前回の接触のように全裸同士ではないアダムと流が対面した。
そのアダムの横にはティキがいて、サンジェルマンは倒れていた。
「出来損ないのD? 別にどうでもいいね」
「知っているさ、そんなこと。吹っ切れているようだからね、君の誕生秘話について。悩むところではないのかい? フラスコベビーだった事とかさ」
「それのおかげで俺はここにいる。ならどうでもいいじゃん。さて、サンジェルマンを返せ」
「君のモノではないだろう?
「……」
流はアダムと話しても意味が無いと考えを改め、アダムに向けて一歩踏み出した所でアダムが更に話し始めた。
「考えたことないかい? カストディアンに僕達が監視されているって」
「……あるけど? てか、元々監視されてたし」
「そうか。やはり僕の考えは正しかった……D、もうじき現れるんだよ、この世にカストディアンが! あの圧政者共と闘うにはやはり、必要なんだよ、君という存在が。共に戦おうじゃないか、彼らに抵抗するために!」
「それで? あとサンジェルマンと共闘ならいいけど、お前は嫌だ。単純に嫌いだし、娘をボコったし、ママの事憎んでるっぽいし」
「……は? 命運ついての話だ、これは世界のね。それを感情で選ぶというのか?」
「そうだけど? てかさ、カストディアンが来ることなんて、ママも分かってただろうし、俺も推測を立てていたからね? カストディアンの作った施設である月の表面をぶっ壊して、更にその施設を稼働させたら分かるだろ。しかも俺についていた監視は多分月経由でカストディアンに送られてた」
セレナの協力によって、流はカストディアンの呪いを無理やり引きちぎった。その時に月へとそのラインが伸びているのが見えた。カストディアンにとって、月は色々と便利な装置なのだろう。
「カストディアンは自己中で作り出した人類の考えすらわからず、ただ自分勝手に消えていったヤツらだぞ? しかも俺という異端技術を抑制するための強権を使う体を用意していた。そんなクソみたいなヤツらが、呪縛の根源たる月を無理やり破壊できる所まで進化した人類を放置するわけねえじゃん」
流はカストディアンを出会い頭で殺すほどヘイトを貯めていないが、自分の母親を何千年も振り回した罪は払わせる。お仕置き(本気)でぶん殴る気でいる。
人類が自分たちのいる場所へ塔を伸ばしたら、その塔を破壊して呪いをかけて逃げる程度ならばきっと殴ることだってできる。
「……君は彼らの再臨を予期している。どうするんだい? 彼らには勝てないよ、君程度ではね」
「言ってろ。いいか、生きてる限りぶん殴ってればいつかは死ぬんだよ。もし殴りが通じないなら通じるまで殴る。ダメージが通らないなら通るまで殴る。で、ママを何千年と振り回し、創ったくせに怖くなって逃げた事を土下座させる……そうだ、全裸土下座をさせよう」
「……流って全裸が好きなの? 私達を助けに来た時と全裸だったわよね?」
「俺の体で恥ずかしいところなんてないし、まず服を着てるのは俺にとってデメリットしかないからな。服が邪魔で本気で動けないし」
「訳がわからないワケダ」
アダムは流の言葉を聞きながら顔を抑えている。そしてカリオストロとプレラーティは、アダムと同じ流が露出狂だと分かり、もしかして強い男は皆露出狂なのか? と思い始めた。
その時弦十郎は何故か分からないがそんなことは無いと否定したくなった。
「……ふふふ、あははははははははは!! 恐ろしいものだな、無知というのは。知らないらしい、彼らがどれだけ異常な存在か」
「いやいや、気合いと女の子の協力でぶっ壊せる程度の呪いしか掛けられないヤツらだからね?」
流にはアダムが一瞬
その確信を突くために流は話出そうとした時、サンジェルマンが起き上がった……全裸のサンジェルマンが起き上がっていた。
別に流のように全裸でいたいからそうした訳ではなく、さっきまでやっていた儀式に必要だから全裸でいただけだ。
「カリオストロ、プレラーティ……そうなのね」
『アホか!』
サンジェルマンが流の横に立つ二人を見て、小さくそう呟いた。その言葉を聞いた瞬間、流は普段は絶対にしない、女性の頬を叩くという行為を行った。
サンジェルマンとの距離は離れているが、宝物庫を経由して空間を繋げれば今の流にはレンジは関係ない。
サンジェルマンの決めつけの呟きに対して、右手で右頬を叩く事で無理やり思考を止めた。
「ちょっと流!」
『うっせえ! お前らももっと愛を表現しろ! サンジェルマン! 俺なんて二十年も生きてない糞ガキだけど、カリオストロとプレラーティのお前への愛は痛いほど感じることが出来るぞ! それなのに、なんで二人がお前を捨てたと思った! なんで嫌われたと思った! ふざけるなよ? 愛を簡単に捨てるな! 愛されていないなんて……』
「……」
流の統一言語を使った言葉が進めば進むほど、サンジェルマンは流を睨みつけていく。そして、『愛されていないなんて』という言葉の辺りでまた想いが流れ込んで来た。
そしてサンジェルマンにも、二人がサンジェルマンに抱いている愛が流れ込んできた。
嫌われたくない。仲良くしたい。皆で平和に生きたい。怖い。悲しい…………行かないで、独りにしないで。
サンジェルマンの想いが流の中に流れ込んできた。やはり強い想いを受けるとその想いの一部が流れ込んでくるようだ。
サンジェルマンは娼婦と貴族の娘。貴族は慰み者として適当に抱いたら、その娼婦に子供が出来てしまった。それでも母親は娘を育てるために体を売り続けたが、無理をした結果、娘が動ける程度に大きくなった時に母親は動けなくなった。
貴族であり、錬金術師でもある父親ならばきっと一度くらいは助けてくれると思ったサンジェルマンはその男に頼みに行った。
『奴隷根性を押し付けておけ』
一発のビンタ共にその言葉を据えて、サンジェルマンを放置した。その結果母親は死に、サンジェルマンも色々大変な事があったが今では秘密結社の幹部となっている。
「……すまない! サンジェルマンに対してビンタは駄目だったみたいだな。やっぱり
「貴様に何がわかる!」
「全て。サンジェルマンの全てを想いと共に見た。」
「はぁ?」
「俺は統一言語を通して、人の願いや根源的な想いを読み取ってしまうみたいなんだよ。それでサンジェルマンの全てを見た。色々価値観が変わりそうだったよ。でも、やっぱり俺はみんなに愛されたい。そして二人はお前を愛している」
「そんな事があるわけ!」
「別に信じなくていい。だけどな、サンジェルマンは一度本気で喧嘩をして本音をぶつけ合え」
流は自分の子供を見るかのような目で、サンジェルマンを見ながら軽く微笑んだ。この記憶や想いの流動は想いが強ければ強いほど起こりやすく、深く発生するらしい。サンジェルマンはただひたすら支配なき世界のために動いてきた。
その想いによって、流に記憶の流動が発生して、サンジェルマンの願いを受けとった。
流は隣にいるカリオストロとプレラーティの肩に触れ、宝物庫の中にあるフロンティアに送った。
そのあとすぐにサンジェルマンの横にもゲートを開こうとしたが。
「させないよ!」
「お前は邪魔するな」
アダムは奪われるようならいっそ殺そうとしたのか、サンジェルマンに向けて手刀を繰り出した。しかしその腕の軌道上に流は自分の腕を宝物庫のゲート経由で出現させて受け止めた。
サンジェルマンは流の腕いきなり掴まれて、そのままフロンティアの中へと収納された。
「……微量程度だけど、力が増している?」
『力が流さんに集まった感じはしませんけどね。駄目ですよ? 神さまみたいなことをしちゃ』
「善処するよ」
「善処じゃねえよ。絶対にやらないようにしろ」
「わかった」
流は完璧には約束できなかったので、善処という言葉を使ったが、奏はそれを見破り言い直させた。
「……まあいいさ。やればいいんだろ? 君を殺したあとにもう一度、教育をさ」
「「そんな事させるわけねえだろ!」」
アダムは流と奏のいる場所に風の斬撃のような錬金術を行使してきた。
それに対して、奏と流は顔を合わせて頷き合い、流は右腕を、奏はガングニールの槍を、その錬金術へ叩きつけて消し去った。
「僕の邪魔をするな! 離れていなよ、ティキ自身の安全のために」
「行かせるか!」
奏はガングニールで錬金術を消し飛ばしたあと、返す刀でティキを壊すべく本気でガングニールの槍を投擲した。
必中の槍の名に違わぬ完璧な軌道で、ティキに当たりそうになる。
「ふんっ!」
アダムは腕を悪魔の腕に変えて、槍からティキを守る。
「槍を防ぐと胴ががら空きになるんだよな!」
流は
「食らってたまるか!」
「そう避けることはわかっていた!」
アダムはギリギリで体を捻って、流の拳を受け流したが、その動きで若干疎かになった部分から奏が攻め立ててくる。
「なんなんだ! 互角だったじゃないか、先日の君とは!」
「そりゃあの時は俺は一人だったからな。知らないのか? 俺は奏と戦った方が強い」
流は奏がどう動くかわかる。奏は流がどう動くかわかる。流が6歳の頃から、初めは奏から歩み寄り、共に鍛錬に励み、何度も槍と拳を打ち付け合い、そして奏は死んだ。
だが、その死は終わりではなく奏は流の元で流の動きを学んだ。流は幽霊だと思っていた奏の細かい癖をどんどん覚えていった。
そんな風に流と奏はここ十年と少し、異常なほど近い距離で互いを想いながら成長してきた。
「「いっぺんぶっ飛べ!!」」
何だかんだアダムも両手を悪魔の頑丈で柔軟な腕に変えて迎撃していた。しかし二人に動かされたかのように、奏の攻撃を右手で、流の攻撃を左手で受け流させられてしまい、胴を思いっきり晒したアダムの腹に奏と流は拳を振り抜いた。
奏は槍で突き刺すことも出来たが、流がまだ何かやりたげにしていたので流と同じ拳にしておいた。
アダムは絶句したような顔で叫び声すらあげずに吹き飛ばされ、腕に力が入らないのかそのまま体を突っ伏させている。
本来ならば奏は分かっていても、流に合わせることが出来ない。身体スペックが違いすぎるからだ。だが、奏は体を作る時にあるお願いをしていた。
『人為的融合症例として、あたしの体を作ってくれ』
流は物凄く嫌がったが、奏を説得することが出来ず、培養液にガングニールの粉を混ぜ、奏の細胞には粒子と化しているガングニールが人為的に含まれている。
普通ならそんな事をしたら肉体が耐えられないが、何故か製造出来た。それも奏がずっとガングニールの欠片に憑依していたからではないか? と流は考えている。
魂レベルでガングニールとの適合率が引き上げられ、その結果奏の細胞はガングニールを受け入れたのではないか? と考えている。
魂と肉体は別物なのに因果的におかしくないか? と思うが、この世界は因果や運命やその他特殊な力は、気合いと想いで割とネジ曲がるので流は深くは考えていない。
「久しぶりに連携したけど、前よりもやりやすいね」
「そりゃあたしが何年流に憑いていたと思っているんだ? 余裕よ余裕。逆に流はちょっと自分勝手すぎないか? ガングニールの槍のリーチを忘れてただろ?」
「え? いやいや、奏が長く生成させたんでしょ?」
「あははは、そうだよ。分かるよなこれくらい」
「当たり前じゃん」
流と奏はアダムに近づきながら、拳を打ち付け合い、連携が上手くいったことについて語っている。
「……な、何故だ。完璧で完成されているはず! 僕も、そして君も! それなのにどうして成長している!」
「……マジで? あー、もし俺が完璧な設計の元作られて、完璧で完全だったとしても、この世界にはもっと強い人、最強の男がいることを知っていたからね」
「今の君すら勝てない、最強……だと?!」
流はこの世界で初めてノイズを見て、ノイズを倒したあと弦十郎を見た。その時に流は凄く安心すると共に、保護されるのが最強の良い人で良かったと思った。あの時は色々不安で、了子じゃなくてよかっただとかを思っていた。
そして流はこの世界がシンフォギアの世界なら人類最強は弦十郎だと初めか理解していた。そういうものだと思っていた故に、流は初めから自分が完全で完璧だとは思っていなかった。まずモブとすら思っていた。
逆にアダムは完璧で完全であると自分のその部分を誇り、人類を見下してしまった。その結果、競う相手もおらず、
「俺の父さんは俺よりも強いし、人類最強だからね。ママだって、人類最凶だし」
「環境……いや、想い。ただそれだけで、出来たのか、変わることだって」
アダムはここでやっと、完全で完璧な自分の力が上限一杯だと勘違いしていたことに気がついた。そう考えれば当たり前じゃないか。
サンジェルマンだって完璧で完全な女性体に転生しているのに、400年前に比べて自ら強くなっている。
アダムは自分よりも強いであろうカストディアンは別の生き物として考え、自分を高めるための比較をしなかったから捨てられたのかも知らないと考えついた。
それと共に流に負けて、ここで果てる事に物凄く悔しさが湧いてくる。
それらの想いは強い力となり、流にも流れ込んできていた。
「……オンオフ出来るようにならないと本格的にやばいな」
「それで、こいつはどうする?」
「アダム! 立ってよアダム!!」
アダムは空を見上げて、今回の敗北を受け入れる気だったがティキの声が聞こえた。
何故ここで負けだと思った? アダムは自分が完璧で完全である事は疑いようのないことだが、自分にも不完全性があることも分かった。ならば、まだやれるのではないか?
人間のような理不尽な奇跡を起こせるのではないか?
「まあ、とりあえずアダムは機械仕掛けだし、腕を一時的もいでから考え、ゴフっ! なに!?」
「てめえ! 流に何すんだ!!」
流は倒れているアダムの腕を抵抗出来ないように破壊しようとした。
腕を振り上げて打ち落とそうとした時、流の横にいきなり男が現れ、その男が持つ大きな剣で流の背中を斬り裂いた。
流は斬られたが、斬られる程度なら慣れている。翼の斬撃よりもだいぶ強くて猛烈に痛いが、全身をデュランダルにしていた為に血液の一滴すら漏らさず、すぐにその場を引いた。
奏は流が斬られた瞬間、現れた男を殺すべく顔面に槍を突き刺そうとした。
「無駄だ」
奏と男の間に盾……銅鏡のようなモノが割り込み、奏のガングニールの槍を防いで、その鏡が分裂してから奏に殺到して彼女を流とは別方向へと吹き飛ばした。
流は理論上体を真っ二つにされても死なないし、痛みなら我慢できるはずなのに全身が痛みでこわばる。だが、それでも聞かなければいけない、この男には。
「おい、訃堂! これはどういう事だ!」
流を斬り、奏を吹き飛ばしたの風鳴訃堂その人だった。いつもの格好だが、訃堂は巨大だが鋭い剣と、神獣鏡のように宙を浮く鏡、それに勾玉が彼の周りを周回している。
「我自ら出てきてやったまでよ」
流はその言葉を聞いて、その言葉に含まれている想いを感じ取ってあることが分かった。