戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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今回は訃堂の話です。


第4.33期 シンフォギアAXZ AFTER
#122『国防の鬼』


「国連はこの世界全体の安全保障の観点から、ミサイルを発射したこと自体の正当性は主張しています」

「その時の発射に対する正当性を主張しているのはわかった。だが、まだあるのだろう?」

「はい。ですが、あれは誤りであったと各国並びに国連が非公開の謝罪を送ってきております。それと共に、風鳴流の怒りに触れない程度の情報開示をと」

 

 パヴァリア光明結社の暗躍によって起きた、AXZ事変、または神創事変が幕を閉じて数日が経った。

 

 その間訃堂はずっと病院で軟禁されていて、了子やキャロル、そしてセレナの判断により、既に訃堂の体の中には轟轟という、風鳴の鬼は居ないと結論づけられた。

 

 生きている中で一番魂や霊感に優れている流が見ないのは、流がここ数日ずっとベッドの中にいたためだ。精神が復活したが、そのまま生活を送れなかったのだ。

 デュランダルとソロモンの杖の二つの聖遺物ともう一度リンクを繋げ直さなければならず、特にデュランダルは神の力の影響で、デュランダルに似た何かに変質していた為、流はもう一度適合し直すのに数日うなされ続けた。

 

 八紘はずっと国連で動いていて、やっと日本に一時的に帰ってこれた。それも全て流のせいなのだが、流のやった事は一切記録には残っていなかった。

 映像ではバビロニアの宝物庫を開いたのはわかった。だが、流が発していた統一言語は機械を通すとその言葉に含まれる想いが抜け落ちるのか、何を言っているのかがわからなかった。

 

 故に各国はその事について日本に追求することが出来ず、更に大多数は流という藪をつつくのは得策ではないとして、第一種特異災害特例からの撤廃を議論した。

 最後までアメリカは流に屈するべきではないと訴えたが、既にアメリカの発言権は皆無であり、流の第一種特異災害特例撤廃が満場一致で可決された。

 

「流の戦闘能力、取得している技能、推定兵力、あやつ以外の情報が含まれていないモノなら、全て開示して良い。装者及び弦十郎などは一切含めなければ、あやつもこちらに干渉してこぬ」

「……宜しいのですか?」

「あやつは自分の情報で、身内の安全が買えれば文句を言わん」

 

 訃堂が八紘よりも流を理解している風なのに、少しだけ納得がいかない気がするが、八紘は次の報告をする。

 

「分かりました。次に、流が流出させたとされているアメリカの裏の情報の裏取りが全て終わりました」

「全ては事実」

「はい。その結果を踏まえ、非難を表明し、強くアメリカに対して制裁行動に出ることになりました。まずは世界を救った英雄、マリア・カデンツァヴナ・イヴなどがいた白い孤児院、F.I.S.についての調査が入る予定です」

「国連が目を光らせていた状況ではまともな隠蔽も出来ておらぬであろうな。ボロが出るだろう……セレナ・カデンツァヴナ・イヴが実は生きていたという工作はしっかりと行っておけ」

「分かりました」

 

 奏に続き、セレナまで復活したことにより、色々と処理が大変になっている。奏は日本国内で処理を行ったので、それを日本政府が実は生きていたとするのは簡単だった。だが、セレナはアメリカで完全に死んだことになっている。

 キャロルが使っていた培養層を改良した、異端技術もりもりの医療ポットを了子が作ったのでその中で今まで眠っていたことになりそうだ。セレナが死んだ時はキャロルは仲間にはなっていなかったが、キャロルは数百歳なので、多少の時系列の前後はなんとでもなる。

 

「アダムという神に関するあまりにも強大な力を目の当たりにしたが」

「その後の流のインパクトが強く、S.O.N.G.にて流は数年、身内が何もされなければ力を行使しない事は理解されています」

「アメリカ、そして此度の反応兵器によって、やっと流の異常さ、そしてあの身に宿す戦闘力を理解されたか」

 

 バルベルデの制圧作戦が行われるまでは日本は流の情報をすり替えたり、うまく工作していたので、シンフォギア装者達に引っ付く金魚のフン程度にしか思われていなかった。

 だが、バルベルデの制圧作戦により、流はノイズを操る完全聖遺物によるシンフォギアと同等の戦力と見られていた。アメリカ以外には。

 そして今回の事で流は反応兵器よりも簡単に動けるのに、あの身で反応兵器以上の働きが出来てしまう異常な人間だと認識がされた。しかし絶対に化け物とは言われない。逆鱗がどこにあるか分からないからだ。

 

 だが、確実にわかっているのは、アメリカが流に喧嘩を売ってF.I.S.のマリア達英雄を殺そうとした結果、アメリカの今回の失墜があると理解している。

 

 本来なら恐怖によって、徒党を組んで日本を攻撃してくる可能性もゼロではなかったかもしれない。流は一応人間であり、今後心変わりをするかもしれないし、ボケるかもしれない。

 だが、最後の最後で人類最強の風鳴弦十郎と戦い、そして流に実質的に勝つという制御ができることを示した。

 

 それのおかげで、反応兵器以上に扱いを誤れない代わりに、人類にとって最強の矛になる事が分かった。それと同時に風鳴弦十郎は国連の中で、最強の盾との認識がされ、更に弦十郎が最強だという想いが世界に広がった。

 

「あなたは流をどうするつもりなのですか」

「何もせぬ。既にあやつがこう動いた結果、あやつが日本にいるだけで、国防が盤石になった」

「……さようですか。私は仕事がありますので、これで」

 

 八紘はやはりまだ轟轟が悪かったとはいえ、訃堂を許せないでいる。なので、無駄な接触はせずにすぐに部屋から出ていった。

 

「……内に入るか」

 

 訃堂は八紘が行ったのを確認した後、流がソロモンのいた空間に行くのと同じように自らの中に、自らの精神世界に入っていった。

 

 

 **********

 

 

 訃堂の精神世界は守るべき日本の地がそのまま反映されている。そしていつも降り立つのは、風鳴宗家の自分の部屋。

 

「……ああ、訃堂か。どうだった?」

「問題ない。(ごう)が居るとはもう誰も考えぬよ」

 

 訃堂が降り立った場所には、訃堂を若くした様な姿をした、轟轟、旧名風鳴轟がいた。

 

 天より神獣鏡の光線が降り注いできた時、轟轟は極限まで鏡と剣との繋がりを薄めて、神獣鏡から来るダメージを減衰させた。勾玉との繋がりは薄めないのは不死性を失うのが怖かったからだ。

 そこまでならば問題なく動けたのだが、イガリマの魂を壊す一撃を受けてしまい、完全に消える前に、訃堂が魂の欠片だけを轟の精神に持たせて訃堂が表に出た。

 

 イガリマの攻撃は99%の轟の魂と1%の轟の魂を分断するだけで終わったが、99%の方を流に握り潰された。

 今の轟は流のようにほぼ精神だけの状態であり、普通ならそのまま消滅しているはずだった。

 

 だが、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)は壊れた魂すらも修復し始めた。草薙剣も八咫鏡も基底状態にされてしまったが、勾玉だけは生き残っていた。

 

 現在三種の神器は日本が回収し、あるべき場所には返されている。だが、融合状態をギリギリ維持していたため、まだ繋がりが消えていない。流がデュランダルを完全に排出しても、そのデュランダルを呼ぼうと思えばどこからでも呼べる。そのくらい深く轟轟は勾玉だけは手放さなかった。

 

 そして今、訃堂の精神世界でゆっくりと修復をしている。あまりにも魂の大きさが小さく、了子達は認識出来なかったのだ。訃堂も自ら隠していたせいでもある。

 

「あのDのせいで、修復に月単位で掛かるじゃねえか!」

「だが、勾玉があればまた動けるであろう?」

「まあな。まあ、助かったよ。お前のおかげで完全に消えなくて済んだ。国防的にも、三種の神器の使い手はいた方がいいんだろう?」

「さよう。なに、Dだけでは不安であるからな。儂は肉体に戻るが、必要なものは?」

「まだ当分何も出来ねえから要らねえ」

「あい、わかった」

 

 轟轟は訃堂に背を向け、流にもぎ取られたリインカーネーションをもう一度自分の魂に適応させるべく、術式を組み上げていく。

 

 

 訃堂は肉体に戻らず、轟の背後に近づく。

 

「忘れていた。(ごう)、我が弟よ」

「なんだ?」

「ご苦労であった」

「なっ、ガッ!? て、てめえ! グアアアア!!」

 

 訃堂は呼び出した草薙剣で轟を背後から突き刺し、そのまま真上に斬りあげた。

 轟は何の構えもなく、その攻撃をその身に受け、イザークが消えた時のように少しずつ姿が消えていく。

 

「お、お前!! お前が今、何をしたのか……待て、なんでお前は草薙剣を持っているんだ?」

「三種の神器の使用資格はオリジナルではないソロモンの指輪を所持している事。儂は貴様を助けたあと、精神体の貴様から奪い取っておいただけのこと」

「……いいや、それがあるだけじゃ無理だ。お前はわかっていない! 来い草薙剣!」

 

 轟轟は血だらけの体で訃堂の持つ草薙剣に手を伸ばして呼び出す。だが、その腕を訃堂に斬り捨てられるだけで終わった。

 

「何故だ!」

「……弟よ、貴様がソロモンの指輪について、初めて他人に話した時、真っ先に儂に話してくれたこと、今でも感謝している」

「なんで再生しないんだよ! 勾玉、勾玉はどこだ!」

 

 轟は勾玉とのリンクすらも切れていることに気がつき、このままでは本当に死んでしまう。まだリインカーネーションの設定も終わってないのだ。

 

「あの時、もし儂以外の風鳴に指輪、そして三種の神器の使用資格について話していれば、それは戦の道具に使われていただろう。国防に使うべき道具を、野蛮な外の人類と同じように、攻めるために使っていたはずだ」

「語ってんじゃねえ! 勾玉を返せ!」

「貴様が風鳴から破門されたのは儂が動いた結果だ。貴様には神の器の創造をやってもらわねばならなかった。まさか貴様が八紘の嫁に惚れ、神の器に風鳴の血を入れられるとは思わなかった。その点も感謝している」

 

 訃堂は語る。

 訃堂は日本が先の戦争で負けた事を両親に何度も言い聞かせられた。それから訃堂はひたすら国防に対して執着するようになったが、ある時不出来な弟が完全聖遺物を所持している事を知った。

 そしてその指輪によって、この地はカストディアンという人類を生み出した神が降り立った地である事。風鳴はカストディアンがこの地を守らせるために作った血筋である事、そして三種の神器という風鳴の資格ある者のみが扱うことが出来ることなどを知った。

 

 

 そこから訃堂の、人間にとっては長いプロジェクトDが始まった。

 まずは弟の轟を風鳴より破門させ、常に尾行させながら国内を調べ尽くした。そしてプロジェクトDという、神の器を作っている組織が本当にあることがわかり、轟がソロモンの指輪という計画に必須なものを持っていることをリーク。

 

 その時に轟が八紘の嫁を求めるようになった。しかし、既に八紘は手を出していて、中古なら殺すと言い出した轟を宥め、八紘の嫁に子供を産ませて、轟がその世代の子供にリインカーネーションしてその子供を嫁にすればいいと提案。

 もちろん同じ遺伝子を継いでいるからと言って、一目惚れしたその人と同じようになるわけではなかったが、試すだけ試すことにした。その時、轟からしたら寝取った奴に見える八紘の子供では嫌だったので訃堂の血で作ることになった。

 人間関係で色々とごたついたが、濃い風鳴の血を入れることが出来た。

 

 そして生まれた翼に轟は惚れ、惚れた女性の遺伝子を使って子供が作られた。轟の家にあったビデオレターでは十年前から作っていたと言われていたが、あの映像の一部は轟轟が喋り、後半の巨乳好きアピールはソロモンにやらせていた。前半は割と嘘が多く、天使の血筋ではなく、カストディアンに作られた風鳴はある意味天使のような血筋だったりする。

 

 そして出来上がった流の体にリインカーネーショしようとしたら失敗した。

 

 神の器だったからか、それともソロモンが何かをしたのか。もしくは知識をひけらかしたせいで、訃堂がリインカーネーションの知識を得ていて、宿り先を訃堂に切り替えられていたか。

 

 轟はしょうがなく、訃堂の体で流を乗っ取るために準備を行い、結果敗北した。

 

 だが、敗北することも訃堂の掌の上であった。何のために弦十郎の元にほぼ無罪放免でフィーネとキャロルを置いたのか。あのフィーネなら、轟だけを殺すような手段を取ってくれると思っていた。

 クソのような父親でも、夫の父親を助けられるなら助ける手段を取るだろうと予想していて成功した。

 

 訃堂は自分の身と魂を最後には賭けて、思い通りにことが運んでくれた。

 

「我が求めるのは貴様のようなバカではない。流は国防意識は低いが、この日本を気に入っていて、翼を嫁に取った。もうあやつは日本から拠点を移すことは無い。また弦十郎、フィーネ、慎次、そして錬金術師の技術までも学び、最強の防人となった。翼も女子(おなご)にしては強き防人よ。そして我自身は貴様をこの身に宿し、我が行った非道を全て貴様に擦り付け、貴様の魂より、三種の神器の使用資格を奪った」

 

 訃堂は右手の小指に付けた指輪を轟に見せる。そこには確かに流が付けている指輪があった。オリジナルではないが、これがあり、尚且つ勾玉を所有していれば剣と鏡も扱える。

 

「風鳴を破門されて、Dの体に転生できず、俺をあえて生かした? それじゃあ、まるで俺の人生は全て訃堂、てめえに操られていたみたいじゃねえか!」

「実質そうであろう? 貴様がその力で国防に協力しておれば破門などせぬつもりであった。だが、貴様はその力で世界を制すと言いおった。その力は国を守る力だ」

「ふざけるな!」

「ふざけてなどおらぬ。貴様が弱りすぎていたため、資格を奪えなかったから今まで生かしておいた。だが、資格を奪えた今ではそれも不要。逆に貴様を生かしておけば、D、いいや神の力を扱える流の機嫌を損なう。あやつはいるだけで、我々が調整すれば国防に多大な貢献をする。貴様と違ってな」

 

 訃堂は轟が扱いきれていなかった草薙剣の力を解放し、轟轟を完全に吹き飛ばした。最後は恐怖で顔を歪ませているという、死に際でさえつまらない終わり方だった。

 

「轟、この指輪によって剣術の知識も得ていたのに、素人同然の動きしか出来ぬ貴様では、何億と戦ったところで流や弦十郎はおろか、八紘にさえ勝てぬ。貴様はこの知識をひけらかしはすれど、鍛錬を行わなかった。それでは勝てぬよ」

 

 訃堂は草薙剣と八咫鏡、八尺瓊勾玉の三つの繋がりがしっかりと存在することを確認し、この場に轟の分霊も居ないことを確認した。

 

「我は間違わぬ。この力は国防のために使うものである。流もまた同様。あの者は身内を愛し、身内のためならば世界だって破滅させる。だが、身内の安全さえ保証すれば、最強の国防の矛となる。そして力を得た我の最強の盾となる。外敵の侵入にのみ、この力を振るえば例え神が来ようと盤石な守りを敷ける。貴様のおかげだ、感謝するぞ、風鳴轟」

 

 訃堂は精神世界から肉体に戻った。最後に轟が組み上げていたリインカーネーションの術式もしっかりと壊して、風鳴の鬼というレッテルを貼られた哀れな男は完全に消滅した。




愚者が鬼に唆された結果、信念なく最終決戦に現れ、あんな結果に終わりました。

こんなに人の心が理解出来ているのに、八紘と仲違いしている翼に訃堂が近づかなかったのは、内に轟がいたので、翼に近づけば何をするか分からなかったからです。

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