戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#115『完全の敗北』

「…………そうか。翼よ、神は斬れぬだろうが、邪鬼を斬ったのはお主か?」

「いえ、私ではなく、私の弟子の切歌です」

「そうか……お前は弟子を取るまでに至っていたのか」

 

 体を轟に酷使され、完全聖遺物の補助がなくなった訃堂の体は地面に倒れ伏せていた。訃堂は目を覚ますと翼が真っ先に見えた。多少は心配をしていたのかもしれない。

 

「どうだ弦」

「俺は親父……だと思うぞ」

「二人も良くやった。あやつは風鳴が主となり、討伐せねばならぬ鬼であった。暁切歌、お主も良くやった」

「親父はこれから当分の間は拘束されることになる。異論はあるか?」

「ここで拘束せぬと口に出していたのであれば、後日処罰を下すところであった。まだ儂が轟轟……いいや、風鳴轟か風鳴訃堂か分からぬのであろう? 存分に調べろ」

 

 訃堂は寝っ転がった状態でいつものように態度で受け答えをしたあと、ゆっくりと目を閉じた。弦十郎が確認するとただ気絶しただけのようだ。

 先程までは完全聖遺物の補助があったはずだが、弦十郎と八紘と翼と立ち会い、神獣鏡の攻撃をモロに受けて、切歌の鎌がぶっ刺さったのだ。肉体は何度も再生を繰り返して相当な疲労が溜まっていたのだろう。

 

 八紘は何とも言い難い終わり方で元凶を倒してしまった。轟轟を殺したところで……そこで切歌が轟轟を殺すことになったことを思い出した。

 すぐに切歌に駆け寄ると調がもう居て、切歌を抱きしめていた。

 

 既に切歌は絶唱による鎌の強化は終わっていたが、彼女は人を殺した鎌を手放せなくなっていた。手が震え、筋肉が強ばり、鎌を放したいのに離せない。

 

「……切歌くん」

「翼さんのパパさんお久しぶりデス」

「ありがとう。君のおかげで私の宿敵であろう奴を倒すことが出来た」

「そうデスよ。全くもう、勘弁して欲しいデスよ。絶唱はリンカーWELLっていう、変な名前のリンカーで何とか使えますけど、あとから洗浄が大変だって話デスよ?」

 

 八紘はその場で深々と切歌に頭を下げた。切歌の笑顔はぎこちなさがあり、うまく笑えていないし、手もまだ笑っている様にガクガク震えている。その手を無言で調が握って本当にゆっくりとその手を開いていく。

 

「切歌は轟轟を殺してないよ。殺しきれなかったといえばいいのかな?」

 

 流はこちらの戦場のことも把握していたがある理由で動けず、切歌の絶唱の攻撃阻止が間に合わなかった。だが、まだ切歌は人を殺していないようで安心した。

 

 切歌の横に宝物庫テレポートしてきた流は切歌を抱き上げて、記憶の共有でいつもの日常の記憶を切歌に流す。先程までのやり取りよりも、その記憶に意識がいった切歌の体は強ばりが取れ、体から力が抜けている内に鎌を手から取り上げた。

 

「流、どういうことデスか? 嘘は嫌デスよ」

「いいや、嘘じゃない。こいつはソロモンを掌握したと言っていた。なら、こいつはソロモンの指輪、みんなには見えないけど、こいつは指輪をつけている。これは精神に関する力を持っているから逃げたんだろ」

 

 流は切歌の頭を撫でてから下ろし、訃堂の体に近づいて左手の人差し指についている周りからは見えていない指輪を取り外した。取り外した指輪はいきなり皆に見えるようになったが、詳しく確認される前に流はその指輪を握力で砕いた。

 ソロモンはソロモンの指輪を悪魔や天使の使役、通常は精神体である存在の具現化と使役に使っていた。ならば、魂を壊す一撃の前に、指輪の中にガングニールの欠片のように空間が広がっていたとしたらそこに逃げたはずだ。ソロモンのいた空間は彼独自の空間であり、あの空間と同じように指輪の中に広がっているはずだ。

 

 流は完全に轟轟の魂の気配が消えたことに安堵した。

 

「この指輪の持ち主はこんな奴に力を貸すやつじゃない。本当に嫌になるわ。すまないソロモン」

 

 流は月を見ながらそう呟いていると、もう一つの戦場を映している目にやばい状況が映し出され、流は何も言わずに宝物庫へと入っていった。

 

「……弦、流の神出鬼没を止めてくれ。国会でも問題になっているんだが」

「無理なのは兄貴だって分かっているだろ?」

「私も頑張ったのに褒めてもらえなかった」

「……えっと、どういう事デスか?」

「切歌は轟轟を殺しておらず、流がトドメを指したのだろう」

 

 指輪の事情をわかる人がいないため、流のやった事がなんとなくしか分からないが、きっとあれが轟轟の最後だったのだろう。流の言い方からして殺される寸前に魂で指輪の中に逃げたのだと分かるが、本当にそんなことがあるのかはイマイチ分からなかった。翼が理解している風なのは奏の体験を事細かに聞いていたためだった。

 

 終わり方が置いてけぼりにされた八紘だったが、胸元の裏に仕舞っていた端末に連絡が入り、それを聞いて血相を変えた。

 

「弦! 流がアメリカの暗躍に関する情報を国連に提出したというのは本当か!?」

「は!? 流と了子がそういった情報をどうやってか集めていたのは知っているが、流はそんなことしている時間は……なかったと思うぞ?」

 

 流と了子はアメリカや今後面倒になりそうな国にハッキングして、表に出てはいけないデータを手に入れたり、流がテレポートで出向いて位相差を操作して侵入したりしていた。ガチガチの犯罪だが、二人は自分達を守る為にやっているので罪の意識はない。

 二人の存在はそういうやばい情報を持っておかなければ途端に世界の敵にされてしまうほどなので、対策を講じているだけだと本人達は語る。

 その情報の内、アメリカに関することが大量に国連で公開された。

 

「裏付けから何から何まで公開されてしまっている。しかも流の名でだ」

「あいつがそんな正々堂々な情報戦を仕掛けるとは思わんのだがな」

 

 流はアメリカに関する情報の大半を訃堂に預けていたのだが、ここにいる人達はその事を知らない。

 

「私は今から国連へ戻ってアメリカを抑えてくる。弦はこの場と……この人を頼む」

 

 八紘は急いで国連へ正規の方法で戻ろうとしたが、いきなりファラが現れて八紘を担いで消えていった。

 

「裏で何が起きている……」

 

 そういった事があまり得意ではない弦十郎だが、戦いがまだまだ終わらなさそうであることを悟る。とりあえずはシンフォギア装者をアダム討伐へと向かってもらうことにした。やはり自分はノイズを操る敵には無力だと、弦十郎は心の中で落ち込んだ。

 

 

 **********

 

 

 片言に近い話し方しか出来なくなり、ディバインウェポンとなったティキの腕を限定解除のガングニールを纏った奏がぶち壊した。

 

 ティキは余りの痛みに悲鳴をあげるが、平行世界の同一個体に肩代わりさせるとその痛みも引き、()()()()()()()()()()()()

 

「まじかよ。神殺しだけじゃ駄目なのか」

 

 奏はアダムの知っていたのか? という問を無視して、割と本気で放った攻撃を無効化された事に肩を落としていた。

 それと同時に響の事をチラリと見る。

 

「なにか付いてますか?」

「いや、少し埃を被ってるけど何もねえよ」

「なら良かったです」

 

 絶唱による一撃を退けるディバインウェポンの攻撃を前に緊張していた響達であったが、奏のむりくりな登場で少しだけほぐれた。

 

 

 奏は映画を見たり、漫画なんかも読んだりする。それと共有された知識を照らし合わせるとあることが導き出せる。

 本来奏は持つことのない原作知識。奏の死から始まり、魔法少女事変で終わる。あの一連の映像作品のお約束にはあるモノがある。

 

 それは立花響が敵のメタ的存在であることだ。

 

 了子とは最後の最後まで分かり合おうとしたし、あの場に響が居なければ70億の絶唱は集められなかっただろう。ラスボスはネフィリム・ノヴァだが、正規のラスボスであるマリアを説得するためにマリアからガングニールを簒奪したのは響だ。そして()()()()でキャロルの緑の獅子を打ち破った。

 

 響は分かり合おうとして、皆の力、想いを束ねる事に特化している。その辺が響の特質性なのではないか? と奏は思っている。

 

 そしてこんなメタ読みはとても危険だが、あの映像作品にはこの場面に奏だって流だって居るはずがない。なら、どうやってあのティキ、ディバインウェポンを打ち破ったのか。

 

 文字通り拳で打ち破ったのだろう、それも響が。

 

 奏は響がガングニールとは別の特異性がある事を念頭に起き、神殺しだけで駄目ならその特異性に掛けてみることにした。別に速攻で倒さないといけない訳では無いが、弱めなければ()()()()()()()()()()()が失敗するかもしれない。

 

「……安心したよ。脅威にはなり得ない! ガングニールの神殺しではね!」

「ごめんなさいアダム」

「いいんだよ。今のティキには猛毒だからね、神殺しの力は。今まで通り……ガングニールに対して撃っておいてくれよ、ティキは。天羽奏を殺るよ、僕は!」

「うん! ティキ頑張る!」

 

 アダムとティキは話し合いが終わったようで、装者達をまた殺戮対象として狙いを定める。それと共にアダムはまた周りの空間からいきなり人が出てくるかもしれないので厳重に警戒を敷き始める。

 

「三人とも、私のガングニールでは駄目だったけど、響のガングニールならワンチャンスあるかもしれない。あたしがサポートするから、響はディヴァインウェポンをぶん殴ることだけを考えてくれ」

「え? は、はい!」

「ねえ、奏さん。貴女がガングニールに神殺しがあると知っていたのはまた流なの?」

「そうだぞ。流にガングニールだとよく効くからそうじゃねえかってさ」

「また彼なのね」

 

 話しながらもどう動くか決めていたが、アダムの行動によって無理やり動かされる。

 

「……いい方法があったよ、直接狙うよりもね、お前たちを。あっちの建物を狙うんだ、ティキ!」

「わかった!」

 

 アダムが指さした方角には、装者も弦十郎達が戦っている方向でもない。

 それがどの方向か一番始めに分かったのは空を駆けた奏だった。

 

「あいつ!!」

「奏さん!」

 

 奏はもうディバインウェポンを無理やりぶっ飛ばして、中断させるには間に合わないのでその攻撃の進路に向けて空を飛ぶ。

 奏の向かう先に何があるのか、その時になってわかった装者達は出来るだけ早く攻撃を終わらせるために、ディバインウェポンに向けて駆ける。

 

「邪魔をするな!」

「行かせないよ!」

 

 アダムは唯一ディバインウェポンの動きを阻害できる響の進路を塞ぎ、響の拳を受け流した。しっかり構えた拳なら簡単には受け流せなかっただろうが、響は急いでいたため直線的な拳になってしまう。

 

「ざけんなあああああ! リディアンをやらせるかよ!!」

 

 若干時間を開けてディバインウェポンから放たれたビームを、奏は正面から抵抗するべく速度を上げて突撃しようとしている。

 

 奏が言った通り、ディバインウェポンが向いている方向にはリディアン、そして流達の家がある。

 

 アダムはガングニールの装者である響と、プロジェクトDの流しか調べてなかったが、その二人は守りたいもののためなら体でも何でも張り、それが守れなかったらダメージを受けることがアダムにはわかった。アダムは人の心はわからないが、人がどういうタイプでどういう行動をしそうかなどは分かる。伊達に生きてきていない……ただし、人間に意識を向けないとその経験を活かせず、意識を向けないので致命的だ。

 

 奏とディバインウェポンのビームが接触する前、彼が装者の、そして奏が死ぬかもしれない事態を放置するわけがない。しかも物理攻撃ではなくビームならば彼ならば容易に防げる。サンジェルマン達の攻撃よりも威力が強くなった()()()

 

「うおおおお、おお……おい!」

 

 奏は割と決死の覚悟でビームを相殺しようとしたら、目の前に宝物庫のゲートが出現し、その中に飛び込んだ。飛び込んだ勢いのまま、宝物庫内に作られた出口に飛び込むとすぐ横には響達がいた。

 ビーム前にもゲートが開かれ、出口がディバインウェポンの背中に向けて開いており、そのままビームは撃った本人に帰っていった。

 

「邪魔だ!」

 

 響を妨害するために前に出ていたアダムを、真横から現れた流が殴って吹き飛ばして響を回収した。

 

「せ、先輩!? 抱き上げないでください!」

「待って、今は殴らないで、結構ギリギリだから!」

 

 アダムから離すために響を持ち上げる際、お姫様抱っこにしたのがいけなかったようで流は殴られるが、今は喜べるほど余裕が無い。

 流の顔色が本当に悪いことがわかった響はクリス達の元まで黙って運ばれた。対照的に響の顔は真っ赤になっていたが。

 

「流! お前もっと早く来いよ! めちゃくちゃ恥ずかしい感じになったじゃねえか!」

「早くそのバカを離せ!」

「……ふふ」

 

 三者三様な反応をしている中で、流は響を下ろして一息つく。

 

「すまん、遅れた。今物凄く体調が悪いから、動き出すのに時間がかかったんだよ。あと向こうのゴタゴタを片付けてきた、二面戦闘は勘弁して欲しい」

「は? さっきまでは動けてたよな?……あれか。しかも向こうにも行ってたのか」

「そう、あれ」

 

 奏はディバインウェポンを指さしているが、正確にいうと神の力のことを指している。向こうとは弦十郎達の戦場のことである。

 

 

 

 

 流は奏を見送り、神になって人間の法から外れるとかいう頭の悪い考えを披露としたあと。

 

『……流さん。今の考えは100%流さん自身の考えですか? いつもの流さんなら神になって皆をお嫁さんにするなんて言わないで、人間のまま皆を幸せにする……みたいな風にいうと思うんですけど』

 

 というセレナの指摘によって、自分の考えが歪んでいることを確認できた。歪むというよりも、汚染されていると言った方が適切だろう。流は天の星々を巡る力を意図せず吸収してしまっていた。

 天の星々にはカストディアンが作りし月も含まれている。故に力の一部をリンクの失った端末()に、行動方針を立てるために想いを押し付けてきたのだろうと流は推測した。

 

 ディバインウェポンはエネルギーを固形化させているが、その状態でも微妙にエネルギーが漏れだして流の方へと流れてきている。

 ティキはアダムが作った神の力の受け皿だが、流は神が作り方を伝承させ、自分たちが操るために造らせていた本物の神の器だ。神の力と称したその力はより最適化された器に流れている。

 

「……D、風鳴流、やはり来たのか」

「来ないわけがねえだろ? しかもお前は奏に、リディアンに、俺の家に攻撃しようとした。お仕置きしてやるよ」

「強がっているんだろう? 今の君は。一撃のはずだ、ディバインウェポンの攻撃を食らったらね」

「当たらなければどうということはない」

「当てるさ、すぐにね!」

 

 流は既に奏や皆、自分達の帰る場所を狙われた時点で、位相差操作の攻撃的利用以外の戦い方を縛る気がなくなった。

 

 流は忍術の瞬間移動でアダムの元へ駆け、デュランダルの力を解放しながらアダムを殴る。

 アダムは流の動きになんとか対応して受け流そうとするが、デュランダルから放たれたエネルギーまでは受け流せず吹き飛ばされた。

 

「アダムをいじめるな!」

「愛があるなら自分で考えてアダムの蛮行を止めるくらいしろ! お前はアダムのことが好きなんだろ!」

 

 手元に宝物庫のゲートの入口、ディバインウェポンのティキの包まれている結晶の目の前に出口を出現させて、思いっきりぶん殴った。

 

「きかない!」

「……奏と響がメインでよろしく!」

 

 流はディバインウェポンにダメージを与えられなかった。もし流もディバインウェポンになれる程度に神の力を吸収していれば、神が神を殺すだけであり、特殊な力がなくてもぶち壊せた。だが、今の流はまだ神の器でしかなく、神の力によって精神の汚染を受けているがそれにも抵抗してしまっているので攻撃が通らなかった。

 

 流は諦めてディバインウェポンの破壊を攻撃の通る二人に任せて、吹き飛んだアダムの元へ駆け寄る。もちろんディバインウェポンがビームを撃ってきたら、それを返せる程度には意識を向けている。

 

「ふざけるな! 正々堂々と戦え! ディバインウェポンと!」

「嫌だよ。その姿でいいのか? 前の姿になってもいいんだぞ?」

「舐めるなよ!」

 

 流とアダムの近接戦闘は当然流に軍パイが上がってしまう。アダムは近接戦闘も弱くはないが、近接戦闘最強の息子であり、弟子の流が負けるはずが無い。

 アダムは少し離れた隙に黄金錬成を流に放とうと瞬時に発動させる。

 

「それは駄目」

 

 その熱量の塊のすぐ横に宝物庫の出口を作り、腕を溶かしながら黄金錬成に触れ、その熱量の位相をズラして空間の狭間に捨てる。

 同じようなことが何度もあり、アダムは立ち上がる力を失った。詰め将棋のように不利な状況が増え、最後はアダムは顔面を殴られて吹き飛ばされた。

 

 それと同時に。

 

「「はあああああ!!」」

 

 奏と響の拳がティキの結晶を貫いた。




まだまだ戦いは終わりません。訃堂に関するエピソードはアダム戦が終わったあとで。
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