戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#108『月読調』

 カリオストロ達の言葉が真実か確認するべく、同じオリオン座関係の文献があるという、月神社へと向かうことになった。

 そのカリオストロとプレラーティは現在S.O.N.G.で軟禁されている。怪我自体は治ったが、魔力も体力も戻っていないので抵抗をしなかった。緒川がいるので問題など起きないだろうと判断し、戦力を残すなどのことはしなかった。

 

 現在はマリアや了子が車を運転し、流や翼はバイクでその神社へと向かっている。

 

「あたしもバイク買おうかな」

「そうしたら一緒に走れ……奏はまだ免許持ってないでしょ!」

「まあな。まずあたしの戸籍は既にないから、何とかしねえと」

 

 翼の後ろに奏が座り、未だに翼はテンションがとても高い状態を維持している。あまり騒ぎすぎるとその事をあとで思い出して悶絶することになるのだが、流も奏もあえて指摘しない。

 

「……うぅ。調もクリス先輩も物凄く睨んでいるデスよ」

「切歌が安易に乗ったのが悪い」

「楽しそうだったからしょうがないデスよ」

『……斬撃武器使いは本当にチョキばかり出すんですね』

「「じー」」

 

 バイクを操る流の後ろにも人が座ろうとした。そしてその席を誰が取るかのジャンケンが行われ、切歌は楽しそうだからと参加した結果、最後まで勝ち残ってしまった。

 切歌は辞退しようとしたが、負けた奏とクリスと調が譲られた勝利に意味が無いとか言って、奏は翼と、クリスと調はマリアの運転する車の後部座席に座り、切歌が珍しい反応するから見続けている。

 

「すごい柔らかい」

「何がデスか!」

「胸だけど?」

「「じー」」

「……はぁ」

 

 切歌は珍しくため息をついた。

 

「若いわね」

「あまりそういう事を言っていると、老けたように思われるぞ」

「別にいいわよ。弦十郎くんがしっかり見ていてくれればね」

「そうか」

 

 運転席に座る了子が弦十郎との会話をたのしんでいる……その後ろで。

 

「……乗るんじゃなかった! まだマリアの運転する車の方がマシだったね!」

「分かっていましたけど、自重はしないのですね」

 

 二人の博士が了子の惚気に文句をぶつくさ言っていた。だが、こんな状況でも甘いお菓子を食べるウェルは本当に好きなのだろう。

 

 

 **********

 

 

「おおおおおお!!」

 

 月神社に着くと、まず目に入ったのがウサギだった。狛犬の代わりにウサギの石像が鎮座されているのが見えた。

 そして実はこの中で一番可愛いもの好きのマリアが喜びの声をあげた。マリアの部屋はピンクピンクしていて、クリスの部屋と同じように人形が多く置いてある。そんなマリアは隠すこと無くその石像へと向かっていった。

 

「マリアの部屋の可愛いものグッズはやっぱり増えた?」

「増えた。アイドル活動のお金はそれ位にしか使えないっていいながら、値段とにらめっこしてた」

 

 必要経費以外で無駄使いが多いと家計簿をつけているマリアに怒られる。食費などが多少増減する程度ならば怒られないが、無駄使いをした切歌が夏休みの時に怒られていた。

 切歌のカッコイイのセンスはキャロルと通じるものがあるので、きっと本人には意味があったはずだ……なお、その買ったアイテムは数日後にはリビングに転がっていた模様。

 

「なあ了子。あたしの戸籍を作ってくれ」

「いいわよ」

「ありがとよ」

「ねえねえ未来。今とんでもない会話がさらりと聞こえたんだけど」

「いい? 響。考えちゃ駄目」

「……だよね」

 

 奏のお願いを了子はさらりと了承し、それを異常だと()()思える響と未来が思考を停止させていた。

 

「……」

「どうしたのだ?」

「あれ? 話し方戻すんだ」

「いや、あの話し方はちょっと恥ずかしい」

「……そんな事ないよ。翼はあんな風に素直なほうがいいよ」

「ほ、ほんとうか?」

「本当本当。ね! 奏」

「そうだな。あっちの翼の方がいいと思うぞ」

「……わかった」

 

 翼は忘れていた。奏と流は翼に対して、割といじめっ子であるという事を。

 後日、翼のリディアンで出来た友達と街へ繰り出した時、そのキャラで行った結果、翼は帰ったあと流と奏に斬りかかったとか。そして二人は当たり前のように無傷だった。

 

「それでなんでボーッとしてるんだ?」

「少しだけ変な気配がした気がしたけど、本当に気の所為っぽい」

「……ならいいや。行こう翼」

「うん!」

 

 奏は順番待ちをしているクリスを一瞥したあと、流の()()()()()()()()その場をあとにした。

 

「流って嘘が下手だな」

「クリスは俺に嘘をつけないくせによく言うよ」

「そ、それは流には嘘をつきたくないとかそういうのであって……」

 

 後ろで順番待ちをしていたクリスが流が嘘をついたことを指摘したが、流の言葉に反応して色々と言い始めた。

 

 流は最近レイラインのエネルギーの影響をとても強く感じる場所に行ってなかった。ここ調神社はレイラインを封鎖するのにとってとても重要であり、ここだけで幾つもの要石がある。

 

 だからだろうか、流はこの場所についてから無駄に力が湧いてきている気がする。これも神に近づいたが故の影響なのかと、セレナ以外にはバレないようにため息をついた。

 

 神社の奥に進むも宮司さんが出てこないので、とりあえずお参りをするためにひと通りの作法を行い、皆が賽銭箱の前に立っている時、後ろから宮司さんが現れた。

 

「あなた方がS.O.N.G.の人ですか。お久しぶりですね、弦十郎くん」

「ご無沙汰しております」

 

 弦十郎は強くなるためにはまず精神を鍛えることにした。その時に様々な伝手でこの宮司と会って、何度か説法を聞いたりした経験がある。

 調に緒川が言った心の壁というモノも、この人の考えであり、緒川は『面白い方』と言っていた。

 

「そしてあなたが弦十郎くんの息子さんですか」

「初めまして風鳴流です」

「神社本庁から話は聞いていますよ? 大暴れしているとか。若い頃はそのくらいの方が良いですからね」

「い、いや宮司殿。流のそれは」

「弦十郎くんも子供の頃は酷かった気がしますけど? もしかしてこの場で言っても宜しいので?」

「いえ、遠慮させて頂きます」

 

 弦十郎が普通に負けて、宮司はにこにこ笑顔でウンウンとうなづいている。

 

「それにしても、この神社にお正月以外でこんなにも若い女性の方々がお越しになるとは。目出度き日ですね。お赤飯を炊かなくては」

「お赤飯は違くないかしら?」

「そうですか? 私の孫娘は皆さんくらいの年齢でしたので、少しだけ舞い上がってしまいましたよ」

 

 周りの空気が凍りつくが、クリスと了子がツッコミをしようとしてから、譲り合い、クリスが言うことになった。

 

「割と幅広い……まず了子まで入れちゃダメだろ!」

 

 若い女性と言った時に了子も目線に入れていたので、すぐに了子の年齢を知っているクリスが突っ込んだ。

 了子は弦十郎が言い負かされて、やってやろうじゃないかと思っていたが、人を見る目のある老人だとわかり、了子は笑顔で黙っている。

 

「あー、そうでしたね……老眼とは嫌なものです」

「老眼ってレベルじゃねーぞ!」

「元気があってよろしい! さて、皆様のお求めのモノは中に用意してありますので、お上がりください」

 

 宮司は自分の頭をポンっと叩いて、冗談を言いつつ、本来の目的に向けて、移動し始めた。

 

 セレナは流が宮司を見ているようで、見ていないように見えていた。

 

 

 **********

 

 

「どうですか? 私自慢のキッシュは」

「とっても美味しいデース!」

 

 既に用意しておいてくれた大量の文献を、主に流と了子と奏とマリアと翼で読み解き、他の人は作業をしつつ、時たま外に出て気晴らしなどをしていた。

 だがその作業中、響が盛大にお腹を鳴らして、それを聞きつけてやってきた宮司が用意した昼飯を食べていた。

 

 流や調の料理になれている皆であっても、とても美味しく感じていたし、流は出汁をとてつもなく丁寧に取った結果、この味が作られているであろうことがわかる。

 

 昼飯のあとは了子は別の文献を借りて、それに掛かりっきりになり、流もあまり効率的に作業ができなかった。今日はここに泊まって、明日まで調べることになった。

 それを決めたのは了子であり、弦十郎と了子は別室だ。しかも装者や流達から離れた場所に寝るようで色々と勘ぐってしまう。

 

 なお、流は同室なのだが、響以外は誰も反応しなかった。未来は絶対に響を男の魔の手から守ると固く誓っていた。

 

 夕方になると、宮司が入れてくれた檜風呂に女性陣が皆で向かっていった。

 流はその間に宮司の元を尋ねる。

 

「どうかしましたか?」

「飯の準備中すみません。少しだけ話しがしたくて」

「……ここではない方がいいみたいですね。外に出ましょう。まだ火を通す前でしたので、このままで問題は無いでしょうしね」

 

 宮司は流の目を見て、大切な話だとわかると、鍋を置いてから、勝手口へと流を誘った。

 

 二人は丁度賽銭箱前まで来て、そこで宮司が立ち止まり、流に頷き返した。

 

「まずは昼飯美味しかったです。特に丁寧な昆布由来の出汁がとても良かった」

「おお! あれはお客さんが来る時のために取っておいた、とても値のするものなんですよ」

「確かにあの旨味を出すにはそれ相応のものじゃないと出ないでしょうね」

「良くやるのですか?」

「あの子達の飯は俺と、もう一人の小さい女の子が作ってますからね」

「それは作りがいがありそうで」

 

 二人は話始めやすいように互いに話題を出したあと、宮司の心の準備がついたようで、軽く一度頷いた。

 

「宮司さんには孫娘がいたと先程ジョークを仰っていましたよね」

「はい。場を和ませるにはブラックジョークの方が場所的に合いますので」

 

 流は強く宮司の後ろを見る。

 

「小学生の低学年くらいの黒髪ロングの女の子」

「……いきなりどうしました?」

「孫娘ですよね?」

「…………はい。流くんはその事を調べたのですか? 私から情報を手繰ってもそこには行き着かないはずですが」

 

 宮司の顔が一瞬だけ強張り、すぐに先程までのイイおじいちゃんと表現できる顔に戻った。

 

「宮司さん、人は魂と想いと肉体に分けられます」

「……続けてください」

 

 宮司の顔が再びきつい顔になり、下を向きながら流れを促す。

 

「人はその三つがないと普通は生きることができません。まあ、魂をなくしたのに、想いを魂の代わりにする人間だっているので例外はありますが」

「それで?」

「怪異現象やホラーなんかは大抵が作り物ですけど、たまに人の想いによって、それが呪いとなり、地上に残り続けることもある。俺はそう思っています」

「……」

「逆に想いを伝えられず……もしくは意図せず想いを体が忘却し、その想いだけが投げ出されることもあります」

 

 流の目は宮司を捉えておらず、その後ろにいる存在に目を向けている。

 

「想いが抜け出した子は……どうなるのですか?」

「記憶喪失となり、新たな想い出を積み重ねて、別の人格として再構成される。だけど、人間は想い出を完全に忘れることは出来ないから、趣味趣向や性格のベースは多分元の想い出に依存する」

「……流くん、先程から私を見ていませんが、どなたを見ているのですか?」

 

 宮司の後ろで黒髪の調よりも更に幼い少女が、必死に頷きながら、流に話すことをお願いする。

 

「俺は想い出と魂だけの、いわゆる幽霊を全てではないですけど見ることができます。そして今日始めて、想い出だけで人に憑いている残留思念を見ました」

「もしかして、黒髪の女の子ですか?」

 

 宮司は目を抑え、嗚咽を漏らしながら流に縋るようにそう尋ねた。

 

『……』

調(つき)ちゃんというそうですよ」

「本当に、本当にいるんですね!」

『……』

「私におさんどんを教えたのはおじいちゃんだと言っています」

 

 流は宮司の後ろに幼くした調(しらべ)が見えていた。流が見えることがわかると、必死にアピールして何としてでも想いを伝えようとお願いしてきたのだ。

 今は()()()()()()()()()()()、セレナが流が生産したエネルギーで無理やりその子をこの世に留めている。

 

 想いは呪い……祝福としてその場に残ることは出来ても、その想いを他者に伝えようとすればすぐにこの世から消えてしまうようだ。セレナのように魂と想い出と依代があれば消滅しないが、この子には魂がない。

 

「あの子は! ツキちゃんはなんと!?」

『……』

「おじいちゃんは悪くない。私はもう大丈夫。今までありがとうと言っています」

 

 流はこの子のお陰で想いだけがこの世に残る原理がわかった。未練があるとそれに執着し、この世に留まれる。

 

 この子は宮司と話す前に流やセレナと最後の時を過ごしていた。宮司は元々卵焼きが得意だったが、少女ツキが洋食が食べたいと言ったため、得意な卵焼きを活かし、キッシュを得意料理にまでした。

 

 そして少女ツキが肉体を離れてしまった原因は、神社の少し手前で交通事故にあった。そして搬送された病院がアメリカが裏から支配していた病院であり、素質があったからアメリカへと送られた。

 そしてアメリカで月読調は生まれた。

 

 その日は宮司の誕生日で、自分の名前を書いた自作の御守りを宮司にプレゼントしに行こうとした時に事故にあってしまった。

 

 その事を宮司は後になってわかり、ずっとずっと自分を恨んでいた。心の壁の話は自分が自分の心と距離を取るために思い込み、本当に心の壁を作ってしまったそうだ。だが、その壁の内側では毎日自分を責め続けているのだと、少女ツキは言っていた。

 

「……待ってください! もう大丈夫って! それじゃあ」

「もうすぐツキちゃんは消えます。想いだけの存在で、俺に認識されるほどあなたに対してあなたは悪くないと言ってあげたい。ただその想いだけで、この世に留まっていたみたいです」

「それは成仏というものですか?」

「多分そうじゃないかな? 初めてなのでなんとも」

 

 宮司は流に縋り付くが、少女ツキは満足してしまっている。

 セレナの協力を得て、精神体でも接触出来るようにしたキッシュを食べて、久しぶりに楽しそうに料理をする宮司を見て、そして想いを告げた。

 少女ツキは満開の笑みを浮べながら、少しずつ消えている。

 

「……おじいちゃんはもう自分を責めないから! 今まで見守ってくれていてありがとう! ツキ! ありがとう!」

『まだです! ツキちゃん! 消えるなら無理をしちゃいなさい!』

『え? え?』

 

 少女ツキはいきなりセレナに、無理やり彼の()()、セレナの噛み跡がついている場所に押し付けられると何故か流の中に入れた。そう、少女ツキは憑依した。

 

「マジで!? 宮司さん、俺の声ですまないけど、最後のお別れをしろ」

「へ?」

「……おじいちゃん、今までありがとうございました。先に天国に行ってるから、おじいちゃんはゆっくり来てね! それでね、おじいちゃんの思い出話をたっくさん聞くの! だから、すぐに来ちゃダメだよ!」

「……ああ、ありがとう……またね、ツキちゃん」

「またね、おじいちゃん」

 

 少女ツキが話している時に、セレナが流の首元を弄ろうとしている事に流は動きの意味を理解して、首元をデュランダルにした。その後セレナがエネルギーを動かして声帯を無理やり変形させていく。そして最後の挨拶では、流とセレナが聞いていた少女ツキの声に変声でき、すぐに流の中からも消えた。

 

「……満足げに笑って逝きましたよ」

 

 自分の体になら戻せる流はすぐに声帯を戻して、宮司に逝ったことを告げた。

 

「そうですか。すみませんね、年甲斐もなく涙が……」

「いいんですよ。にしても、やばい約束をしてしまった」

「如何様な?」

「私と結婚してねって」

 

 宮司は一瞬動きが止まるが、意味を理解して、今は風呂に入っているはずの黒髪の小さな少女のことを思い浮かべた。

 

「月読調ちゃんですか」

「ああ。だが、お願いだから言わないでくれよ。調が傷つく」

「わかっておりますとも。恩人の、そして孫娘が新しい自分の幸せを願っているのです……ですけど、娘の約束は叶えてくださるのですよね?」

「あははは」

 

 もし仮に調と結婚すると確実に奏とクリスが大変なことになり、翼はもっと大変なことになり、切歌も大変な事になる。流は久しぶりに冷や汗をかき始めた。

 

「……それで流くん。あなた様はもしや、神様なのですか?」

「やめてくれよ。良い爺さんに様つけとかこそばゆいわ……どうなんだろうね? でも、こんな力の使い方なら神様になってもいい気がしてくるよね」

「……それは修羅の道ですよ? 人の身で神に至るということは」

「それでもあんたみたいな、そんな幸せそうな顔が見れるなら、いいかなって思うよね」

 

 宮司は目を晴らしながらも、とても清々しい顔で、夕日に沈む天を見上げていた。




原作ではどうか分かりませんが、ここの調はあの宮司さんと血縁です。巫女ですね。

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