戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#17『家族愛』

 カ・ディンギルとイチイバル。双方から放たれたエネルギーは中間地点でぶつかり合い、均衡することなく徐々にクリスの方へと侵食していく。

 

「ほらみた事か! シンフォギアでは今のカ・ディンギルは止めら……れない、待て! あいつ、まさか!! 始めからカ・ディンギルの一撃を相殺する気がないだと!?」

 

 二つの力の線が衝突したからこそわかる。カ・ディンギルは月へと真っ直ぐ放たれているのに対して、クリスのイチイバルは少し角度が傾いている。

 

「それでズラせたとしても、自分はカ・ディンギルの攻撃を喰らい、死ぬのでは……いや」

 

 響と翼はクリスの無事を祈りながら、空を見上げ続ける。フィーネはシンフォギアについての知識が走馬灯のように駆け巡った。

 

「そういう事か! してやられたあああ!!」

 

 フィーネが吠えるのと、クリスがカ・ディンギルの荷電粒子に飲み込まれるのは同時だった。

 

 

 **********

 

 

「……デュランダル、(. )は完全な状態を損なわれている。無粋な金属によって、私は朽ちつつあるぞ」

 

 彼の言葉に、融合しているデュランダルは彼に付けられている物から、彼を拘束しているものまで、全てをエネルギーの放出によって破壊した。

 

「塔の完全破壊は余人に任せるとしよう。デュランダルとガングニールならこれだな」

 

【Synchrogazer】

 

 彼の手元にデュランダルが現れた。デュランダルが生成し続けるエネルギーを制御して、皆がいる方へ向かって斬り下ろす。剣を振り下ろした境界線上を光のエネルギーの斬撃が通り、カ・ディンギルを半壊させた。

 

「……緒川さん、電源室に急いでください。皆の応援の歌を装者達へ届けて。では」

 

「彼の十数年ではこれが限界のようだな。この道具の使い方を体に覚えさせたことだ。上出来だろう」

 

 部屋の端に置いてあった端末を拾い、緒川に連絡を取った後、光り続けていた左手の光が収まった。

 

「あれ? 俺がデュランダルを使ったんだよな?……クリスは大丈夫だ。行こう、終わらせに」

 

 流は立ちくらみで一度立ち止まり、急いでその場を後にした。左手親指が僅かに光った。

 

 

 **********

 

 

「雪音、私はまた……」

 

「あああああああああああ!!」

 

 クリスがカ・ディンギルの荷電粒子砲によって撃墜され、森へと落ちていった。

 翼はその光景が奏と被り、響も奏が絶唱後に灰となって消えた場面が頭に浮かび、絶望の雄叫びをあげた。

 

 その雄叫びと被せるように、カ・ディンギルが翼達から見える面から一筋の光が空より振り落とされ、月を落とす塔を半壊させた。

 

「え?」

 

「ああああ、ああ、あ?」

 

「デュランダルをたった一度の放出で掌握したとでも言うのか! どれだけ規格外なのだ!」

 

「ああ、なんか分からないけど使えるようになったわ」

 

 カ・ディンギルの裂け目から、黄金の剣を持った男がこちらに歩み寄ってきた。その人物は風鳴流であり、全裸である。全裸である!

 

「は?」

 

「ちょ、えー!」

 

「空気を読め馬鹿が」

 

『あははははは。翼ガン見してるじゃん!』

 

 敵から目を離さぬようにチラ見をした後、奇っ怪な物が見えたのでもう一度見て、視点が固定される翼。奏と流が幼少期に歪んだ性教育を施したせいで、若干むっつりが入ってしまっている。奏もその姿にご満悦。

 

 響の中ではクリスが死んだという悲愴的な場面で、いきなり全裸でデュランダルを持ち、堂々としている男が現れたせいで、頭がこんがらがってしまう。

 

 息子に全裸癖が移ったかもしれないと頭を抱えるフィーネもいた。

 

「おい響! なに絶望的な悲鳴あげてんの? 諦めたの? 奏の言葉を忘れたのか?」

 

「は、はい! えっと、色々言ってくれるのはありがたいのですが、格好をどうにかして欲しいと言いますか、そのブランブランって、そのあれがですね?」

 

 修行中の弦十郎のような声で呼ばれたので、返事をしてしまったが、場面が場面なのに色々見えすぎていて、チラチラ見ながら注意をする。

 

「カ・ディンギルの攻撃でクリスはダメージを受けていない。正規適合者だし、アームドギアを介した絶唱だから、クリスは死んでいない」

 

「何故そう言いきれる!」

 

「俺がデュランダルの融合症例だからであり、聖遺物はシンフォギアを通せばある程度操作可能。翼がアームドギアを介さずに絶唱をしたとしても、周りの仲間に被害を与えずに出来るだろ? それと原理は一緒……のはず」

 

 最後の最後で確実にダメージの無効化ができた訳では無いと思い出し、弱気になった。

 

「多分出来ると思うが……何故全裸なのだ?」

 

「デュランダルのエネルギー放出に服が耐えられるわけないだろ」

 

「そ、そうか……」

 

 翼が最も聞きたかった事を代表して聞き、ある程度納得のいく答えが返ってきた。人間の生身で完全聖遺物のエネルギー放出にどうやって耐えられるのか、シンフォギアを介していないのに、どうして同じ理屈で話しているのか。わからない風鳴翼は、考えを放棄して納得することにした。

 

 ちなみに何だかんだアニメ通り、地下シェルターに集まった弦十郎や緒川、温かいものペア、響の友達、その他はこの場面を何とか奪取したカメラで見ているのだが、いきなり全裸の男が映り出して空気が凍っている。

 

 

「フィーネママ」

 

「「ママ!?」」

 

 がっしりした体に見合わず、何故か敵のはずのフィーネをママ呼びしたことにより、今度こそ二人は完全にフィーネから意識が逸れた。

 

「風鳴翼か立花響がカ・ディンギルを崩壊させると思っていた」

 

「俺もだよ。何故か出来たからやった」

 

「本当に貴方達親子はイレギュラーだわ」

 

「フィーネもイレギュラーだしね」

 

「……」

 

「……」

 

 全裸の男と元全裸の女が睨み合う。

 流は一度デュランダルを消して、改良した武術の構えを取る。フィーネもムチを両手で持ち、出力を上げられるだけあげる。

 

「ここでフィーネママを倒して俺の勝ちだ」

 

「あなたを倒して、装者を倒す。今度こそ私に隷属しなさい」

 

 流はフィーネの瞬きの間に、高速で背後に移動し、正拳突きを放つ。それを彼女は体を捻ってムチ二本でガードするが吹き飛ばされる。

 

「デュランダルのエネルギーをインパクトの時に使っているんだけど、どうよ?」

 

「化け物ね」

 

「やったね、父さんも母さんも化け物だしお揃いだ」

 

「本気で来なさい」

 

 NIRVANA GEDON、ムチの突起からエネルギーボールを生成する技。そのエネルギーをムチに帯びさせて、流に向かって振るい出す。時間が経つ事に帯びているエネルギーが太くなる。

 

「シンフォギア! お前達は月の欠片の撃退の準備をしろ。もうすぐ歌が聞こえるはずだから!」

 

「……限定解除などさせるか!!」

 

 流は装者に叫びながら、片手でデュランダルを持ち、ムチをデュランダルで迎撃する。流石に高濃度エネルギーを帯びたムチを素手では迎撃したくないようだ。

 流の言葉でフィーネは後に起こることを悟ったようで、攻撃の手を早める。

 

「硬質化するのだから、素手で受ければいいじゃない」

 

「ぶっ壊れそうだから嫌だね!」

 

 流は前に進みながら攻撃を捌く。フィーネは後ろに下がりながら、ムチで流を無力化すべく攻撃し続ける。

 

 流は防御の手が足りなくなると、地面を蹴り飛ばし岩石で動きを止めたり、最小限の接触で弾き返したりを繰り返す。それでも高濃度エネルギーを帯びたムチを弾いた手は、朽ちているかのようにダメージを受ける。

 

『仰ぎ見よ太陽を……』

 

 あと少しというところで流は攻めきれず、均衡してしまっていたが、辺りの壊れていないスピーカーから歌が聞こえる。

 私立リディアン音楽院校歌。響が安らぎを感じる歌であり、リディアンにいる少女達はシンフォギアの適正率が一般人に比べて高い。その歌には多くのフォニックゲインが含まれ、装者を奮い立たせる希望の歌。

 

「不味い不味い不味い!」

 

 響達に力を与える歌が辺りに響き、フィーネは周りに充満し始めたフォニックゲインを感知して焦る。

 フィーネは後先考えない破れかぶれな攻撃をし始め、死に物狂いとなったその攻撃を流は受け流しきれず、吹き飛ばされる。フィーネを傷つけないで戦おうとしていたため、隙を突かれてしまった。

 

「まだ戦いは終わっていない!」

 

 腰に付けていたソロモンの杖を外し、自らの腹に突き刺すように構える。フィーネは完全聖遺物を二つ融合させて、強さの段階を上げようとする。だが、それは適性のある聖遺物でない限り、肉体が持たず崩れ落ちてしまう諸刃の剣。

 

「やめろおおおおお!」

 

「大人を舐めんなよ!!」

 

 流は吹き飛ばされて、体勢を立て直した時にはフィーネは杖を腹に刺す寸前だった。だが、真横から吹っ飛んできた赤い髪を生やした大男が、杖を蹴り飛ばして、フィーネの蛮行を止めた。

 

「弦十郎くん!?」

 

「隙を晒しすぎだ了子くん!!」

 

 蹴りを放った脚で着地し、もう片方の足で、フィーネの腹に蹴りをぶち込む。両腕が骨折治療を施されて、首から吊るしているのに、この動きをする風鳴弦十郎、化け物だ。

 

「やめ……」

 

 流はその隙に二人へ近づき、体に残っている全てのエネルギーをデュランダルに吸わせて、フィーネの纏っているネフシュタンの鎧に突き刺す。

 強烈な衝撃と閃光が放たれ、三人は吹き飛ばされた。

 

 

 

「皆の歌が!」

 

「私達を奮い立たせる!」

 

 この場にいる二人の装者のシンフォギアは、一度空中に溶け、校歌から漏れでる優しい光に包まれ、それぞれの装者を包み込む。

 響からは黄色、翼は青色の光の柱が空を駆け上がり、クリスが落下した地点からは赤色の光の柱が伸びている。

 

 その光を登るように、三人は空に飛んでいき、三人の光が一箇所で弾け、通常とは異なるシンフォギアを纏った三人が出てきた。

 

「シンフォギアああああああああ!!」

 

 リディアンの生徒や周りの人達の歌声の助けを得て、シンフォギアのXDモードに三人の装者は変身した。

 

 

 

「流!」

 

 クリスはあの荷電粒子砲で一切のダメージを負わなかった。絶唱を詠ったので、その負荷に気絶していただけだった。

 そしてXDモードによる復活を遂げ、カ・ディンギルへ飛んでみると、塔は半壊していた。荷電粒子をクリスにダメージを与えないようにした人がいる建物が崩壊していた。

 クリスは急いでカ・ディンギルに近づくと、弦十郎とフィーネとその人、流が倒れていた。

 弦十郎は上裸、フィーネと流は全裸で倒れていた。

 

「……はああああああ!! なんだよこれ! フィーネはわかるけど、なんで流まで全裸になってんだ!?」

 

 クリスの叫び声で三人は目を覚ました。

 

「脚も衝撃でやられちまったか」

 

「……ああ、負けたのね」

 

「よ!」

 

「よ、じゃねえよ! なんで全裸で倒れてんだよ! なんでもう決着が着いてんだ! あたし達は今覚醒したんだぞ! なんで終わってる雰囲気を醸し出しているんだよ!」

 

「雪音……諦めろ」

 

「あははははは。私達はあれ(月の欠片)を止めるためにこの姿になったと思えばね?」

 

「お前らも諦めてんじゃねえ!」

 

 クリスの叫び声は虚しく響く。

 

 

 **********

 

 

「これからどうすりゃいいんだ? てか、お前は服を着ろ」

 

 XDモードの三人はその間であれば空を飛べるが、他の三人は空を飛べないので、地上に降りてきた。

 

 クリスは流の全裸を目の当たりにして、少しずつ声が小さくなりながらも指摘した。ネフシュタンの欠片を体内から摘出してもらった時に、自分の全裸が見られたことを思い出してしまった。

 

 そんな全裸組であるフィーネと流からは、圧倒的な完全聖遺物の力はほとんど感じない。

 力を帯びたデュランダルとネフシュタンが接触したことにより、完全聖遺物同士の対消滅を起こし、体内に破片となり、大元と別れていた物を除き消滅した。

 

 流はネフシュタンとデュランダルのみが消えることを願いながら対消滅を起こしたが、肉体と融合していた聖遺物だけが消え、肉体はそのまま残った事に安堵した。

 フィーネは想いだけでは完全聖遺物と融合し、その完全聖遺物が消滅したのに生きている事、肉体が滅びなかった事に疑問を覚える。

 

「お二人とも、こちらをどうぞ」

 

 いつの間にか地上に出てきていたNINJA緒川から、フィーネは白衣、流は緒川のジャケットを受け取った。

 

「逆に扇情的じゃない、これ」

 

「師匠のだとピチピチだな」

 

「……まあいい。あたし達はあれを破壊すればいいのか? それともそいつを殺せばいいのか?」

 

 クリスは一丁を、カ・ディンギルの荷電粒子砲を受けて出来てしまった月の欠片へ。もう一丁はフィーネの姿を解き、全裸白衣の姿でこの場にいる櫻井了子へ向けた。

 

「月一択」

 

「なあ、なんでそんなにフィーネを庇うんだ? フィーネにお前は何度もやめるように言ったのに、結局この計画を発動させて負けた。えぐい人体実験もされたはずだ。愛と言いながら拷問もされたはずだ。それなのになんで庇うんだよ!」

 

 クリスはどれだけ思考を巡らせても、流がかばう理由がわからなかった。

 

「愛ですよ」

 

「は? 真面目に答えろよ!」

 

 流は自分の言いたいことと、ウェルネタが被っていたので言ってみたが、信じてもらえなかった。

 

「いや、マジで愛だから。俺にとってはフィーネも了子も母親なんだよ。クリスに痛みを伴う愛の表し方をやめるように言ったのは、せっかくのとても可愛い美少女なのに傷だらけなんて可哀想だろ? 俺はあの程度の愛情表現は問題ないし」

 

「え、え? 何言ってんだお前!」

 

「息子への愛し方が鞭打ちや電撃なら甘んじて受ける。俺は父さんに鍛えられているから、その程度では痛くも痒くも……少し痛いけど、それが愛なら受け入れる。人体実験だって、フィーネには死んで欲しくなかったから受けた。親の期待に答えたいのはどの子も同じでしょ?」

 

「狂ってやがる」

 

 クリスは流から数歩離れて、もう話すことは無いと言ったようにそっぽを向く。

 

「クリス、俺を信じてくれてありがとう」

 

「……」

 

「そういうのは家でやってくれないか。これから私達が何をしなければいけないのかを話し合うべきだ」

 

 クリスのそっぽ向いていた方にいた翼が真顔でツッコミを入れた。翼の真顔に耐えられなくなったのか、クリスはすぐに流達の方へ向き直した。

 

「い、家でってどういう事だ!」

 

「よし、クリスちゃんもこっちを向いてくれたね」

 

 それを促した翼は弦十郎に視線を向け、弦十郎は話し始める。

 

「お前達には月の欠片の落下を食い止めてほしい。いつ月の欠片が地球の重力に引っ張られて落ちてくるかわからん。明日かもしれないし、百年後かもしれない。だが、俺は今のお前達の姿なら出来ると思った……ただし! 危険だと思ったら、すぐにやめて撤退して欲しい。こんな未知数で危険な事を頼んでしまい、すまない」

 

「平気、へっちゃらですよ! それに未来や皆がいつ危険に晒されるかわからない状況なんて、怖くてご飯も一杯しか食べれませんよ!」

 

「食えてるじゃねえか!」

 

「民を、星を守るのも防人の務め。謹んでお受けします」

 

 二人が決意を表明し、知らん顔しているクリスを見る。

 

「……はいはい、わかったよ。元はと言えばあたしが迎撃し切れなかったのが悪いんだしな。手伝ってやるよ」

 

「やったー! クリスちゃ〜ん!」

 

「そういうのやめろって!」

 

 二人は少しいちゃつくと、不安も解消されたようで、三人は目を合わせる。三人は響を中心に手を繋ぐ。

 

「こんな時に役に立てなくてごめん。頑張って」

 

「……私は何も言うことはないわ」

 

「頑張ってください」

 

 フィーネを除く残っている人、端末越しに未来の応援を聞いた響は笑顔に花を咲かせた。

 

「ちょっと行ってきますね」

 

 三人で頷き合うと、一緒に空に飛び立ち、三人で絶唱を歌い始めた。その歌に涙する人、祈りを捧げる人、様々な人がいる中、流は大声をあげた。

 

「金髪の敵であったフィーネは俺が殺した! 魂まで完全に殺し、もう復活することはない。そしてあの少女達三人は月の欠片を破壊するために今飛び立った! みんな、彼女達を応援してくれ!!」

 

 金髪の部分が相当強調されていたが、その後の自分たちを守ってくれる少女達への応援が先走り、違和感なく聞き届け、皆が三人へ応援の言葉を叫び続けた。




無印本編終了です。読んでくださった方々ありがとうございます。

いくつか『しない話』を投稿してから、Gへと移行していきます。

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