戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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最終戦もあとわずかです。


#117『愛を知った者』

「ワケわかんない。なんで殴り合いもそんなに強いのよ。あーしのお株を取らないでよね」

「二対一でボコボコにされたワケダ。顔面ばかりとかエグすぎるワケダ」

「ふ、ふふ。長年生きていれば、これくらいは……久しぶりに殴り合いなんてやったわ」

 

 三人は宝物庫にあるフロンティアの一角で殴り合いをして、今は三人とも地面に倒れている。

 

 戦っている最中、空中にアダムと装者や流とのやり取りが投影されたりしていたが、三人はそれを気にしつつも本音を言いながら殴りあった。

 初めは罵倒ばかりだったが言うことがなくなったのか、本当に色んなことを言い合っていた。最近同じことしか言わない流が見ていれば、これも愛だとまた同じことを言っていただろう。

 

 三人の顔は殴りあったせいで酷く腫れ上がっているが、三人とも笑顔で地面に倒れている。

 

 投影されていた映像で、信者を生命エネルギーと変えた時点でサンジェルマンは己のミスを悟ったが、殴り合いは止まらず、最後の最後まで立っていたサンジェルマンの勝利に終わった。その彼女も今は倒れている。

 

「……よっと、やっとチンタラした殴り合いが終わったのね。ほら、あんたらもって……サンジェルマン以外動けそうにないわね」

「フィーネ!!」

「キレるんじゃないわよ」

「ッつ!」

 

 今の了子は本当に忙しいのにパヴァリア三人娘が喧嘩をし始めて、もしそれで死んだら面倒なことになるので監視もしていた。

 もう少しでアダムを()()()()()()()が完成するのにアダムが神の力を取り入れてしまったので、時間稼ぎの戦力が必要なのだ。本当は未来も行かせたいが、もしもの時の対流に必要なので行かせられない。

 

 了子はサンジェルマンが腫れ上がった顔で睨みつけてきたので、顔の腫れている部分を軽く触って動きを止めた。

 

「動けるのはサンジェルマンだけなら軽く貴女だけは治療するから、アダムの隙をつけるタイミングでテレポートして攻撃しなさい」

「フィーネの言うことなんて!」

 

 何度も言う。了子は沢山のタスクを同時に進行しているのだ。今だって早く戻らないといけないのに、無駄に遅延されていて少しだけ怒っている。

 

「あんたらを助けたのは私の息子。あんた達にアダムの戦闘を見せてあげたのは私。今異端技術で無理やり治療しているのも私。いい、動け。動かないなら二人を殺す。結構時間がかつかつなのよ」

 

 フィーネはあまり変わっていない。

 

 恋する対象が弦十郎に代わり、やんちゃな息子()がいて、何だかんだ信じている同僚(緒川)がいて、優秀な弟子が何人かいる。

 元々流の身内以外どうでもいいという考えは了子から学んだことであり、了子はそれがもっと極端だ。身内以外は利用できないなら死ねばいいとすら思っている。

 

「サンジェルマン。私達はまだ動けないワケダ。これを使って一矢報いて欲しいワケダ」

「……これは!」

 

 フィーネの言葉に反応しようとしたサンジェルマンを押さえるようにプレラーティは声を上げた。

 了子の体に無理を強いる再生方法である程度動けるようになったサンジェルマンは、寝っ転がったままのプレラーティがポケットから銃弾を一つ渡してきた。

 

 その銃弾には紋様が描かれていて、ラピス・フィロソフィカスの赤い光が輝いている。

 

「そうよ、それもラピス・フィロソフィカス」

「私達が今作れる最高傑作なワケダ」

「……あなた達が何かを作っていたのは知っていたけど、ここまでの状態に持って行くには時間が足りなかったと思うのだけど」

 

 早い段階からカリオストロがアダムを訝しんでいたため、本来よりも早くアダムにブチ込むための必殺の制作がされていた。だが、流石にこれは早すぎる。

 

「当たり前でしょ。フィーネたる私、四大元素を極めつつあるキャロルちゃん、そして凝り固まってない頭を持つエルフナインちゃん。この三人が協力したのよ? しかもエネルギーリソースは無限。いい、すぐに行かなくていいけど、こそぞってタイミングで妨害しなさい。あと少しだけどその少しが足りないの」

 

 了子は時計を見て、まくし立てるだけ立ててからその場を後にした。

 

 投影されている映像には、神の力を得たアダムが流を殴り飛ばしていた。自分達では根本的なパワー負けした流をいとも容易くアダムが吹き飛ばしている。

 

「サンジェルマン、本当にこのままでいいの?」

「アダムに好き勝手を許してもいいワケダ」

「……ですが」

「もう、サンジェルマンがやりたい事はアダムの考えを遂行することじゃないでしょ?」

「サンジェルマンは支配なき平和な世界を目指しているワケダ。このままではアダムが世界を支配してしまうワケダ」

「……そう、よね。分かったわ。まだフィーネは許せないけど、局長の支配も許さない。もしこの戦いが終わったら、その、また平和な世界を目指す前に……三人でご飯でも食べましょう」

「……」

「……」

 

 サンジェルマンは今までの罪は罪として、今後の行動で償っていこうと思った。それが命を奪った者の傲慢であっても。今回の世界革命はほぼ無理だが、それでもこの二人とはもう離れたくない。サンジェルマンの言葉に、顔が腫れまくっている二人は言葉を重ねた。

 

「「嫌(なワケダ)」」

「……え?」

「いい? 決戦の前にそんなことを言う人は死ぬらしいわよ?」

「あの流よりも強い弦十郎は映画によって力を得ているらしいワケダ。シンフォギア装者もお約束というフラグは建てないようにしていたワケダな。それが彼女達の強さの秘訣かもしれないワケダ」

 

 普通の生活に映画を見て、鍛錬を積むだけであの強さになることは流石にないと思うが、現に二人は弦十郎や流、緒川やフィーネなどの頭のおかしい人達を目にして、映画のお約束やその鍛錬法は本物なのか? と考えが揺れている。

 

「わかったわ。終わったら……いいえ、終わらせてくるわね」

 

 投影されている映像には響の持つ力が防がれて吹き飛ばされた。アダムが高笑いをして隙を見せているので、サンジェルマンはアダムから数メートル程度の距離にテレポートした。

 

 

 **********

 

 

「ガアアアアアア!!」

 

 高笑いをしていたアダムの下へ現れたサンジェルマンは、プレラーティ達が作った最高傑作のラピス・フィロソフィカスの銃弾を彼女のスペルキャスターで撃ち出した。

 

 ラピス・フィロソフィカス。賢者の石は病を初めとするあらゆる不浄を焼き尽くすと言われている。その効能によって呪われた魔剣ダインスレイヴの呪いを使うイグナイトは、その呪いを不浄と捉えられて病として燃やし尽くされた。

 

 今回使われたラピス・フィロソフィカス弾は何を不浄と捉えるか。

 

「体がああああ! 僕の体がああああああい!!」

 

 赤く煌めく不浄を燃やす光に包まれて、アダムはその悪魔となった姿を焼き尽くされていく。

 悪魔とは普通の人たちからすれば、病や災害と同レベルの危険な存在として語られる。

 

 イザークは悪魔と取引をして得た術で人々を治療し、誑かしているとされて処刑された。普通の人達にとって、悪魔に取り憑かれた者は火炙りや串刺しで浄化するものなのだ。現代ではそんなことは無いが、そういう考えは受け継がれている。

 なら、その悪魔本体ならどうなるか?

 

 答えは存在の浄化だ。

 

「ふざけるなよサンジェルマン! なにをやっているのか、グッギアアアア!!」

「……局長。私は貴方が何だかんだ支配なき世界を作ってくれると信じていました。ですが、先ほどの悪魔崇拝者の生命エネルギーへの転換、そして支配する発言。私が間違っていたと教えられました」

「やめろ! 分かっているのか! カストディアンという本当の支配者が来るんだぞ!」

「それに抗うのは人間がします」

「クソがああああああ!!」

 

 アダムの体は少しずつその黒さを浄化され、角の先から消えていく。

 

 アダムは目の前の存在に負けないために本気で挑むために全てのリソースを戦いへと向けた。だが、結果は近くへとテレポートされて部下に裏切られた。裏切る気ではいたが、まさか自分が先に裏切られるとは思っても見なかった。

 

 アダムは自分の中の闇すらも浄化されている感覚に陥り、このまま身を任せても良いかと思った。

 

「……ア、ダム」

 

 だがアダムは不浄を燃やす光の中で、この中で唯一自分を求める声が、微かに、しかし確実に聞こえた。

 

 アダムはティキを製造する時に自分に盲愛するように作らせた。ティキこそが計画の要であったし、そちらの方が一々気を使わなくて済むからだ。ティキの想いは作られたものであり、自分もウザイと思っていた。

 

 だが、何故だろう。アダムはこのまま死ぬわけにはいかない。そう思えるようになってきた。

 

「……負けられない。そうだ、僕は怖かった。支配されるのが怖かった、またカストディアンに。だからこそ、千年計画でここまで色々やってきた」

「局長?」

「負けられない! 負けてはならない! 完全から堕ちた僕は、再び、完全へと再度昇華する!! 今度は立ち止まらぬ完成体に!!」

「ぐっ!」

「下がれ」

 

 アダムが急に声のトーンを変えて必死に声を張り上げながら、天に輝く月を仰ぎ見る。月を握りつぶすように天に手を掲げ、そしてアダムはカッコ良さや醜さなどを無視して叫んだ。

 

 すると、アダムを浄化していたはずの光が少しずつ内側に収縮していき、赤い稲妻を周りに放出し始めた。

 装者達は距離を離していたのですぐに退避できたが、サンジェルマンは近くにいた。流は宝物庫で扉を開き、サンジェルマンを安全圏に投げる。

 

 赤い賢者の石の輝きと神の力の紅き光の輝き、そしてアダムが混ざり合い、天へと登っていく。

 

「……僕はアダム・ヴァイスハウプト。明けの明星と呼ばれている。そして僕は悪魔でもある。そう、僕は明けの明星と呼ばれる悪魔であり、カストディアンに捨てられ(堕とされ)悪魔に堕ちた存在だ」

 

 二つの赤い光が規模を広げて空間を侵食していく。そしてある一定の大きさ、ディバインウェポンよりも数倍は大きいサイズになるとその侵食が止まった。

 

「フィーネ、風鳴流、サンジェルマン、立花響。君達には感謝している。特にサンジェルマン、僕の穢れを浄化してくれて感謝しているよ、僕の慢心や見下しなどの穢れをさ。流、もう君では僕には勝てない……いいや、僕はもう負けられない!! ティキ、おいで」

 

 赤い光が吹き飛ばされていた半壊のティキを回収して、その赤い光の球体の中に吸収した。

 

 そのあとすぐに世界から白い光がその球体に向けてどんどん集まっていく。先程アダムが悪魔になった時は黒い光が僅かに集まっていたが、今度は白い願い、神に祈る信仰がアダムに集まってきた。

 これは神に対する祈りの想い。悪魔信仰とは比べ物にならないほどの想いの力だ。

 

「感謝しているよ流、君にもさ。愛、そう、これが愛という感情。君のおかげて理解出来たんだ。ただの巫女が神に作られた人形を討ち倒し、月を穿つ兵器を作り出すほどの執着を生んだ力」

 

 赤い光の球体が周りに広がるように解けていく。

 

 中から現れたのは先ほどの悪魔の見た目とは真反対。白と金の色合いで、三対六枚の白い神聖な翼を広げ、機械の天使と呼ぶにふさわしい姿で現れた。その大きさはディバインウェポンの数倍はあり、まるで高層ビルを見上げているような感覚になる。

 機械的なパーツはあるが、翼はよく連想される天使の翼であり、そのアダムの顔はティキベースで出来ていた。

 

「僕は神に至った。もう誰も止められない。まずは……ティキを痛めつけた立花響と天羽奏を排除しよう」

「……は?」

 

 この場にいる人は流も含めて、そしてこれを映像で見ている各国の首脳陣達もその圧倒的な神々しさに黙り込み、今にもひれ伏してしまいそうになっていた。

 だが、流はアダムのたった一言で、それらの想いが敵意に変わった。

 

『やめておきなよ流。君のことは人間達との交流する為の人間の一人として大切に扱ってあげるよ。サンジェルマンも同様だ……支配してしまうことになる、この僕がね。でも、本当に僕は圧政をしないし、争いなき世界を作ろうと思うんだ。ティキと静かに暮らせるような世界になるまでは僕も頑張るつもりだよ。だけど、ティキを壊した君達二人は許さない。これは決別なんだ、僕の私怨に対するね、僕のワガママに対するね』

 

 アダムは先程までの侮りを含んだ話し方ではなく、本当に真摯になって語りかけていく。それと共に、響と奏には怒りを強く向けている。

 そしてアダムはいつの間にか、全ての種族に想いを伝えられる統一言語を無意識に使っている。

 

「アダム。お前が本当に平和な世界を作ってくれるなら、任せてもいいかなって思ったよ」

『そうか、なら!』

「……だけど俺な、世界なんてどうでもいいんだよ」

「え?」

 

 流をまだあまり知らないサンジェルマンは流の行動は紛争を早く終わらせたり、秘密結社に立ち向かったりしていたのでそういう志もあるのかと思っていた。

 

「俺の周りじゃない場所でどれだけの人が死んでもいい。ぶっちゃけ邪魔ばかりする奴らは死ねとすら思っている。だけどさ、俺の身内をお前は傷つけようとしている。それは赦されないんだよ」

『……ああ、分かっていたさ。狂おしいほどの愛を僕も理解出来た。持っているだろうね、君は僕以上の愛を。否定される事は分かっていたけど、やはり寂しいね』

 

 ここにいる流以外は何故いきなりアダムがこんな風に変わったのか理解出来ていない。だが、アダムが本当に別次元の存在になったことだけは理解出来ていた。

 流はティキのアダムの呼ぶ声を聞こえていたし、その想いにアダムが揺さぶられ、愛が芽生えたことは理解出来た。

 

 流だってこのままアダムに世界を任せた方がいいとわかっている。アダムはもう先程までのアダム・ヴァイスハウプトでは無い。だが、もう誰も犠牲にしないと自分に誓ったのだ。例え世界と天秤にかけたとしても。

 

「せっかく愛を知ったお前をぶん殴らないといけないのは悲しいよ。だけど、さ」

『ああ、そうだね』

「『俺(僕)のために死んでくれ!!』」

 

 流は皆と巨大なアダムを挟んで逆側にテレポートしてから、アダムに向けて錬金術で飛んだ。

 このアダムの敵はもう流しかいない。アダムの真摯な想いに屈した人間に危害を加えてしまっては、今後の統治に問題が発生するので流の行動に乗った。

 

 その場を去る時に流はある言葉を装者達や了子などの身内の人達にも含めて統一言語で送っていた。それを遠隔地で聞いた了子はすぐに未来を響達の下へと送る。

 

 アダムはその巨大な手で、一発一発が黄金錬成と同等のエネルギーの球体を流に放つ。

 

「地形が変わるだろアホが!」

『君が守りたいものを護りながら戦いなよ。大丈夫、天羽奏と立花響以外は絶対に傷つけないよ』

「うっせえ、死ね!!」

 

 流はアダムが放つ全てを腕や体を溶かしながら、触れては位相をずらす、触れては位相をずらすと作業を繰り返して全てを防ぎきった。もちろん融けた瞬間には再生させているが、あまりの熱量に流は息すらできない。

 アダムの腕の射程範囲内に入った時、流は一度空中で了子の技術の紫のシールドを足元に出して着地する。

 

 そして今出せる本気でアダムに向って飛んだ。全身はデュランダルカラーで光り輝き、同じような光を放つアダムに喰らいつく。

 

『先程までは打ち合えるくらいには力が均衡していたんだけど、この姿では悲しいね』

「うおおおおおお!! ウガッ!」

 

 流の体の数倍はある拳が迫り、流はその拳を殴りつけたがパワーはもちろん、大きさにも差があり過ぎてそのまま拳に地へと落とされ、地面ごと殴られた。

 

『流、本気で戦うよ、僕はね、この姿でも。それこそが礼儀だ。君の愛するものを奪うのだから』

 

 アダムは腕を振りかぶり、本気で流を殴り殺そうと力を貯めて放った。

 

「バーカ、初めから一人で戦う気はねえよ」

 

 そのまま流はアダムに地面ごと殴り潰された。潰される寸でに流は捨て台詞を吐いていた。

 

 流の息がまだある事がアダムには分かったが、それよりも少し面倒なことが起きてしまった。

 

『折れていなかったのか、シンフォギア』

 

 アダムが振り返ると、そこには自分と同じ高さを()()()()()シンフォギア装者達がいた。

 

「確かに貴方が世界を支配した方が幸せになるかもしれない!」

「それでも私達にも譲れぬモノがある」

「そんな事関係なく、流をぶん殴ったんだから覚悟しろよ!」

「私達が世界の平和を守るわ。それに流には今死んでもらっては困るもの」

「デスデス! 皆で暮らす日常を壊されるなんて溜まったもんじゃないデスよ!」

「神様だって、バラバラにしてみせる」

「響を殺させたりなんかさせない」

「さっきは一人だったけど、今度は八人によるエクスドライブモードだ! 流! 今助けるぞ!!」

 

 響も翼もクリスも、マリアも切歌も調も、未来や奏も、皆がその瞳に力強さが戻っており、その身に纏うシンフォギアは限定解除、決戦仕様のエクスドライブモードに変化していた。




エクスドライブモードになった経緯は次回説明されます。もう想像はついていると思いますが。

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