カリオストロは今回流の元へ行き、この場所で話すことをサンジェルマンに言っておいた。だが、カリオストロは一人で行くこと、付いてくることはやめて欲しいことを言ってあった。それに対して同意をしていたのにサンジェルマンは何故かここにいた。
「一人で来たのではなかったのか?」
「私は本当に一人で話す気だったわよ……もう一度聞くわ、なんでサンジェルマンがここにいるの? プレラーティは付いてきたってことはわかってるけど」
宝物庫テレポートを通るためにシンフォギアを纏っていた翼がカリオストロに刀を向けて威嚇する。だが、カリオストロも何故ここにいるのか分からないのでサンジェルマンに問いかける。
「もう遅いと言っておいたはずです。彼を計画の中心に据えるにはもう遅すぎます」
「いいえ、遅くないわ。それに私は言ったわよね? 来ないでって。それにサンジェルマンも頷いた。もしかして私に
「はい」
「私に流や彼女達に嘘をつかせた事になるのよ? 私が何が嫌いか知ってるわよね?」
「知っています」
カリオストロは信じられないような顔をしてサンジェルマンを見る。
カリオストロはサンジェルマンに会う前は稀代の詐欺師として悪事を働いていた。だが、それもどんどん追い詰められ、その命が潰えるはずのタイミングで救われ、完全な女性体と錬金術を与えられた。
カリオストロが今最も嫌いな事は嘘をつくことだ。その嘘で人をだまくらかす事はもうしないとこの体になった時に誓っている。それもサンジェルマンは知っているはずなのだ。
カリオストロはサンジェルマンに感謝をしているし、だからこそアダムという拘りを抜け出させるために色々動いていた。だが、サンジェルマンがカリオストロの言葉を嘘とするような行動を取った。
サンジェルマンもカリオストロには嘘をつきたくなかった。これも焦っているからだ。大祭壇の設置に必要な生命エネルギーが足りない。これで流や弦十郎などの超人を礎に出来なければ自分か二人を礎にしないといけなくなる。
サンジェルマン自身は覚悟ができているから良いのだが、もしそのエネルギーで足りなければアダムは世界の支配を解き放つために二人をエネルギーにしてしまうことも分かっている。
「……はぁ。流と三人ともマジめんご。どうも私は嘘をついちゃったみたい。嘘をついちゃった事について結構キレてるけど、それでもサンジェルマンを裏切る事は出来ないのよね」
カリオストロはしっかり頭を下げてから、流達から離れていく。カリオストロはサンジェルマン達の方へ向いながら、指輪を取り出して軽く指で弾く。光に包まれたカリオストロはラピス・フィロソフィカスのファウストローブを纏った。
カリオストロがサンジェルマンの後ろに不機嫌そうに立ったので、ここにパヴァリア三人娘とシンフォギア装者敵対が確定した。
だが、ここにいる一人は一度裏切られた程度で手放す人間ではない。先日だって
「……なあ、お前達は世界革命だかをして、支配なき世界を作るために月の遺跡を掌握してバラルの呪詛を解き放とうとしているんだよな?」
「そうだ! それこそが我々の積年の大願。風鳴流、あなたには私達の計画の礎になって頂きます」
「…………なるほど。サンジェルマンは馬鹿だな」
「「ぶっふ!」」
流はサンジェルマン達の目的を確認してから、ある事を思い出していた。そしてボソリと言葉をつぶやく。
真面目な雰囲気にふざけたことを言う流のやり方を理解していた装者組は笑わなかったが、カリオストロとプレラーティは吹き出した。
「馬鹿とは何を指して言っているのですか?」
『あのさ、統一言語があっても人々は争い合うからね?』
「……今のはいったい?」
流は統一言語でただ言葉のみを送った。サンジェルマンもそれが何であるかわかったようだが、それでも聞かなくてはならない。
『今の世で統一言語なんてものが復活したら、人々が分かり合うのではなく滅ぼし合うからな? そりゃカストディアンは人類の創造主だし、初めから統一言語を持っていた昔の人類は争うようなことはしないさ。やろうとしてもバレちゃうからな。てか、統一言語を持っていた人類も始めは争っていたからな? その結果が今に残っている北欧神話などの神の痕跡であり、武器の形をした聖遺物だ』
サンジェルマンの見通しは人々が理解し合えば支配なき世界を作れると思っているようだが、過去に統一言語を持った人々はカストディアンに反旗を翻して神話を作り出した。それはソロモンの言葉と記憶、それに聖遺物によって分かる。
フィーネの時代には既に武器型の聖遺物はあったと了子が言っていた。それはソロモンが生きていた時代にカストディアンと人類が争った遺物であり、統一言語と平和がイコールで結べない証拠になってしまう。
結局は月を破壊した後に天変地異が起き、人々が混乱して争い合う。月の破壊はバラルの呪詛の解放を意味し、フィーネは天変地異による混乱よりも、統一言語を手に入れたあとの人類が混乱することを彼女は見越していた。了子とサンジェルマンの覚悟の違いは知識の差だったのだろう。もしくは本来の人類なら人々は争わないという淡い期待ゆえか。
流は統一言語で言葉の裏にある想いも含めて、この場にいる人たちに理解させるために統一言語を用いて話しかけた。あまり人に対して統一言語は使いたくないのだが、流の妄想ではないということまで理解してもらうために使った。
流は始めて生きている人に意図して使ったが、やはりバラルの呪詛があっても受信は出来るようだ。発信は呪詛がある限り出来ないはずだが。
だが、サンジェルマンはこれが統一言語だと認める訳にはいかない。
「カストディアンがバラルの呪詛を封じる前は、人々は争いのない平和な世界で暮らしていたはず!」
「それは争いが終わってカストディアンが人類を統一したからだよ。人類が神を作って、カストディアンと戦った結果、最後に残ったのはやはり人類を作ったカストディアンだった。その後にフィーネ達の時代があっただけだ」
「何故それを貴様が知っている!」
「その時代の人に聞いたからだよ」
「うそぶくな!」
サンジェルマンは長い年月を積み重ねてきた想いをたった十数年しか生きていない男に否定されそうになり、必死になって否定する。
「お前達だって知っているだろ?……あっ、カリオストロまじありがとう、プロジェクトDについて教えてくれて。俺は神、カストディアンの器として生み出されたのは知っているな? その神の器が神の意志に沿うよう、成長をするために仕込んでいたシステムの一つ、ある人格を監視人格として配備するというものがあってね? その人格に聞いたんだよ。その人は古代の
「……貴様の戯れ言など認めない!」
「うーん、まあ証拠がないんだけどさ」
流はサンジェルマンが頑なに認める気がないことがわかり、どうしようか考え始めてすぐに閃いた。
「カストディアンのバラルの呪詛がなく、錬金術もシンフォギアもノイズも特異災害も、全てがない世界でも人々は普通に争っているからね?」
「バラルの呪詛がない世界?」
「そう、人は完全に進化によって生まれ、決定的な支配者がいない世界でも人々は争い合う……たしか」
流はほとんど覚えていないが、前世はそういった要素のない世界だったはずだ。だが、確実に人々は争っていたような気がする。
「バラルの呪詛があるない関係なく人は争う。あなたはそう言いたいのですか?」
「そうだよ。もしサンジェルマンがカストディアンの関与のない世界を見たいなら見せてあげてもいい。今は無理だけど。だから、俺に手を伸ばせ」
「ちょっと待て、流ストップ!」
流はそう言いながらサンジェルマンに手を伸ばした。しかし奏は流石に話が全くわけのわからない方向に行き始めたので止めた。奏も流がそんなことが出来るなど知らないのだ。
奏は流を少し後ろに引っ張り、パヴァリアを睨みつけてから話しかける。
「流でも前世のあの世界を見せることは出来ねえだろ」
「うーん、出来る気がするんだよね。それ系統の完全聖遺物もあるし」
「待ってちょうだい。そんな聖遺物の存在は知らないわよ? あったかしら」
「私も聞いたことないな。奏の反応からしてもないようだ」
「うん、最近まで忘れてた。というか、忘れさせられてた」
フィーネの別荘のあるこの湖にはある完全聖遺物が厳重に保管してある。用途はわかっても邪魔なだけなので、了子はそれを封印しているのだ。
流はS.O.N.G.の流と弦十郎と了子しか入れない厳重保管室でその事を知り、最近まで忘れさせられていた。もちろん了子に。
流は軽くそれを奏達に説明したあと、またサンジェルマンと対峙する。
「さあ、手を取れ」
「断る……敵であり、確証のない情報に踊らされて、世界革命を頓挫させる訳にはいかない」
サンジェルマンは手を差し出す代わりに黄金銃を取り出して構えた。それに反応して翼とマリアは反応して、いつでも飛び込めるように構えた。
「支配のない世界ってことは争いのない世界なんだろ? それを作ろうとしてるに暴力はどうなの? 俺は別にいいんだけどね? 痛みも愛だし」
「それら全ては世界革命の礎となっているだけの事!」
「ハァァァァ!」
「セヤ!」
サンジェルマンが至近距離から放った青い龍の銃撃は、翼とマリアが獲物によって切り裂いたことによって霧散した。
「はい、ストップ。俺だけが戦うから邪魔しないで? サンジェルマンも先走るな」
「ちょっと流!?」
「俺のやり方はいつも一緒だから。相手と話して、相手と戦って、最終的に相手の手を取りたい。今回も俺は手を取り合うことを忘れていない」
流はあの国以外となら誰とでも手を繋ぎあいたいと思っている。何故流はアメリカをこんなにも憎んでいるのかがイマイチ分からないが、セレナを殺した国だし当然だなとスルーしている。
マリアはそう言われてしまうと、自分も手を握られた側なので何も言えなくなる。翼と奏は流がそう言うならと下がることにした。だが、いつでも介入できるように準備はしておく。
「Croitzal ronzell Gungnir tron」
奏は流から受け取っているペンダントを掲げて、ガングニールを纏った。そのガングニールは基本が白と黄色で構成されていて、前の黒とオレンジのガングニールとはだいぶ見た目が違う。
「それが今の奏なんだね」
「ああ、これがあたしの今のガングニールだ」
「……あれ? リンカーは?」
翼は特に疑問に思わなかったが、マリアは何かがおかしいことに気がついた。奏はリンカーを使う装者のはずなのだ。しかし使っていなかった。後々に流や奏に聞くことが増えるマリアだった。
流は三人が引いてくれたことに感謝してから、更にサンジェルマン達に近づく。
「手加減はしてあげるけど多分痛いと思うから。あと俺には全力を出していいからね? どれだけ痛くてもそれは愛だから!」
「あなた……だいぶ変わったわね」
「それほどでも」
「褒めてないワケダ!」
プレラーティの言葉に合わせて、カリオストロとプレラーティは左右に散開し、サンジェルマンが流に向かって何発も銃弾を撃つ。
カリオストロはプレラーティと挟撃するために移動しながら青い光線を連打している。プレラーティは巨大化させたけん玉の玉を流に打ち放った。
「空間に入口と出口を作れるのって反則だよな」
流は三人の攻撃に合わせて、その攻撃進路にバビロニアの宝物庫の入口を作り、各人の背後に対応した出口を出現させた。
サンジェルマンは自分の撃った銃弾が背中に当たると、金色の金属がサンジェルマンの背中で破裂した。カリオストロの光線も同じようにカリオストロの背後を撃ち抜き吹き飛んだ。
プレラーティは背後から来たけん玉を、無理な体勢でもう一度打って流へと向けて放つ。
流は三人の悲鳴が聞きたくなかったので、耳を手で閉じていた。三人の悲鳴を聞けば、また頭の中で死亡シーンがループする気がする。
「デュランダル右足……ふんっ!」
「蹴りで吹き飛ばすとか絶対におかしいワケダ!」
右足を完全にデュランダルに変えてから、プレラーティの再度放ったけん玉をプレラーティの元へと蹴り飛ばした。
プレラーティは流の蹴り飛ばしてきた玉を、けん先に出現させたビームブレードのようなもので突き刺してから、玉を上空に打ち上げて錬金術を発動させた。
すると、けん玉の玉がどんどん膨れ上がる。
「これでも喰らうワケ、グフッ!」
「大技をやるなら仲間が盾にならないと。俺ってアホみたいにテレポート多用するからね?」
流はプレラーティが上空に放った時、宝物庫テレポートでプレラーティの真横に移動していた。そして溜めをしてから、死なないように手加減して前回プレラーティの腕を折ってしまった時よりも威力を下げて拳を鳩尾に打ち込んだ。
その後まだ意識のあったカリオストロとサンジェルマンの意識を無理やり刈り取り、戦いは呆気なく終わった。
「……やっぱりこの戦い方は愛が無さすぎて嫌いだな。なんだよテレポートで反射とか。近接タイプの俺が近くにテレポートして敵を殴るとか。はぁ……」
流は戦いになった瞬間、拳一つで戦う選択肢を忘れてしまい、効率的に異端技術の行使者を
どうやら流は確かに呪いは解除されたが、異端技術行使者を殺せという考えは呪いによるものではなかったようだ。
「……私が戦った時にこんな戦い方されなくて良かったわ。絶対にトラウマになっていたわよあれ」
「流が宝物庫テレポートをする時は今みたく動きが止まるから、攻め続ければされないけどな」
マリアがたった1分程度の惨劇を見て、流が自分と戦った時に宝物庫を使えなくて本当に良かったと胸をなで下ろしていた。
もし使われていたらきっと戦えないほどのトラウマになっていただろう。
「本来ならこやつらは防人としては捕らえたいのだが、流は捕らえる気がないのであろう?」
「ああ。俺は俺の知っている情報を教えた。あとは冷静になって考える時間を与えて、それでも駄目なら……殺すしかないかな。捕まえたってきっとまた暴れて皆が危険に晒されちゃうし」
「わかった。私は流がこの三人を倒したところは見ていない。そういうことでいいのだな?」
「翼、助かる」
流やそれをマリアや翼が手伝ってパヴァリア三人娘を木の影まで運んで、宝物庫なチフォージュ・シャトーにおいてある毛布をかけて四人はその場を離れた。
流はこの戦いである決意を強めた。
(やっぱりカストディアンは問答無用で殺すべきか……統一言語の解放はどうしようかな)
ソロモンの願い、サンジェルマン達の想い、フィーネの想いに気がついていたはずなのに平然と塔を壊し、呪いをかけて自分の母親を数千年と彷徨わせた罪。それらによってカストディアンと対話ができるのであれば対話をしようと思っていたが、もし現れたら即殺するかの検討を始めていた。
それと共に自分の強さが求めている弦十郎のような強さから離れ始めていることにため息をつくのだった。
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「すみません局長」
「いいや、ごめんよ。思わなかったんだ、彼がそんなにも強いとは。ミスだね、これは僕の」
「いえ、私達が戦力を見誤っていましたので」
パヴァリア三人娘は意識を取り戻すと、戦っていた場所のすぐ側の木の影に運ばれていたことがわかった。サンジェルマンなんかは負けた結果処刑まで考えていたのに、実際はただの放置をされて、流の言っていた言葉を思いだして怒りが湧いた。
そのあと撤退してからサンジェルマンだけ呼び出され、今回の報告をしている。
「そうかい……でも困ったね。足りないんだろう? 生命エネルギーが。待ってあげてもいいんだ、本来ならね。でも、時間が無いんだよ僕たちには」
「……所長が前前から言い始めた、時間が無いというのはどういう意味なのですか?」
「そうだね。言っておこうかサンジェルマンにだけね。来るんだよ彼らが。カストディアンがこの地球に!」
アダムは人類を舐めないようにしているが無意識で見下してしまう。だが、カストディアンは別だ。あれらがくればまた自分は貶められる。次は殺されるかもしれない。
だからこそ、月遺跡の力を手に入れてカストディアンが戻ってきても撃退、もしくは殺害できる力を付けるつもりだ。それは別に世界の為ではなく自分のためなのだが、サンジェルマンにはもちろん教えていない。
「……旧支配者が来るというのですか?!」
「そうなんだよ。急がないとね、だからこそ。でも足りないんだ、生命エネルギーが。だが駄目だよ? サンジェルマン自身が生命エネルギーになるのは」
「で、ですが!」
「猶予はあるんだ、まだ少しだけね。頑張ってくれよ、僕も嫌なんだ、君の大切な人を礎にするのは」
「……はい。何としてでも」
アダムは直接的には言っていないが、時間が来ればカリオストロとプレラーティを生贄にしようとしている。だが、それまでの猶予はくれるともアダムは言った。
サンジェルマンはもう手段を選んでいられないと決意を改め、アダムの住む部屋から出ていった。
「……なるほど、盗み聞きされていたかもね。一匹のネズミに」
アダムは何かを感じ取り、部屋を調べてみると科学によって作られた盗聴器の存在に気がついた。アダムはそれを握りつぶしながら、自身の描く計画に修正を入れようと考えはじめた。
サンジェルマンが書けば書くほどアダムに洗脳されてる感じになってきた。まあアダムも優秀な裏切らない人間を作るために色々やっただろうし。
そして流があれに近づきすぎて色々書きづらい。