「お疲れ様です」
「え、あっ! お疲れ様です!!」
翼と奏と流はサンジェルマン達三人が軟禁されている、ダミーカンパニーの一つであるホテルに来ていた。このホテルは通常営業しているが、ある階層だけは関係者以外立ち入り禁止にされている。
そこに風鳴として許可を得た翼が、奏と流をボディーガードという扱いにして立ち入った。
現在のサンジェルマン達の立場は複雑なものになっている。
今の所全ての罪を神となって分解された(という事になっている)アダムに押し付けている。だが、サンジェルマン達も明確に悪事を働いているし、バルベルデで何度か目撃されてしまっている。
パヴァリア光明結社は今まで欧米各国に多大な闇を生み出してきた。それをトップが死んでそいつが悪いから全てノーカンね……なんてことには出来ない。
だが、今回のアダムを倒すのにサンジェルマン達は絶対に必要だった(とされている)。
まず国連の認識で今回の事変は、
『パヴァリアが神の力という力を求めて日本に襲来。レイラインという霊脈を利用して、神の力を降ろそうとした。だが、それは日本の霊脈の防衛機能で未然に防がれた。しかしアダム・ヴァイスハウプトはそれを見越していて、神の力を降ろしてしまった。そのあとティキという人形にその力を降ろしたが妨害された。そのあとティキから出た神の力をアダムが手に入れ、悪魔となり、天使を経て、神となった。しかし櫻井了子はこれを見越していて、
とされている。
この神を分解する装置を作るのに、サンジェルマン達は協力したことになっているが、まずアダムがラピス・フィロソフィカスで浄化されなかったら神にはなれなかった。そして神になったが、ラピスを吸収したが故にそれが弱点となった。
実質自分達でアダムを強化して、そのあとアダムを倒したのだが、その事実は国連には伝わっていない。
しかも神を分解する装置と言っているが、元々これはチフォージュ・シャトーであり、世界を分解する兵器なのだが、それは壊れたことになっている。
S.O.N.G.という世界を守る組織が、世界を分解する装置を持っている事を知られてはならない。
とはいっても、キャロルはS.O.N.G.所属だが、流はなんだかんだ風鳴が貸し出したエージェントという扱いだ。そしてシャトーの所有権は流に譲渡されているので、S.O.N.G.は持っていない。まあ、日本が世界分解装置を持っていることになってしまうので、城の事は秘密にされている。
更にアダムは死んでいないし、アダムがカストディアンに作られた人類のなったかもしれない存在でもあるが、もちろんそんな事は報告されるわけもない。
そんなこんなであの神のアダム、国連が屈してしまい、反応兵器を使ってしまったあの化け物を殺せたのは、サンジェルマン達がいたからこそ。そういう事になっている。
故にサンジェルマン達の扱いはキャロルと同じものになっている。そしてキャロル以上に積極的に世界平和のために動くことにもなっている。
そしてそのサンジェルマン達に流は国連や風鳴によって、
翼達はサンジェルマン達が軟禁されているホテルの階層に着くと、エレベーターから出てすぐの所に監視がいた。翼達に立ち入り禁止のことを告げようとしたら、風鳴次期当主に頭を下げられ、すぐに案内することになった。
特別に設置されたいくつもの扉を超えて、サンジェルマン達が軟禁されているホテルのスイートルームに入った。
「あら? 風鳴翼に天羽奏じゃない。あと知らない人ね」
「干されている私達を嘲笑いに来たワケダ」
「そんな事一々しに来ねえよ」
「お前達に会いたいという人がいたので、私が連れてきた」
翼達が見たことのある服装をしているカリオストロとプレラーティは、入ってきた三人を見て、知らない人がいた。
顔立ちは翼に似ていて服装も似ているが黒髪。身長は奏ほどあり、胸が全くない。
「酷くありませんか? カリオストロさんとは……演技とかする意味ねえな。何度も会ってるのに、知らない人とか悲しいわ」
「……え? もしかして流?」
「正解」
無駄にポージングして女にしか見えない流が返事をした。
流は現在、風鳴からもS.O.N.G.からも動かないでとお願いされている。流が動くと、確実に何かが起きるので、今のクソ忙しい時に問題を起こされたら困るのだ。
特に了子には、カストディアンについて一人で調べるなと言われているのだが、アダムとの話し合いで了子はカストディアンとの戦いで動けない可能性が示唆されたので、勝手に秘密裏に動いていたりしている。
今回ここに来る時も、いつもの流のまま来てしまうと、確実に弦十郎が流を止めるために駆り出されて大変なことになる。流は出来るだけ早く神の力について知りたかったので、肉体ごと姿を変えて、翼達と乗り込んだ。
もちろん翼はこの状況で流が動けば、また騒動になるかもしれないし、藪蛇になることはわかっているので拒否をした。今の所翼くらいしかゴリ押しでサンジェルマン達に逢いにいく権限はない。マリアなんかは世界を救った英雄だが、英雄だからこそその権限を使うことは出来ない。
流は翼を籠絡した方法は了子にやったのと同じ方法を取った。翼は流の遺伝子上の母親らしい。その事は流も翼も知っている。あとは流は恥ずかしいが、了子にやった様に翼を母としてはオネダリをした。
翼は流に頼られることはほとんど無い。大抵のことでは流の方が権力を行使できるし、力も知識も流の方が上だ。なので、今回のお願いを初めは聞き入れようとしたが、防人として拒否をした。
だが、流が幼い頃のような表情をしてオネダリをしてきた時、翼は色々と負けた。翼は胸は
流が女性のような体をしているのは、セレナが声帯をエネルギーベクトルの操作で何度か変えたことがある。それを処理能力が上がった流が再現した結果、体の見た目から変えられるようになった。
初めにセレナがいる時にこれをやったのだが、流は自分に興味があまりないので、自分の顔を忘れるというアホをやらかしたが、セレナによってなんとか戻ることが出来た。
流は体がデュランダルだから、声帯と同じように簡単に体の形を変えられる事をカリオストロ達に教えた。翼のことは教えない。流の中では一番の黒歴史であり、翼が最もエロいと感じた場面なので絶対に他人には共有しない。
「へぇー、流は本当に何でもやるのね。普通、女を抱きたいとか言ってる奴が簡単に男の姿を変えようとするかしら」
「利用出来るならするべきだろ。こんなことも出来るし」
流は右腕を剣のデュランダルに変えて、腕をパージし、左手で剣のデュランダルを持ったあと、すぐにデュランダルを右腕に戻した。
「……オートスコアラーよりも機械みたいなワケダ。それを平然とやるのは狂人の類なワケダ」
「狂人でも別にいいし。あっ、翼とか奏が嫌なら考えを改めるよ?」
「言われたからって流のぶっ飛んだ考え方は治らねえしな」
「流は昔から頭がおかしいからな。もう私達は慣れている」
流が女の姿で現れた時は一瞬驚いた。だが、そのあとすぐにどうせ流だし……と納得もしていた。まず緒川がやろうと思えば、女にしか見えないような変装が出来るのだ。体の形を変えて女になったところで今更感が強い。
ちなみに酒の強い緒川が極度に酔った時にやるネタが女装ネタだ。
カリオストロ達と玄関での会話を終え、中に案内された。何部屋もあり、調度品もとても良い出来のものばかりで、流の
「無駄に料理も美味しいし、このままだと太っちゃうわよ……って言いたいけど、トレーニングルームも用意してるとか、至れり尽くせりよね」
「日本産ではない牛乳も置いてあるのが高ポイントなワケダ」
二人は軟禁されているが待遇が良いので文句はそこまでないようだ。カリオストロ達は完全な女性体であるが、その身は人間だ。流は極わずかだが、カリオストロの太ももが少しむっちり度が増えたように見えるが、ここで言うとぶん殴られる事をマリア達から学んでいる。
「カリオストロの太ももとか二の腕とかちょっと太ったよね。プレラーティも頬が少しだけふくよかグッ、ガハッ!」
「ッ! 見た目は人間みたいなのに、物凄く硬いわね。手が痛いわ」
「それを予測してけん玉で殴り飛ばして正解だったワケダ」
流は人に構われる選択肢を取るので、学んでいてもそれでギャグで流せるなら、当然そのような行動をする。
流を殴ったカリオストロは手を抑えて痛がっているが、プレラーティは了子から返されたファウストローブのスペルキャスターで殴っていた。
「情けねえな。流を殴ったくらいで痛がっちまってよ」
「……そういえば何故私達は流を素手で叩いたりしても、そこまでダメージを負わないのだろう?」
「…………さあ?」
装者達は皆一様に流にツッコンだとしても、その突っ込みで痛めたりしない。奏と響はガングニールが作用しているとしても、ほかの人はそんなことは無い。
本当に分からない翼とは違い、奏は何となく分かってきたが、言う気は無い。
(どうせ想いの力、流に愛があれば、その者の行いは全て流の防御を貫通して、痛みを与えているんだろうな。流は本当に痛みで愛を感じるようになったみたいだしな)
愛が薄ければ流に痛みという名の愛を与えきれず、デュランダルの硬さにやられるのかもしれないと思っている。まず愛と言っても、親愛や友愛、恋愛など色々と違うので、奏にもそこまで詳しいことはわからない。
流が起き上がったあと、カリオストロが入れた紅茶を警戒もせず三人は飲み、会話を始めた。
「それで? 肉体の形まで変えて何しに来たのよ」
「まずは三人の暮らしている環境の確認だけど、これなら問題なさそうだね」
「監禁ではなく軟禁なら、ある程度のクオリティは必要なワケダ。しかもお前達の印象操作によって、私達はアダムを殺した協力者になっているワケダ。そんな存在を無碍には出来ないワケダな」
「まあ、それが普通だよね」
軟禁という名の監禁をされ、拷問をされたことのある流は、一応足を運んで確認したかったのだ。マリアが拷問するなら大歓迎だったんだけどなとか、あほな事を考えているがすぐに思考を切り替える。
「サンジェルマンは?」
「奥の部屋で研究してるわ。まともな機材はないけど、紙とペンがあれば、理論構築くらいは出来るもの」
「……貴様達はまだ神の力を利用しようとしているのか?」
「な訳ないワケダ。今神の力を使った所で、風鳴流に全て奪われて終わりなワケダ」
「まあそうだね。俺は三人の事も割と好きだけど、神の力を使うならアソビじゃないお仕置きをするからね? あれはあまり使わない方がいい」
あれは普通の人が使おうとすれば身を壊す呪いの力だ。ティキのように盲愛によって無理やり制御する方法か、何かしらの伝承に則って神の力を段階的に高めていく方法か、元々神の力を受け入れるために作られた存在じゃなければあの力は毒にしかならない。
「私達もサンジェルマンももう懲りたわよ。サンジェルマンはね、今凄く荒れてるから会わないであげて」
「数千年積み上げてきたモノが一夜にして崩れ、最も忌み嫌っていた支配者を生みだしたワケダ。しかも、サンジェルマンはその支配者、アダムに心が一瞬でも屈してしまったワケダ。何か作業をしていないとサンジェルマンは壊れてしまうワケダ」
キャロルは作戦の半ばで計画が終わった。だが、キャロルの求めていた父親の真意を確かめられたし、父親にさよならがしっかりと出来た。
だが、サンジェルマンはキャロルの十数倍も準備に時間を掛け、何だかんだ信じていたアダムに裏切られ、最後には神となったアダムに支配を委ねてしまいそうになった。
その時は既にカリオストロとプレラーティと本当の意味で仲良くなれていた。本音を言い合い、殴り合い、そして分かりあった。だからこそ、神の如き悟り始めたアダムを見て、サンジェルマンは自分が犠牲にした七万三千ちょいの人々の事を思い浮かべてしまった。そしてその罪に潰されそうになりながらも、アダムを倒す手伝いをした。
あの戦いが終わり、サンジェルマンはここに軟禁されてから、カリオストロとプレラーティが無理やり食事や睡眠を取らせない限り、ずっと動き続けている。
自分の何がいけなかったのか考え続け、自分はどうすればよかったのか嘆き続けている。
「……彼女は数千年生きてきたのだったな」
「分かんねえな、流石に」
サンジェルマン達がやった事は決して許されることではない。だが、彼女達は自分達が信じる正義のために動き続けただけで、もし彼女達を完全に否定するのは流を否定することになってしまう。流は装者を守ると言い、敵を殺し尽くしてきている。
故に、翼と奏はこの三人はとりあえず自分達で善悪を決めるのは止めることにしている。許す訳では無いが、一々怒ったりするのは無駄だ。
流は話を聞いている時、ずっとサンジェルマンがいる部屋を見ていた。しかもサンジェルマンから想いの流動が来るように神の力をほんの僅かに行使している。
「翼と奏は待ってて。ちょっと泣いている女の子を抱きしめてくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
「話を聞いて何となくこうなると分かっていたことだな」
「ちょっと!?」
「待つ、動けないワケダ!!」
【影縫い】
翼と奏は流が助けに行ってしまう事がなんとなく分かっていた。流が気にして顔を見に来る相手で、その人が悩んでいるのなら、その悩みをぶち壊すのが流だ。気に入っていない相手ならまず顔も見に来ない。
流がサンジェルマンのところへ行こうとするのをカリオストロとプレラーティは止めようとするが、翼と奏がお茶請けのお菓子を食べるために渡されたフォークを、二人の影に投げて指し、影縫いで動きを止めた。
流は扉を開けてその部屋に入ると、ボロボロの服を着て、いくつも自分を自傷した跡もあり、髪もボサボサでひどい顔をして、紙に殴り書きをしているサンジェルマンがいた。
「サンジェルマン……サンジェルマン」
流の声に耳を傾けず、サンジェルマンはひたすらブツブツと涙の跡を残した顔のまま、何かを書き続けている。
流はサンジェルマンのすぐ横まで近づく。
『サンジェルマン』
「……風鳴、流。風鳴流ええええ!!」
サンジェルマンは流はアダムが神の力で人々を支配しようとして、それを止めただけだとわかっている。分かっているが、流さえ居なければアダムはあのまま人類の支配を解き放ったかもしれない。上手くいったかもしれない。全ては流がいたから……サンジェルマンは自分でも有り得ないと分かっている。自分達がいけなかったのだと分かっている。それでも流を憎んでしまう。
サンジェルマンは流が視界に入ると、カリオストロ達に没収されたスペルキャスターを無理やり呼び寄せ、ファウストローブを纏いながら、黄金銃の銃剣で流を刺そうとして……そのまま刺さった。
『サンジェルマン。お前は肉体があるままだと、きっとまともに話を聞いてくれない。だから、指輪の中に招待するよ。あと怨念共、サンジェルマンの肉体を奪うとしたら、三千世界を回っても苦痛に悶えるような罰を与える』
流は心臓に銃剣を刺されているのに、それを無視して話し掛け、無理やりサンジェルマンを抱きしめる。左手親指に嵌っているソロモンの指輪の力と流の強い霊媒体質で無理やり流の望む現象を発動させた。
**********
流は無理やりサンジェルマンの魂とそれに付随する想いを、ソロモンの指輪の中にはある世界に連れ込んだ。人為的にサンジェルマンを幽体離脱させたのだ。
セレナをマリアから奪い取った時はガングニール繋がりがあり、フォニックゲインの繋がりがあったからこそ、流はセレナを奪えた。だが、今は完全にサンジェルマンの肉体からサンジェルマンの魂を引っこ抜いたことになり、今までの流なら出来なかった。今は神になってしまったので、ゴリ押しもできるようになっていた。
そして神の力を体に宿している時、ソロモンが流の体に入り、色々な力を使って行ったおかげで、こんな事も出来るようになっていた。
ちょっとソロモンに操られている感じはあるが、流はソロモンが悪いやつではないと思っているので、力を使わせてもらっている。
「……なっ!? 何故私は裸になっている!」
「そりゃ何も設定を弄ってないからな。俺も全裸だし」
「風鳴流……待て、近づくな! 何故大きくしている!」
「精神世界ではデュランダルによる強制的な抑制がないから、しょうがないね。禁欲も精神だけでは限界超えてるし」
「訳が分からん……いや、待ってくれ。私は先ほど、お前を」
「全くダメージないんで。心臓を壊された程度じゃもう痛くも痒くもない。いや痛いけどね? 刺される時にサンジェルマンの胸が当たって気持ちよかったくらいしか分からなかったわ」
この場所は元々ソロモンが治めていたがそのソロモンは消滅したので、今では流の掌握する場所になっている。だから、魂が抜ける前の服装を反映させることも出来たが、流は敢えてしなかった。
サンジェルマンは先程までの自分を責め続けるべきだという辛い思いがほとんど無くなっていることに気がつき、流が何かを説明しようとしているので黙ることにした。物凄くジロジロ見られているし、それを隠す気がなくて少しイラッとする。
「サンジェルマンは呪いに侵されている」
「呪い……それは概念によるモノか?」
「そうだ。お前の体……魂かな? それには七万と五千ないくらいの人々の怨念が染み付いている。アダムは殺しても周りを覆いかぶさっているだけだった。だが、サンジェルマンは自分でもその罪を受け入れていたな?」
アダムに取り付いていた怨念達はアダムを呪い殺そうと、アダムに憑依しようとしていたけど全て弾き飛ばされていた。
だが、サンジェルマンは自ら殺した人達を受け入れていたのか、怨念がサンジェルマンの魂を痛めつけていた。
怨念とは殺された人達の想いだ。サンジェルマンが自分を殺した分だけ罰しようとしたら、その想いを経路にサンジェルマンに呪いをかけていたのだろう。
「そうだ。私は沢山の人を犠牲と生贄にしてきた。そうか、殺された人達は私を呪い殺そうとしていたのだな。なら」
サンジェルマンは疲れてしまっていた。だからこそ、自分が殺した人達が罰してくれるのなら、一思いにいっそと思ってしまっている。カリオストロとプレラーティとまだ仲直りのお酒を飲み交わしていないが、そんな事は許されないだろう。やっと償える方法が見つかり、それを選ぼうとしてしまっていた。
その思考も全て流には覗き込まれている。
「…………ふぅ、なるほど。許さないよ? 勝手に死ぬのわ。カリオストロとプレラーティと約束したんだよ。サンジェルマンを救うって。あの時俺がやれることは無かった。でも、今ならやれる。あと、サンジェルマンはもう俺の女だから勝手に死ぬのは許さない。逆に俺はサンジェルマンのものでもあるから、やりたい事があったらなんでと言ってね? 死ぬことは許さないけど。死んでも蘇らせるけど」
この場は最も流の精神と近い場所にある。今では流の魂は砕け、魂を模倣する奏とセレナはいない。だが、その魂があるべき場所には、流の皆への愛とソロモンの指輪で無理やり形を保っている。
なのでここが一番流の力を扱える。
その力を使って、流はサンジェルマンの今までの軌跡を掻い摘んで追体験した。
カリオストロとプレラーティが装者に殺され続ける場面を追体験した時と同じように、今度はサンジェルマンの今までの体験のうち、重要そうなシーンを追体験した。
ただし神の力に関する部分は見なかった。サンジェルマン自身に手取り足取り教えて欲しいからだ。
「勝手が過ぎるぞ! それに私はお前になど支配されたくはない!」
「支配じゃない。ただ愛し合うだけだ……だが、その前に七万回ほど俺達は殺されるけど何とか耐えるんだよ? サンジェルマン」
流は離れているサンジェルマンの元に一瞬で移動し、サンジェルマンの手を握り抱きしめる。
「ちょっ!」
「今から怨念達に好きにさせる。多分七万と四千だっけ? それくらいの恨みを絶えず受け続けるから、辛いと思う。でも、罪を受け入れる気なら頑張れ」
「……お前が言っている事が本当なら、私はその罪に耐えて見せる」
「じゃあいくよ?」
次は怨念が抱いているサンジェルマンへの恨みを追体験し、その恨みを消化させるために流は精神的なプロテクトを解除した。魂はなく、怨念という想いの塊達は、その想いを伝えてしまえば消えざるを得ない。
いつの間にかサンジェルマンは震える子供の姿に変わっていた。サンジェルマンの時はこの時に止まったのだろう。
流はそのサンジェルマンを強く抱きしめて、彼女にまとわりついていた怨念を迎え入れた。
**********
「ねえ、まだなの? 入っていって既に三時間くらい掛かってるんだけど。襲ってないわよね?」
「流が無理やり襲うわけねえだろ。あいつはチキンだぞ。相手が受け入れない限り、ビビって手を出せねえよ」
「セクハラが流のできるギリギリだ。まあ、そういう所も可愛いのだがな」
「……最近の翼はよく分からない。遺伝子上の母親ってのはそんなに認識が変わるものなのか?」
「待て! 風鳴翼と流が親子とはどういうワケダ!?」
何時間も無言で居られるわけもなく雑談に講じていた四人だったが、三時間が過ぎた辺りでサンジェルマンの部屋の扉が開いた。
「あー、しんど。精神は別に神になった訳じゃねえし、俺は全てを受け入れますなんて奴じゃねえのに、こんな事やるべきじゃなかったな」
「流! サンジェルマンは!?」
「もう大丈夫だよ。彼女の中では区切りがついた。もう大丈夫」
流が部屋を出ると、すぐにプレラーティは部屋に入って行き、カリオストロは女性へ変体している流に尋ねた。
「あのサンジェルマンをどうやって解消させたの?」
「全裸で無理やり抱きしめて、思いの丈をぶつけさせた?」
「は?」
「……流、もしかして疲れてないか? 私がおぶってあげてもいいぞ」
「いや、俺は別に翼の息子じゃないからね? どちらかと言うと夫だからね?」
流の言っている事がカリオストロには理解出来なかったし、それヤってない? と思ったが、装者達の反応が普通なのでイマイチ分からなかった。
そしてサンジェルマンの居る部屋に入ったプレラーティは、最近無理やり寝かせたとしても魘されて険しい顔で寝ていたサンジェルマンが、安らかな顔で寝ていた。プレラーティは涙を零しながら、サンジェルマンの頭を撫でるのだった。
多分事変をあんな救われ方をしたサンジェルマンは悩むと思います。