「すげえ痛い」
『あんな潰され方してそれだけなら大丈夫ですね』
「分かってたけどさ、シンフォギアに比べて出力低いなぁ。巨大な敵に弱すぎる」
『一応生身ですからね?』
「わかってる」
流はアダムに地面ごと殴られたため、土に埋まっていた。位相をズラし、錬金術の飛行で地面まで飛んだあと、各所の情報を確認していく。
S.O.N.G.や各戦闘区域、重要拠点などの空間的な場所を覚えておいて、耳元や目の先に小さい宝物庫ゲートを開くことで、視覚や聴覚で他所の情報を盗み見たりしているので、流はある程度の速度で様々な場所の情報を取得できている。
もちろんインカムなどでも教えてくれるが、直接見て聞いた方が判断が早くなる。
決してこの技術では覗き見はしない。もしするなら流は正々堂々気配を消して入る。
そんな事をしなくても、半分ほどは文句を言わないし、もう半分はいやいや許してくれる。なお、ただ一人、流を殺しきれる少女はブチギレる模様。
ちょうどS.O.N.G.に流がゲートを開き、何か新しい情報がないかと確認している時、それがS.O.N.G.に知らされた。
『弦! 国連による武力介入が
「主要な軍事基地よりこの国に向かって発射された高速の飛行体を確認! え!? 一つは沖縄より発射されました!」
「……兄貴、何故まだ装者や流達が戦っているのに、強制的な武力介入が起きているんだ」
八紘の緊急連絡によって、その事をS.O.N.G.と流は知った。
藤尭がレーザー関連の情報を確認すると、一番近くが沖縄から、そして太平洋沿岸や大西洋に接する国からいくつもの飛行体が発射されたのが確認された。
弦十郎は拳を握りしめて、怒れる拳で機材を怖さないようにゆっくりと力を抜く。
「……」
流の顔から表情が消えた。流が盗み聞きしているとは知らず、八紘は弦十郎の質問に答える。
『アダムが悪魔の姿の時はまだよかった。アメリカの扇動をうまく流し、流が流したとされているアメリカの裏の顔によって、他国はアメリカの言葉に耳を貸さなかった。だが、今のアダム、あれは駄目だった。各国の首脳はあれを見て屈し、悟ってしまった。あれは人類の厄災を使ってでも止めないといけないと』
「人間による統一の確立……いいや、自分達の支配によって得られる権益を守るためか」
人類のためにと思って行動している人自体が少ないので、大体は後者だろう。
『詳細はわからない。だが、そういう人達は居るだろう。アメリカは元々異端技術というものを敵視している。シンフォギアシステムやフィーネを利用しようとしていたが、それも全て機械、科学によって管理しようとしていた』
「今回は最も古い異端技術の結晶のアダムを標的とし、完全にアダムが神として支配する前に片付けようと……そういう訳か」
『ああ。神秘からの独立、そして報復だろう』
「そこに並び立てるなんて、流は相当嫌われているな」
弦十郎は考えた。ここら周辺の人は退避させている。弦十郎は了子の作戦を知っていたが、もしアダムに知られれば対策を打たれてしまうので装者や流には言えなかった。言わなくても装者達は戦ってしまうし、流も皆を守るために戦うので無駄に縛りたくはなかった。本当は自分が戦いたいのだが。
世界解剖の局所的利用を行うために人は居ないが、このままここに反応兵器を落とされれば、永遠に踏み入れられない土地になってしまう。そうすれば国としても大きなダメージを受けてしまう。
だが、弦十郎は迷わず装者や流を撤退させることにした。
「了子くん!」
『ええ、聞いて……流! 早まらないで!』
了子は局所的完全なる世界解剖を行う調整をする傍ら、繋がっている通信機よりS.O.N.G.にもたらされた情報を得た。
それを聞いている時から何故か嫌な予感がして、話している途中に気がついた。流が情報の盗み聞きをしている事が良くあることに。
流は弦十郎の横に宝物庫テレポートしてきた。その顔は死合をしていた時よりも更に冷めていて、弦十郎は流のこれからの動きを止めるべく、流を掴もうとして、
「くっ! 何故位相をズラしている」
流の体を手がすり抜けた。流は基本的に弦十郎には異端技術を行使しようとしない。フェアでは無いし、異端な技術を使って戦っても意味が無い。それ込みで戦っても負けることがよくあるが。
「俺が止めるから安心して。ママは今やってる事を進めて」
『何をする気? 宝物庫に放り込んだりするのよね?』
了子は流が反応兵器除去で行える手段、その中でも一番安全なものを口にするが、流の声に想いが宿っていない、とても冷たい声だった事で焦る。
「それだとノイズ達の家が汚染されちゃうじゃん。大丈夫、すぐに終わらせる」
「流! お前がそれ以上無理する必要は!」
流は奏の下へ宝物庫テレポートをした。
**********
『流さん! 本当に何をするつもりですか!』
『秘密』
流はアダムに自分が統一言語を用いて、愛の言葉を囁いている事を言いながら、無理やり憑依しようとするセレナを押さえつけている。
『これからやる事は精神的にも繋がっているセレナに悪影響を及ぼす。だから、奏の所にいて』
『駄目ですよ! 流さん! 待って!!』
流は奏のガングニールのペンダントに触れて、セレナの憑依先を、いつの間にか変わっていたソロモンの指輪からガングニールのペンダントに戻した。
そして流は一番近くまで来ている反応兵器の下へと飛んだ。S.O.N.G.へ行った時に飛行体の経路予測を藤尭が立てていたので、その沖縄から放たれた経路上に宝物庫テレポートをした。
「セレナはエネルギーベクトルを自在に操れるけど、科学的な回路には干渉できない。あれはロジックがしっかり物理法則と合致しているからセレナ単体では干渉できない。なら、ここで潰すか? それは巡り巡って皆に害を与える。やはり反応兵器は機能停止に追い込むのがいいな」
遥か遠くからこちらに向かって高速で飛行するミサイル流には見えている。
流が自分で口にした事は今の流では出来ない。了子に習ったハッキング技術はあるが、それも今ではもう遅い。
位相をズラすだけでも無力化出来るのだが、あれは再発防止のためのアクションが取りづらい。やるなら徹底的にだ。
「…………出来た」
流はアダムのあの姿、そしてあの精神性なら人間よりも間違わずに人類を導けると確信した。だが、それは奏や響の犠牲の上に成り立つものであり、それは許されることではない。
流は自らの体に鼓星の神門を作り出し、その神の門は月から神の力を引き出していた。
流の体には四人の乙女、巫女の噛み跡がある。噛み跡は神跡であり、神跡は神社の意味を持つ。そして中央に三つの星を配置する。
デュランダルは色々な使われ方をしたが、聖櫃としての役割も担っている。ソロモンの指輪は精神的な力、想いの力をブーストさせるために使われる。
そしてソロモンの杖は宝物庫への鍵だ。元々ソロモンの杖は鍵でもある。門を開けるのにという行為にはとても役割を持ててしまう。
噛み跡は全身デュランダルの状態で、表面を動かすことによって、胸元の四方に配置し、聖遺物のコアともいえる部分をその中に三つ配置する。
ちょうどアダムが天に描いた鼓星の神門と同じように。
そしてシンフォギアで例えるなら、アダムは響のように後天的に神の力の正規適合者という資格を獲得した。
流は神の力を最も効率的に扱えるように作られた、その身は神の器。月から溢れ出て、流に向かってくる力を全て自分の中に受け入れていく。
「気持ち悪い……」
だが、その月は人類を呪うために作られた場所であり、そこには流を操ろうとする意思もある。そこから流れてくる力が安全なわけがなく、また流の思考を汚染していく。
流は自分を失わないように、ひたすら皆との思い出を走馬灯のように思い出し、少しすると、あの場所からの供給が止まった。
「上手くいった」
流は自分の手を見て、手の動きや足の動きを確認する。いつも通りの自分であり、特に変わった姿をしていないし、変わった思考ルーチンをしていない。
「いや、干渉はされているか。より身内以外がどうでも良くなっている。別にいいか、反応兵器なんてもんを皆のいる場所にぶち込もうとしたんだし」
流は呑気にしているが、目の前までそのミサイルが迫ってきている。
『止まれ』
統一言語で言ったその言葉は、赤い神の力を纏ってミサイルにぶつかった。
「……やっぱりこんな力は要らないな。それにフォニックゲイン由来の力じゃないと、デュランダルが嫌がっている」
流の怒りの想いを抱いた力がミサイルに触れると、そのミサイルは完全に動きを停止させ、今まで飛んできた勢いだけが残った状態でそのまま落下し始めた。
流はそれを丁寧にキャッチして、宝物庫のノイズがいない端の端にゆっくりと置いた。
響達は想いで奇跡を手繰り寄せていた。それを流は想いで奇跡を必然へと変え、そのまま想いの通りの現象を引き起こした。
「アダムの神に対する想いが強さだったから、あんな姿になって、俺はカストディアンを神とは思っていないし、神は間違えない万能だとおもっているからこそこんな風になったのか?」
流は本当は手にいれた神の力のゴリ押しで、ミサイルを消滅させようとしていた。世界解剖やアルカノイズの分解を学んでいるので、なんとなくは分かっていたのでやろうとしたらこっちの方が効率的だと悟った。
「……あと四つ」
一瞬S.O.N.G.に宝物庫を通して映像を確認し、四つのミサイルの進行予定ルートを記憶する。
「何故アダムですら悟れるのに、人類はこうも醜いのか。数を減らせば争わなくなるか?……また今度でいいや。まずは戦いを終わらせて、来たる響の誕生日パーティーが先だ。人類の行く末はそのあとだな」
全く動かない表情でこれからの予定を纏めて、流は次のミサイルの元へと飛んだ。
**********
国連の場で斯波田事務次官、通称蕎麦おじいちゃんは怒りでどうにかなりそうだが、それを食いしばって席に座っている。
先ほど八紘が戻ってきたが、結果的に日本への武力介入という名の、永久汚染地帯を作る作戦が可決された。しかもあの場には流や装者達がいる。
斯波田は弦十郎や流、了子達を見ていたからこそ、アダムの神の姿を見てもそこまで取り乱さなかった。ぶっちゃけあんなに大きくないが、了子達が本気で世界を取る気ならば一週間もかからない。
だが、他の国は違く、反応兵器が発射された。
画面にはその発射された5つのミサイルの軌道が描かれていて、これが落ちればアダムを倒し、平和が訪れ、更に日本への支援と掲げながら他国が進行してくるだろう。
だが、そんな事は起きなかった。
突如沖縄から放たれた最も近いミサイルの反応が途絶し、次々に反応が消えていったのだ。
衛星からの映像でもいきなり空間に飲み込まれたように見えていて、どうなっているのかが斯波田事務次官以外には分からなかった。
「坊主、無茶しやがって」
流がまた救ったのだと、ほっと一息ついた瞬間、円卓のように各国が座っている席の中央の空間に流が現れた。
『人類よ、完全な人形よりも愚かな人類よ。お前らに忠告をする』
この場に着くまでは流はキレていたが、怒りを表に出さないくらいの我慢はできていた。
だが、この国連の集う場に来て、その場の人達の想いを読み取ってしまい、流は本当にキレた。
奏を自分で切り捨ててしまい、自分に対して本気でキレたあの日以降、一度も本気でキレていなかった流はもう自分を抑えるのが限界を迎えた。
斯波田も同じく、流が本気でキレていることに気がついた。弦十郎と同じようにガチでキレると静かになる、底冷えする程の冷たさを流から感じた。
『黙れよ人類。貴様らはやはり駄目だ。まだ
流は日本に対して、ミサイル投下後に邪な考えを持った存在に記憶の共有をした。
次回はしっかりアダムの元に流が神の力を纏って登場する場面まで書きますので、本当にすみません。一気に書きたかった。