戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#13『不滅不朽の剣』

『病院屋上にて待つ 風鳴翼』

 

 この手紙がデュランダル輸送計画の日に届いた。クリスに頑張れとメールを送り、手紙を確認してからすぐに病院の屋上へ向かった。

 

 手紙をエージェントさんが持ってきた後、すぐに家を出たが、屋上には既に翼がいた。

 

「ここの屋上はリディアンから見えるよね。スキャンダルになっちゃうぞ」

 

「……」

 

 屋上の手すりに捕まり、彼は空を見上げている翼に声を掛けるがスルーされてしまった。

 

「……えっと、起きたってことはもうすぐ退院なんだろ? おめでとう」

 

「……」

 

 翼が全く反応を示さないので話題に困り、入院関係の話を持ち出すが、翼を病院にぶち込んだのは自分だと思い出し、微妙な感じになる。

 その言葉にも反応しなかったので、流は翼が話し始めるのを待つこと数十分。

 

「ずっと貴方には尋ねようと思っていたことがある」

 

「なに?」

 

「何故貴方は私と……奏のツヴァイウィングのコンサート中に寝ていた?  あの頃の貴方は奏に付きまとい、私達がライブをする度に見に来ていた。もちろん特異災害対策行動中などを除くが」

 

 付きまとっていたのはどちらかというと奏なのだが、その事を指摘すれば話が拗れるので素直に翼の問に答えた。

 

「奏に意識を落とされて寝ていた」

 

 奏に未来を話した結果なのだが、それは言葉に出来ない。

 

「そうか……奏はあの場で歌うかもしれない事を予期していたのだな」

 

 翼はそれ以上何も話さず、流のガングニールの欠片ペンダントを胸に抱いて黙り込む。

 

『ありがとな。たくさん翼と話すことが出来た』

 

 いつの間にか隣に現れた奏がお礼を言ってきた。翼が一番の支えとしている奏由来の品を持っていなかったので、忍び込んで翼の治療ポットの中にペンダントを入れただけだ。妄想の奏がお礼を言う必要は無い。

 

「奏とは話せたのか」

 

「……うん!」

 

 防人としてではなく、少女としての返事が返ってきた後、翼は流にペンダントを返した。欠片から手を離すのに数分掛かったのはご愛敬だろう。

 

 翼がまだ何かを話そうとしていたが、杖をついて立っているのも辛そうだったので、ベンチに座って話そうと提案し、翼は手を借りずに一人でそこまで歩いた。

 

「立花はどうだ?」

 

「どうだって?」

 

「私が寝ていた間、立花は鍛錬を積んでいたと聞いている」

 

「ああ、戦士としてどうかって事ね。まだ俺や父さんに比べたら全然未熟だよ」

 

「い、いや、それはわかっているのだがな」

 

 翼は当然のことを言われて苦笑する。流も分かっているのですぐに翼の聞きたいことを言う。

 

「奏の代わりになろうとしている間違った考えは正してたよ。それは翼も感じているはずだし、戦闘力は絡め手を使ってこない相手ならまあまあ戦えるんじゃない?

響のアームドギアはあの拳だし、弦十郎父さんの謎拳法は相性がいい」

 

 そう口にしながら、自動販売機で温かいお茶を二つ買い翼に手渡す。

 

「すまない。それで……私達と立花で戦えばオーディンに勝てるだろうか」

 

「ブッ!」

 

「大丈夫か!」

 

「気管に入っただけだから大丈夫」

 

 いきなり翼が自分の事を言ってきた。

 

 オーディンと流が戦うのは無理だなとお茶を吹き出してしまう。今思うとあの格好は流石に恥ずかしいなと思っていた所にこの仕打ち。

 

「えっと、映像で見せてもらったが、あいつのメインはレプリカガングニールと蹴りだったから倒せるんじゃねえかな」

 

 すぐに壊れる槍と蹴りだけで修行を始めた響と翼と流には勝てないと結論付けた。まず戦えないが。

 

「そうか……それなら安心だ。あと、だな」

 

「何さ」

 

「立花と、その、親睦を深めたいと思っている。立花は私と仲を良くしようと励んでいたが、私の態度のせいでうまくやれていないように思える」

 

 言いづらそうにしてから、そっぽを向いてそんなことを聞いてきた。

 

 だが、流と同年代で、生きていて、話せる相手は翼と響しかいない。ぶっちゃけ流はそんなもん分からないが、前に本で読んだものを参考にして切り抜けることにした。

 

「欠点の一つくらい見せれば?」

 

「何故そうなる」

 

「互いに欠点を教え合うといいらしい。理由は知らんけど。翼は割とポンコツの癖に外から見たら完璧に見えるからな」

 

「私の何処がポンコツだというのだ!」

 

「掃除」

 

「うぐっ!」

 

「現役アイドルなのに今の流行がわからない」

 

「へぐっ!」

 

「バイクをすぐに壊す」

 

「それはノイズが出現するからしょうがない……と思う」

 

「それをやり過ぎて経費で落とせなくなり、自費で賄ってるのにしょうがないわけないだろ」

 

 流の指摘のたびに体が縮こまるが、本当に掃除はどうにかした方がいいと本気で彼は思っている。緒川は忙しいのに、洗濯掃除や身の回りの片付けを一手に引き受けている。

 あの負担が減れば緒川の休みは相当増えるはずだ。流は間違いなく緒川は早死すると予想している。

 

 ならお前がやれば? と思うだろう。流は世話をするのは好きだが、翼は掃除洗濯片付けを学習しないので引き受けたくない。

 

「あとワケわからない言葉(防人語)を喋る」

 

「ん? それはどういう意味だ?」

 

「戦いの場をイクサバというのはまだわかる……いや、俺は翼の言葉はだいたいわかるけど、あれはやめた方がいい。じゃんけんのチョキ出して?」

 

「ん? これだが」

 

 じゃんけんのチョキは普通なら人差し指と中指を立てる。風鳴翼のチョキは親指と人差し指を立てている。

 

「チョキは普通こうでしょ」

 

「いや、こちらの方が格好良いだろ」

 

『まあ、それ教えたのあたしだけどな』

 

 子供の時、じゃんけんすら知らなかった翼に優しい嘘や面白い事を常識だと教えたおバカさん(かなで)がいた。それのせいで翼は銃のような指のチョキは格好良く、それこそが普通だと思っている。

 

「まあいいや。響とジャンケンをしたり、バイクが趣味だったり、砂糖と塩を間違える事を言えば一気に仲良くなれるから」

 

「本当か!」

 

「ああ! 俺は行くね。病室まで手伝う?」

 

「手出し不要。これもリハビリの一環なのでな」

 

 流はとびっきりの笑顔でサムズアップして、その場を後にした。

 

 

 その場を後にした流は自分のために開けられている病室に逃げ込み、胸元にあるペンダントを抑えて倒れた。

 流が倒れたのと時を同じくして、デュランダルが起動し、響は破壊の衝動に飲み込まれていた。

 

 流の持っているガングニールの欠片は黒く光っている。

 

 

 

 そして後日。

 

「あの嘘つきはどこだああああ! 大恥をかいたじゃないか!!」

 

 獣と化した防人少女が居たとかいなかったとか。

 

 

 **********

 

 

 デュランダル輸送計画は失敗に終わった。

 

 突如現れたネフシュタンを身に纏った少女がノイズを率いて襲撃してきた。何やかんやあり、立花響がデュランダルを覚醒させ、デュランダルによる一撃でその場を打破した。

 ネフシュタンの少女は立花響の一撃を受けたが、ノイズを盾にして逃亡し、行方を追ったが見失う。捜索を強化する方針。

 

(クリスと演習をするのが多かったから、本来よりもクリスの方が強くなってるはずだが……いや、早期に翼と話せていた影響で響が早く強くなる決意をしたのが勝因か)

 

「ぐあああああああああああ!!」

 

 二課の報告書の内容を思い出しながら、歴史から大きくズレていないことに安堵していた。

 そんな中、目の前には大切な場所しか隠せていない服を着て、体を拘束されて電撃を浴びているクリスがいる。

 

 ネフシュタンの鎧を着ている状態で腹に響の強烈な拳を受けてしまい、鎧の力で肉体を再生するのと同時にネフシュタンはクリスの体を侵食している。

 その侵食を停止させるには電気ショックを与えるしか方法がなく、流がクリスを拘束して電気ショックのスイッチを下ろしている。

 

「もういいな」

 

 胸や下半身がほとんど見えているが、苦しんでいるクリスを見て、変な気も起きないし発情するはずが無い。拘束を外してベッドに連れていき、停止して欠片となったネフシュタンの欠片を摘出していく。

 このような処置は全てフィーネから習っていた。

 

「無理をするな」

 

「無茶を通さなきゃ、争いはなくならねえんだよ! オーディンは甘いんだ」

 

「そうか。あと俺は流って名前があるから、フィーネがいない所ならそっちで呼んでくれ」

 

 クリスも顔を少し赤くしているが、流が治療に専念しているのは見てわかるので、変に文句を言わずに治療を受ける。

 一通りの除去が終わると、クリスは何も言わずに出ていった。

 

(……あっ! タイミング的にネフシュタンパージからのイチイバル、それでフィーネがクリスを攻撃する展開が来るんじゃないか?)

 

 流はフィーネに近づいて出来た正史との差異の一つに、戦力的にクリスよりも流の方が強いため、フィーネはクリスを放置気味ということだ。その状態で響と翼に負けるようなことがあれば割と簡単に放逐されてしまう。

 フィーネはあくまでも使い勝手のいい戦力が欲しいだけで、クリスを保護しようとかは一切考えていない。ただの使い捨ての弾丸と同じだ。

 

 しかも今のクリスは流が渡した鍵を使わないだろう。喧嘩別れみたいな別れ方をしたので戻ってこないはずだ。

 

 なんとかクリスの怒りをおさめ、雨の中ぶっ倒れるのを防ぐために流はクリスを追って部屋から出ようとした。

 

「駄目よ」

 

 その前にフィーネが部屋に入ってきた。

 

「……どうしたのさ。てか、怪しまれるから俺にクリスの治療を頼んだろ? 何故ここにいる」

 

「あなたがクリスを助けるのを止めるためよ」

 

 フィーネはいつもの服でソロモンの杖をくるくる回している。先程からノイズを出したり引っ込めたり、この周りにはノイズ検知の周波が届かないからとやりたい放題だ。

 

「契約にはクリスを助けちゃダメなんてことは無いよな?」

 

「ええ。でも作戦行動の妨害は契約違反よ」

 

「ただ助けるだけだ」

 

「そうね、ガングニールも天羽々斬も一緒に助けるのでしょ?」

 

「……どけ」

 

「緒川から習ったと思うけど、もっと契約は練らないとダメよ?」

 

 フィーネは封筒を投げてきた。それを受け取って中身を見るとレントゲン写真が入っていて、心臓の近くに小型の爆弾のような物が写っている。

 

「俺か?」

 

「クリスよ」

 

「……てめえ!」

 

「お母さんにてめえなんて言葉を使ってはいけないわ。流の心臓を吹き飛ばしても、弦十郎くんみたいな不思議な回復力で耐えそうじゃない。その点、雪音クリスを気に入ってしまったあなたは、私の要求を拒めない。契約は問題ないわよ? まだ危害を加えてはいないもの……まだね」

 

 流はフィーネとの契約にクリスへ危害を加える準備やそれ相応のことを禁止する条件に入れていなかった事を後悔する。この場をどう切り抜けるかを考えたが、お手上げだった。もうこれ以上、流は自分の意思で人を切り捨てたくない。

 

「わかった。降参だ。ここで待機してろなんて命令じゃないんだろ?」

 

「ええ、せっかくの素体ですもの。とりあえずは寝ててもらいましょうか」

 

 フィーネは流に近づいて、首元に注射器を刺して液体を注ぐ。数分で立っていられなくなり、その場で眠りについた。

 

「あなたには完全聖遺物による人体との融合実験に付き合ってもらうわ。流石にネフシュタンをいきなり融合させるのは怖いものね」

 

 

 **********

 

 

「まーたここか」

 

『おかえり』

 

「おかえり? ただいま」

 

 前に一度来た、轟でも風鳴でもない前世の自分の部屋っぽいところにいた。

 

「ここって変な風に気を失うと来れるのかな?」

 

『うーん? あたしは割とここにいるし、いまいちわかんねえかな』

 

「もしかして消えている時はここにいるのか」

 

『見た目の姿を消してる時と、疲れたら消えてる時は違うぞ? 後者の時はここにいる』

 

 奏は時々疲れたから寝ると言って数時間出てこないことがある。その時にここにいるのだろう。

 妄想なのに疲れるとはこれ如何に。

 

「クリスは大丈夫かな」

 

『女の前で別の女の話とか……まあいいけどさ。あの子はそんなに弱くないみたいだし、大丈夫じゃねえかね』

 

「そうかな? 俺はクリスに罪悪感とかあるから、それのせいで無駄に心配してるだけ?」

 

『きっとそうだろ』

 

 ベッドに隣合わせで座りながら、奏が流の話を聞く。

 

「あと、翼と仲直りできたわ。少しズルしたけど」

 

『未来の事は言えないんだろ? ならしょうがないって。あと割と危なかったな』

 

「何が?」

 

『翼が練習していた技あっただろ?』

 

 翼は広範囲技や大技ばかり習得している。これも奏を思い、奏の代わりも務められるためにしている事なのだが、一つだけ剣を大剣化していない技があった。しかも、長年鍛錬を積んでも未完成の技があったはず。

 

「あったな。緒川師匠の瞬間移動を真似てたやつでしょ?」

 

『そう。脚部でブーストして、居合の要領で人の首を刎ねる技だったんだよ』

 

 流はそこで疑問が浮かぶ。対ノイズの技しか鍛えてこなかった翼が、何故人の首を狙っているのか。その答えはすぐに思いつく。

 

「俺の首か」

 

『そうだ。流の首をあたしの墓の土産にしようとしていたらしいぞ。危なかった』

 

 翼に不意打ちで居合をされる場面を想像する。シンフォギアを使っている限り歌は聞こえるが、確実に体のどこかが負傷するだろう。その技が連発可能なら死んでいた。

 屋上の呼び出しが死合でなくて本当に良かったと流は冷や汗を流す。

 

「やばかったな」

 

『いやーしかし。昔の翼みたいな顔ができるようになってよかったよ。あと翼でも塩と砂糖は間違えないぞ。醤油とウスターソースは間違えるけど』

 

 奏と流のしょうもない話は続く。


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