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流が未来に神獣鏡を使わせると言ったあと、響が今まで見たことのない険しい顔で、流を睨み続けていた。流は響が怒ることは分かっていたので、文句を言ってくるまで無視することにした。
「未来には少し前、二課で一通り検査を受けてもらったよね?」
「はい。響のついでに身体検査をしてくれるって」
「そう! 僕くらいになれば、本人を見なくてもデータさえあれば、小娘たちが使ってるレベルの個別linkerを作るくらい造作もない!」
ウェルは白衣の中に手を入れて、未来用に調整して作成されたlinkerを取り出した。
「神獣鏡は人の心を迷わせ、人格に悪影響が出るものです。特に訓練していない人に使わせるのは!」
「ナスターシャ教授が言うことは最もね。だけど、まずリディアンに通う子達は皆がある程度の素質を持っているの。それに未来ちゃんは響ちゃんと一緒に訓練を受けていたわ。さらにさらに〜、神獣鏡が人の心を惑わす? そういうデメリット機能はシンフォギアをその人の素質ではなく、機械的に引き出そうとした結果、生み出された闇よ。それ以前に惑わすような闇をインストールしなければいいのだし」
神獣鏡は櫻井理論とF.I.S.の技術を使い生み出されたシンフォギア。櫻井理論だけで作られた場合、機械的にエネルギーを増幅させて、それでエアキャリアを視認できなくするような事は出来ない。櫻井理論はあくまでも起動は歌を基準にしているからだ。そういう機能をつけることも出来るが、無駄なものはオミットされている。
なら、櫻井理論とF.I.Sの技術を併用した方が優秀かといわれればそうではない。F.I.Sの技術も使われてシンフォギアとして整えられた神獣鏡は、機械的に起動させる機能をつけたが故に、神獣鏡の鏡としての機能である分身や隠密機能などをオミットせざるを得なかった。更に聖遺物を歪めている事になるため、精神云々のデメリットが付いてしまうと了子は語る。
マリアがフィーネと名乗って率いた場合、後者の神獣鏡の方が使い道が多く役に立つが、今回は逆に邪魔になっていた。
「なので、このできる女である私がそんな闇を取っ払っちゃったわけ。外部からプログラムのインストールが可能だけど、シンフォギアシステムにとって重要な、301,655,722種類のロックによって、装者に悪影響を及ぼしすぎる外部からの改変は出来ないようにしたわ」
ナスターシャの心配している事は既に了子と流で解決済みだった。流は少しだけ口を出しただけで、ほとんど了子がやっていた。ナスターシャが納得したあと、次はウェルが立ち上がる。
「なら次は僕だ。シンフォギアは素質があったとしても、纏えと言われたからといって纏えるものではない! その人物が纏う気がない限り、シンフォギアは答えない! これはどうするんだい?」
「それは未来との交渉次第かな」
「……なんで!」
技術者達と
「なんで未来なんですか! 何故未来を戦いに巻きこもうとしているんですか! 未来以外にも戦える人はいますよね? なんで流先輩は当たり前みたいに未来にやらせようとしているんですか! 先輩はあれだけ私達に戦って欲しくないって言ってたじゃないですか!」
響は流の元に歩いていき、彼の前の机を思いっきり叩いて叫ぶ。歩いてきた響の顔には困惑と焦燥が伺える。自分の帰る場所を守っていてくれる陽だまりを、日頃響や皆に戦って欲しくないと言っている人が強要しようとしている。
「響落ち着け。それも含めて今話す」
流は封筒をひとつ取り出し、響を連れて未来の元に向かう。
「響はわからないと思うが、自分の大切な人が戦っているのに、自分は戦えないで待ち続けるというのは凄い辛い事だ」
「……」
未来は顔を伏せ、響は流を睨む。流は奏に運命を押し付けてしまったことを思い出していて、それを隠すように無表情になっている。
「素質があり、未来は響と一緒に基礎訓練プログラムを何度も受けているから、linkerで引き上げれば問題なく纏えるはずだ」
流は意図的に響と共に訓練を行わせていた。
彼は封筒から同じ内容のレントゲン写真を数枚も取り出し、みんなの見える位置に広げる。
「それは響ちゃんのレントゲン写真よ」
「えっ!」
「響さんは融合症例……まさかこの線は聖遺物デスか!?」
「そうよ。響ちゃんの胸の奥にあったガングニールの欠片。それが肉体を侵食しているの」
レントゲン写真は響の全身を写していて、体のほぼ全てにガングニールの侵食跡が伺える。
「響はあと数回ガングニールを纏えば、体調不良を起こし、そこから数回纏えば死ぬ」
「……う、嘘ですよね?」
「そんな!」
技術組以外は皆驚き、響のことを見ている。当の本人は流がいつものように冗談を言っていると思っているし、未来は信じられないと写真を投げ捨てた。
「ああ、嘘だ」
「「……え?」」
「響はまた生きるのを諦めたろ。キレるよ? 奏の言葉を忘れるとか」
「じゃなくてですね、私が死ぬっていうのは?」
「それは間違いないけど、対策法も分からないような状態でこんなことを教えたりしない。響が死ぬなんて事にはならないから、結果的には嘘になるな。そしてその対策が未来だ」
「……私が神獣鏡を纏うのが対策法なんですか?」
「ああ、まずシンフォギアってのは響みたいな融合症例を除いて、素質と想いの量で強さが変わる。素質が低くても、想いが強ければ強靭になり、適合率も上げられる。これは奏が証明した」
『そうなのか?』
『多分な。奏のおかげでライブで死んだ人数が、俺が知っているモノよりも少なかったのは、奏の助けるという覚悟が完了していたからなんだと思う。自分の命を燃やしてでもって思ってたでしょ?』
『そうだな。流や翼を絶対に守る覚悟はあった』
流はアニメとの生存者の差異は、奏の意思の強さの違いだと思っている。流は口には出さずに奏の問に答えた。
「私の響を救いたいという思いで、適合率を引き上げるという事ですか?」
「そう。そして神獣鏡の魔を祓う力は聖遺物だけを消し飛ばすことが出来る力なんだよ。今回必要なのは魔を祓う力。シンフォギアは意思によって若干能力が変わるっぽいから、今生きている人達の中で最も響の生存を望んでいて、響の内部にある聖遺物を消し飛ばす……そのためにシンフォギアを扱える人は他にはいない」
「でも! 未来が今後戦いに巻き込まれることには変わりはないですよね? しかも、私の中のガングニールを消しちゃったら、私はみんなと戦えなくなっちゃいます! 私は未来を守れなくなっちゃう!」
「私は響と背中を合わせて戦えて、響の為になるならやりたいです!」
絶対に未来を戦わせたくない響と、響の隣に立って彼女を守りたい未来の意見が食い違う。
「嫌だ! 未来にはそんな危険なことはさせたくない!」
「私だって嫌だよ。今までは響の帰ってくる場所を守ることしか出来なかった。でも、神獣鏡を使えば、響と一緒に戦うことも、響を助けることだってできるんだよ!」
「そんなことしなくたっていい! 未来には危ないことして欲しくない!」
「私だって響には危ないことをして欲しくない! シンフォギアのことだけじゃないよ。人助けと言って何度傷ついたか分かってるの? XXX回も傷ついて帰ってきたの。それを手当てする度に私は悔しかった。響は一人で人助けに行って、私には『ただいま』しか言ってくれないもの」
響は当たり前のようにスルーしているが、響の人助けで怪我をした回数を一桁代まで、しっかり覚えている未来にその他は戦慄した。こいつガチだ……と。
「……」
響は人助けで怪我を作るたびに、未来に手当をしてもらっていた。心配げな顔で、それでも手当をしてくれる未来が、こんなにも心配していたとは思っていなかった。いつも彼女は『平気、へっちゃら!』で流してしまっていたからだ。
「私は響と戦いたい。響の役に立ちたい。響と一緒に帰る場所を守りたい……駄目かな?」
未来は涙を流しながら、響に抱きついて説得を試みた。そんな未来を見て、響はため息をつく。
「……そこまで言われたら駄目なんて言えないよ。ごめんね、未来。未来の事を考えないで、人助けばっかりで」
「ううん、それは響のいいところだから。でも、今度からは私にも手伝わせてね」
「うん! 一緒に頑張ろう……流先輩も責めちゃってごめんなさい」
やっとひびみくのイチャイチャが終わり、響は流に頭を下げた。
「別にいいよ。それで響のガングニールを分解したら戦えないって話だけど、まず響の中のガングニールをペンダント化するのは無理。ということで、持っている人から貰う事にした」
流がマリアに手を向けると、マリアが付けているガングニールを渡した。
「これで変身すればいい。既にガングニールと適応してるから、聖詠も浮かぶだろうし」
その行動に調と切歌が待ったを掛けた。
「待った!」
「それじゃあ、マリアが変身できなくなってしまうデスよ! なんでマリアから戦う力を奪うのデスか!」
「二人ともごめんなさい。秘密にする気はなかったのだけど、私はガングニール以外も使えるようになったの」
マリアはもう一つの欠けていた
だが、マリアが掲げたアガートラームは破損している痕跡が無く、綺麗なペンダントになっていた。
**********
流は少し前に了子にお願いをしていた。響の体内を侵食している聖遺物を使って、シンフォギアシステムを適用したペンダントを作れないかと。だが、それは無理だった。
それを聞いた流は、了子には破損したペンダントの修理の準備をお願いして、マリアの元に行き、頭を下げて言った。
「ガングニールをください」
「……は?」
「だから、ガングニールをください」
「流は私から戦う力を奪いたいの?」
「そうじゃない。マリアはアガートラームが使えるはずだから、使わないガングニールが欲しい」
マリアと調と切歌はクリスにあることを聞いていた。それは流が説明を省いて何かを言ってきた場合、それは説明ができないから省かれているということ。更に未来が見えているかの様な発言もすると説明されていた。
マリア達は計画を事前に潰されたことから、なるほどとその時は納得したが、今のマリアはやはり意味がわからなかった。
マリアだってガングニールではなく、自分の妹が使った聖遺物を使いたくて何度も挑戦した。だが、起動に必要な聖詠が胸に浮かばなかった。シンフォギアシステム自体が壊れていたからだ。何度も挑戦してから諦めたのに、目の前の男は使えると言う。
「私にはアガートラームは使えないし、その資格はないの」
「資格ならあるだろ。まさかセレナがそんなことを思っているなんて言わないよな?」
「あなたにセレナの何がわかるの!」
「むっつりで、他人のベッドでオナ、ゴフっ!」
『駄目! 何言おうとしているんですか!……え? もしかして知ってたんですか! 見たんですか!』
セレナのマル秘行動を言い切ろうとしたが、セレナに顔面を殴られて口が塞がる。その後もセレナは顔を真っ赤にして、流の顔面を何度も殴っている。流は一度目以降は涼しい顔をして、攻撃を受けながら話を続けた。
本来なら霊体の奏とセレナの行動を口にすることは出来ない。
後に流が検証して知ったのだが、聞いた当事者が絶対にありえない。100%その人がそんなことをするわけが無いと思う事は、妄言として処理されるため言えることがわかった。
検証のためにセレナと奏が、恥ずか死しかけた事は言うまでもない。
「セレナがそんなことするはずないでしょ!」
『……うぅ、私だって女の子なのに、マリア姉さんは私を神聖化しすぎだよ。マリア姉さんだってオ、きゃあああああ!』
マリアの前でセレナのことを触るのは、何も無い空中を触っている変態に思われるから、流はセレナに反応しないつもりだった。だが、セレナが変な事を呟こうとしたので、セレナの頭を掴み、窓の向こうへぶん投げた。
「……えっと、何をやっているのかしら? 流は最近よく働いているわよね? 疲れているなら休むべきよ」
「いや、ちょっと悪霊がいたから、ぶん投げただけ」
セレナがすぐ戻ってきて、割とキレながら流の金的を狙ってきているので、セレナの両足を片手で掴んで離さないでおく。
『離して! 絶対許しません! 自分は勝手に見たのに!』
「そ、そう。辛くて他の人に言えないことでも、私に相談してくれてもいいからね? 私はあなたよりもお姉さんなのだから」
「年下に衣食住、洗濯から掃除まで養われる世界の歌姫マリアお姉さん」
「流が渡そうとしている生活費を受け取らないんじゃない!」
マリアの同情の目を
『キャアアアアアアア!! ごめんなさい! 痛い痛い! ふざけ過ぎました! やめてええええ!!』
「俺はフィーネの弟子で、了子ママはフィーネの
「気持ち悪い! なんでそんなにセレナの声真似が似ているの!? それ以前に何故あなたがセレナの声を知ってるの!」
マリアの可哀想な奴を見る目から、変人、変態を見る目に変わったが、流だって言えるのなら言いたい。セレナがここにいることを。
「秘密」
「……わかったわ、言えないってことね」
「ああそうだ。あとマリアが拒否しても、マリアが風呂入ってる時とか寝てる時に勝手に奪って、勝手に修繕するからね?」
「あの子達と比べて私の扱いが雑! そんなことしなくても渡すわよ。でも、大切に扱ってね」
マリアはポケットから、アガートラームのペンダントを取り出して彼は受け取った。
「ああ。完璧に直すと約束するよ」
その後、了子によって数日で修繕が終わり、アガートラームをマリアはすぐに纏うことが出来た。
受け取って初めて変身する時、セレナがマリアのアガートラームを持つ手を握っていて、一緒に聖詠を奏でていた。セレナは姉が同じモノを纏ってくれて、とても嬉しそうだった。
**********
「こんな事があって、マリアからガングニールのペンダントを貰った。これがあれば響もガングニールを使うことが出来るでしょ?」
「マリアさん、了子さんに先輩、本当にありがとうございます!」
「私も結果的に得したからお礼は不要よ。息子を一度使役できる権利……ふふふ」
「私はお願いされて渡しただけよ」
「俺が勝手にやっただけ……限度は守れよ?」
響のお礼をしっかり受け取る者はいなかった。皆捻くれているが、響は笑顔でもう一度頭を下げた。了子の顔は愉悦に歪む。
「さて、あらかたの問題は解決できたね。ネフィリムは後でやるとして、みんなは本当に小日向未来がシンフォギアを纏えるの? と疑問だと思う。とりあえず変身してもらおうか」
「……あの? なんで私はガングニールを纏って、未来と相対しているんですか?」
アニメとは違い、フィーネとの最終決戦で汚染されず、厳重立ち入り禁止区域になっていない元リディアン音楽院跡。しかし現在はまだ瓦礫が撤去されきっていないため、人が入り込まないよう立ち入り禁止区域に指定されている場所に一行は来ていた。
そこで理由をなんとなく察しているけど、詳しく説明されていない響が、未来と対峙している。
「響は未来を戦いに巻き込むのが嫌だった。なら、自分で確かめてみなよ。未来が巻き込まれても傷つかないほど強いってことを。他の装者が神獣鏡の攻撃を喰らいすぎちゃうと不味いし、響なら元々浴びせる気だから問題ないでしょ?」
未来の元にいる流が響に向かって叫ぶ。横にいる未来は不安げに流を見上げている。
「風鳴司令に鍛えてもらっている響と、戦いになりますかね?」
「大丈夫。神獣鏡には未来の戦いをアシストしてくれる機能があるから。さあ、linkerを打って、響が死ぬ可能性を取り除くために戦っておいで」
今の流はウェルとやっている事があまり変わらない。違うところをあげるとすれば、未来の意思をしっかり尊重したということだ。更に悪意ある意識の誘導をしていないし、変な考えをインストールもしていない。
「わ、わかりました。んっ……あっ、これを歌えばいいんですね。Rei shen shou jing rei zizzl」
未来に合わせたlinker、シンフォギア装者としての訓練、それにシンフォギアを纏うための想い、それらによってアニメの時と同等かそれ以上の力を持ち、未来は聖詠を歌い出す。
光に包まれて服が弾け飛び、展開されたギアが各所に装着されて、未来は地面から少し浮かんだ位置で現れた。
弦十郎クラスの反射神経があると、装者が変身する時に服が弾け飛ぶ、その一瞬に素肌を認識することが出来る。
もちろん流はガン見した。
「……これが神獣鏡ですか?」
神獣鏡を纏った未来は、アニメの時の病んでいる感じはなく、自分の体を見て少し顔を赤らめていた。流が胸を見ているせいなのだが、未来も未来で言い出せないでいる。
(男にシンフォギアを纏った姿を見られて赤らめる。そう、これこそが普通の反応だよな。ピチピチのアンダーだし……うん、よかったな翼。お前の方が胸があるぞ! 調は環境故にしょうがないね)
どうでもいい事を流は考えつつ、未来の周りを回って確認する。後頭部のギアもコードなどで無理やり繋がっていることもなく、ただのヘッドギアをつけているだけに見える。アニメのように無理やり剥がしたら脳を傷つけるなどはないようで安心した。これでも同じ機能があるはずなので、了子の技術力の高さには頭が上がらない。
アームドギアはやはり扇のようで、未来が手を離すと背後から浮いて付いてくる。
ちなみにこの戦いのあと、流は翼の不意打ちに会い、ボコボコにされた。何故かクリスと調も協力していたため、流は逃げきれなかった。
「そう、それが未来が響の隣で戦える力。ただし、響と比べて変身していられる時間に限りはあるし、出力も低い。でも神獣鏡の対異端技術への攻防はトップクラスの力を持ってるし、トリッキーな動きもできるはず。あと頭の中になんか思い浮かばない?」
未来は少し目を閉じると、何かが思い浮かんできたのか、目を開けて頷いた。
「戦い方みたいなものなら浮かんできました」
「神獣鏡にはある人の戦闘パターンが組み込んである。それを使ったり、隠密や分身なんかを駆使して響に隣で戦えるってことを証明してやろう!」
「はい!」
先程の会議に集まっていた人達は、ナスターシャ達が使っていた移動拠点をここに持ってきて、測定装置として使わせてもらっている。
流は審判をするつもりなので、少し離れて合図をかけた。流は神獣鏡の攻撃を受けたら、デュランダルや杖が消える危険性があるが、近くで見たいという欲求が勝った。
「では、始め!」
流の掛け声でガングニールの響と神獣鏡の未来による戦いが始まった。
「未来やめよう、危ないよ」
響が少しずつ未来の元へ近づいていく。その響が瞬きをして目を開けると、未来がいた場所には何も無かった。
「ふっ!」
「ガハッ!」
未来は響の瞬きの間に背後に回り込み、綺麗な構えで正拳突きを響の横っ腹に叩きつけた。その回り込みはまるでNINJAの瞬間移動のようだった。
「あっ、響! 言い忘れたけど、神獣鏡にインストールされている戦闘パターンは俺だから! 弦十郎謎武術と忍術が織り込まれてるから結構強いよ!」
神獣鏡はインストールされた戦闘パターンを装者に合わせて調整する。だから、未来とは身長も体重も違う流の動きでも、未来は完璧に使いこなせている。
「先輩! そういう事は先に言ってください!」
吹き飛ばされてすぐに立ち上がった響は、近くまで追撃に来ていた未来に全力で拳を放つ。
「え!?」
「それは分身だよ」
響を吹き飛ばした時点で、未来は神獣鏡の隠密と分身を発動させていた。響に分身を殴らせ、これを回避。その後、背後から現れた未来が扇で響をぶん殴った。
(何故未来はビーム系を使わないんだ?)
流は映画を見て、役に立つ扇の戦闘方法をパターンとして入れておいたが、今の未来なら感覚でビームやらをバシバシ出せるはずだ。
「ごめん未来、手加減はできそうにないよ!」
響はダメージを負っているのを隠し、すぐに立ち上がると、構えを取って正面にいる未来を警戒する。
「私が何度も近接で来たから、近接でもう一度来ると思ったんだよね? 響の考える事なら手に取るようにわかるよ」
響は声のした方を見ると、足のギアから展開した、未来の体よりも大きな、中身をくり抜いた鏡を構えて紫のエネルギーをチャージしている。立ち上がってはじめに響が見ていた未来は分身だったようだ。
「行くよ、響!」
「未来!!」
【流星】
未来が極太レーザーを放つ。響はパワージャッキで動きをブーストし、強引にレーザーを打ち破って未来の元に向かう気なのか、光線に向かって突っ込んだ。
ガングニールのギアが少しずつ解けていくが、ギアが分解される前に未来の元へ届きそうな勢いだ。
「ふふふ、響なら来てくれるって信じた!」
「ぐああああ!!」
響が流星を半分ほど押し込んだあたりで、地面ギリギリに浮いていた、いくつものミラーデバイスから響の背中に光線が放たれた。
【混沌】
背中からの攻撃で体勢を崩した響は、そのまま流星に飲み込まれた。
「対戦終了!」
「分かってます。大丈夫ですよ。必要以上に響を痛めつけたりなんてしませんから」
響が流星に飲み込まれてすぐに攻撃を終了して、神獣鏡のシンフォギアを解除した未来が、響の元へ向かった。
「ここまで裏をかけるのは響だけだと思うけど、ヤバすぎ……まじヤバすぎ」
モニターで戦いを見ていた大人や、響の強さを知っている翼とクリスは開いた口が塞がらない状態になり、大人以外のF.I.S.組は真に逆らってはいけない人が誰なのか理解した。
流は顔を引きつらせながら、二人の元に駆けた。