そして多機能フォーラムを覚えた。
日本最大規模の音楽祭典「QUEENS of MUSIC」。
日本のトップアーティストである、風鳴翼。ミステリアスにして力強い歌声を持ち、デビューからわずか2か月で米国チャートの頂点まで昇りつめた新進気鋭の歌姫、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。
その二人をメインアーティストとし、内外の女性アーティストを集めたその祭典は、開催発表日にライブチケットが完売し、オークションでは高値で取引されている。
「ふははははは! ライブチケットが十倍以上の値段になったぞ! 終了まで二日はあるから、ここから相当伸びそうだな! あはははははは!」
『翼が怒るぞ』
「二課も母さんも使わず、ただ自分の家にある数台のパソコンを駆使して、何とかゲット出来た数枚なんだし、怒られないでしょ」
『流からしたら端金じゃねえかよ。あと転売禁止な』
「……え? マジ?」
『規約見ろよ』
「やべえ……」
夜、流は奏と騒いでいた。流はツヴァイウィングの歌が好きで、翼のソロの曲も大好きだ。翼が戦いの場以外の大舞台で歌う事に喜び、最近は毎夜騒いでいた。
バン
いきなり流の部屋のドアが開く。
「毎日毎日うるせえんだよ! 先輩のライブが楽しみなのは分かるが、もうちっと静かにしろ!」
バタン
クリスは肩から大きく露出したパジャマを着ていた。そんな格好で夜の男の部屋に入り、注意だけして出ていった。
「なあ、なんでクリスってあんなに無防備なの? たまにおっぱいの真ん中見えてるよ?」
『あたしに聞くな。どんだけ胸が好きなんだよ』
「もう一度語る? 父親から引き継いだ、巨乳好きによる、何故胸が好きなのか」
『それ聞くと夜が明けるからパス。寝ろ童貞』
「…………」
流は奏の言葉を認識する前に、その場で寝た。
**********
「フィーネ! このパジャマ全然意味ないじゃねえか!」
「おかしいわね、流の趣味どストライクのはずなんだけど」
「フィーネが今度は嘘をつかないとフィーネが信じる神に誓ったんだぞ! 多大な恩を異性に与えられたら、体で払うしかないって! 覚悟を決めたらこれだ!」
「…………」
銀髪の少女が、茶髪のできる女性と話している。できる女性の方は、笑いを堪えているように見えるが、きっと気のせいだろう。
「まだ攻めが足りないわ! あの風鳴の二人は、そんじょそこらの誘惑じゃ効かないの。焦らずじっくりやりなさい」
「嘘は?」
「神に誓ってついてないわ」
「わかった。もうちょっと辛抱してみる」
銀髪の少女はできる女34……35歳の部屋を出ていった。
「誓っている神は日本のよろず神だけどね。クリスは本当にチョロイわ……はぁ、流はやっぱりまだ奏ちゃんの事を引きずり続けているのね。何とか生きている子に興味を向けさせないと」
息子の恋愛事情を考えていると、できる女は自分の誘惑を尽くスルーしている人類最強の男の事を思い浮かべため息をつく。神を一度諦めて、今を生きる人間に目を向けているのに、その思いは神並に届かない。
狂気的なまでに、彼女は神へ思いを告げる事に執着していた。それなのに、今では今世紀限りの新たな恋を始めているのだが、その理由を知るものは本人以外いない。
**********
きっと
「あーあ。翼から貰った特等席のチケット……はぁ」
『流ってとことん特等席のチケットを使うことができねえのな。前の復活ライブは特等席ではなかったし』
「はぁ……奏の歌も特等席で聞きたかったなぁ」
『いや、最高の特等席で聞いてただろ? 流だけの為に歌ったり、ツヴァイウィングの練習をがっつり聞いたりしてたじゃないか。アイドルごっことか』
「でもさ、ライブ会場で聞くのって違うじゃん?」
『確かにな。翼は緊張して可愛くなるし……なんか今は凄い
流は「QUEENS of MUSIC」の会場の周り数キロを歩き回っている。どこに何があり、どう走れば最短距離で移動できるか。もし戦いになった場合、どんな場所で戦えば有利なのか。戦う相手の獲物によって切り替えないといけないので、入念な事前準備を行っている。
「ぶっちゃけ殺すだけなら簡単なんだけどね」
『忍者だしな。サイレントキルで終わりだろ』
「まあ、今回の対象は絶対に殺さないで皆を確保するのが前提だけどさ。シンフォギア装者を殺さないで、尚且つ腹パンなし。更に傷を残さずって結構キツいんだけど」
『レプリカガングニールと蹴りだけよりマシだろ? 相手が女の子なら当たり前だ。傷物にしたら責任取れるのか?』
この奏が女の子と戦うなら、それくらいは気を使えと翼と戦った後に何度も言っていた。
流はオーディンとして、翼と戦った時のことを思い出して比較する。
「どっこいかな。あの時の翼は早く鋭くが特性なのに、奏のパクリをしてたから楽だったけどね? 今回の相手は色々怖い」
流はF.I.S.の中で特に危険だと思っているのが、
防御も全て無視し、攻撃を食らうと魂が消滅させられる。絶唱によるシンフォギアの超パワーに、食らったら確実に死ぬという状況では、絶対に戦いたくはない。
「まあ、そうならないための下準備なんだけどさ」
『ソロモンの杖が運び込まれる予定の、岩国米軍基地周辺も散策していたけどさ、なに? 輸送計画が失敗でもするのか?』
「……ノーコメントで」
岩国の米軍基地から、この会場近くまでのありとあらゆる交通手段を洗い出し、情報をまとめ、ある人を追えるようにしてある。
「今度は極小数の犠牲で、完璧にやってみせる」
『一人で抱え込むな。了子とかに頼れ。あと犠牲は出すのか』
「アホどもが勝手に暴れるだけだし、教授とか以外のアメリカ人は死ね。列車を操縦する人は……無理かな」
流のアメリカ人嫌いはまだ治っていない。フィーネが襲撃されたのは因果応報なのだが、身内が襲われた事をまだ根に持っている。
『訳が分からねえ……』
ソロモンの杖輸送計画と「QUEENS of MUSIC」は数日後に迫っている。
**********
国のトップはアニメとほぼ同じ対応をアメリカにした。トップには櫻井了子関係の情報が入っておらず、どこかしらで情報が
「古代文字と独自言語でプロテクトをする母……フィ、あの人より国中枢の方が楽だった」
犯人はそう語る。
アメリカの上層部は、日本の海底にあるフロンティアで逃げようとしているくせに、様々な要求をしてきた。厚顔無恥さに飽きれるばかりだが、そのおかげでナスターシャ率いるF.I.S.が日本に来ている。
マリアは「QUEENS of MUSIC」のために日本に来ていることになっているが、ライブの前に色々やることがあるので、少し前から日本に到着している。今はさまざまな番組に出て、そのカリスマを発揮している。資金稼ぎだろう。
流からしたらマリアは『ただの優しいマリア』なので、微笑ましく思っている。
そのマリアの周りをずっと見張っていると、月読調と暁切歌を発見することが出来た。
アイドル活動なら、この二人を連れてくる可能性はあまり高くないはず。二人にご飯を食べさせるために、連れてきている可能性はあるが、大雑把な流れは同じなので、F.I.S.は動くだろう。それもソロモンの杖が強奪されるか否かで確認できる。
それはそうと「QUEENS of MUSIC」は翼や他のアーティストが快適に安全に歌い終わるため、翼が色々やらないといけなくなったらカバーするために、運営の大半をダミーカンパニーが受け持っている。
ダミーカンパニーとは、二課の作戦行動を行うにあたり、様々な便宜を図るために設立された会社組織の総称だ。数は数十を超え、リディアンもその一つで、翼の所属する芸能事務所「小滝興産」もそれにあたる。
その小滝興産にある仕事が舞い込んできた。
「それ俺にやらせてください」
「これは翼さんの付き人をするわけじゃないですよ? マリア・カデンツァヴナ・イヴさんの付き人の話ですよ?」
「分かってますよ。なんか問題でもあります?」
二課で弦十郎に緒川が人員補充を申し出ていた。
何故か歌姫マリアがスタッフを連れずに来日し、取材や番組を受けているのだという。「QUEENS of MUSIC」までまだ少し日があり、最高のコンディションで出演して欲しいので、雑用をさせるスタッフを二課から出すように申し出を出してきた。
小滝興産で出さないのか? と思うかもしれないが、既に「QUEENS of MUSIC」のために人員を大量に投入していて、余裕がなかったかららしい。
「いえ、流くんが身内以外の人に興味を持つのは珍しいもので」
「俺だってほかの人に興味くらい持ちますよ。今回は翼のライブのメインの一人が、酷いコンディションで出られても困るから俺が行きたい。翼のコンサートを体調不良とか殺したくなるし」
「なるほど、翼さんのためですか」
「別に翼の為じゃない」
「なるほど、翼さんのためですね」
マリアはF.I.S.から独立するはずなので、アメリカのスタッフを連れてこなかったのだろう。だとすると、それを嗅ぎつけた向こうの奴らが、すぐに襲撃をする可能性は0ではない。無駄にスタッフを消耗するのも良くない。流は裏の事情をなんとなしに考えながら、もう一つの大切な理由が頭に浮かぶ。
戦うなら、相手を知っていた方が戦いやすい。
「他に理由はないんだな? マリア・カデンツァヴナ・イヴが敵になる……などという事は」
「ない」
弦十郎は息子の行動を読み、マリアが敵対するから、接触しようとしているのではないか? と考えつくが、流はF.I.S.の人達を
「うーん……わかった、流がその任につけ。ソロモンの杖輸送計画の日は別のスタッフに、一時的に入ってもらえるようにしておく」
「ありがとう父さん」
流はその場を後にした。その後ろ姿を心配げに見つめる父親がいる。
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「本日より数日の間、付きをさせていただきます、轟流と申します。マリア・カデンツァヴナ・イヴ様、どうぞよろしくお願いします」
「小滝興産の者だったな。よろしく頼む」
アニメ前半の強気なマリアが目の前にはいた。申し出た次の日、早速マリアの元に向かい雑用をこなすべく、マリアの楽屋にやってきた。格好はスーツに眼鏡という緒川マネージャースタイルを真似ている。
ちなみにその眼鏡は潜入美人捜査官メガネという眼鏡を使っている。風鳴を名乗らないのは、翼を連想させないためだ。
「……君は随分と体格がいいわね」
「はい! 芸能人の付きは色々とハードですので、鍛えています! 私の先輩の風鳴翼さんについている緒川も、相当体を鍛えているようですので、私もそれに習って鍛えてきました!」
体から覇気を程よく出し、足音は普通に鳴らし、瞬間移動などの動きはしない。出来る限り一般人としての動きで、マリアに本日のスケジュール確認と、荷物の片付けをする。
「……」
凄く見られているが、流は構わず仕事をする。今までマネージャー関係の仕事はしていなかったが、緒川の代わりができるように鍛えられてはいた。
流が普通だと思っている動きは凄く的確に動き、とても機敏なため一般人には見えない。どう考えても忍者に鍛えられただろうと思えてしまうのだが、
(防人や忍者のいる事務所だから、これくらいが普通なのかしら?)
マリアの基準も些かズレていた。
その後、流は甲斐甲斐しく動き回った。マリアの気配を読み、次に欲しているものを提供する。マリアは日本語が堪能だが、日本語特有の変な言い回しが来た場合、こっそりと耳打ちする。そんなこんなで一日が終わった。
「君のサポートはとても良かった。感謝する」
「ありがとうございます。あとこれを」
流は野菜から肉、魚やお菓子などの料理を詰めた箱をマリアに渡した。マリアが先日、ケータリングの料理を詰めていた所を、スタッフが見ていた。この箱に入っている料理は全て流が作っているので、栄養などはしっかり考えている。多分調や切歌、ナスターシャのために持っていくのだろう。
「……これは! 何故こんなものを渡してきた!」
「数日前、詰めているところをスタッフが確認しました。余らせるくらいならと貰ってきたのですが、要らないお節介でしたでしょうか……他の芸能人の方も良く持ち帰っていますし。ご家族の方とお食べになるんですよね?」
「……ああ、家族のためだ。ありがたく頂いておこう」
マリアは他の荷物に比べて、料理の袋をしっかり持った。独立後のF.I.S.は節約につぐ節約に悩まされていた。今から後のことを考えて、尚且つ皆に良いものを食べさせようとするマリアに流は涙が出た。
「本当に送らなくて宜しいのですか?」
「ああ、ここで問題ない。明日も頼む」
マリアは送迎を拒否して、タクシーを拾って帰っていった。
「……さて、マネージャーは終わり。次は忍者だな」
『ぶっふ! 全然キャラが違かったな。明るい好青年とか似合わねえ〜』
「うるさい」
眼鏡を外して闇夜に紛れ、マリアを秘密裏に尾行し始めた。
**********
「遅い!」
「遅くなるって朝言ったじゃん」
「こんなに遅くなるなんて言ってなかったじゃねえか!」
「夕食だって作っておいたでしょ」
「何が悲しくて、電子レンジでチンして、一人で寂しく飯なんて食わないといけないんだよ! フィーネじゃねえんだぞ!」
流はマリアを尾行して、F.I.S.の移動型拠点を見つけた。満足してそこから家に帰ると、夜の10時を大きく過ぎていた。
リビングに電気がついていたので行くと、クリスがテレビも付けず、その前のソファーでクッションを持ちながら体育座りをしていた。
クリスが叫んですぐ流にメールが来る。そのメールは了子からだった。
『何か言った? ちなみに今日の夕食は弦十郎くんと食べました』
『何も言っていません。おやすみママ』
『おやすみ』
彼は母親からのメールを手早く返して、端末から目を離す。
「やめろよ。フィーネは無駄に勘が鋭いんだからさ……今から作るから待ってて。パスタでいいでしょ? 下拵えもしてないし、簡単なもので」
「……それでいいんだよ」
作るというと、ほっとした顔を浮かべてから笑顔でこちらを見てくる。
(やりづらいな)
彼は独り言を言いながら、パスタを茹でる。
「数日はこのくらいの時間になるから、温めて食べるか、響達と飯を食ってくれ。作っておくから」
「……しょうがないな」
ミートソースを口いっぱいにつけて、テーブルにもこぼしながらクリスはかっ込んでいく。アニメ3期よりも露出が高めなパジャマを何故着ているのか、流は疑問に思っているが、セクハラになるので口には出さない。
(屈むな! 真ん中が見えるだろうが!)
「……こんな時間に食ったら太るぞ」
「胸に行くからいいんだよ。逆に食わないと先輩になる」
クリスの胸発言にその胸を注視しそうになるが、端末にメールが入った。そのメールの送り主は翼だった。
『常在戦場』
『クリスが悪い。おやすみ』
流は反射的にクリスを売り、その後にメールは来なかった。後日スパムメールだと言ってクリスが泣きついてきたが、そのアドレスに流は見覚えがあった。
「あまりそれを言うなよ? 翼が泣くから」
「……先輩って泣くのか?」
「昔は泣き虫翼だったしな。今は泣いてないみたいだけど。本気で虐めれば多分泣く」
「ふーん、ごちそうさん」
「はいよ。パジャマにソースが付いちゃってるから、着替えて、歯を磨いてから寝ろよ」
「お前はあたしのママか! おやすみ」
クリスは吠えながら、自分の部屋から進路を変えて洗面所へ向かった。
「飼い主の帰りを待つ子犬かな?」
帰ってくると吠え、ご飯を出すと尻尾を振る。テレビで見た子犬とクリスが被り、流は吹き出した。