戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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鐘で合ってるはず。


#118『鐘が鳴る』

 ここにいる人達はアダムが一般人も平然と殺していた事は知っている。だが、そのあまりにも強大で、神聖な祈りの力を纏ったアダムを目にして、本当に自分の正義が正しいのか分からなくなっていた。

 

 この中で一人、死んでしまったが故に色々と価値観が変わっている人だけは流が先程統一言語で言っていた言葉の意味を模索する。

 

『時間を稼ぐからよろしく』

 

 あの場をすぐに飛び出さないとアダムの攻撃が始まるのは分かっていたし、流もあのアダムと戦うにはギリギリだから言葉が少なかったのはわかる。だけど、もう少し情報を残していけよと奏は思った。

 

「お前達は戦いたくないなら戦わなくていい。あたしは流を一人で戦わせるわけにはいかない」

「奏……」

「それに神なんかに人の管理をさせるのは間違ってると思うからな。神だって間違いを犯す」

 

 流は今神の力を呼び寄せ、器に力を満たせばある意味神になれるはずだ。だが、流の肉体は人間を辞めているけど、自ら精神までそちらに歩み寄る気は無い。

 完璧でない存在が神になっても、いつか絶対にミスを犯す。流が神になったのを想像して絶対にやばいと確信が得れる。

 

「呼ばれたので来ましたけど……あれが響を殺そうとしている敵!」

「未来は相変わらずだな。それじゃあ私は行、く……お前達! 後方に振り返って構えろ!!」

 

 了子に送られてきた未来はアダムの神々しさを目にしても、響のことで頭がいっぱいのようだ。そのいつもの姿を見て、装者達は自分の守るべきものを再度思い出し、それを戦う力へと変える。

 奏は響達に話しかけるために後ろを見ていたので、皆の背後に宝物庫の巨大なゲートが開かれたのが分かった。そしてその奥はフロンティアと繋がっていて、

 

「グオオオオオ!!」

 

 だいぶ規模の小さいネフィリム・ノヴァがいた。

 

 

 **********

 

 

 ネフィリムは凄く焦っていた。

 

 流がシンフォギア装者用に別貯蓄させていたエネルギーの一部を使って、奏のガングニールを限定解除まで持っていった時、ネフィリムにあるお願いをしていた。

 

『70億のフォニックゲインくらいのエネルギーをいつでも放出できるようにしておいて』

 

 今のネフィリムの本体である心臓はフロンティアのジェネレータールームのジェネレーターの内部に入り込んでいる。そしてネフィリムの体はフロンティアの資材を使って、熊よりも大きいくらいの大きさにしかなれない。

 その姿では70億ものフォニックゲインを放出することが出来ず、上司の無茶振りに頭を横に振った。だが、

 

『これが終わったらデュランダルをいくつか食べさせてあげるから頑張れないか?』

 

 という言葉にネフィリムは頭を縦に振ってしまった。ネフィリムは普通に料理も食せるが、やはり聖遺物が一番美味しい。特にエネルギーが詰まったデュランダルが一番美味しい。

 

 だが、今の体ではそんな量のエネルギーを放出できない。しかも、心臓をネフィリム自身の体に入れることも、フロンティアを融合させることも禁じられている。

 ネフィリムは考えた末に使い捨ての心臓を新しく作ることにした。完全聖遺物が自分の頭で新しい物を生みだしたのだ。

 

 擬似的なエネルギー炉をフロンティアの導管代わりの結晶で作り上げ、自らの体に70億のフォニックゲインレベルのエネルギーを貯蓄し、いつでも放れるようにウキウキで待っていた。

 そして自分の前に巨大なゲートが開いたことで、今こそその時だと感じ取り、ネフィリムは装者達が準備が済んでいないのに70億のフォニックゲインレベルの火球を吐き出した。

 

 後日、自分が出来ていないのに、流によって報告・連絡・相談という概念を教えられ、流よりも報連相を大事にするようになったという。あと火球の味方への使用を禁じられた。

 

 

 **********

 

 

 ネフィリムがノヴァのような姿で、火球を放ちながら土塊に戻っていくのを見て、奏は流が何をさせる気なのかを理解した。だが、流はあることを失念している。

 

「響! 受け止めるぞ! ガングニールで束ねて、アガートラームで再配置をする! あれはフォニックゲインだから出来るはずだ!」

 

 そう、響と翼とクリスはS2CAトライバーストの訓練はした。だが、響は無理やり調と切歌の絶唱エネルギーを奪い取ったり、ここにいる人達はS2CAヘキサゴンバージョンを知らないし、使ったこともない。

 そして流は忘れたアニメの知識をセレナや奏から補填していてヘキサゴンバージョンを知っていた。

 その記憶故に装者達が六重奏を使った事がないことを失念してしまった。

 

 後日、装者の前で土下座をして、謝り倒す男が居たとか。

 

「え? ええ!?」

「あたしも手伝うからやるぞ! S2CAと同じ要領だ!」

 

 奏のガングニールの特性は束ねたりしないのだが、それでも知っているし、先程似たようなことをしたので補助くらいはできる。

 

 奏と響で迫り来る火球を無理やり受け止める。

 

「「Gatrandis babel ziggurat edenal……」」

「翼! あなたの片翼無茶苦茶じゃない!」

「だが、奏は予め知っていたという事は」

「あたし達が出来るってことだ!」

「クリスさんそこ譲ってください」

「あ、ああ」

 

 火球自体にそこまでの威力は秘められていなかった。ネフィリムもエネルギーを放出するためだけに放ったので、あまり威力を上げていなかったのだろう。

 

 奏と響が隣同士に立ち、火球を腕で受け止める。奏を翼が、響をクリスが支えようとして未来に譲った。マリアは前二人の背中に手を押し付ける。クリスと調と切歌はマリアやその他の人を支える。

 

「S2CA」

「オクタゴンバージョン!!」

 

 奏は加わってはいるが、既に限定解除であり、エネルギーをあまり流せない。あまり響や奏に束ねさせていると負荷がかかるのでその負荷も全体で負担する。それら全てをマリアは初見にも関わらず実行していく。

 

 マリアは2ヶ月の鍛錬で切歌のような戦闘のうまさだけでなく、マリアが持つ本来のセンスと器用さ自体を鍛えた。弦十郎の用意したひたすらの器用な操作が求められる細かい作業を繰り返す傍らで、響達と同じ鍛錬も積んでいた。故に、初見でやりたい事がイマイチ分からなくても、今やるべき事を器用にこなしていく。

 

 そしてシンフォギア装者も最終形態に至った。それと同時に流がアダムに殴り潰された。

 

 

『そうか、奇跡を必然へと変えたか。使ったんだね、エクスドライブを』

「この力であなたをぶん殴る!」

『……悲しいよ。信念……いいや、ワガママの押しつけだった、昔の僕は。でも、君たちの戦いは信念と信念のぶつかり合いだ』

「……お前の語りになんて付き合ってられるか!」

 

 クリスが会話中にチャージしていたビームを放とうとするが、アダムは両手をあげて無抵抗を示したため撃つに撃てなくなった。

 

『駄目だよ。理解しておかないと、相手の正義も。正義の選択、それは人それぞれ違うだろう。だが、その正義が他人の正義と違う場合、争いが起きる』

「自分の考えとどうしても違う人とは争いが起きてしまう。それが普通のことでしょ」

『普通じゃないんだ、人類にとっては。人類は争わなくても、対話で相手の想いをしっかりと理解できる機能がある』

「……統一言語とでも言う気デスか!」

『そうさ! 本来はその言語を用いるように作られたのが人間だ。だが、相互理解を阻むのがバラルの呪詛、あの月だ』

 

 皆が月を見てしまったが、その隙をアダムは突いてこなかった。

 

『君たちは風鳴流が向ける愛に偽りがないことを知っている。何故だい?』

「……俺が統一言語も用いて、皆に本音を話すからだ」

 

 皆は答えられなかった。流が統一言語を使って話す内容は、どれも言いたいことを全て理解出来て、その考えにどうして至ったのかも理解出来てしまうからだ。統一言語が使えれば本当に争いがなくなるかもしれない事に黙ってしまうが、この場に流がテレポートしてきた。

 

 だが、その流の目が死合をする時の何も感じない目になっている事が一番近くにいた奏だけは見えた。

 

「俺やお前ならやろうと思えば統一言語のシステムを歪められるのに何を言ってんだか。皆、すまないがアダムを頼む。奏はセレナも頼む」『ママがあと数分稼いでと言っていた』

「は? 待て、何をする気だ!」

『流さん! 待って!』

 

 流は話しながら、テレパスで了子の伝言を伝えたあと、奏のシンフォギアのガングニールの胸元にあるペンダントに触れて、セレナの憑依先を流からそのペンダントに戻した。

 そして奏とセレナの言葉を無視して、流はテレポートをしてどこかに消えた。

 

「流は人類を見限ったか」

「え?」

 

 アダムが統一言語を用いらずに独り言をボソリと呟いたが、それを正しく聞き取れた人はいなかった。

 

『いや、君たちは知る必要のない事だ。事情が変わった。君たちは殺さない。ティキを傷つけた天羽奏と立花響を殺したいが、今殺せば()()()()()()。だが、今は邪魔だから倒させてもらうよ』

 

 会話をしようとしていたアダムは急ぐ様に、戦闘態勢を整えて装者達が戦いの準備を終わらせるのを待つ。

 

 色々と引っ掛かることがあるが、装者達は戦闘を開始した。

 

「相手は神の力を保持せし者、ならば温存するこそが愚策。初手より奥義で仕る!」

 

 翼は初めから本気でぶつかるために、天羽々斬を超巨大化させてそこから特大の【蒼ノ一閃】を解き放つ。

 

『無駄だよ』

 

 アダムは翼の蒼ノ一閃に対して、黄金錬成を放ち、逆にその熱量が翼へと迫る。

 

「させない!」

「神様にはノコ」

 

 未来が翼の後方から、極大の神獣鏡の光線、【暁光】を放つと同時に、今はいつものシュルシャガナの限定解除になっている調が大小様々な丸鋸をアダムに降り注がせた。

 その丸鋸を囮にして、響と奏とマリアがアダムに接近しようとしている。

 

『人は想いを抱いて生きる。故に、隠し事はできないよ、今の僕の前ではね』

 

 アダムは錬金術師、とりわけプレラーティが拘束された時にそれを抜け出すために使う、全方位に衝撃波を放つ錬金術を、今の姿で使い、装者達や近くにあった神社本社も含めて諸共に吹き飛ばす。

 奇跡とまで言われたその力を纏って戦っているのに、アダムの衝撃波には抗えず、そのまま地面に叩きつけられた。マトモに戦うことすら出来ないとでもいうかのように。

 

「本当にバケモンだな」

『人類から見たら、流もさほど変わらないさ』

「あなたとは違う」

『違わないさ。彼のあの手は血に濡れている。僕は相当殺してしまった人類を。だけど、彼は20年も生きていないのに、どれだけの人を殺せば、あの域まで到れるのかね』

 

 そこまでしないと自分を、そして愛する者達を守れないと流は思っているのだろうと、アダムは心のうちでため息をつく。そんな世の中は本当に変えなくてはいけない。そんな世の中ではティキがいつ害意に晒されるかわかったものでは無い。

 

「……まあ、流は結構殺っちまってるからな」

「奏!」

「でもよ、言い訳になっちまうけどさ、一般人とかは殺してねえんだわ。まあ、殆どがアメリカのエージェントと風鳴関係な訳だし」

『どんな理由があれ、殺しは殺しさ』

「そうだな」

『そんな事をしないといけない世界は変えないといけない』

「それをするのは人間がするさ」

『人間では情や感情があまりにも籠りすぎて駄目なんだよ』

 

 平行線にしかならない会話を奏を中心に続ける。一度当たってわかった。このアダムには勝てないと。

 悪魔の姿のアダムならきっと限定解除なら何とかなったかもしれない。だが、このアダムは全くもって次元が違う。

 だからこそ、最後の手段である了子を待つ。

 

 そして数分という、このアダムから稼ぐにはとても大きな時間が過ぎ去った。

 

 

 **********

 

 

「……!」

『君はオートスコアラーの出来損ないの烙印を押された』

「私の妹。久しぶりの派手な登場」

 

 巨大になったアダムよりもだいぶ小さく見えてしまう、レイアの妹がアダムの横に現れて、アダムの巨体を拘束するために抱きしめた。

 アルカノイズの掃討が終わり、再度そのレイアの妹の肩に乗ってレイアも現れて、登場と一緒に持ってきた大量の金属をコインにして、アダムを挟み込む。

 

 レイアはアダムを挟み込んだら、すぐに装者達の方へと移動した。まるで何かから退避するように。

 

『邪魔をしないでくれないか。君たちはティキの同胞だ。壊したくない』

「なら、了子の読みは正解だったようだ」

『……了子、フィーネだと』

 

 アダムは了子の名前を聞いた瞬間、一瞬体の動きが止まり、それが致命的な隙になってしまった。アダムの最後を決めたのは、またフィーネであった。

 

 アダムのいるよりも遥か上空の空間が割れて、緑色の光の柱がアダムに向けて放たれた。それはこの世界では放たれなかった光。

 一瞬動きが止まっていたため、反応も遅れてその光線をアダムは浴びた。

 

 その光の向こうから鐘の音のような音が鳴り響いている。この世界ではやはり聞くことのなかった音だ。

 

『待て! これは!!』

「……るLuリRぁ、RゥるRiラ」

「そう、これは世界()()()壊す歌よ」

 

 遥か上空から鏡の割れるような音が鳴り響いた。緑の光の光線が放たれていた空間の周りが割れ、そこからある城が姿を現した。

 その城の展望台にはキャロルがダウルダヴラを小さい姿で纏いながら世界を壊す歌を歌っている。その隣には了子もいた。

 

『チフォージュ・シャトー、僕を世界として!! やめろ!!』

「止めないわよ。全く動けないわよね? キャロルちゃんが歌うこの歌、そしてこの城、全てが世界を壊すために作られたモノよ。完全に特攻の攻撃を受けると全く抵抗が出来なくなるのよね。流が未来ちゃんの光線を軽く受けさせた時にわかったわ」

『フィーネぇぇえええええ!!』

 

 キャロルは流の娘になってから、世界を壊す気なんて更々無くなった。当たり前だ、元々キャロルは父親の想いを、残していった言葉を確かめるために暴走してしまった。だが、その父親本人から言葉を聞けたのだ。逆に父親がいたこの世界を壊したくない。

 だが、悲しいかな、キャロルは既に研究者として開花していた。

 

 あと少しで世界を解剖する理論が完成する。決して使う気は無いが、それでも突き詰めた結果に何が残るのか。実行はしないが、研究を続ける許可を了子から取り、シンフォギア装者達のイグナイト状態での歌を収集し、そして完成させた。

 

 世界を壊す歌を完成させた。

 

 キャロルが使うダウルダヴラはシンフォギアでは無いので聖歌が胸に浮かばない。なので装者達のイグナイトの呪いの旋律を自らが受け、オートスコアラーで回収し、それを歌うことで完成させるはずだった。

 だが、S.O.N.G.の協力を得られ、イグナイトの歌を自分の身を殺さずに、オートスコアラーの命を使わずに、収集することが出来た。

 

 だが、やはり当初の計画とは違う収集方法だったので、劣化世界を壊す歌だったが、それでもキャロルは満足した。そしてこの歌を作るために父親の考えと真逆の事をしてしまったのだと随分と後悔した。自殺もしそうになったが、流やエルフナインに止められた。

 

 そして出来上がった使われるはずのなかった世界を壊す歌がキャロルによって歌われている。なお、キャロルが大人の姿になっていないのは、大人の姿でダウルダヴラを纏うと、イザークに言われた露出狂という言葉が胸に刺さってやりづらいからだ。

 

『ぼ、僕が、神になったから、世界と同義になってしまったのか!!』

「世界とは全よ。そして世界を作ったとされる神は全か一か……もちろん全。神はそれ一個体で完成されているわ。世界を壊す歌はミクロの存在が、マクロである世界を壊すための歌。なら、神自身を世界に見立てて、壊すことは可能なのよ」

 

 アダムは何とか抜け出そうとするが、自分を壊す光を浴びているためか先程までの力が出なくなっている。そんな悪影響があるのに、自分を拘束しているレイアの妹には全く影響がない。

 

『何故僕という世界だけを壊せているんだ! 僕よりも更にマクロな宇宙観であるこの星があるじゃないか!』

「それは局長がラピス・フィロソフィカスの輝きを吸収したせいです」

『サンジェルマンに、プレラーティ、カリオストロ!!』

 

 了子の後ろから姿を現したのはラピス弾を撃った後にすぐ了子に呼び出され、今までずっと調整作業をしていたサンジェルマン達だった。

 

「「一にして全なるモノ」とは汎神論的世界観を示すクセノファネスの言葉においては、神を意味する表現でもあります。私達のラピスと局長が吸収したラピスは同じ物であり同じ完全です。今キャロルは歌っている歌は完全なる世界()を破壊する歌。この地球は完全では無い。何故なら我々が求めてしまった完全とは、カストディアン達が定めたものであり、カストディアンが来たるより前からあったこの世界はその完全の定義から外れています」

『このオートスコアラーは……オートスコアラーとして不完全。機能として完全ではないから、範疇に含まれないと言うのか!』

 

 この世界に完成したラピス・フィロソフィカスはサンジェルマン達が持つ三つと、あとはアダムに撃ち込んだ弾しかない。今、エルフナインはシャトーの王座に座り、歌の効果範囲を三人から預かったラピスを使って、ラピスによる完全を得た世界に指定している。

 普通ならそんな作業は一人では無理なのだが、思考するだけでこの城を操作できる完全聖遺物、ヤントラ・サルヴァスパがあるおかげでエルフナインは高速で処理を終わらせた。

 

 レイアの妹は名前すら与えられていない、要求スペックを満たせていない不完全だったからこそ、この世界を壊す歌では全く影響を受けていないのだ。

 

「……愛故…永眠(ねむ)らせる。俺はこの歌は歌わないと誓ったが、パパを、そして……た、大切な人達を、世界を守るためなら何度だって歌ってやる! そう、奇跡を……違うな、神を殺す歌がある!!」

 

 キャロルが世界を壊す歌を歌い終わると、チフォージュ・シャトーの共鳴が最高潮に達した。

 アニメのシャトーより放たれた世界を壊す歌によって共鳴した光線は弱いが、それでもこの地球という世界よりも小さい、アダムという世界を壊すには充分過ぎる威力だった。

 

『やめろおおおおおおおお!!!』

 

 アダムの神のごとき体は世界と定められ、キャロルの数百年の願いによって殺された。赤き神の力は緑の世界を壊す歌によって消滅していった。

 

 

**********

 

 

「上空からビームってさっきと同じ攻撃よね」

 

 了子は完全にアダムが倒せたと確信し、胸をなでおろしながら勝利後の呟きを吐いてしまった。本来なら藤尭が吐く筈のフラグだが、藤尭は今そんなことをしていられるほど暇ではない。

 

「……何故僕は生きている」

 

 了子の余裕フラグは成立してしまったのか、はたまた奇跡か、アダムは人間の姿で地に横たわっていた。いいや、アダムが生きているのはひとえに愛だった。

 

「アダ、ム大丈夫?」

「ティキ!」

 

 アダムが横たわった体をずらして、空を仰ぎ見ようとすると、ティキがアダムを盾となり、アダムを抱きしめていた。

 

 神アダムの中で修復されたティキは、世界として分解されつつあったアダムを庇った。

 ティキは人形として敢えて不完全に作られた。あとから恋乙女の概念を付与するための穴が作られていたのだ。

 

 その不完全さのおかげでティキは巻き込まれず、そしてギリギリアダムの人間大の体だけは守れた。

 盲愛を定められた体故に、その愛が世界を壊す歌をやり過ごせた。

 

「ティキ、アダムを守れたよ」

「ああ、ああ!」

「アダム、戦え」

 

 了子も流石にこの事は想定外で固まっていたし、いきなり城が現れてアダムを分解したため、装者達も動きが止まっていた。

 世界を分解しようとした余波で禿げた地面の中心で、アダムとティキは互いの再開を喜んでいると、空気を読まない流が空間からにじみ出るように現れた。

 

「……君は、まさか! 神になったのか?」

「日本を守るためにやり過ぎただけだ。いいから、俺と戦え」

 

 ボロボロの服を纏い、全身デュランダルな流だったが、デュランダルは本来なら金色に水色のラインが通っている。だが、今の流のデュランダルを流れるラインの色は赤色で光っており、先程までの神の力の光と酷似していた。


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