戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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無印からGの間にあったお話。


しないフォギア
#18『報告しない潜水艦』


「……了子くんは先史文明期の巫女であるフィーネに体を乗っ取られていて、フィーネにとって都合のいい環境を作っていた。月は不和の象徴であり、何かしら(. . . . )の理由から破壊を目論む。だが、先の『ルナアタック』でシンフォギア装者達の活躍(. . . . . . )により、フィーネの意識は潰えた。了子くんはフィーネの知識をそのまま身に宿している…………となり、了子くんは保護観察とする。上と協議して、国に報告する内容はこうなったわけだ」

 

 弦十郎は先ほど上から届いた、最上に提出する調整された報告書を掻い摘んで読み、皆に説明した。

 

「何かえらく櫻井了子が被害者! フィーネは敵というのを強調するのね。私ってそんなに怖いかしら」

 

 了子の言葉に一番初めに目を背けたのは、OTONAでNINJAな緒川だった。

 

「それくらいせねば、お上方も安心しないのだろう。それだけフィーネを恐怖し、またフィーネの知識を欲しているのだからな」

 

「国の人は色んな思惑があるみたいだけど、私は了子さんとまた一緒に居られて嬉しいです!」

 

「ふん、あたしは許したわけじゃねえからな」

 

「私も奏の件を許してはいない」

 

「まあまあ」

 

 現在二課の主要メンバー及び小日向未来は、特異災害対策機動部二課の移動仮設本部、次世代型潜水艦内のブリーフィングルームで話し合っている。

 何故か響の隣に、当然のように未来がいるのだが、誰も指摘せず、当たり前の様な空気が出来上がっている。

 

 

 

『ルナアタック』はフィーネという敵が起こした事変として収束しつつある。

 

 敵として出てきた雪音クリスは、従わなければならない状況であり、利用されただけだった。それだけならとっ捕まえればいいのだが、フィーネを倒す立役者の一人であり、月の欠片の破壊においても活躍してしまったため、二課の元、特異災害対策の戦力の一つとして、保護観察となった。

 あと雪音クリスの心臓付近に爆弾が仕掛けられているという情報があり、検査したところそのようなものはなく、嘘だったようだ。

 

 表に一度だけ出てきたオーディンは死体が見つかり、死亡したと報告されている。その人物はアメリカ人の様だが、フィーネはアメリカとの繋がりもあったようなので、特に調査もされなかった。在日の工作員くらいしか分からなかったらしい。

 

 体が乗っ取られていた不遇な人、櫻井了子は積極的にシンフォギアについての情報を開示することによって、雪音クリスと同じ処理がされた。一部記憶の欠損があるようだが、シンフォギア関係は問題ないそうだ。

 

 

「さて、地上で一通り準備が整うまでは、この潜水艦に居てもらうことになるのだが、その前に!」

 

 弦十郎は現状報告をその場の者に告げ、この場にいないスタッフには放送で情報共有をした。最後に弦十郎は放送のスイッチを切ると、了子以外の大人と翼とクリスが流を覗き込んだ。

 

「どんな暗躍をしていたのか、洗いざらい吐いて貰おうか!」

 

 空気がとても悪いことを感じ取った流は、皆が落ち着くまで逃亡しようとした。

 

「まだまだですね。逃げる素振りは出してはいけないとあれ程言っておいたじゃないですか」

 

 僅かな身体の重心移動を読み取り、緒川は流の背後へ移動して、どこから出したのか荒縄で椅子へ固定した。

 

「師匠、縄抜けが一切できない結び方とかガチですね」

 

「ええ、流のせいでどれだけの赤字が出たと思っているんですか? 翼さんは人気があったからよかったですが、これではあまり想定していなかったバラエティへの進出も考えなければならなくなりました」

 

「待ってください緒川さん。何故バラエティに? 私は防人であり、歌女でもありますが、そのような番組には合わない」

 

 オーディンは流であった事は皆が既に知っている。翼を入院送りにされたせいで、緒川は翼が出演するはずだった様々なモノの調整に駆り出され、とても大変な目にあった。恨んでいないと緒川は言っているが、その目の奥に炎が燃え盛っているように見える。

 そして翼は無視される。

 

「なら、クイズ番組とかいいと思うよ」

 

「……司令、少し出ます」

 

「お、おう」

 

 緒川はその場で小規模の煙玉を投げると、その部屋から消えた。この部屋の扉は一切開いておらず、それ以外の出口はないのに消えた。

 流はこの理論を全く理解出来ず、習得を諦めた技の一つだ。了子も理解出来ていない。

 

「響助けて」

 

「……響、関わっちゃダメだよ」

 

 流の言葉を受けて、響は人助けのために動こうとするが、その手を未来が掴んで止める。

 

「でも」

 

「これは人助けじゃないの。悪いことをしたならそれ相応の罰が必要でしょ?……そういえば響は私に嘘を沢山ついていたよね?」

 

「流先輩、助けてください! 待って、ごめんなさい。それは仲直りした時に許してくれたでしょ? 未来、こっちを見……」

 

 仲良さげに手を握っていたが、響は顔を青ざめ、未来とともに部屋から出ていった。響は必死にこの部屋から出ないように踏ん張り、流に助けを求めたが、未来に連行された。

 

『奏!』

 

『体のないあたしに助けを求めるなって』

 

 逃げ場のなくなった流は観念して、響がガングニールを纏うようになってからの暗躍を語った。

 オーディンによる暗躍が主で、初めの時点からフィーネと繋がっていたことなども説明した。

 

 お仕置きとして、クリスの手加減されたアームドギアの銃撃を受け、翼の影縫いを受けた状態で、弦十郎の死なないパンチをガードなしで受けることになり、完治に数日ほど要した。

 

 

 **********

 

 

「随分こっぴどくやられたわね」

 

「おはよう了子母さん」

 

「……」

 

「ママおはよう」

 

「おはよう流」

 

 流はお仕置きを受けた体を回復させるべく、安静にして寝ていると、誰かが病室に入ってきた気配がしたので起きる。そこには了子がいた。

 

「起き上がらなくていいから体見せて」

 

「はい」

 

 了子の指示に従い、病衣を開いてそのまま寝る。了子はゆっくりと肌の上を撫でていく。

 

「流にも完全聖遺物の欠片が残っているわね」

 

「翳しただけでわかるの?」

 

「フィーネですもの。これくらいは出来るわよ」

 

 了子は目の色だけをフィーネに変えて微笑んでから、傍にあった椅子を手繰り寄せてそこに座る。

 

「私と流は完全聖遺物と一度融合したわ」

 

「そうだね」

 

「今の響ちゃんの状況は理解してる?」

 

「いずれ死ぬ」

 

「そう、聖遺物が体を蝕んで、最終的に体が死ぬか立花響の精神が変容するか、体も心も変容する」

 

 了子は弦十郎に蹴られて裂けた傷を見せる。ネフシュタンが侵食して、再生しようとする跡が残っていた。再生中に鎧を消滅させられたせいで、腹から胸にかけて、縦の侵食跡が残ってしまったらしい。

 

「これも弦十郎くんの愛の形だからいいのだけれど」

 

「胸元だけどいいんだ」

 

「愛ですもの……私はネフシュタンの影響で老いの速度が遅くなり、多少の傷なら簡単に治るわ。流は?」

 

「戦いになると多少体が丈夫になるのと、少しずつエネルギーを溜め込んでいると思う。老いはどうだろう……デュランダルの朽ちないって意味からして、老いが遅くなってるのかね」

 

「大体想像通りね。まずエネルギーの放出は定期的にやりなさい。できる限り低出力で排出するの。そして、体を鍛えるのもやめて」

 

 了子は真面目な顔で流に注意を飛ばす。

 

「排出は了承するけど、鍛えることをやめるのは無理」

 

「はぁ〜……そうよね。あなたはこれからもノイズやそれ以外の特異災害と戦わないといけない。流は楽観視をしているようだけど、響ちゃん以上に簡単に侵食されてもおかしくないのよ? 一度完全に融合したせいで、下地は出来ているの」

 

「うん。何となくわかってる」

 

 流はカ・ディンギルから脱出する時の自分を思い出す。あれは自分であって、自分ではなかった。侵食されたら、よく分からないあれになる可能性もある。

 了子は息子が、自分並に融通が利かず、頑固であることを再認識し、力を使わせない方向での説得を諦めた。

 

「鍛えたり、戦ったりするとしても、次に大きな怪我をしたら、あなたは一気に侵食されるはずだから、気をつけて」

 

「わかった。あとさ、なんでアメリカの協力していた機関の名前を忘れたことにしたの?」

 

 フィーネとしての記憶の大半を継承していることになっている櫻井了子。大半ということは、一部は欠損しているということ。了子は『アメリカの聖遺物を裏で研究している組織』と秘密裏に繋がっていた事は話したが、『F.I.S.』と繋がっていたとは言わなかった。

 

「……あー、それね。流は知っている人になら、その事を話せるのよね?」

 

「多分そうだけど、何故今それを?」

 

「そのアメリカの組織名を私に言ってみて」

 

 疑問に思いながら、了子に『F.I.S.』と告げようとして、言語化出来なかった。了子は知らないという事だ。

 

「理解した? 下品で下劣で傲慢なアメリカの組織と繋がってはいたけれど、組織名すら覚えていない。覚える気がなかったのよ。だって、あいつらフィーネとしての裸体を舐めるように見てくるし…………」

 

 了子によるアメリカの悪口を、数時間にわたって聞くことになった。下品で下劣な話も多かったが、思春期の少年は割と楽しめた。

 

「……まあ、そんな感じで興味がなかったから覚えていないのよ」

 

「ああ、そうなのね」

 

 了子はスッキリした顔で、その場を後にしようとする。それを流がラストに一つだけと止めて、了子は座り直す。

 

「死者蘇生って出来るの?」

 

 了子は目を大きく見開き、流のことを抱きしめる。その場から走り出してしまいそうな、愛しくなり始めた息子を、その場に留めるように強く抱きしめる。

 

「駄目よ。それだけは駄目。それを目指すのだけは絶対駄目!」

 

「なんで? 天罰があるから?」

 

「そう。死者蘇生、不死、世界の理を根底からねじ曲げる。これらの事は神の所業なの」

 

「不老長寿はいいの?」

 

 流の頭の中にはキャロル・マールス・ディーンハイムが浮かぶ。彼女は不老長寿とは若干違うが、完璧で完成したホムンクルス体に、記憶を転写・複写して長い時を生きてきた。

 

「私のような長寿はさほど問題ないわ。でも、自らの肉体そのものを不老長寿に改造するのは危険よ。それをする人は、例外なく不老不死を目指しているのだから」

 

「……錬金術を教えてと言っても駄目?」

 

「駄目。あなたと弦十郎くんには絶対に教えないし、他の人にもその技術の存在すら教えない」

 

 流は震える体で抱き留めてくれている了子の助言をそのまま聞き入れ、自らも了子を抱きしめる。

 

「わかった。錬金術を知らないと生きていけない時以外は、調べようとすらしない」

 

「本当に駄目よ? もう大切な気持ちを理不尽で失いたくないの」

 

 いつにも無く弱々しい了子を強く抱きしめると、分かってくれたようで了子は部屋から出ていった。

 

 

 

『そんなこと考えてたのか』

 

 了子が部屋から出ていくと、奏が現れて声を掛けてきた。

 

「ああ。俺は何としてでも奏を生き返らせる」

 

『やめとけって。了子だって、それはやばい事だって言ってたじゃねえか』

 

「それでもだよ。流石に今回みたいに、敵側に行ってまではやらないけどね」

 

『それこそ、了子とおっさんにぶっ飛ばされちまうな。流は自分の気持ちに気がついているんだろ?』

 

「……何が?」

 

『あたし達と同じような境遇で、あたしと流みたいに救われなかった彼女、雪音クリスの事が気になりだしているだろ?』

 

「それは吊り橋効果の気の迷いだ」

 

 流はクリスの事は、他の二人の装者よりも愛おしくは思う。だが、それは同情や被害者意識の共感であって、決して奏に芽生えた愛ではないと思っている。

 

『はぁ。いつまで死人に想いを寄せてるのやら……あたしもクリスも胸が大きいよな。了子も大きいし、なあ』

 

「巨乳だから仲良くなってるわけじゃないから! それなら響ともっと接してる事になるだろ!」

 

『響って巨乳なのか?』

 

「隠れ巨乳だろあれ! サイズを測れば結構大きいはず!」

 

『胸の話になると全力過ぎるだろ』

 

「胸はいいぞ」

 

『しつけえ!』

 

 流を邪険にしながらも奏は自分の胸を見て、少しだけ喜ぶのだった。そんな話をした次の日。

 

「常在戦場! 流覚悟!」

 

「待て! まだ治りきってないからやめてええ!」

 

 流の病室にシンフォギアを纏った翼が入ってきて、流に突きを繰り出した。流は何とか白刃取りに成功する。

 

「奏が夢に出てきて、流が私の事を『シンフォギア最強の壁w』と嘲笑ったと教えてくれた!」

 

『……おいおい、あたしを信じてくれよ』

 

 流は奏を見ると、両手を広げて肩を下げ、やれやれなんて表情をしている事から、犯人が誰か()特定できた。彼は久しぶりに翼がこんな感じに、突っかかってきた事を思い出し、嬉しくなり助言をする……おもちゃを見つけてニヤついているようにも見える。

 

「掃除洗濯が出来ないから胸が育たないって言ったまでだが?」

 

「……そ、それは真か!?」

 

「奏が言ってたから間違いない。バストアップ体操も入念にしてたからこそ、奏はあれだけの胸を手に入れていたんだ!」

 

『おい! あたしのせいにするんじゃねえ! あたしはただの遺伝だ!』

 

「よし、二人を信じるぞ! 用事を思い出した、さらば!」

 

 翼はホクホク顔でその部屋を後にした。

 

『これまーたハメられて怒るループに陥る奴だな』

 

「常在戦場って言葉も、唱えれば自分が強くいられるとか嘘ついて教えた奴がいるしな。あれまだやってるからね?」

 

『ヒーローはバイクを乗り捨てる物。それを教え込んだのは流だからな?』

 

「そうだっけ? 経費で落ちない翼の出費の4割が俺のせい?」

 

『ああ』

 

「……まあいいや」

 

 その後も、流と奏は翼に教え込んだあれこれを話し合った。

 

 

 **********

 

 

「うわあああああああ!!」

 

「どうしたクリス!?」

 

 潜水艦の訓練場では本気で動けないため、流は微妙にストレスを溜め始め、ストレスを感じるなら少しでいいやと切り上げた。シャワーを浴びた後、涼むために割り当てられてある仮の自室に全裸でいた。

 クリスが勝手に部屋に入ってきて、全裸な彼を目に収めると、入ってきた時よりも大きな声で叫び出した。

 

「うわああああああああ!!」

 

「勝手に入ってきたのに騒ぐな!」

 

 しょうがないので流は『変装術』で早着替えをした。本来なら、見た目の違う格好に変わるものであって、着替えるために緒川は教えた訳では無い。

 

「なんで全裸でいるんだ! 服を着ろって何度も言ってるだろ」

 

「了子母さんに全裸の良さを説かれたんだよ。試してみようと思って、シャワー後にそのままでいた。翼は入ってきた時は文句を言わなかったぞ」

 

「これ以上変態は増えなくていい!」

 

「アーマーパージが割と好きなクリスに言われましても」

 

「うるせえ! ぜぇーぜえー……ふう。おい、突起物おかしいだろ!」

 

 特機部二(突起物)とは、特異災害対策機動部二課の政府内部での蔑称だ。

 

「何が? 俺と弦十郎父さんのパワーがおかしいのはスルー案件だぞ?」

 

「それもおかしいけどそうじゃねえ!」

 

 流が出した冷やしておいた紅茶を一気飲みし、クリスはおかしい点を挙げ出す。

 

「あたしは一応保護観察対象だからさ、最近は誰かしらに監査されているのは知ってるよな」

 

「ああ」

 

「まず立花……いや、バカ。なんであいつはあんなにうっせえんだよ! 少しは黙れよ! センチメンタルな考えが出来やしねえ!」

 

「響は元気いっぱいで良いと思う」

 

 流の言葉にクリスは頭を机に一度ぶつける。そんなクリスがブツブツ何かを言っているが、あえて流は聞かないようにする。

 

「次に小日向。あの子とはすぐに仲良くなれた。普段のあの子は無害なんだよ。なんで立花とくっつけると、あんなにやばい感じになるんだよ!『私の響に何してるの? クリス? お仕置き?』とか怖ええよ!」

 

「小日向は純粋無垢、一途で良いと思う」

 

 彼の言葉にクリスは頭を二度ほど机にぶつける。

 

「痛そう」

 

「やかましい! 次、風鳴翼! あの人も怖ええよ! 何も言わないと思ったら、常在戦場常在戦場とブツブツ言ってんだよ。しかも掃除洗濯に関する雑誌なんて読んでるし」

 

「それは翼が自分を奮い立たせる時に言うおまじない。翼は割と人見知りしたりする性格だから、クリスと話す話題を考えるために、おまじないを唱えてたんでしょ。後者はクリスは言っちゃダメ」

 

 翼は掃除洗濯の方法を知っても、どうせそれを会得するのは無理だなと流は斬り捨てる。

 

「誰だよ、そんなおまじない教えたのは!」

 

「奏」

 

「死人に口なしってこの事かよ!!」

 

 クリスはぜぇーぜぇー息を切らしていて、出されるたびに紅茶を飲み続ける。

 

「おっさんはカンフー物の映画ばかり渡してくるし、緒川はいきなり背後に現れるし、フィー……了子は今までとは態度が全然変わって『息子をよろしく』とか、何がよろしくなんだ? キリングパーティーでも行えばいいのか? ここのヤツらおかしいって!」

 

「これどうぞ」

 

 流はやっと言い終わったクリスにクッキー出す。

 

「ああ……これうまいな。あんぱん味か」

 

「あんこ味ね」

 

「なるほど、アンパンか」

 

「……まあ、みんな変人だけどいい人だし」

 

 クリスは油の抜けたブリキ人形のように、鈍い動きで流に視線を合わせ、指を向けて叫ぶ。

 

「一番おかしいのはお前だから! 何締めくくろうとしてんだ!」

 

「はあああ!? 何でだよ! 確かに俺もおかしい部類に入ってるけど、一番ではない!」

 

「いやいやいや、もっとよく自覚した方がいいぞ? まずおっさんと同じ事が出来るってだけで、おかしい部類上位に入る」

 

 流は思い浮かべる。二課でおかしいのはOTONA組と自分。

 

「続けて」

 

「完全聖遺物と融合して、対消滅で聖遺物が消えたのに、普通に生き残る」

 

 弦十郎も出来そうだと思い、了子と流の三人に絞られる。

 

「他人の愛し方を簡単に肯定して、ただの拷問すらも平然と受け流せる」

 

 同じく弦十郎もできそうなので残り二人。了子は柔軟に愛し方を変えられない不器用な人なので、流は弾いた。

 

「そしておっさんとお前なら、確実に流の方がおかしい。年齢的なもんもそうだし、何よりノイズに炭素化されない」

 

「あー、確かにそうだわ」

 

 流はノイズに炭素化されないという生活を送り始めて、何年も経っているせいで、それが当たり前になっていた。

 

「俺が一番おかしい存在だったわ」

 

「だろ? まあ、他のおかしい奴らに比べたらマシだけどさ……ここにいれば観察されている事になるんだよな?」

 

 流を見ながら聞いてくる。流はある程度大きな権限を与えられている。その方がノイズ殲滅の速度が上がるからだ。もちろんそんな彼に観察されているなら問題ない。

 

「ここにいてもいいけど、いきなり独り言を言い出すからね?」

 

「いまいちわかんねえけど、それくらいならいい」

 

 次の日から、流の部屋で過ごす事にしたクリスだったが、予想以上に独り言のレベルが高く、頬が引き攣り続けた。


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