戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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本来ならパヴァリア三人娘だったのですが、話の流れ的に変えました。


#128『選択出来る狂人二人』

「……はぁ」

 

 最近は一時的に平和が訪れたのに、流は緒川と戦ったり、月に接触するなど色んな事をしていた。そのため事変時と比べて、そこまで忙しさが変わらなかったが、一通りやるべき事が終わり、流は家で服を着てだらけていた。

 服を着ないと響が流を()()と言っていたので、最近流はちゃんと服を着ている。

 

 あまりやれていなかった日課の鍛錬も行い、全てを部屋を綺麗に掃除し、天気もいいので寝具も干し、リディアン二年生の二学期中間のテスト対策も作り終えてしまった。

 流は前に比べて、神になったからか無駄に処理能力が上がってしまい、更に宝物庫テレポートも手慣れてしまったため、朝から始めたこれらの作業は、昼前に全て終了した。

 

「高校生組は学校。マリアはアイドル活動の打ち合わせ。翼は変装した奏を連れてバラエティの撮影。キャロルとエルフナインとオートスコアラー達はアルニム、仙草の採取……あああああ、誰も構ってくれない」

 

 マリアの付き人は緒川の部下がやっていて、流が行くと緒川に迷惑がかかる。翼と奏の撮影にはうるさくなりそうだから来るなと言われ、キャロル達の採取も情緒が無くなるから来るなと言われた。

 

 了子達は現在リンカーWELLの改良をしているのだが、流が来ると想いで効果が変わる可能性がゼロでは無いので来るなと言われた。

 パヴァリア三人娘のいる場所に流が行くと、手続きで更に数週間の拘束が三人に加算されるので駄目。アダムとティキの場所に今行くのは、馬に蹴られて殺される可能性があるので却下。

 

 流は奏が死んでから数年、完全に一人になる事はなかった。奏は常に横にいたし、欠片の中に入っていても、定期的に出てくるので、完全に一人は一切なかった。

 だが、奏が復活し、セレナも復活した。そして今日はたまたま皆の予定があったので、流は一人になっていた。

 

「……そういえば一人で出来る趣味って何もないな」

 

 料理は趣味だが、他人に食べさせるまでが一セットなので、今やっても微妙。研究も趣味だが、了子やウェルなどのガチ研究者達に比べて、流はそこまでガツガツやる人ではない。

 

「……あっ、暇な人いるじゃん」

 

 流はギリギリ身内判定をしているが、翼や八紘を傷つけたので、あまり好いていない人の下へ、久々にバイクで向かった。

 

「何用だ」

「暇だから遊びに来てあげた。感謝して?」

「帰れ」

 

 轟轟の存在が訃堂の中から完全に消滅したと、了子達が判断し、訃堂は早速いつものように、日本の為に働いていた。

 流を餌に権力や金を引き継いだだけで偉そうにしていて、国防に関しても意識が低く、感情で暴走する邪魔な旧家は全て始末したので、以前よりも風鳴の動きは俊敏になっていた。

 

 訃堂は確かに流には特権を与えた。反応兵器は異端技術や聖遺物と同じくらい危険であり、流が止めたことは賞賛に値する。日本の名を出して各国を脅すのではなく、流という単独戦力で脅し、要求したのは『他国の争いに巻き込むな』と『装者やS.O.N.G.を狙うな』という、普通の国家なら問題のないものだったのも高得点だ。

 これで領土割譲なんて馬鹿げた事を言っていたら、訃堂でもフォローがキツかったが、これらの要求は巡り巡って国防面で良い働きをする。

 

 だが、最後の流の一言は要らぬものだった。

 文句がある奴は流単体に戦争を仕掛けろ。これは不味い。流に万が一があると、弦十郎や了子はもちろん装者達が駄目になる可能性がある事は訃堂は理解している。

 

 そして訃堂の元に直接流の実力を図るために、対戦の申し込みが来ていた。国連のあの場にいた人達は流の化物具合を体験したが、あの場にいなかった各国の主要人が流を許さなかった。過激な国は流に戦争を仕掛けようとしたが、国連で体験した人達が本当に必死になって代案をいくつか用意し、訃堂に問い合せてきていた。

 

 訃堂がその問合せを握り潰して、別の方法を試すべきだと返信を返そうとしていた時に流が現れた。

 

「……うん?」

 

 そして流は目ざとく訃堂の机の上に風鳴流という文字が書いてある書類を見つけてしまった。

 

「なにそれ? 直接送ればいいのに」

「手合わせなどする必要などない」

「意味があったことは分かっているけど、死合をさせていた本人がいう言葉じゃねえな」

 

 訃堂は諦めたのか、流に問合せの書類を全て渡した。どうせ渡さなかったら無理やり奪われるので、無駄に被害を出す意味が無い。

 

「……ふむ。向こうは俺を殺す気でもいいけど、俺は気絶させたら終わりの演習ならいいかな。無駄に死人を出すと面倒だし、少人数なら受けて立つ。俺と対峙したヤツらは殺さないで済むけど、あんまり多いとフレンドリーファイアで勝手に死ぬし」

「やる意味などない」

「いやいや、俺が反応兵器では殺せず、それ以上の異常な存在である事を認めさせて、何もしなければ恩恵しか与えてこない便利な奴くらいに思ってもらわないと」

 

 流は言った言葉を紙に書き出し、訃堂に対応を丸投げした。流関係の外国とのやり取りは基本的に訃堂がやる事になっている事を思い出したからだ。流は意識していなかったが、訃堂は今まで割と色んな手続きをしていたのかもしれない。

 

 訃堂と他国との戦いの取り決めを決めている時、流は訃堂に違和感を感じた。元々感じていたある違和感とその違和感によって、流は訃堂にカマかけをすることにした。

 

 流は今の所、極力記憶や想いの流動を起こさないようにしている。調から聞き出した時のような状況や、国連でのやり取りのような時、緒川の時のような戦闘以外ではあまり使う気がない。皆に想いをしっかり伝えたい時などでは使うが。

 なので、流は訃堂にもそれを使わずに話していたのだが、放置しておくのは良くないと勘が囁いているので、訃堂の想いを覗きながら、ある質問をした。

 

「訃堂、三種の神器はちゃんと返されたんだよ?」

「帝の元に送られグフッ!」

 

 流は訃堂が話し始めた時点で、訃堂と轟の大体の関係を理解した。訃堂は三種の神器に触れられた瞬間、自分が三種の神器の適合者になったことを思い浮かべ、それが流にバレた。

 流はある程度手加減して、机を体だけ乗り越えて、訃堂の鳩尾をぶん殴った。

 

 訃堂はそれをモロくらい、椅子から転げ落ち、お腹を抑えている。だが、流は手加減したが、普通なら痛いだけでは済まない拳を振るったはずなのに、訃堂には痛みを与えただけになっている気がする。

 

『訃堂。あんたは国防の事しか考えてねえことは分かっている。だから、あんなが三種の神器を持っていても、皆の負担が減ると喜ぶくらいだ。だが、()()()()()()()()()()()()()、無駄に隠蔽しているから、逆に怪しい。轟轟の生存は絶対に許さない。あいつは翼を狙っている。あいつがどうなったのか、答えないと日本を潰す』

 

 流が今の所絶対に許せないのは、自分自身とアメリカと轟轟だけだ。流は奏を殺したようなものだし、セレナはアメリカに殺された。轟轟は了子を侮辱し、翼を奪おうとしている。

 ちなみに八紘の寝取られエピソードを聞いたが、流は轟轟が愚者だと思っているので、真っ黒な訃堂が裏で動いていたのではないか? と思っている。

 

「……ゲホッ、ふぅ。貴様があのような男にそこまで敵意を向けていたとは。あの者は我自身が確実に殺した。リインカーネーションは使わせておらぬし、絶望させてから殺した。その時に風鳴ならば受け継げる三種の神器の所有権も奪い取った。これで良かろう」

 

 流はイザーク、魂と想いが成仏してこの世から消えたのと、調(つき)という想いだけの存在が消えたのを見た。だからなのか、轟を握りつぶした時、違和感があった。

 聖遺物は魂と想いによって、適合できるか否か決まると流は思っている。それなのに訃堂が三種の神器を使っているように見えたので、とりあえず殴った。

 

「ならいいか。八紘の嫁をお前が犯したのは、お前が企てた計画か?」

「さよう。轟が自分で決定したことは、八紘の嫁を奪いたいと思ったことと、翼を自分の女にしようとした。ただそれだけよ。それ以外は傀儡だ」

「ふーん。やっぱりお前ってクズだな」

「貴様ほどではない。我は結果的にこの国の者も守る。優先順位が違うだけよ。だが、貴様は優先順位が一つしかない」

「分かってるなら、あんまり俺が勘違いするような事はしないでくれ。一々キレるのは疲れるんだよ」

「貴様も一々キレぬように励め」

 

 流は起き上がってまた作業を始めた訃堂を眺めながら、人に愛を向けない訃堂にさらに質問した。

 

「何故お前は三種の神器を求めた? 国防だけなら別に要らないだろ?」

 

 訃堂が三種の神器の力を手に入れても、訃堂自身が出撃しないといけない時なんて、この日本が荒廃したあとだろう。流は客観的に考えて、訃堂は日本運営では無くてはならない存在なので、力があっても、弦十郎のように出撃することすらままならない。

 

「……我が国防は、人、国、大地。どれを重視しておる」

「国が大事で、次は土地、そして最後に人だな」

「さよう。そして我は国以外はどうとでもなると思っておる。人は滅びぬ。土地もどうとでもなる。だが、この日本はそうではない」

「……わからんな」

「知っておる。貴様は人さえ……身内さえいればどうでも良いのだから、我が考えに賛同できるわけがない。我に後継者がいれば、我は三種の神器など求めず、あやつを殺していただろう」

 

 流はそこで疑問に思う。訃堂は八紘でも弦十郎でもなく、翼という後継者を一応立てている。それなのに後継者が居ないような口ぶりだ。

 

「翼がいるだろ」

「翼はただの時間稼ぎよ。本来なら弦十郎か八紘のどちらかが、我が国防の意思、防人たらんとし、成長すると思っておった。そのような教育も施した。だが、あやつらは人を重視し過ぎる」

 

 訃堂は語った。

 

 世界でこれ程治安が整い、平和で、綺麗な場所はないと。貧富の差はあれ、食うに困るほどの人ならば国がある程度の救済はしているし、日本の企業の腐食は訃堂が諌めているのでそれもさほど無い。

 

 訃堂のいう国とは、人でもあり、企業でもあり、全てをひっくるめた言葉なのだと語る。だが、そのうちのいくつかが多少減ったとしても、いつかはある程度まで復活する。

 訃堂は人を重視しないだけで、軽視している訳では無い。ただ優先順位が異常に低いだけなのだ。

 

「そして弦十郎は人を重視し過ぎる。あやつは弱い。だからこそ、力を求めてあれほどの力を得た。だが、その力では特異災害とは戦えぬ。あの程度の力では、人を守ると言いながら、それ以外を捨てねばならぬ」

「天秤にかけないといけなくなった時、人を選んだ結果、結局その人を不幸にする……そう言いたいのか。人を守って国が潰えたとして、その人達を護り続けることはできないと」

 

 訃堂は首を縦に振って肯定する。

 

「そして八紘は人、そして大地に執着し過ぎだ。大地は重要ではあるが、その大地も国がなければ他国に侵略されて終わる。あやつは二択を迫られれば、頭が出来が良いが故に選べぬ」

 

 流は八紘とある程度親しいが、訃堂ほど理解していないので何も言えない。

 

「こやつらを後継者にした場合、最悪国が滅びる。そうすればあやつらが守ろうとしていた人も大地も蹂躙されて終わる。その点、翼は人を選ぶが、選択を迫られたとしても、人を真っ先に選ぶ。そしてあやつは力もある。弱き防人ではあるが、いずれはと思わせるモノは持っておる」

「……お前は人を全く見てないと思ってたよ」

「人の重要度は低いが、人が居ねば国があっても意味がなかろう。だが、人が数百死のうが何とでもなる。故に我は選ばぬ」

 

 流は訃堂のこれも一種の愛だと思った。とても変則的だし、相手から想いが帰ってこない。国に愛を捧げている訃堂を不憫に思うが、この考えなら多少は手を貸してもいいと思わせられる。

 だが、この言葉すらも流を丸め込ませる手段の一つかもしれないので、間に受ける気は無い。そして訃堂が自ら語った想いを確認するために、頭を覗くようなこともしたくない。

 

「お前は後継者が居ないから、人として長く生きるために、三種の神器、とりわけ勾玉を手にしたんだよな?」

「さよう」

「ずっと疑問に思ってたんだけどさ、なんで自分で後継者を作らないの? 俺は幼い頃から弦十郎父さんや了子ママに鍛えられて、こんなんになったし、お前自身が育てればいいじゃん」

 

 流はカ・ディンギルのパーツになる前までは、純粋な人間としての力だけで戦っていた。才能などもあったかもしれないが、幼少期より弦十郎が鍛えに鍛えに鍛えに鍛え抜いた結果、あの時の流の肉体はあった。

 

「とうの昔に試した。だが、全て潰れたわ」

 

 訃堂は珍しく人前でため息をついた。

 訃堂だって、プロジェクトDが確実に成功するとは思ってなかったし、勾玉が手に入るとも思ってなかった。計画にはあったが。

 なので、後継者を作ろうとしたのだが、どうしても人よりも大地よりも、国を優先するような人物を作ることが出来なかった。

 

「まあ、そりゃそうか。そんな異常な考え方が出来るやつの方が少ないわな」

「二択を迫られ、土地も身内以外の人も国も、そしてこの星すらも捨てる気のある者に言われとうない」

「愛ある者には価値があると思ってるぞ? どうしても無理な時は皆以外の全てを捨てる気でいるだけで」

「自らの命も捨てる気の狂人が」

「お前だってそうだろジジイ」

 

 国を守るためなら、それ以外の大半を捨てられる者。もう一人は身内を守るためなら、世界すらも捨てられる者。どちらも異常だが、異常同士だからこそ、割と遠慮がなく話せている。

 

「……あっ、あと翼を風鳴トップに無理やりしようとしたらキレるから」

「……貴様は何を言っておる。それは既に規定事項であろうが!」

「ふっざけんなよ! 翼がやりたいと思うなら、俺は全力で手伝うさ。でもな、今の翼は歌で笑顔を届けるのが楽しいんだよ。てめえは翼の楽しみが変わる数十年後まで働け」

「勾玉があっても、貴様のデュランダルとは違う! 我がいくつだと思っておる!」

「知らんわ。弟子を育てられなかったのが悪い」

 

 訃堂は一応ギリギリなんとか身内に入るが、優先順位は訃堂の国防意識の人よりも低い。

 故に既に高齢で、最近ある小僧のせいで発生するストレスで寿命が減っているのに、更に流は追い打ちをかける。

 

「……貴様は彼女達が平和に楽しく暮らして欲しいのであろう? ならば、この日の本を守る防人の長になれ」

「嫌だよ。拘束時間長そうじゃん。金とかいくらでも稼げるし、重要ポジションになると動けなくなるので無理」

「あれも駄目これも駄目。貴様は子供か! もっと先を見据えて考えよ!!」

「俺本当は12歳くらいらしいよ? なら、子供だな」

 

 最近は調をお姉ちゃんと言わないと反応しない時があったり、翼が母親とは? という本を読んでいたりするので、流石に何故そんなことをしているのか聞いてみたところ、流は弦十郎に初めて会った時が生後十数日くらいだったと判明した。

 

「……ならば貴様の結婚は当分先になる」

「は? 殺すよ? てか重婚の特例まだ?」

「貴様が問題を持ってくるのだろうが! そして特例は否決されたわ!」

「やれよ。海外に移ってもいいの?」

「もう良い、帰れ!!」

 

 訃堂の頭を青筋が浮かび、この部屋にある端末の画面が気迫で割れた。流石に遊び過ぎたと流は感じたので、言われた通り素直に家に帰った。

 

「……はぁ〜。あやつが意識を変えれば最も簡単なのだがな。国防を志す弟子……弟子か」

 

 訃堂はせっかくだからと、何十年も前に駄目だった、弟子育成計画を再び考え始めたのであった。




書いてて思いました。やっぱり狂人度は流の方が高いですね。

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