「学校でノイズを暴れさせるのは最小限に、適当に建物を破壊するだけにしてよね」
「わかっているわよ。無闇矢鱈と殺しすぎると、息子の反抗期が来ちゃうかもしれないし、弦十郎くんの出動が早まるもの」
流とフィーネはカ・ディンギルの基礎部分、デュランダルの安置場所に来ていた。本来なら二課内部を通っていくつもの端末付き扉を開けて到達するこの場所には、特殊改造されたサブエレベーターで降りてきた。
大臣が殺されて新大臣になった際、この二課の施設は色々手を加えられた。その時、秘密裏にエレベーターを追加していたらしい。
「正面から行ったら、弦十郎くんと戦うことになりそうでしょ?」
それを聞いた流はアニメの流れと変わっているが、まだ修正が効くはずだと言い聞かせる。それ以前に目的を達するためにはアニメのままではダメだ。
「フィーネは拘束が趣味なの?」
「……」
「フィーネママは息子を拘束する趣味でもあるの?」
フィーネはこの呼ばれ方にハマったのか、この呼び方ではないと反応してくれなくなってきた。他の人がいる場所でもこの呼び方を呼ばせられるのかと彼は恐怖している。
「そんなことは無いはずよ。あなたが土壇場にこの場所を破壊し始めたら堪らないもの」
本来なら剣のデュランダルを安置する台座が置かれていた場所には拘束イスが設置されている。その拘束具は化け物を拘束するためか、とても分厚く何重にも拘束できる仕組みになっている。
「フィーネママだってわかってんの? カ・ディンギルを一発打った時点で俺は動き出すからね?」
「わかってるわ。それを遅らせる役目も兼ねているからこそのこれよ」
もちろんその拘束イスには流が座ることになっている。
「ずっと気になってたんだけど、なんでこんな賭けを受けてくれたの? カ・ディンギルって何発も撃つ兵器でしょ?」
「そうね。カストディアンが作ったバラルの呪詛を維持する装置が一発で破壊できるとは思っていないわ」
「なら」
「流こそ勝利条件をわかっているのよね? シンフォギア装者を全員倒せば私の勝ち。既に一人死んでいるようなものなのよ?」
クリスの心臓付近には爆弾が仕掛けられている。なのでフィーネはクリスが変なことをすればきっと殺してしまう。フィーネがクリスの名前を出して話の流れを無理やり変えたことに彼は気が付かなかった。
「舐め腐ってるただのシステムでしかないシンフォギアを纏った娘を不意打ちみたいな形で殺すはずないでしょ。あのフィーネが」
「……」
「フィーネママが」
「その侮りこそが私の敗因になる可能性が高い事は今の私は理解しているのよ? 映画で学習したもの。敵を怖くないと言えば溶鉱炉行きよ」
「……くそ」
弦十郎が流に映画を見せて、鍛錬して、飯を食べさせて、寝かせる。ただそれを繰り返して、今の流を作り出したのをフィーネはすぐ側で見ていた。だからこそ、フィーネは映画すらも学習し、フラグとなり得る事を警戒するようになってしまった。
「でも、クリスを殺すのは最後にしてあげるわ」
「は?」
「奏ちゃん以降、あなたはあまり他人と仲良くしようとしなかったわ。でも、クリスとは仲を深めていた。ただの親心よ」
「ちょいちょい親っぽいことするなら、カ・ディンギルなんて使わないで櫻井了子として暮らしてよ」
何度目にもなるお願いをする。最近は了子に傾きかけていたので流は本気で頼んでみた。
「……駄目よ。確かに私はあなたや周りの人に絆されたわ。
フィーネの姿で了子としての喋り方で会話をしていたが、決意を固めるようにフィーネの口調に戻ってしまった。
「生徒にはできる限り被害は出さないであげる。ほら、座りなさい」
「……わかった」
流はその椅子に座り、頭に何かを被せられ、体の至る所に針が突き刺さる。パットやその他見た事の無い物がいくつも取り付けられている。
「機械的にデュランダルのエネルギー放出を高める。それだけでも撃てるけど、人間を媒介にしてフォニックゲインをも利用すれば飛躍的にエネルギー生産量が上がる。想定の1.6倍以上の威力は出る計算になっているわ」
「……ん? 俺は男だからフォニックゲインは高められないぞ?」
「あなたが常に身につけているガングニールの欠片。それと立花響のガングニールは共鳴を起こす。それで確保できるわ。元が同じものだからでしょうね」
「それっぽい事はあったな」
翼と和解をしたあの日、流はガングニールから流れてくる強烈な負の感情を受けて倒れた事を覚えている。あの時は響はデュランダルで暴走状態になっていたらしい。
「街中でノイズを放ち、立花響はフォニックゲインを高める。そしてカ・ディンギル前で私と戦う。
「それをこの欠片が共鳴を起こして、擬似的にフォニックゲインを生成して高められる。それをデュランダルの薪にするのか」
「ええ。お喋りは終わりよ。ちょうど街への襲撃が始まったはずだから、私は行くわ」
「弦十郎父さんと了子ママとまた外食したいな」
「……叶うといいわね」
流を拘束して、彼の言葉に一言反応してから、彼女はその場を後にした。
**********
フィーネは東京スカイタワーへ、大型飛行ノイズを8体ほど召喚して向かわせた。
フィーネは了子として指令室にいる。彼女はノイズの目標がスカイタワーだとわかった時に、弦十郎がこちらを見ていたことに気がついた。
シンフォギア装者の内二人は街へ向かったことを確認できた。雪音クリスも街にいるであろう事は想像できる。
「ちょっと、お手洗いに〜」
いつものような気軽さで了子は指令室を後にした。
「すまない。俺も手洗いに行ってくる。襲撃中だが、頼む」
その了子へ続くように、弦十郎も指令室を出た。
トイレへ向かう道すがら、普段ではありえない無言で歩き続ける二人。普段なら了子の軽口が出るところだ。その無言も了子、フィーネによって破られた。
「どうしたの弦十郎くん。レディーのお手洗いに付いてこようなんて、変態さんね」
「既にいくつかのトイレを通ったと思うが、どこに行くつもりだ? 了子くん……いや、フィーネ」
弦十郎はその場でファイティングポーズを取って、櫻井了子の姿をした敵が、どんな動きをしても対応できるように準備を整える。
「何言っているの? 私は櫻井了子よ」
「……なら大人しく指令室へ戻って、シンフォギア装者の無事を祈ろう。それに俺達の息子の居場所の捜索もだな」
「それは無理ね。あの戦いで多少なりとも体力を使ってもらった方がいいもの。無事は祈れないわ」
「やはり……なのか」
弦十郎の言葉に反応するように、櫻井了子の体は光に包まれ、フィーネの姿になった……しかし、ネフシュタンを纏っておらず全裸である。
「いや、その姿は予想出来なかった」
「ふふふ、顔が赤くなっちゃって。いつから私を疑っていたの? 数年前はまだ疑ってなかったわよね?」
「初めてオーディンが出てきて、翼をボコった時だよ。流は俺に蹴り技を使ってこないから、バレないと思っただろうが、俺は流を長年見てきて、あの動きは息子だと直感したよ。あとはあの流が従う存在なんて、俺か緒川か了子くん、この三人しかいない」
「脅されていやいや、従っていたかもしれないわよ?」
「そうだな。だがそれはあの襲撃後に流と拳を合わせて理解した。あの行動は自分の意志であり、様々な守りたいもののために動いているってことがな。流の守りたい者は周りの人達だけで、知らない奴らを無視する傾向があるのが欠点だが」
弦十郎は流のあの極端な身内への愛は、本当の両親を助けられたはずなのに、出来なかったことからくるものだと思っている。
そしてフィーネはその場で腹を抱えて笑い出した。
「あはははははははは……ふう、たった一度拳を合わせただけで相手の事が理解できる力を皆が持っていれば、統一言語の復活などしなくて済んだかもしれんな」
「それがフィーネ……止めだ。了子くんの目的か」
フィーネはネフシュタンの鎧を纏う。その行為に弦十郎は更に警戒を高める。だが、息子に向けた本気とは程遠い、いつもの弦十郎の顔のままだ。弦十郎の目には殺意が宿っていない。
「ええ。でもね、弦十郎くんは手を出すのが遅すぎたわ。今私に手を出せば、雪音クリスの心臓は爆散し、風鳴流は完全聖遺物の融合が暴走して廃人になるわよ」
「……なに?」
「大人の事情に子供を巻き込んで、子供を犠牲にして、私を倒すならそれでもいいわ。子供達に命を賭ける重荷を背負わせて、あなたは私を殴り倒せばいい。弦十郎くんなら私を一撃で倒せるでしょうね」
了子は両手を広げて、弦十郎に無抵抗をアピールする。
「ふううううう……」
弦十郎は酷く顔を歪ませ、ゆっくりと手を下げていく。雪音クリスを保護することが出来なかった。同じような強さを持つ風鳴流という子供を、常に戦場へ送り出している。
それらの後悔を踏みにじって、了子を殴ることは弦十郎には出来なかった。
「あなたなら手を下げてくれると思っていたわ。ごめんね」
「ぐあああああ!!」
ネフシュタンの鎧についているムチで、弦十郎の腕を本気で打ち付ける。臨戦態勢のままならダメージはさほどだった筈だが、弦十郎は力を抜いていた状態だったため、両腕の骨が綺麗に折られてしまった。そしてそのまま弦十郎を廊下の奥へと吹き飛ばした。
「足だけで戦場へ来るなんて事はやめてちょうだいね」
その場を立ち去るフィーネ。その背中に倒れた弦十郎は一言告げる。
「了子くん、俺は君とまたビールを飲み交わしたい。そう思っている。まだ間に合う……考え直せ」
「……同じような事を言うのね」
フィーネは自分の端末で、通常のエレベーターで地上へと向かった。
**********
街での戦闘は雪音クリスが合流したことにより、何とかノイズ撃退に成功した。
流は弦十郎にクリスの個人アドレスを渡しておいたので、装者が出動してすぐに、弦十郎が助けを求めたからだ。
クリスは何故二課の司令官が自分のアドレスを知っているのか疑問をぶつけると、風鳴流から託されたと返ってきた。裏切り者の風鳴流、裏切ったくせにクリスへこんなメールを送ってきた。
『俺はカ・ディンギルのパーツになる。もしクリスがカ・ディンギルの攻撃を迎撃するのなら、俺を信じてほしい。威力を受け止めるのではなく、初めから射線をずらす様に迎撃して欲しい。俺がクリスへダメージを与えないように何とかするから頼む。テロなどの情報は本当だが、今まで共に過ごした時は嘘ではない。 ps.クリスの鼻歌は可愛くて好き』
訳が分からなかった。流は話していると過程が飛ぶことがよくあった。まるで遠い先を見つめながら話しているように。
これはそれと同じく、カ・ディンギルを知っている前提で話していて、迎撃することを見据えて書かれていた。
そんな裏切り者から託されたアドレスで助けを求めてきた。怒り狂って、無視しようとした。でも、クリスは敵であるはずの立花響と風鳴翼を助けに行っていた。
『響! リディアンがノイズに襲われているの!……プー、プー、プー』
戦いが終わってすぐ、響の端末に小日向未来のSOSが届いた。フィーネが意図的に、この電話だけはできるようにしていた。やってほしいことが終わったので、フィーネはリディアン周辺の全てを掌握した。
リディアンに急遽現れた大型ノイズは建物の破壊活動をするだけで、人間に襲いかかるわけではなかった。攻撃したかと思えば、無人の体育館を破壊していた。普通のノイズでは考えられない行動だ。
その間にリディアンの生徒や隣接している施設の人々はシェルターに避難する時間を得た。
「私も随分甘くなったものだ。小日向未来を人質にすれば、立花響は一時的に無力化できる。なのに、嫌われるのが嫌だから、やめてしまった」
避難が終えた後、フィーネはあらかた校舎を破壊し、唯一残っている建物の屋上で敵を待つ。ふと、フィーネは空を仰ぎ見る。
暗い夜空に紅蓮に輝く月。忌々しきバラルの呪詛の根源。
「……何故神は交信していた巫女に一言すら告げず、人類の相互理解を封印したのかしらね。一言くらい言うタイミングがあったら、愛を囁けたのに……なんて、息子の言ってた事を思っちゃうなんて駄目ね」
フィーネはらしくない考えを振り払い、こちらに近づいてくる三人を見つめる。
「フィーネ! お前がこれをやったのか!」
「そうよ、クリス。そして私は櫻井了子でもある」
「な! それは真なのか!?」
「嘘ですよね?」
「いいえ、事実よ」
黒い服を着ていたフィーネは、体を光り輝かせて了子になり、もう一度光るとネフシュタンを身にまとったフィーネになった。
「まだ信じられません。だって、了子さんは私のことを守ってくれました」
フィーネはデュランダルを守っただけであること、櫻井了子の意識は12年前に死んだこと、パラダイムシフト、歴史の転換期にフィーネとして関わってきた事を説明した。
「転換期、シンフォギアシステムか……」
「そのような玩具……と前の私なら言っていたはずだ。だが、シンフォギアシステムは私の脅威になると判断し、パラダイムシフトの要因の一つだと認めよう」
「ならば、奏の死は貴様の手のひらの上だったとでも言うのか!」
「私を拾ったのも、アメリカの連中とつるんでいたのも、流をカ・ディンギルのパーツにしたのも、そいつが理由かよ!」
「……そう、そうよ。それも全てカ・ディンギルのため」
フィーネが両手を広げると、地震が発生し、ゆっくりと二課本部に繋がっているエレベーターシャフトがせり上がり始めた。
シャフトによって出来た建物はスカイタワーをも飲み込むほど、巨大で天を仰ぎみる塔。これこそがカ・ディンギル。
「がああああああああああああ!!」
『……』
一方流は自らの体をブースターとされているため、全てのエネルギーが一度彼の体を通る。そのエネルギーを無理やり絞り出されていて、激痛に悲鳴をあげている。
その横で、妄想ゆえに奏は頭に載せている機械を無視して、流の頭を撫でている。
「これこそが天にも届く一撃、月を消滅させる荷電粒子砲カ・ディンギル!」
「カ・ディンギル、こいつを放つのか……こいつでばらばらになった世界が一つになると!?」
「待て雪音、その前に月を消滅させると言わなかったか?」
「ああ、月を消滅させると言った。月さえなければ……やめだ。あまり解説が過ぎると、負ける前のラスボスみたいではないか。弦十郎の復活フラグなど与えん」
本来であればフィーネの過去、
「さあ、来るがいい……シンフォギア装者達よ!」
三人の少女達は頷き合い、胸に現れる聖詠を歌う。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
「Imyteus amenohabakiri tron」
「killter Ichaival tron」
立花響、風鳴翼、雪音クリスの三人は光に包まれ、刹那の時を経て、ガングニール、天羽々斬、イチイバルのシンフォギアを纏い、三人で歌いながらフィーネとの戦いを始めた。
響がガングニールを再び纏い、流のガングニールの欠片が共鳴し、そこから響が高めたフォニックゲインの一部が流れ込んでくる。それによって、デュランダルが更に活性化し、エネルギー放出量が急増する。
流は増えたエネルギーを自分が抑え込めば何とか行けるなどと考えていたが、放出しないと自分の身が破裂し、地下に甚大な被害が出ることを悟り、カ・ディンギルを逃げ場として流し込む。
完全聖遺物を纏った者すら退けてしまう彼の傲慢の一つだった。
クリスが牽制してフィーネに攻撃をし、翼がガードで出来た隙を突き、響が足止めされたフィーネに重い一撃を与える。
フィーネは響と翼の警戒はしっかり行っていたが、切り捨てたクリスの警戒が無意識の内に浅くなっていた。
翼と響の猛攻に対して反撃をしながら、遠距離攻撃が来ていないことにフィーネは気がつく。
「本命はこっちだ!」
【MEGA DETH FUGA】
仲間が時間を稼いでいる内にクリスはアームドギアを大型展開した。そこに二本の巨大なミサイルが装填されていて、一気に射出される。
「ロックオン、アクティブ」
クリスの指示に従って、一本のミサイルがフィーネをロックオンして追い続ける。ネフシュタンを纏っていることにより飛行が可能なフィーネは、空中でミサイルの曲がりきれない動きをして回避した……させられた。
「スナイプ、デストロイ!」
フィーネとミサイルが離れたのを見計らって、カ・ディンギルに向けて高精度スナイプモードへ切り替え、デストロイでミサイルの噴出速度、破壊力を上げて、カ・ディンギル破壊へと向かわせる。
それをフィーネはムチを使ってなんとか破壊する。その時点でクリスはもう一機のミサイルで上空へ向かっている。
「クリス! 貴女がカ・ディンギルの攻撃を防ぎに行く事はわかっていた!」
流との会話でクリスが絶唱を使い、カ・ディンギルを止めることは予想できていた。もう一本のムチは既にミサイルへ向けていたので、後は撃墜を待つだけだった。
本来ならば。
【蒼ノ一閃】
クリスと共にミサイルに乗っていた翼がそこから飛び降り、刀を巨大化させて、青の斬撃をムチへ向けて放ち、その攻撃を失速させた。
「あのクリスが他人に背中を任せただと!?」
この戦いが始まる前、クリスは流から来たメールを翼のみに見せていた。響に見せると、顔に出てバレてしまう可能性があったから見せなかった。
流が度々翼の話をしていた為、戦いでは信頼出来る相手だと、クリスは聞いていた。
「あたしはまだ流を信じきれてねえ。だけど、こいつの文章ではあたしが迎撃をする前提で話が進んでいるんだ」
「そのようだな。流は未来予知が得意だ。私はそれをやるべきだと思う」
「……簡単に言うことではないぞ? それ」
「そうか?」
「無条件には信じらんねえ。だけど、最後に一回くらい恩を返しておこうと思ってさ。あたしがカ・ディンギルを迎撃に出る時、フィーネは確実に妨害してくるはずだ。その時は頼んでもいいか?」
「防人として、仲間として、雪音の背中は預かった」
ひそひそ話が行われている所を遠くから見ていた響は、少しだけ落ち込んだが、その後のフィーネ戦でそのことが吹き飛んだ。
「クリスちゃん!?」
「行け! クリス!!」
「翼さん!?」
状況に置いてかれている響は戸惑うばかりだが、更に戸惑っている人がいた。
(不味い。流の言った通りになっている。何故だ! あいつの知っている歴史はあいつのいない歴史。それなのに、何故やつの思いどおりに行く!)
「だが、絶唱を使った所で、出力の上がったカ・ディンギルの一撃を防ぐことは出来はしない! 確実にカ・ディンギルの攻撃に呑み込まれるのみ!」
「Gatrandis babel ziggurat…………」
ミサイルから降りたクリスは絶唱を歌い始めた。
「……くっ」
「絶唱!?」
聞かされていた翼も絶唱の歌を聴くと、失った親友を思い出し、苦い顔をしてしまう。聞かされていない響は更に顔を真っ青にして空を見上げる。
クリスはエネルギーリフレクターを大量展開して、呼び水となるエネルギーを与える。放たれたエネルギーは反射・増幅を繰り返し、クリスの背後にはエネルギー反射光で蝶のような模様が描かれる。
それらのエネルギーを巨大化させた銃のアームドギアに集中させる。
「うおおおおおおお!!」
エネルギーが臨界点に到達しつつあるが、流はその力の制御を出来る限り手放さない。このまま放てば、アニメよりも威力の上がった一撃をクリスに浴びせてしまう。
流は土壇場に自分が思い出していた対策法を講じる。
アニメではネフシュタンクリスの時に翼が絶唱を使った。あの時は響も威力範囲内にいたのに、ダメージを喰らわなかった。
アニメ2期ラストに、クリスはXDモードのエネルギーをソロモンの杖に流し込み、「人を殺すだけじゃないってやってみせろ」という想いを杖が汲み取って、バビロニアの宝物庫への入口を開いた。
カ・ディンギルは機械的な構造だが、全てはデュランダルのエネルギーを収束させている周辺機器に過ぎない。これはシンフォギアの攻撃とさほど変わらない。
(今の俺はデュランダルと融合している。更に欠片を経由して、フォニックゲインでも繋がっている。ならば!)
「クリスを傷つけるな! デュランダルゥゥゥゥゥゥ!!!」
クリスなら絶対に迎撃に出てくれる。もう二度と誰も親しい人を犠牲にしたくない。その想いからデュランダルにあらん限りの声を振り絞って命じた。
流の
今、風鳴流が制御するカ・ディンギルの荷電粒子砲と、雪音クリスのイチイバルによる絶唱はちょうど放たれた。
誤字脱字報告をしてくださった方々ありがとうございます。
翼のクリス呼びはわざとです。