倒れている流だった。
セレナは何故か家に保存してある、流用アンチリンカーを流に憑依してから使い、セレナは高笑いして勝利宣言をしていたのだった。
それが見えていた奏は、
『何をやってんだよ』
流の上で高笑いしているセレナに天誅を下し、三人のバトルは奏の勝利で幕を閉じた。
**********
「ゲッ」
「よう、カリオストロ」
「私は一人で来るって言ったのに随分と大所帯ね」
「俺って最近まで他の女と会っていたからっていう理由で監禁されてたからね。しょうがないさ」
「あーあ、だから連絡がつかなかったのね」
流は宝物庫テレポートで待ち合わせの場所に直接行き、待ち合わせ場所に指定された公園には既にカリオストロが来ていた。
宝物庫テレポートを通るためにマリアと翼がシンフォギアを纏っていたので、カリオストロは始めはハメられたらと思ったがどうやら違うようだ。
奏はシンフォギアを纏っていないが、負荷なく宝物庫テレポートを通過していた。
「随分と仲が良さそうね」
「……嫉妬しちゃって可愛いわね、フギャ!」
『あれ? 今のって』
マリアの言葉にカリオストロがニヤリと笑ってから、流の腕を見せ付けるように取ろうとしたが、頭に奏のチョップが炸裂してカリオストロはその場で蹲って呻いている。
「あっ、セレナにやる威力でやっちまった」
「ちょっとうちの妹にあんなに強いチョップを打ってたの!?」
「幽霊の時は強めに打たないとダメージにならないんだよ」
「なんでダメージを与える気なのよ!」
「マリアも落ち着け。奏が理由なく人をチョップはしない。きっと何かしらの理由があるのだろう。それは後にして、今はパヴァリアの問題の方が先だ」
奏スキーの翼がマリアを無理やり宥め、矛先をカリオストロに向ける。
今の会話の裏で、セレナは流に震えながら、自分の受けていたチョップの威力に戦慄していた。そして思った、生身じゃなくてよかった。
「……ごめんなさい、ちょっとだけ待って。うぐぐぐ」
だが、矛先を向けられたカリオストロはあの服装で体育座りをして、頭を抱えて蹲ったまま立ち上がれない。
物理的な楔のない霊体の場合、攻撃は基本的に意志の強さで威力が決まる。奏はセレナにお仕置きチョップをする時は全力全開でやっていたため、色々と調整された奏のチョップは岩をも穿つ。
「……待たせたわね。じゃあ、行きましょうか。テレポート場所はここから少し離れた湖だったわよね? よろしく頼むわ、グギッ!」
十数分してやっと復活したカリオストロは服が埃だらけだが、そんなこと気にせず流にエスコートさせるために手を伸ばしたが、反射的に奏がまた弾いてしまった。
話す場所は事前に流が決めておいた。カリオストロはどうせ流は人を嵌めるような人ではないと思っているので、言われた場所を特に確認していない。カリオストロの認識通り敵ではない限り非道な手は使わないのが流だ。
「あっ、悪い」
また十数分が経過してから、流は了子がフィーネだった時に過ごしていた湖のほとりへ宝物庫を開いてみんなで移動した。カリオストロは完璧な女性体のおかげか、宝物庫テレポートで負荷はなかったが、一瞬通ったバビロニアの宝物庫でノイズが遊んでいたのを見て、チョップで頭がおかしくなったのかもしれないと思ったのだった。
何事もなく……何事もなく交渉の席につけると思った矢先、湖の辺に着くと既に先客がいた。
「……なんでサンジェルマンがいるの? 今回は一人で行かせてって言ったわよね?」
サンジェルマンとプレラーティが、ラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏ってその場にいた。
クリスがあからさまに出番が減った? ソーニャの話があるので調整です