皆さんはわかっている事の確認みたいになると思います。了子さんはもっとすごい気がしますが、私の能力不足で実力が発揮しきれていません。
パヴァリア三人娘と流が戦った。家に帰ってきて一息付いたあと、また流は外に出ることにした。すぐに了子に会いにいく事を言うと、何とか離してもらったが、翼は頷き、奏は溜息をつき、マリアは呆れていた。
「あのパヴァリアの幹部と戦ったのにシミュレーターで特訓をした後と数値は特に変わらないわね」
などとマリアに言われた。向こうが不意打ちで戦いを始めたら分からないが、現状の流のあの戦い方を回避できるのは翼と奏は流の動きで察知できる、弦十郎や緒川は動きを止めた時点で負け、あとは当たれば死ぬ未来くらいだろう。
流は外出許可を貰ったあと、たまには歩いてS.O.N.G.の潜水艦のある港に向かおうとしたらまた止められた。
「今はやめろ。トラブルメーカーなんだから、最短距離で移動をするべきじゃないか? ぶっちゃけあたしは怒ってるからな? さっきの戦いで手加減しただけじゃなくて、舐めプしてたのは分かってんだぞ?」
奏に土下座をしてから家の中からS.O.N.G.へと宝物庫テレポートをした。
ひとつ奏が不思議だったのは奏は統一言語を扱えるからこそ想いの流動は多いが、それ以上に翼と目を合わせるだけで、翼の想いが簡単に理解できるようになったことだ。
奏に土下座を流がさせられている時、昔の日常が戻ってきた事に涙を堪えていた事は目を見ずとも分かったりもした。
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「……何やってんの?」
『……あれ? 私って科学よりも錬金術の方が詳しくなっているような気がするんですけど』
『セレナは立派な錬金術師だろ? 俺よりもうまいんだし』
『錬金術師よりもお嫁さんとかが……やっぱりいいです。返しは分かっているので』
『セレナも俺から絶対に逃がさないからね?』
『こっわ!』
『セレナの事も大好きだもん』
S.O.N.G.についてすぐに了子のいる場所を聞くと、ウェルの研究室にいると言われたのでその場所まできた。
了子は前に流が使った『電界顕微観測鏡 WELL』の機械に了子が繋がれながらウェルと話している。集中している研究者二人は当然流の声は無視する。
「魂に刻まれた記憶の閲覧は出来るのかと疑問に思ってたけど、これは
「当たり前だろう? 僕は天才で生化学者だけど、魂なんて物までは修得していない。奇跡で観察出来ましたなんて起きたら僕は発狂するね」
「そうよね。生化学の分野だけなら、私よりも適性があるあなたが言うならそうなんでしょうね。で、魂の記憶を読み取る機械は?」
「無理。流から天羽奏を復活させたプロセスは聞いたけど、彼みたいに霊媒体質でも無い限りそれを解き明かすことは不可能」
どうやら了子は自分の過去の記憶を呼び起こそうとしているようだ。多分アダムについて少しでも思い出そうとしているのだろう。
「おーい!」
「……なんだい、いたのか」
「一々叫ぶのはやめなさい? 女の子に嫌われるわよ?」
「あんたらが没頭してるのが悪い」
「「ふーん」」
「チッ」
基本マッドサイエンティスト性質のある二人は結構相性がいい。異性的な相性ではなくうざい感じの相性と研究者基質がとても似ている。
流が話があると言うとウェルも興味があるらしく、少し離れた席でお菓子を食べながら聞いているようだ。了子が不味いのに止められない薬物は一切使っていないお茶を持ち出し、流と自分用に用意している。ウェルは勝手にいちご牛乳を飲んでいるので入れていない。
「それで?」
「今さっきサンジェルマン、プレラーティ、カリオストロと話した後、戦ってきたんだけどさ」
「ゴッホ! はぁ!? 君はアホだと思っていたけど、本当に真性大馬鹿者だな! 何故君が風鳴に監禁されたのか分かっているのかい?」
ウェルは原作では最低な英雄として扱われているが、ここではその最低よりも、更に
そして今回のやりとりを見てわかるとおり、頭のおかしい奴らへのツッコミ役は大抵ウェルが行っている。
「いやいや、しっかり言ったからね? それに翼と奏とマリアも付いてきたし」
「ああ……とうとう首輪をつけられたのか。男としてどうなのさ」
「え? 最高じゃね? 俺のために三人が自分の時間を使ってくれたんだよ?」
「やっぱり君は頭がおかしい!」
ウェルは口からお菓子の屑がこぼれるのも気にせず、流を対して突っ込む。
ウェルは少し前にある場所のエージェント……あれは風鳴宗家に集まる過激派のエージェントだったのだが、それに協力してやっても良かったかもしれないと心の中で大きくため息をついた。
「英雄思考よりも安全だし?」
「嘘をつくな! 僕は身内が一人殺されたら一人だけで世界大戦を勃発させようとなんてしない!」
「大切な人が殺されたらそいつらに報復をしつつ復活させる方法を模索するのは普通だろ?」
「普通ね。弦十郎が殺されたら、とりあえず殺った奴は皆殺し、その組織も皆殺にして、その後に死者蘇生を研究するわ」
「……もういいや。勝手にやっててくれ」
ウェルは物凄く疲れた顔をして、席に座り込んで特に甘いお菓子を貪り食い始めた。
「それで何を話しに来たのよ」
「統一言語ってあれを使えれば皆が仲良し! なんてならないよね? 使ってる俺もそんな気がしないんだけど」
「ならないわよ。あれはそれが普通の環境でそういう思想が芽生えないように教育された結果よ。そういう思想のある人は村八分にされて、どこかで死んでたはずね。多分あの方の命令で殺されてた可能性もあるわね」
「だよな」
やはり統一言語を使うだけでは意味が無いようだ。流はサンジェルマンに言い放った言葉がもし間違いなら教えてあげないとと思い、一応聞きに来た。だが、やはりあれは意思疎通のミスなく話せる万能言語なだけで想いを歪めるものではなかった。
「パヴァリアが月遺跡を掌握して、人類に支配なき世界をというのを気にしてたの?」
「まあね。本当にみんなが分かり合えるなら、
「ブフっ!」
聞かまいと思っていても同じ部屋の近くにいるのだから聞こえてしまう。ウェルは最近物事の尺度の計り方が偉く大雑把になったなと、自分の変化にまた今度は口に出してため息をつく。
「やめた方がいいわよ。どうするの? クリスのあの愛が実はそこまで強いものではなくて、別の人に恋してたら」
「…………」
『流さん? 流さん!!』
「ああすまない。セレナもありがとう。そいつを徹底的に調べて、もし少しでも不備があれば殺す」
「セレナちゃんもここにいるのね。でしょ? 私だって弦十郎くんに実は女がいましたなんて言われたら、その女を殺しちゃうもの」
「……反応しないぞ。僕は反応しない」
『流さんの考えを少しだけ理解できると思い始めたあたりだいぶ影響受けてますね。もう誰も失いたくないという考えは同じですし』
「『はぁ……』」
ウェルとセレナは奇しくも同じタイミングでため息をついた。
「……あー、それで俺が聞きたかったことはカストディアンって人々から信仰を集めてたりした?」
「私は元々カストディアンの巫女よ? そりゃ信仰……想いの力を集めていたのでしょうね」
「ふーん……」
「もしかして人の想いが分かるようになってたりするのかしら」
「わかる。早くパヴァリアをぶっ殺して弦十郎父さんと子供を作り、結婚したいっていう割とありきたりな願いを抱いてるね」
「正解」
了子はその後、色々な想いを抱きながら流にその内容を答えさせるがどれも的確に答えている。
「流は神の器として進歩しているのでしょうね。それが流からしたら進歩かどうかはともかく。誰が一番強く感じる? それとも全員からだいたい同じくらい?」
「うーん、奏との特殊な繋がりを抜きにしたら、翼が一番わかるかな」
「……あー、そうね」
了子は流の血液の半分が風鳴翼のものである事を言おうとしたが辞めておいた。
流が翼の血が流れているのには意味があるのだろうし、その彼は身内には特に強い愛を示す。
流はもちろん翼のことが好きだが、翼と遺伝子的に繋がっていて、翼が流を婿に迎えることに好意的な事がわかれば、下手したら暴走してしまう。イグナイト的な暴走ではなく、愛が暴走する可能性がある。
そして何より、流は段階的に神に近づいている。多分魂が砕けた事や、神の呪いを解いたこともその進歩の一つなのだろう。
もし流の出生の秘密を知ることが条件に入っていれば、もう人間には戻れなくなるかもしれない。
「どうしたの?」
「何でもないわよ。6歳だった頃の流は可愛かったのにな〜って思ってたのよ」
「ひでえ」
了子がお茶を飲もうとしたら、既に飲み干していたので、次は流が新しいお茶を入れる。ウェルもお茶を希望したので、天茶をいれて持っていく。とても甘く感じる天茶なので、ウェルは好んで飲んでいる銘柄だ。
「明日にでも装者の子達にも説明があると思うけど、流はいきなり消えたりするから、今説明しておくわね? 今後の流れを」
「わかった。あと今は首輪をつけられてるから無理」
『首輪役で〜す。変なことしたら奏さんに報告しますからね? そしたら奏さん泣いちゃいますよ?』
『変なことしないから泣かせようとするなよ?』
『分かってますって!』
セレナは色々と含みがありそうないい顔で笑って答えた。
「まずパヴァリアはレイラインを使うことはほぼ確定しているわ」
「ほぼなの?」
「エルフナインちゃんがキャロルと話していて分かったことなのだけど、錬金術には全は一、一は全って考え方があるわよね?」
「あるね」
「私の予想では、パヴァリアが回収したオートスコアラーに神の力とやらを注ぎ込んで、擬似神を作ると思っているわ。流も多分その体にその力を注ぎ込めば、神になれるんじゃないかしら? でもやっちゃ駄目だからね?」
了子は流の手を握って、本気で念押しして伝える。了子は本当なら言いたくなかったが、敵がその力を行使する時、流に勝手に流れ込んでくる可能性もある。ならば、知っていた方が何かしらの対処ができるはずだ。
「……俺もあんまり肉体の力、武術とか忍術以外は好きじゃないからわかってる。どうしても必要じゃなければ頼らないよ」
「それならいいわ。レイラインという大きな世界の力をオートスコアラーという小さな世界に封じ込める。これは全は一ね。だけどな、その話をしている時に、エルフナインちゃんがあることを思い出したのよ」
「なに?」
「キャロルは前に流に対して、七つの星に宿る七つの音階。そして七つの力。もしかしたら地球だけじゃなくて、天という更に巨大な全から力を抽出する可能性もあるのよ」
「……でもさ、それはレイラインと違って、絶えず動いている天体で錬金術の陣を描くってことでしょ? 無理だったんだけど」
流は自分の製造された日の星図を用いて、錬金術の行使をしようとしたが駄目だった。あれはぴったりあった天の並びがなければ成立しない。
キャロルが使う【ヘルメス・トリスメギストス】以上に条件が厳しいものになるはずだ。
「それが分かっているからこそ、無理やり表舞台に立ってきたんじゃないかしら」
「いや、絶対にフィーネが死んだと思っているからだから。今この世界でフィーネの魂を検知出来ないでしょ?」
フィーネが400年前にボコったのなら、警戒して、フィーネが完全消滅するまで待っていた可能性もある。
「……まあそこら辺はいいとして、弦十郎くんや八紘は今、神社本庁に連絡して、レイラインに関わっていて、尚且つ神の力に関する何かがないか、それといざって時にレイラインを遮断する手続きをしているわ」
「レイライン遮断なんて本当にしていいのかい? あれは自然の恵みの流れでもあるんじゃなかったのかい?」
先程まで聞くだけだったウェルは口を挟んできた。ウェルからしたら、レイライン遮断もなかなかに地上の色々なものに影響を与える最悪な手段に思える。
「少しなら問題ない……まず擬似神なんて作られたら、戦うのがめちゃくちゃ大変じゃない」
「大変で済むのか」
「最悪ロンギヌスが使った槍でも引っ張ってくれば、致命的な攻撃を与えられるもの。神殺しの逸話のある聖遺物は割とあるもの」
「……」
神に効く神殺しの聖遺物。流はほぼ擬似神と言っても文句を言われないレベルに人外化している。そして肉体の強度はデュランダル並みであり、並大抵の攻撃は受け付けない。だが、ある人の攻撃は簡単に喰らってしまう。
「……そうそう話を戻すけど、天体をもし使われたら敵が使ってきた手段を使えばいいのよ」
「敵が使ってきた手段?」
「亜空間の檻に閉じ込めるのよ。流なら簡単に出来るでしょうし、キャロルは今パヴァリアが使っていた異空間封殺の錬金術を研究しているはずよ。実際のものを映像で見て私と知識を擦り合わせたから数日で完成するわね」
「だから、キャロルは帰ってこなかったのか」
「エルフナインちゃんもキャロルと研究が出来て楽しそうだから注意をする気も失せちゃったわ。他にももう一つ準備しているのだけどね?」
流は了子の話を書きながら改めて思った。了子が味方でよかったと。もし流が了子と敵対しても、完璧にプロファイリングされて、先読みされて詰んでしまう。
そして何より、キャロルは異空間封殺以外にも別の準備をしているようだ。
「もしかして、それってあれだよね。俺が放置したあれを使って」
「そうよ。もしもの時の保険よ? あんなものバカスカ使ったら私と弦十郎くんが住む日本の土地が削れすぎちゃうものね」
「だね」
ウェルはたまに流と了子がやる超速理解会話がどうしても分からない。
そして流はキャロルが何を準備しているのかがわかった。キャロル自身が無理をしすぎなければ止める気は無いが、覚悟がないのなら辞めさせる気でいる。
「天は既に準備が出来つつあって、地は弦十郎くんが動いている。そしてオートスコアラーが肝だけど、流は本当に注意しなさい? そのオートスコアラーよりも絶対に流の方が力を集めやすいはずなのよ」
「神の器だから?」
「統一言語を使える人間だからよ」
流は元々使えるのか、それとも奏が死んだ結果覚醒したのか、はたまた魂が壊れたから使えるのか分からないが、流が危険であることには変わらない。
「なら奏は?」
「あの子は無理をした結果魂が削れたって言っていたわ。バラルの呪詛は魂に施される。なら、理論的にはその呪詛の部分を削れば、統一言語が使えるようにはなるはずよ」
『あー、奏さんは流さんの体から大きく離れたので、魂が削れていましたよね』
『その時だな』
奏の場合も特殊なので、カウントされないようだ。
「えーと、もし統一言語が使えるように設計されて作られた体ではなく、魂を削ったわけでもなく、純粋にバラルの呪詛から解放された人がいれば、そちらを優先してしまうかもしれはいけど早々そんなことがある訳ないのだけどね」
了子はフラグのようなものを口走ってから、勤務時間の終わりに近づいているので、ップを片付け始めた。ウェルも動き出したが、部屋から出ていかずに流の元へ来た。
「甘いものはないよ?」
「僕は自分のストックを食べるからいいさ……君にはこれを渡しておく」
ウェルは懐から一本のリンカーを取り出し、それを流に渡した。
「これは?」
「それは装者達が使い始めたリンカー、リンカーWELLだよ。それは聖遺物と人間の境目を更に曖昧にするものだ。これは君を解析した結果出来たものだね。それを流、君が使えば理論上はデュランダルとソロモンの杖が完全に使えるようになる。いいか、君自身が完全聖遺物になる事によって、力を100%以上引き上げられるようになる」
「すげえじゃん」
「だけど、これを使えば下手したら人間の体に戻せなくなる。見た目だって今は弄って人間の見た目に戻しているだろ? それすらできなくなる可能性がある。これは渡さない方がいいんだろうけど、君は僕の友達だからね。成功した研究物を自慢したくなった……そんな所だよ」
「……わかった。絶体絶命の時に使うよ」
「それがいい」
流はウェルに頭を下げてから、人間をやめる薬を懐にしまったのだった。
アニメのエルフナインも気づきかけていたけど、うっかりしていましたからね。ここのエルフナインはキャロル色々学んでいるので、閃きました。
あと前回のサンジェルマンがキャラがちがくね? というお言葉を頂きました。サンジェルマンがあの二人を仲間にする前にアダムが付け入った結果です。歪んでいますが、響に対する未来みたいなものですね。