早く本編の話を進めたい。
流のアダムへの想いは可哀想というものだった。
彼はソロモンにアダムが創られたであろう経緯を聞いた。ソロモン自体の見た目がアダムのプリセットを使われ、この世界に全く同じ姿をした人間がいる事を色々あって知り、調べた結果を流に教えた。
アダムは採用されなかった人類の一つ。完璧に作り過ぎたが故にカストディアンはアダムを捨て、不完全な人類を作った。
だが、その不完全な人類はカストディアンに牙を向け、その結果ソロモンが作られて、人類の信仰はカストディアンにのみ向くことになった。
その話を聞いて流は哀れだと思った。完璧故に死なず、人類の不完全さに常に苛立ち、自分自身が完全だからこそ新しい物を生み出せない。流は聞かなくてもそれがわかった。自分にもそんな考えが芽生えつつあったからだ。
今の流は手段を選ばない本気を出せば何でもできる気がする。だが、流は何でも出来るよりも弦十郎と本気の殴り合いをしていた方が楽しいので、そんなことは考えないようにしている。
「……成長の限度がないなんて狡いよね、不完全だからってさ。フィーネしかり、君しかり」
吹き飛ばされたあと少しして立ち上がったアダムは、悪魔なような両腕を美形のアダムに似合う人間の腕に戻していた。
あの姿では絶対に勝てないと悟ったのだろう。
「知らん。お前は俺の女になる予定の二人をボコってたみたいだけど、殺されたいの?」
「やはりそうなのか……」
アダムは流の言葉に一度頷き、吹き飛ばされて落とした帽子を頭に乗せる。
流は先程全力で殴ったはずなのにアダムの体は爆ぜず、普通に引き飛ばされただけだった。流の本気をモロに受けたのにも関わらず、弦十郎のようにケロッとして起き上がってきた事に、流は久しぶりに歯をむき出しにして笑いそうになるのを抑えた。
「何がだよ」
「わかっているのだろう、君もさ。学ばせてもらったよ、僕もね。やはりあの姿では駄目か」
アダムが納得したような顔をしながら、流達の元へ歩いてくる。流も後ろの二人を巻き込まないように、前に出ようとしたらセレナによって止められた。
『どうした?』
『弦十郎さんと緒川さん以外に、始めてまともに戦えそうな人が見つかったのが嬉しいのは分かるんですけど、今回は戦うために来たんじゃなくて救出に来たんですよね?』
『そうだよ』
『お二人共死んでしまいますよ? 見た感じ内臓にダメージがいっていますし、完全な体だからこそ、再生力も高いようですので変な形でくっついちゃったら大変ですよ? キャロルちゃんにお願いするのはなしですからね? 流石に気まずいでしょうし』
流は完全な女性体だから戦う少しの時間くらいなら問題ないと思っていたが、どうやら二人は本当に瀕死状態のようだ。良く見てみると辺りは血だらけで、出血量も洒落にならないレベルなのが分かる。自分が出血しても少し休めばすぐに治ってしまうから感覚が狂っていたようだ。
「……お前は俺の娘であるキャロルをボコってくれたらしいじゃねえか。とりあえず死にたいと願ってくるまで殴り続けようとしたけど、二人が死にそうだから見逃してやる」
「面白いことを言うじゃないか、Dの成功例。神の器なのだろう、君が」
「……」
一瞬驚きそうになったが、サンジェルマン達が知っているなら、そのトップのアダムも知っていておかしくない。
後ろではセレナが二人の状態を目視で確認してくれているので、少しくらいは喋る時間がありそうだ。
流は今回だけは自分が抱いた感情の可哀想という想いによって、一度だけは見逃してやることにした。流の目的は二人の救出なのだから、自分の快楽のために戦うのは間違っている。
というか早く帰らないと、風呂から直接外にテレポートしたことがバレてしまい、皆からのお説教コースになってします。それもいいなと思ったが、少しは自重することにした。
「そうだが?」
「ならば、兄弟じゃないか、僕達は。兄弟ならば、僕は君を受け入れよう。さあ、世界を取ろうじゃないか! 僕とともに! 風鳴流……いいや、
「……ん?」
アダムと兄弟という意味はわかる。アダムはカストディアンによって作られた。流はカストディアンの意思を引き継いだ人達が、カストディアンが作りだした神の使いの血を引き継いで生まれた。神は神の一部から出来るという諸説もあるし、ある意味では流はアダムと存在自体は似ている。
だが、そこでデウスと呼ぶ意味がわからない……いいや、意味はわかる、だが間違っている。
「あのさ、もしかして俺が全能神ゼウスの概念を付与されて、その精神性を体現していると思っているのか?」
「僕は知っているからね、プロジェクトDを。だからこそ、Dで生まれたものがデウスとなることも知っている。あのゼウスらしいじゃないか! 今の君はいくつもの女性と交合おうとするのが」
「……え〜」
流はこう言われたのだ。人間があんなに女性を囲おうとするわけないよね! プロジェクトD生まれでその強さ、そして何よりその好色はゼウスに違いない。流は女性関係の色々で人外認定された。
「共に解放されようじゃないか、カストディアンの呪縛から」
「あの、すみません」
「僕と同列なんだよ、君はある意味ね。だから、敬語なんて不要だよ」
「そう? なら失礼して。俺ゼウスじゃないから」
「……は?」
「神の概念は付与されてないからね? 確かに神の器みたいだし、最近それが開花してきてつまらないと思うことも増えたけど、俺は元々ただのモブで弦十郎父さんや了子ママ、緒川父さんによって鍛え上げられただけだからね?」
「…………は?」
アダムは流が飛び込んできた時はテンションが上がっていて、それ故にフィーネとダブり、殺そうとした。だが、流に吹き飛ばされて頭が冷え、ある事を思い出した。
アダムは完璧で完全な存在だが、それ故に一個で完結していて、同族というものがない。完璧なのに何故か不安定な心を持っているアダムは、流の生い立ち的に同族なのではないか? と思った。カストディアンの都合によって生み出され、人の身であるのにも関わらず、完全聖遺物を取り込まなければならないほどの生を送らざるを得ない。
ならば、カストディアンの支配から解き放たれたい自分と同じではないか? 彼らが再来してきた時に駒として使われるかもしれない恐怖を抱いている自分と同じではないか?
フィーネという宿敵と会い、自分の真の姿の攻撃を
それなのに、流はそれを否定して、あまつさえ人類の一人、取るに足らないそこらにいる人間だと言い始めた。
『流さん、もうそろそろ帰りましょう。見るだけでは限界がありますし、もう二人の体も本当に限界です』
『わかった』
アダムは物凄く悩んでいるが、流自身はそんな事どうでもいいので、その場をあとにしようとする。
「いいか、今回は見逃してやる……あっ、そうだ。お前は後のちに裁きを与える。サンジェルマンにも同じことをしようとしたら抹消するから。じゃあね」
流は友人との別れの挨拶……はほとんど知らないが、そのくらいの気軽さで、アダムに背を向けた。
「ふざけるな。逃がすかよ!」
「遅い」
アダムは思考から一時的に復帰して、二人は見逃す意味が無いので、殺すために斬撃のように鋭い衝撃波を錬金術で無数に発生させた。
だが、流は二人に触れてそのまま地面に宝物庫への入口を作り、そのまま落ちて閉鎖空間を脱出した。
アダムが先程から使っているテレポート阻害は、錬金術のテレポートにしか作用されず、空間に別空間の入口を作り出す宝物庫テレポートには意味がなかった。
「……何故だ。彼らの計画では確かにデウスとして作り、自分達の身代わりとして、人々の怨みをその身に受ける。自分達の降臨を補助させる機能もあるはず。そのために神に近しき力を与えるはずだった。400年前はプロジェクトDは僕の知っているとおりだったはずだ。何があった?」
流が下手したらカストディアンに抵抗するための戦力にはならず、向こうの味方をするかもしれない事にアダムは頭を悩ませ始めた。
カストディアンは確実にシンフォギア装者の内誰かを巫女として献上させるはずだ。そうすればゼウスの怒りに触れる。
そう思っていたのに、もし凡人の意志の力しか持っていないのであれば懐柔されてしまうかもしれない。あの力は神に至っていないが、十分脅威なのにそれが向こうへと行く。
アダムは唯一自分だけがカストディアンの来訪を予期していてそれに対して頭を悩ませているが、さらなる厄災が近くにいたことに頭を悩ませ始めた。
だが、画期的な方法をアダムは考えつけるはずが無く、深くため息をつくのだった。だが、完全が不完全に何度も負けたおかげで、本来の自分の計画を修正することが出来た。
**********
「……ヒグッ!」
「……乱暴なワケダ」
「うるさい、それも愛だから受け止めろ」
流はチフォージュ・シャトーの中にある、医療室のベッドの横に出口を作り、二人をそのままベッドの上に落とした。
二人を担ぎ上げたり、クリス達のように優しく持っても良かったが、そうすると忠犬クリスが確実に匂いを嗅ぎつけてしまうので触れなかったのだ。
「二人を普段の正常な状態へと治癒させるから……触らないと治療出来ねえじゃん。なんでファウストローブが体にめり込んだり刺さってんの?」
「……アダムにボコられただけよ。ほんと嫌になるわ」
カリオストロは喋るのも辛いはずなのに、律義に答えてむせ帰り、更に辛そうにしている。
『ファウストローブのコンバーターの破損ですかね』
『だろうな。ここまでボコられても剥がれないなら、多分それだろう。ってことは、やっぱり触って除去しないといけないよな。ネフシュタンの欠片みたいに、電撃を浴びせれば浮き出てくるとかじゃないし』
『諦めて怒られてください』
『だな』
なお、翼の直感のような何かとクリスのソロモンの杖繋がりのリンク、奏の指輪の繋がりによって、流が家の中から居なくなったことが既にバレていて奏がため息をついていたりする。
流は二人のボロきれの様にくっついているファウストローブを引っペがし、全裸にしてから全身を洗い、破片の摘出をし、今はイザークの錬金術の治癒をやり続けている。
『めちゃくちゃ親しいクリス達よりも、この二人の方が隅々まで触ってしまった』
『後で報告しますね』
『いや、やめろ。流石にやめろ。確かに俺は皆にぶん殴られても文句を言わないし、ちょっといいかな? とか思うけど、奏とクリスは下手したら殺しにくるから。手を出す順番を間違えた瞬間、俺はみんなを愛する前に消し炭にされるから』
『そこら辺分かってるんですね』
『そりゃね。奏とか本当なら一人だけを愛してほしい……しかも少女漫画かホームドラマのように愛してほしいと思ってるし』
奏は色々と勉強するために、色々なものを見た結果、そういったものに考えが侵食されている。流もそうだが、この世界の人間はあまりにも創作物に影響を受けすぎる傾向があるようだ。
「……ねえ、回復速度早すぎない?」
「目に見えて肉体が修復されていって気持ちが悪いワケダ」
セレナと奏の話題で話していると、ベッドの上の二人が流に話しかけてきた。
「そうか?」
「体の皮膚が再生している感覚を味わうってなかなかやばいと思うのよね」
「ああ、これは俺やお前らみたいな老化とか関係ない奴にしかやれない方法だしね」
イザークの錬金術は無理やり修復させる方法もあるが、基本的に自己治癒で治る部分はその自己治癒能力を高めて治す方法ばかりだった。
流は錬金術にそこまでハマっていないので、応用だとかはあまり出来ない。
なので、自己治癒強化しかないなら、それをデュランダルのエネルギーで何重にもして、無理やり再生させればいいという結果に至った。
ただこれは寿命のある体だと、色々と不具合が起きそうなので、完全体の二人だからこそ使える方法だ。
ちなみに
それを流は説明すると、やっと腫れの治った顔で物凄く嫌そうな顔をしだした。
「なにさ」
「治してもらっているから文句は言わないけど、普通に一言くらい聞かない?」
「大丈夫だと何となくわかってたから別に」
なんて言っているが、運んだ後の二人の姿を見て、殺される寸前の叫び声をあげる二人と幻視をしてしまい、本気で治した結果なのだが、恥ずかしいので言わない。
「それでなんでお前らは組織のトップと戦ってたのさ。言わないはなしね。もし言わなかったら、バビロニアの宝物庫にあるこのチフォージュ・シャトーに軟禁するから」
「……まあ元々あーしはそれについて相談する気だったし、聞いてちょうだい」
プレラーティは本当にこんなやばそうな奴に話してもいいのか? と疑問に思うが、カリオストロが判断したのならいいのかと、無理やり納得することにした。
それから流はパヴァリアの内情について、サンジェルマンがアダムを何だかんだ盲信していること、そしてアダムの本心を話した。
「なるほど。それでどうするの? 助けたかったから助けたけど、このままノコノコ帰れないでしょ?」
「そんなこと分かってるわよ」
「……アダムからサンジェルマンを奪い返すのは決まっているワケダ」
「それは確定ね」
流は内情やサンジェルマンの立ち位置など知らず、願われ、そして死んで欲しくないから助けたのだが、今状況は下手したらサンジェルマンが更にアダム側に傾いてしまうだろう。
しかもアダムを盲信しているのなら、サンジェルマン達が戦ってしまった時点でほぼ負けたようなものだ。
「……まずなんであんな大規模なテレポート阻害の錬金術を使っていたのに、サンジェルマンは出てこなかったのかしら」
「アダムが言い含めたとかそんな所なワケダ」
「疑ってるのがバレちゃった時点で……あれ? アダムってあんなに私達を疑うほど慎重なやつだったかしら? それにあの腕はなに?」
「アダムが人類の本来の姿だったかもしれないってことは知ってる?」
「え?」
「どういうワケダ?」
次に流が自分の知っている、二人にも教えても大丈夫な情報を渡した。アダムの成り立ちを主に言葉にし、S.O.N.G.やフィーネ関係はあまり言わなかった。だが、これだけは言った。
「……フィーネって生きてたのね」
「魂を歪めてでも風鳴弦十郎を選ぶのは狂っているワケダ。それに魂がない人間なんて普通はありえないワケダ」
「そうよ。魂の代わりを想いの力でとかおかしいでしょ」
「そうでもないけどね」
二人との会話を一段落させてから、この部屋から逃げないように言い含め、食べ物などを持ってきてから、キャロルのいるであろう研究室へと向かった。
そこには包帯を巻いて研究に勤しんでいるキャロルがいた。
「キャロル」
「旋律自体は収集できたけど、これであれを……」
なお、キャロルはウェル達と同じ研究者なので、没頭している時に話しかけても聞いてくれない模様。
どうしようか考えていると、部屋の奥からファラがやってきた。その手にはお盆が乗っていて、軽食を渡しに来たのだろう。あの上の料理は絶対にファラが作ったのもではないことは確定だが。ファラはイザークタイプなので、料理が下手なのは周知の事実だ。
「こんばんは……全裸でマスターに夜這いですか? 流石に娘にそのような事は宜しくないかと」
「あっ!」
『あっ!』
「自分が全裸であることを忘れていたのですね。それでどのような御用で?」
流は全裸の方が動きやすいので、全裸であることを完全に忘れていた。そしてセレナも流の全裸は見慣れてしまったので、完全に忘れていた。そんなセレナはしっかりと服をまとっているように見える。
「ああ、今治療室にカリオストロとプレラーティがぶっ倒れてるから、もし逃げようとしたらぶん殴ってでも止めて。あの二人のファウストローブはここにあるし」
流は二人から剥がした時に発動媒体である指輪とけん玉を回収していた。了子なら既に対策を生み出しているはずだが、もし装者達がどうしても戦いたいと言った時に、闘えるようにして欲しいので、解析させるつもりだった。
「そういう解析はエルフナインの方がよろしいかと。マスターはそういうの下手なので。大技連打の癖が付いているから、今回のアダム戦でも負けたのでしょうし」
「エルフナインの方がいいのか」
「彼女はマスターほど錬金術の才能はありませんが、その解析能力はあの了子も太鼓判を押すほどですので」
「へぇー」
流は本来なら知っていたはずだが、その知識は焼却されたので、もちろん忘れてしまっている。
ファラと軽く会話を済ませて、キャロルの研究室の隣のエルフナインの研究室に行くと、ちょうどファラが持っていた軽食と同じものを食べていた。
そしてエルフナインにラピス・フィロソフィカスのファウストローブの発動媒体を見せると、目を輝かせてから、流の手から奪い取って解析を始めた。
「……えぇ」
『彼女がいたから3期は戦えたようなものですからね。そんな彼女にキャロルちゃんと了子さん、ナスターシャさんとウェル博士がいれば、こうなってしまってもしょうがないですよ』
今のエルフナインは研究をやらないといけない訳ではない。他に優秀な人がいるので、他のことをしてもいいのだが、皆に色々な知識を教わるのが楽しいから学んでいる。
あのウェルにも、学者としてのその姿に目を輝かせているため、彼も邪険にせずに教えている。エルフナインは覚えがいいのか、ウェルは自分の弟子に仕立て上げようとしているが、了子もナスターシャもキャロルもそうする気なので、エルフナインは大変そうだが楽しそうにしている。
流はひと通り今夜中にやることが終わったので、エルフナインにしっかり寝ないで研究を続けたら、お仕置きであることを言い含めてから流は風呂場に宝物庫テレポートで戻った。
流が風呂に入り始めてから大体数時間が経っている。
「正座」
風呂場で流を待っていた奏達に捕まり、その場で正座をさせられた。クリスが庇おうとしたが流の体から変な女の臭いを感じ取ったので、奏側に回り、長い説教が始まった。だが、それも流にとっては楽しいことなので、あまり意味が無いだろう。
アダムってカストディアンに怯えて、フィーネにはその対抗策をぶっ壊されて、そしてシンフォギア装者達に対抗手段をぶっ壊された男なんですよね。
次回はやっとアダムの過去の話が書けるので、話を進められる。長かった。皆さんだいたい予想はついていると思いますけど。