流の精神は完全に月と繋がってしまい、風鳴流という意識は消し飛んだ。
アヌンナキという言葉を聞いた瞬間、流は絶叫して倒れた。最も早く動いたのは奏と翼で、奏は空を全力で駆け、翼は未だ真っ直ぐにしか移動はできないが、緒川の使う瞬間移動で、アダムと流の元へ行く。
「どういう事だ?」
「貴様は今何をした!!」
奏と翼はアダムに武器を向けて、いつでも殺せる様に威嚇をしながら問いかけた。
それに続いてクリスや調、他の人も動き出した。
「……すまない。彼の神の器を完全なものにする最後のキーワードは、アヌンナキだったようだ」
「知っててやったのか?」
「僕はアヌンナキ達を敵視しているんだ! 彼の肉体を彼らにやろうとなんてしないさ!」
二人はアダムの言葉をすぐに嘘だとは切り捨てなかった。アダムは神の姿になった時も、同じようなことを言っていた。
クリスとマリアが流を起こそうと、体に触ろうとした時、流はひとりでに立ち上がった。
「な、流?」
「……あはははははははは!! やはり
起き上がった流はクリスの言葉を無視して、空に手を掲げて、高笑いをして叫び出した。
「おい、流!」
「うるさい! 考え事をしているから黙っていろ」
流?は再度放たれたクリスの言葉を切り捨て、装者達から数メートル離れたところに移動した。クリスは流にあんな拒否をされたのは始めてで落ち込みそうになるが、直感で今の流はおかしい気がした。流の目がクリスをいつものような愛しげな目で見ていなかった。
「……この懸案事項は調べておいた方がいいだろうな」
流?は前方に手を振ると、流から更に数メートル離れた場所の地面から、少し高い場所に宝物庫ゲートが現れ、そこから人が落ちてきた。
「おっと、流! いきなりテレポートをさせるなと何度も……お前は誰だ?」
「本気で戦え、風鳴弦十郎!」
弦十郎はその野生の勘によって、流が流ではない事を見抜き、拳を構える。
その弦十郎に対して、流を乗っ取った何かは、弦十郎の目の前まで瞬間移動をして、構えを取ってから、流が最も使う右ストレートを放った。
「ふん! なに!?」
弦十郎は流の拳を構えていた拳で迎撃したが、威力を殺し切れず、弦十郎は数歩後ろに動かされた。
「もう一度言う、本気で、この体を殺す気で殴れ……然も無いと、櫻井了子の魂を砕く」
「……」
その言葉に弦十郎の目付き、雰囲気など、全てが変わった。
翼は轟轟と戦った時、弦十郎の本気を見たと思っていた。だが、あれはまだ訃堂の体を慮っていたのだろう。今の弦十郎はまさに本気だと分かるような気迫が感じられる。
上空にあるチフォージュ・シャトーにいるキャロルとパヴァリア三人娘は弦十郎の殺気を受けて、ガチで怯えている。そして思った。
『あの男を本気で怒らせなくてよかった。アルカノイズを使って本当によかった』
そう思ってしまうほど、弦十郎は怒りを抑えず放出している。
「「ハア!」」
弦十郎と流?は全くの狂いもなく、同じ動きで拳を振るったが、弦十郎の腕が衝撃で後ろに跳ね除けられた。
たった一度、拳をぶつけ合っただけで、地面が陥没し、衝撃で二人の服の腕の部分が引きちぎれる。
流?は戦いながら、両腕両足をデュランダルに変えて、打ち合う度に、デュランダルとなっている部分が光り輝いている。デュランダルの水色の部分は未だ神の力の影響か赤くなっている。
「……おっさんが押されてねえか!?」
「割り込んだ方がいいデスかね?」
「駄目だよ切歌ちゃん。もし私達があそこに入ろうとしても、ミスをして一撃でも喰らえば死んじゃう」
「響さん、いつもの殴り合いと同じように見えるけど、そんなに大変な事になっているの?」
「うん。私達は限定解除しているけど、この状態でも私はあの二人を止められる気がしないよ」
クリスの言う通り、打ち合うたびに流のエネルギーは充填されていき、弦十郎が吹き飛ばされそうになっている。
それを見て切歌が助けに動こうとするが、響は切歌の肩を抑えて止める。響にはいつもの親子喧嘩とは違うものに見える。いつもなら一歩間違っても死なないように殴りあっているが、今回はコンマの動きを遅れれば、それだけで相手を殺してしまうほどの威力を秘めている。
「うぐっ!」
「お前の想いはその程度か? まあいい。今すぐ了子を殺せば、更に本気を出すだろう?」
弦十郎は背後に吹き飛ばされ、軽く膝をつく。流?は弦十郎に
弦十郎は殴り合えば相手を理解できる。それによって、相手が本気で了子を殺そうとしていることがわかった。
風鳴弦十郎は自重を捨てた。
弦十郎は目にも止まらぬ速さで流に接近し、了子に向けている拳よりも早く、その腕を殴り飛ばした。
「そうだ! 殺す気だ! 貴様が封じてきた本気でこい!」
そこからは生身の殴り合いなのに、まるで金属の壁を殴っているかのような音が辺りに響いた。
二人は本気で動くたびに、地面が爆ぜて、二人の着ている服はボロきれとへ変えていく。
先程とは違い、同じ動きのはずなのに、弦十郎の方がコンマ早く動けていて、流?を圧倒し始めた。
その流?はあえて弦十郎の拳を受けて吹き飛ばされ、正拳突きの構えを取って、その場で立ち止まった。
「……一発の拳で決着をつける気か、流を乗っ取った者よ」
「ああ、来いよ」
弦十郎も流?のすぐ近くまで歩み寄り、弦十郎は流?と全く同じ構えをした。
そして事前に話し合った訳では無いのに、同じタイミングで動き出し、二人の拳はぶつかった。
「ぐはっ! やはりそうか」
「それで何がわかったんだ? 途中から貴様は俺の了子を殺す気がないことを、拳で明かしていた。だが、貴様はこの殴り合いが重要なことと捉えていたからこそ、俺は自重をやめた」
初めは確かに了子を殺す気ではあったようだが、それは弦十郎を本気にさせるためだったのだと拳で語り合っていた。
弦十郎は最後の一発で右腕を折り、拳が軽く砕けている。そして流?のデュランダルな右腕は粉々に砕け散っていた。すぐに再生したが、どちらがより強大な威力を発揮出来たかは一目瞭然だろう。
「まずは自己紹介をしておこう。私はカストディアン、アヌンナキ……ではない」
「はぁ!? 先程の流の拒絶反応は神を降ろした時のものではないのか!?」
弦十郎に対してアダムは化け物を見る目で見ていたが、流?が言い放った言葉に対して反論している。あの状態の流を乗っ取れる存在なんて、神の時のアダムですら無理。
「ああ、本来なら流の体に膨大なエネルギーが満たされた状態で、アヌンナキというワードを聞けば、月に保存されているカストディアン達が組み上げた、異端技術破壊人格がインストールされるはずだった」
「だった? お前は何故そこまで知っている?」
「だって、私が流を造ったんだよ?」
『ソロモン!!』
「セレナくん正解。私はソロモン。君たちが流の中に入ってきて、会った人格であり、流の無茶の代償を引き受けて消えた存在さ」
ソロモンはドヤ顔で自己紹介したが、セレナはソロモンが基本的に嫌いだし、このドヤ顔が大嫌いだ。
奏はガングニールとの完全適合体なので、ガングニールに憑依しているセレナは、流のように噛み跡を付けなくても中に入れる。いきなり奏の体に憑依し、セレナはソロモンをぶん殴った。
**********
弦十郎や流の体を乗っ取っているソロモン達は、チフォージュ・シャトーに来ていた。
了子と錬金術組がそこにいるので、宝物庫ゲートを開いて、弦十郎もそこを通ってきた。
流がゲートを開くと、シンフォギアや完全な肉体じゃないと通れないのだが、ソロモン曰く流は術の扱いが下手だから出来ないだけと言っていた。
ソロモンはシャトーに来る前に、流の体に溜まっている神の力を、生命エネルギーに大半を変換した。そしてレイラインを遮断した影響で、大地が弱っていたので、その膨大な生命エネルギーを大地に返した。
『流は神として覚醒すること自体が重要であって、流の意思を邪魔をする神の力は不要。必要なら流はデュランダルで増幅できるから、種火程度でいい』
ソロモンはそう呟きながら、自分が王の時に出来なかった、この地に暮らす民のために、自然の力を操った。
そして今、シャトーの王座の間にある大きなテーブルに皆が座っている。ここはキッチンスペースがあったり、コタツとテレビとみかんのスペースがあったり、寛ぎスペースがあったりと、もうやりたい放題になっている。キャロルももう諦めている。
そして今、流の体のソロモンは、
「いやー、生身で食べる食べ物は本当に美味しいね。轟轟の体で無理やり働かされてた時は、効率云々でサプリだったから、苦痛で苦痛で。数百年ぶりだから、やっぱり美味い。それにこれをオートスコアラーが作ったというのも驚きだ。ミカくん、君はすごい。アダムよりもすごい」
「照れるゾ」
ソロモンは馬鹿みたいに食料を取っていた。流は食料を取る必要がなくなったが、それでもいつも食べていた。流は取る必要が無いので最低で終わらせていたが、食べようと思えばいくらでも食えるので止まることがない。
またセレナの殴りで暴走が止まり、皆の前でソロモンが今の流がどうなっているのかの説明が始まった。
「美味しかった。さて、流は事だね。彼の意識は完全に消し飛んでしまった。本来なら僕ではなく、カストディアンが用意した人格がこの体に来るはずだったんだけど、僕は流を造った張本人だ。作った時の話から始めようと思う」
ソロモンは轟轟に飲み込まれた。多分風鳴がカストディアンにこの地を守る防人として作られたため、何かしらの防御機構があったのだろう。
だが、轟はカストディアンが死んだ後のソロモンを使ったように、轟もソロモンの意思を縛って使役した。
轟はプロジェクトDの準備をソロモンの人格に任せ、自分はリーンカーネーションの準備をする為に意識の中に潜った。
ソロモンは流を製造中、どう考えてもこれは成功しないモノだと分かっていたが、それでも流の体を作った。
そして十年が経ち、奇跡が起きた。
その体の近くに
ソロモンはその魂を使って、Dの体を起動させることを決意。だが、このままではカストディアンの玩具になってしまう。
だから、逆転の一手を打つために、轟轟の肉体から解放されるべく、ソロモンの指輪譲渡の条件の一つ、所有者が死に瀕している場合、指輪を他人に譲渡し、計画の続行を行う、を発動させた。
ソロモンの杖を作ったソロモンならば、フィーネと同じように杖なしでもノイズを召喚できる。
指輪を譲渡した時点でソロモンは消えるので、その一瞬の隙をついて、アヌンナキの人格に繋がる流のチャンネルを、自分の人格のある領域のアドレスを書き換えていたのだ。
そして
「待った! 流がノイズに襲われて、初めてノイズを倒したのは六歳の頃だろ? それでなんで生まれて数日なんだよ!」
「轟轟が意識の世界からの覚醒に条件をつけていたんだよ。Dが目覚めた場合、一週間死ななかったら目を覚ますっていうね。だから、流の魂を肉体に入れて、ある程度一人で動けるくらいの年齢まで自然成長させてから、意識の覚醒、誕生させたんだ。だから、本当の流の年齢は十二歳だね。調くんよりも二、三歳低い」
「流が年下? 年下? 私がお姉ちゃん」
流の六歳までの記憶は雑に作られているため、思い出せないようにしていたけど、ふとした拍子にその枷が外れたら大変だ。なので流がカ・ディンギルのエネルギーパーツになっていた時、その膨大なエネルギーを使って一時的にソロモンは意識を表面に出し、それっぽい理由を付けて、植え付けていた六歳までの記憶を焼却させた。
調はこの中で一番年下だ。エルフナインが本来なら生後数ヶ月だが、エルフナインは何だかんだ大人びた思考も出来るので、妹という感じがしない。だが、あの流を弟に出来ると考え付いた調はえもいえぬ愉悦を心に浮かべた。
「ここら辺で流の出生の秘密が終わったね。そして時間が飛んで、響くんに流がブチギレた時に時が進む」
「え? 待ってください! 流さんが私の響にキレたってどういう事ですか! 響にキ、キスまでしたのに!」
「は? 流がこのバカにキスをしたってどういう事だ!」
「待って、君たちの暴力にこの体の乗っ取った感じになっている僕でも抗えないんだ! やめて!!」
奏の事で響に感謝された時、流はまだ完全に立ち直ってなかったのでキレた時があった。その時未来は居なかったので、その事実を知った未来は、シャトーに常備してた服を着た流の襟首を持って締め上げた。
そしてその場面で気絶をしていたクリスも同じように締め上げた。
「……という事があって、奏さんとの想いを私が軽々しく言っちゃったから」
「まあ、それは流が過敏に反応しただけだ。あの時は忙しくて休めてなかったせいでもあるな」
響の説明でソロモンは何とか開放された。
「……もういいかな? あの時、僕が現れたのを覚えているかい?」
「はい、流先輩に手を伸ばし続けてほしいって」
「君は原罪、バラルの呪詛がない。解除されているんだ。奏くんのように魂を無理やり削ったわけでもなく、セレナくんのように私が奪ったわけでもなく、自然な風に消えているんだ」
「待ってちょうだい。原罪がない? しかも後から消した? そんな事が出来るわけが!」
この場にはサンジェルマン達も座っている。ここで逃せば下手したら流がソロモンの完全消滅を行ってくれなくなるかもしれないので、無理やり居させている。
逆にアダムとティキはもう居ない。流が人間化させたアダムとティキに渡す予定だった初期装備だけ渡して、流が飛ばすはずだった村に飛ばした。
だが、ソロモンも流のせいで感覚が狂っていた。アダムは神の身を分解されたあと、全裸だったのだ。アダムは全裸、ティキはボロきれを纏った程度だったのに、そのまま飛ばしてしまった。
「想いは神の呪いすら超えられる。未来くんの神獣鏡の光は響くんの中にある、人間本来の機能の邪魔をしている呪詛すらも消し飛ばしたんだよ」
「聖遺物、シンフォギアで呪詛を無効化……」
「ちなみにもう無理だからね?」
「何故!?」
「未来くんが本気で神獣鏡を使えるのは響くんにだけで、ほかの人にやろうとしても、多分そこまでの想いを乗せられないんだよ」
サンジェルマンは未来の顔を見る。未来は無理であることを示すように一度頷いた。
「話を戻すよ? あの時僕と響くんは接触した。純粋に呪詛を失くした君だからこそ、僕はあの時100%本気で君に指輪を渡すことが出来た」
「指輪……ですか?」
響はあの時指輪なんてもらっていない。だが、ソロモンの指輪を認識できる、自分たちの指にもある奏とセレナは響の指に指輪が見えた。今まで認識できなかったのに、そこにはあった。
「確かにあるな」
「奏さんは見えるんですか?」
「あたしとセレナと流の指にもあるぞ。そして付けている奴らは見える……まあ、響達には見えないと思うけどな」
「ずりい!」
クリスが奏に向けて純粋に嫉妬の思いを口にした。
「クリスくんは流に本物を買ってもらいなさい。それで、本気で作った僕の分霊であるソロモンの指輪は、流の付けているオリジナルと同じように、一人分の人格をそこに保存できるようになっているんだ」
「まさか!」
「そう、その中に流の人格が収められている。記憶はこの体にあるから、その指輪を使えば、流を問題なく呼び戻すことが出来るんだ」
会話が始まる前に流は復活することを言われていたが、それでも皆は心配していたのでほっと息を吐いた。
『ソロモンはどうやってカストディアンの作った人格の代わりに、流さんの体に入れたんですか?』
セレナが皆には聞こえないが質問をした。
「……あれ? そういえば何故セレナくんはまだ蘇っていないんだ? はい」
ソロモンは流なら魂からデータを取って、無理やり復活させることも出来ると思っていたのに、まだセレナは復活してなかった。なので、自分が一番得意とする、精神体の具現化を指パッチンで発動させた。
すると、マリアがよく見知ったセレナの姿。奏と流に出会った時の、胸がぺったんこな時の姿で、その場に受肉して現れた。
「……え?」
「は? なんで勝手に蘇らせるんですか! 私は流さんの精神的なサポートをするために、あえて遅延させていたんですよ! 確かにマリア姉さんと話したいですけど、流さんはカストディアンとの件が片付くまでは支えようと思ってたのに!」
「それはすまなかった。だが、君の姉の気持ちを考えたまえ」
セレナは生き返ろうと思えば、奏と同タイミングで体を作ってもらえた。流に自分の肉体の墓を暴かせれば良かったのだ。だが、その時期は既にソロモンと接触していて、流をカストディアンにぶつける気でいたのが分かっていた。だからこそ、流が鬱った時はいつでもサポートができるように、待機していたのだ。
「あんたがカストディアンを流さんに倒させようとしているから、色々不安なんじゃないですか!」
「……え? セレナ!!」
「ちょっ! マリア姉さん……って胸がない!? 精神体で成長したのをなんで反映させてないんですか!」
「あれは君の願望が含まれていた。成長するなら、その肉体でもしっかり育つから安心したまえ。元々成長性がないのなら、ご愁傷様だ。私と違って流は好きな人の胸ならなんでもいいみたいだから、その点は安心していい。巨乳以外人権とかないと私は思うが」
「消えろ!」
セレナにマリアが抱きついたが、その時になってセレナの体の成長が、出会った時まで巻き戻っていることがセレナにはわかった。そしてセレナは他人には言わないきつい言葉で罵声を浴びせている。
「……随分あなたはセレナに嫌われているのね」
「貧乳に何を言われても別にって感じだし関係ないね。セレナくんは弟子だし」
そのあとマリアの興奮が冷めるまで、少し時間がかかった。
「戦いが終わって、そろそろお腹も空いてきているだろう」
「話は真面目に聞いていますから! ちょっと、お腹鳴き声を上げただけで」
マリアが静かになってソロモンが話し出そうとしたら、響のお腹が鳴った。
今は深夜を通り越して、明け方になっている。夜飯から何も食べておらず、ずっと戦っていたのでお腹も減るのもしょうがない。先程軽く軽食を食べたが、それでも皆お腹が減っている。
「お腹が空くことはいい事だよ。早速だけど流を復活させよう。響くんは左手を流の額にかざして、指輪を砕くイメージをして欲しい」
ソロモンはそう言いながら、その場で寝っ転がって目を閉じた。
響は言われた通り、指輪が付いているはずの左手を流の額にかざす。流の顔を見ると、不意打ちでキスをされた事を思い浮かべてしまい、響はまだ恥ずかしいが、これをやらなければ流が復活しない。
響は指輪が砕けるような想像をすると、親指の部分で何かが弾けたような感覚を得たので、手を退けると、流が目を開けていた。
「ありがとう響、ありがとう皆……ありがとう
ソロモンは意識を自ら焼却し、流の復活する場所を開けて、流の意識は再び肉体に戻ってきた。
「流」
「なに調?」
「私の方がお姉ちゃんだったから、今度からはお姉ちゃんと呼んでもいいよ」
「は?」
流は偶に調の事を姉と呼ぶようになったとか。
結果的に、また締まらない感じにAXZ事変が幕を閉じた。
**********
ソロモンが
それは弦十郎の強さは明らかに異常だという事だ。
これは皆が思っていたが、今回の流の体を操ったソロモンを倒したことに対して、いつもの事だと流していた。
だが、ソロモンはある懸案事項があったので、弦十郎と戦った。
その結果、神の力で身体機能や耐久度を上げたのに、本気の弦十郎の拳で、神の力を通していたデュランダルの腕が粉々になった。
それによって弦十郎自身が響の『束ねる力』と同じような概念を取得していることが判明した。
響は自らの信念とガングニールの『神殺し』の力によって、『束ねる力』を手にいれた。
だが、弦十郎の場合は自分で取得した訳では無い。
流は今まで、ノイズに意思を持たせる。ネフィリムに意思を持たせる。デュランダルに意思を持たせる。そしてアダムとティキという、新しい人類を創り出した。
だが、それらよりも前から、流はある人の概念を歪めていた。そう、風鳴弦十郎だ。
流は弦十郎に初めて会った時こんな事を思い浮かべていた。
この人だけでいいんじゃないかな? ノイズじゃなければ即死だった。敵がノイズじゃなければ最強。チート。最強。普通の人外。
シンフォギアを見ていた人なら、こんな想いを風鳴弦十郎を抱くだろう。流もそれをずっと思っていたし、弦十郎を越えようと励んでいた。
だが、流は普通の人ではない。神の器であり、想いを力と変えて
ノイズ達が話せればいいのにな。ネフィリムは生物型なんだから、人と対話もできるはず。デュランダルだって、きっと思いをやり取りできる。
そんな流の想いによって実現したこれらの現象と同じように、弦十郎も力を得ていた。
『ノイズ系統じゃなければ最強』
最強とは最も強いこと。故に弦十郎には成長の限界はなく、常に鍛錬を続け、目標を持ち続ければ無限に成長できる。そういう呪い……いや、祝福を流によって十年近く費やされて掛けられていた。もちろん意図せずだ。
弦十郎が拳を交えただけで相手の想いを汲み取れるのは、流と何度も殴りあっているうちに、バラルの呪詛が一部欠けたというアホみたいな事もソロモンは言っていた。
『弦十郎、流が知っていたシンフォギアでは、君は最強だが、その力を持て余していた。だが、カストディアンが地球に来た場合、君は表舞台に無理やり立たせられるだろう。彼らは最強なんていう、自分たちよりも優れた存在を許さないだろうからね』
流とセレナの復活を喜ぶ中、弦十郎は落ち込む……訳ではなく、自分が強くなろうとする意思を無くさなければ、息子に置いていかれることは無いと安堵していた。
これにて後日談はありますが、4期AXZは終了となります。まだ訃堂やセレナ、その他様々な話がありますので、もう少し更新が続きます。