「……殺気! って流くん?」
「慎次師匠死ねぇ!」
「待ってください、なんで赤色の光のデュランダルになっているんですか! 危ないですよ」
流がいきなり緒川の真横に現れた。しかも全身デュランダルの赤い神の力を使った神モードで、緒川を仕留めるために、流は本気で拳を振るい始めた。
緒川は流が現れる瞬間に、自分の命の危機を察知し、紙一重で流の攻撃を避け、そのあとに続く当たったら割とやばい攻撃を紙一重で避け続けている。
「……皆さん、端末を持って別の部屋で作業しましょう。焦らず風鳴親子の殴り合いの時と同じように、避難してください。流くんの怒り方から見て、今回悪いのは緒川さんでしょうし、タスクの何割かは緒川さんに送付しても結構ですよ」
S.O.N.G.には単純な事務を行う人達もいる。緒川はその人達がいる場所で作業していたのだが、その緒川のサポートをしていた友里が、戦いが始まったら冷静に皆を避難させる。
いきなりS.O.N.G.内で戦闘が行われるのはよくある事だし、緒川や弦十郎や流が戦うのであれば、そこまで物損は出ない。クリスや翼がシンフォギアを纏って流に襲いかかると、結構な被害が出るので急いで避難しないといけないが、大人組が相手なら焦らずに済む。避難しながら観戦している人までいるくらいだ。
何故流がいきなり緒川を襲撃したのか。それが分かるのは前の日、流と調がレストランで食事をしたあとに遡す。
**********
「……うん? ホテル? 全裸なのはいつもの……」
流は目が覚めると、病院の病室でも、S.O.N.G.の病室でもなく、ホテルのベッドの上に寝ていた。
いつもよりも頭が冴えるのに時間がかかったが、いつも通り全裸で寝ていた。
流は自分が叫ばなかったことを褒めたい。自分が全裸なのはいい。だが、全裸の自分の横に、
(……ええええ!? ちょっと待った。え? あー、レストランに行きました。確か、そう! 調に調の体の前の人格であるツキちゃんの話をして、記憶の統合が成されたんだったな。それはいい。そのあとだ。何故コーヒーの中にあんなにも強いアルコールが入っていた? カリオストロと来た時は入ってなかったよな?)
流は度数の低いお酒ですら、数口飲むと頭がくらくらする。度数の強いものは料理に使う時ですら注意するし、酔っ払うと色々やばいらしいので、絶対に飲む気は無い。
流は自分の寝ているホテルが何処なのか、何となく予想はついているが、その建物の外にゲートを開いて、この建物を見る。
(うん、スカイタワーの隣のあのホテルだな。だが、待ってほしい。このホテルは政府御用達だ。俺みたいに無理やりゴリ押しとか、蕎麦爺とか八紘とかのコネがないと、当日に入れることなんてできない。調にはそんなコネは無いはずだし……全裸なのはおかしく……あれ?)
レストランがそういった人向けなのだ。そのレストランがあるホテルもそれ相応のものになる。
そして流は寝る前に服を無意識に脱ぐことはよくあったが、ベッドの横にサイドテーブルに
(…………あれ? もしかしてやっちゃった? 不味い。奏に殺されるかもしれん。クリスが暴走するかも……いや、まあ。うん……推測しても意味ないし、聞くか)
流は調が何故こんな事をしたのかよく分からないが、好かれてる証拠だし、もうどうにでもなーれ。と言った感じに、調をゆっくりと揺すり起こそうとした。
その前に確認できる手段がひとつあった。
『デュランダル、俺ヤっちゃった?……うん、わかった』
デュランダル曰く、流は機能停止してから、何もしていないとのこと。だが、デュランダルはノイズと同じように、単純な受け答えが出来るようになってから日が経っている。調側に立って、流に嘘をついた可能性もある。飛行型ノイズ『鳥』が流の制御下から離れ、ミカの制御下にいつの間にか移っていた事もあるので、デュランダルを信用しすぎるのも良くない。
流石に生物ではないと、統一言語は誤解なく相手を理解する機能が働かないのだ。
流は調を優しく揺すり起こす。
「……おはよう流。昨日は」
『昨日何があったのか説明して?』
「それは」
流は自分の中にある神の力をデュランダルにお願いして、少し増幅してもらった。そして調が
「……もしかして読んだ?」
「なんで分かるの?」
「目が真っ赤」
流はどうやら神の力を使う時、全身デュランダルを使う時に目の中に水色や金色の光が動き回るのと同じように、赤い光が漏れるらしい。
「なるほど。で、確認するけど、昨日のブランデー入りコーヒーは 調がやったのね」
「うん。翼さんと奏さんしか酔っ払った流を知らないから、どうなるのか気になった。でも、強すぎて流は寝ちゃった。キス魔って聞いてたんだけど」
流が覚えているお酒を飲んでしまった出来事は、昔翼が祭事の練習をしていた時、祭事で翼が口にするお酒が美味しくないという話があった時に飲んだことがあるくらいだ。
なお、実際は翼と奏に何度も飲まされているのだが、その事に関しては記憶が飛んでいる。飲まされすぎたのだ。
調はお手洗いとして席を立ったあと、希望者には食後にブランデーの入ったコーヒーを用意してくれると、調べて知っていたので頼んでいた。少し強めにするように言うおまけ付き。
「なんでこのホテルの予約も取れたの?」
「レストランとこのホテルの招待券を貰ったから」
予約が取れたのはキャンセル待ちで空いたからとセレナは言っていた。だが、それ自体が元々ホテルの事を誤魔化すためのお茶目な嘘で、ある人に今日の予約を入れてもらったようだ。
「それでなんで調は一緒に全裸なの?」
「既成事実を作った方がいいって」
「
「そう、師匠が」
流は皆と肉体的な接触でも愛し合いたいと思っている。だが、少し事情があり、それが出来なくなっている。もちろん機能不全ではない。決してない。
「……わかった。まず帰ったら調はお仕置きね」
「わかった。勝手にお酒を飲ませちゃったし、嘘もついちゃったから、甘んじて受ける」
最近見逃すのも限界に来ているので認める。流は調がお仕置きを喜んでいることを受け入れる。自分だって皆にどんな形であれ構ってもらえるのは嬉しいので、きっと調もそれなのだろう。だって、痛みは愛だし? と流は受け入れる。クリスとかエルフナインもそうなんだよなと思い出す。エルフナインはキャロルのせいだが。
「……また私の深層心理のせいにされた気がするぞ!!」
「マスターいきなりどうしました?」
「いや、何でもない。俺は決して人前でキスをしたり、ミカみたいなポーズをカッコイイなんて思ってないからな!」
「そうですねマスター……ぷっ」
どこかで誰かが叫んでいた。
「お仕置きは後でするとして、俺は今からもう一人お仕置き(拳)をしないといけない人がいる。調はこのあとどうする?」
「……一人で居てもつまらないから、商店街に寄ってから帰る」
「わかった。なら、先にいくね」
「行ってらっしゃい」
全く胸は成長しないが、緒川の忍者修行の後から少しだけ大人っぽさが出てきた調が、ベッドの上でシーツを掴みながら、流に手を振った。
流は畳まれている服を着て、調に色々と教え込んだ師匠の元へと、本気の拳を携えて飛んだ。
**********
そして冒頭の緒川慎次VS風鳴流に戻る。
流は緒川の元にテレポートする前に、鼓星の神門を開かず、体内に微量残っている神の力をデュランダルに無理言って大量に増幅してもらった。神門を開かずに、体内で神の力を増やした。
調の時に使ったような少量ならいいのだが、デュランダルは一応まだ普通の聖遺物なので、動く力はフォニックゲインが望ましい。それなのに多量に神の力を増幅させると、デュランダルが嫌がるのだが、お願いしてやってもらった。
流はテレポートしてすぐ、緒川の
緒川は流が神の力を使っていることがわかると、ギリギリまで避ける動作を考えず、攻撃の当たる寸前に紙一重の回避行動を行う。そうすることによって、流が想い、思考を読んでも、それを肉体に反映させる時間を与えずに、ひたすら攻撃を避け続ける。
弦十郎なら攻撃自体を迎撃に行くが、緒川はそこまでの身体能力はない。だが、流には戦い方では負ける気がしない。
「なんでいきなり襲い掛かってきたんですか? 流」
「師匠が調に既成事実やら、色々教えたでしょ!」
「……あー、その件はすみません。あの時は忍者緒川慎次として、忍者から見て正しい方法を教えてしましました」
「他意は?」
「ないですよ。その時はですけど。今は弟子に幸せになって欲しいと思っていますね。早く結婚しないと、私みたいに押し付けられますし」
流は緒川の言葉に嘘偽りがないことがわかる。緒川は統一言語でも使わない限り、嘘をつかれると流や弦十郎でも真実かどうかを見極めるのが大変だ。
だが、今はあえて流でも嘘ではないと分かるように、表情や態度を隠さずに話してくれた。
流は忍者としてなら、確かに間違っていないのか? とイマイチわからないので、動きを止めることにした。
「本当に危なかったんですよ? まだ調整が終わってないから、性交渉をするのは不味いんだよ」
「……おや、流くんがそんな状況だとは知りませんでしたね。もしかして報告しませんでしたか?」
「…………あっ」
流はAXZ事変のあとから、弦十郎や了子、緒川などの今の親の前で誓わされた。聖遺物による何らかの問題があった場合、報告だけは必ずするようにと。
流は今、この肉体を乗っ取られると、AXZ事変の時よりもやばい事になることは確実だ。
どこにでもテレポートが出来て、位相差を操り、バビロニアの宝物庫を所有し、ノイズを操れ、チフォージュ・シャトーとフロンティアを所有し、反応兵器を持つ。更に本人は弦十郎よりも弱いくらいの武術を収め、キャロルに劣る錬金術を習得し、緒川に数歩及ばない忍術が使え、了子の大体数割の知識を持つ。そして装者達に信頼されている。
そんな存在が敵になった時点で、人類は詰むので、絶対に何かがあれば報告する義務を課せられた。
流はその義務が国連から課せられたりしたら嫌だが、弦十郎や了子や緒川などの親から、流や装者、そして世界のためだからと言い含まれたことなので、従うことにした。
だが、今回のことは単純に
流は緒川に聖遺物関連で秘密にしていることがある事がバレ、宝物庫ゲートで逃げようとしたが、身体が動かない。
「早撃ちなら負けませんよ?」
【影縫い】
緒川がいつの間にか銃を持っていて、銃弾で流の影が縫い込まれている。
流は足元で弱い爆振を放ち、銃弾を抜き、空中に逃げようとした……が。
「流、約束したことを破っちゃダメよ?」
流の真後ろの空間が割れ、湿った布を持った手が流の鼻にその布を押し付けた。
流の後ろに手だけで現れたのは了子だった。そしてその布に付着されているのはもちろん。
「おしゃけはダメ」
流はまた酔っ払って倒れた。
「流が市販の度数の高い酒で無力化出来ることは絶対に知られたら不味いわよね」
「はい。まず何故神の器として作られた流くんが、神が奉納させるお酒に弱いのでしょうか?」
「……仮説は立っているけど、分からないから当分お披露目は先ね」
緒川は流の影に早撃ちをしたあと、スイッチだけしかないボタンを押した。
それは了子の持っている端末に繋がっており、座標だが送られてくるものだ。
何かをしている流を無力化する時はお酒が一番なので、不意打ちで空間を割って現れ、酒を嗅がせるだけで実際は無力化できる。
今まで流を無力化する時に使わなかったのは、この方法を使うと、流は数時間起きないので、事件が起きている時に流を数時間寝かせるのは非常に不味いので、使われてこなかった。
今は丁度事件が何も無いので、この方法が取られた。あとこれを使う条件の一つに、弦十郎と緒川と了子以外の人がいる場合はやらない事になっている。
流の弱点なので、それが広がらないための防止策だ。ちょっとテンションが上がって了子が装者達の前で、流に強いお酒を飲ませたことがあるが、それはノーカンとされている。
奏や翼が装者達に言ったのは、流に飲ませないためであったのだが、今回は調の好奇心で色々と狂った。
「それでなんで流が暴れてたわけ?」
「あの……いや、その。すみません」
緒川の苦難は続く。
**********
「……ふーん、調ちゃんがね」
「はい。私は調さんが戦い方を学びたいと言うから、忍術を教えました。ですけど、くノ一だからと言って、房中術なんて今の時代には要りませんので、教える気はなかったんですよ」
「でも、調ちゃんはそれを望んで、とりあえず教本だけ渡したのね」
「私はくノ一ではないので、そこら辺分かりませんし」
緒川は了子に色々お仕置きされる前に、包み隠さず教えた。
2ヶ月修行の時、緒川は忍術以外にも勉強を見たりした。その時、調は忍者には房中術という物があると、映画で知っていたので、その質問をして、最終的には緒川家に伝わるその術の書き写しを渡した。
「それで? あのホテルを調が用意できたのは?」
「……弟子のワガママって聞いてあげたくなるじゃないですか。緒川家も裏では権力ありますよね? ですか、それで」
「……調ちゃんが既成事実云々言っていたのは? それも房中術?」
「いえ、流くんが調さんに全く興奮してくれないと相談されまして、ならと色々と教えてしましまして」
流を昏睡させてから数時間が経ち、流が起き上がったあと、了子は何故流が緒川を襲ったのか聞いた。
そしてそのあとその事実確認を緒川にしている最中だ。流は逃げたら調に無理やり手を出したと奏達に嘘をつくと脅迫されているので、黙って聞いている。
流は調やクリス、マリアなどの裸を見ても、全く反応しないし、雑誌などでそれは流石におかしいと調は理解していた。だから、自分には魅力が足りないと思い、色々と頑張った。
「うん、今回は緒川が悪いわね。あとで八紘に言っておくわ」
「待ってください。それは良くないと思いますよ? 調さんは色々と不利なので、元気づけるために言った言葉をまさかやるとは……彼女達ならやりますね、すみません」
最近仕事の量が多く、疲れていた時に調に相談されたため、ちょっと茶目っ気が出てしまった。普段は仕事や忍者なのでそんなもの出さないが、疲れていて尚且つプライベートの時に相談されたのでやってしまったワケダ。
「それで流は調整が出来ていないって言うのは?」
「今ママが弦十郎父さんの子供を身ごもって、生まれてきた子供は純粋100%人間?」
「……聖遺物が交じるのを恐れているのね」
「そう。今の俺は確かに子供を作るのに大切な睾丸だけは人間のままだけど、それ以外はデュランダルだし、まず神の力の操作が完全にマスター出来ていないから、それが悪影響を及ぼすかもしれない」
流は装者達と性行為をする時は、もちろん愛し合う為でもあるが、子供を作るための行為でもある。もちろん今の装者達を身篭らせるような事はしないが、異端技術を使って避妊してもらっても、流の想いや神の力がその技術を上回ってしまった場合、下手したら出来てしまう。
この世界はどうやら想いが強く作用してしまうし、流は想いで何度も色んなものを凌駕してきたので、皆と愛の結晶を作りたいと内心思っているその想いが、悪さをするかもしれない。
なので、まだ流はそういったことが出来ない。物凄くしたいが出来ない。
流の制御を離れた神の力が自分の子に宿り、その子が神、カストディアンの操り人形にでもされたら、たまったものではないからた。
「はぁー、あのね。そういうのはちょっと恥ずかしいかもしれないけど、しっかり相談しなさい。神の力に関しては、あまり手伝えないけど、色々考えてあげられるのよ?」
「はい」
「あとね、下世話な話になるけど、女の子にも性欲はあるの」
「女の子?……ゲフッ」
了子は流のことを抱きしめて、自分の子供が何だかんだ整理をつけようと考えていることに感心した。了子は流なら既に何人か孕ませていると思っていたのだ。ぶっちゃけクリスと奏と調は既にヤっていると思っていた。
そして何故か了子の地雷を踏み抜くことに定評のある緒川がまた、了子のスイッチを踏み、蹴り飛ばされた。
「え? あ、うん」
「いい、断言するわ。流や私は相手がどれだけ性的に下手くそでも、気持ちが揺らいだりしないわ。でもね、性の不一致が日本でも離婚の理由に使えるくらい、性行為というものは大事なの。満足させないと、愛があっても別の男に寝取られるわよ?」
「え? マジ?」
「大マジ。私がどれだけそういう人達を見てきたことか。愛し合っているのに体が感じちゃうとかいうのは、現実にあるのよ?」
「いや、そのネタは知らないけど」
流は奏の厳選したそういう本以外は持っていないし、奏が死んでからは、そういう想いは消えていた。セクハラとかはしていた。
なので、そういったネタがわからない程度には流は無駄に性に疎い。
「……動画とか書籍で学びなさい。あと人間はエロスの塊よ。そっち方面の異端技術が進歩しないわけがないわ! それも教えて上げる」
了子はそう言いながら、流に作っておいた異端技術の書類を渡すのだった。
流の 性知識は 一般人レベルまで 成長した。
書いていたら緒川さんがテレポート前に放っていた殺気を読み取れる人物になってしまった。まあいいか。無限成長よりはマシだし。