ネフィリム観察日記。
流がネフィリムを両手で挟むと、基底状態だったネフィリムが起動した。これで流はインプリンティングで襲われないはず。でも、なんで挟むだけでネフィリムを起動できるのか分からない。フォニックゲインは? 絶唱レベルのエネルギーは? フィーネ……了子も分からない事の一つみたい。
とても小さいネフィリムに、流は聖遺物の欠片を粉にしたものを与えていると、すぐに手のひら大になった。そこからは欠片を砕いた物をあげている。
ネフィリムは順調に大きくなって、中型犬くらいの大きさになった。流から感じ取った聖遺物の匂いに釣られて(流が言ってた)、ネフィリムが流の指を噛み砕こうとした。流はその噛みつきに合わせて殴って、何度もいけない事だと言いながら躾ていた。
犬サイズだけど、完全聖遺物を本当の犬のように躾ているのを見て、私の常識が崩れそうだった。クリス先輩が諦めろって言っていた。その日は流と一緒におさんどんをした。やっぱりできる人がいると効率が違う。
大型犬を超えて人サイズになったネフィリムは、躾の怖さを乗り越えたみたいで流に不意打ちで噛みついた。私は柄にもなく焦って大声をあげちゃったけど、流には当然バレていて、体の形が変わるくらい殴られて、ネフィリムの顔が酷い崩れ方をしていた。切ちゃんが書いたマムくらい崩れていた。
流が「アニメサイズになったか」と言っているのを聞いた。アニメサイズ? イマイチわからなかったけど、ネフィリムは流の殺気を感じ取ったようで、本気で流に攻撃を始めた。
でも人間とは思えない硬さ(戦闘中には体が硬くなるらしい)の拳で、今度は流が本気で殴り倒したみたいで、犬と同じようなお腹をさらけ出す服従のポーズを取らせていた。セレナが命を懸けて基底状態にしてくれたのに、それを子供を叱るように躾ていた。
あまりにも簡単に服従させていて、何だか悔しさで涙を流してしまったけど、流は優しく慰めてくれて、私のために、私だけに作ってくれたプリンアラモードはとても美味しかった。切ちゃんが勝手にちょっと食べてしまい喧嘩した。もちろん私の勝ち。
それは嘘デス!
流が言っていたアニメサイズより少し大きくなると、流はネフィリムを殺して心臓を摘出する事にしたみたい。
「ネフィリム、お前を今から殺す。殺されたくなければ本気で俺を殺しに来い」
流がそんな事を言うと、私は離れたところにいるのに、ネフィリムが放った本気の威嚇で腰を抜かしてしまった。今までで一番早くて力強い攻撃をしていたけど、流には効かなくて、ネフィリムは足を砕かれ手を潰され、顔がぐちゃぐちゃに……気持ち悪かった。えっと、動けなくなったネフィリムの胸から、流は心臓を抉りとっていた。
その心臓はそれだけでも動力源になるので、これでフロンティア計画を進められる。その日はお肉が口を通ってくれなくて吐いちゃったけど、流が食べやすいリゾットを作ってくれて、グロいものを見せたことを謝ってきた。そのリゾットが美味しかったから許してあげた。また切ちゃんが勝手に食べた。今度こそ私の勝ち。
クリス先輩を味方につけるズルをしたじゃないデスか! 無効デス!
月読調
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未来との戦いで流星を打ち込まれた響は、特に体に傷をつけることなく、体内の侵食していたガングニールの欠片が、綺麗になくなっていた。
その後すぐにネフィリムの育成が開始され、流がメインで装者や弦十郎達がローテーションで立ち会った。流は付きっきりで育てたが、全く情も愛着も湧かないようで、容赦なく成長したネフィリムから心臓を摘出した。
それと同時に政治的なやり取りが繰り広げられていた。
日本政府は正式にアメリカへ非難声明を出した。アメリカ上層部は月の落下を秘匿し、日本近海に沈んでいる古代遺跡で宇宙へ逃げようとした事を各国に公表した。各国は物は違えど、何らかの異端技術研究をしているので理解したが、一般人は理解ができないため、国上層部だけで扱う情報となった。
アメリカはそれを日本の虚偽として、逆に名誉、国威を侵害されたとして賠償を要求しようとしたが、生化学で有名なウェル博士や歌姫マリアが亡命して、その情報を命懸けでもたらした事を日本が公表した。国連所属の国全てに詳細が公開された。なお、マリア達が反逆者になるシナリオまでは、公開されていない。
マリア・カデンツァヴナ・イヴ、月読調、暁切歌、ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ、ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクスは世界の危機を事前に察知して、救う手立てを組み上げた英雄として、国際的に表彰されることになった。
アメリカは不利を悟り、フロンティアを何とか起動させて逃げるべく、日本にいるF.I.S.の人達から、起動に必要なものを奪い取ろうとエージェントを向かわせた。全てのエージェントは順番に、
日本は改良版フロンティア計画を国連に提出し、国連はこれを受諾。フロンティアは日本の所有物になる運びになったが、それを日本が一部拒否し、優先権を放棄はしないが国連の監視下に置くことを要請した。
日本はフロンティアなどという強大すぎるオーバーテクノロジーは、一国で持つとそれだけで多大な争いを生むとして、そのような処置を取った。争いが起きた時の国防面における問題と、国連に貸しを作るのが目的だと考えられている。
そんな行動もあのフィーネを打ち倒した、シンフォギアがあるための強気な行いだった。シンフォギアの秘匿をさらに強めようと、国内部が動き出した。
だが、日本のシンフォギア装者四人とF.I.S.のシンフォギア装者三人がバレてしまった。何者かがその情報を国連にチクったようで、日本は人物の秘匿を諦め、技術の結晶を盗まれないように力を入れる事にした。
当初、二課内でバラしたのは流では? と疑われていたが、欧州の方からの情報提供だと判明したので、流は牢屋から出された。
アメリカは最後の賭けとして、浮上したフロンティアを乗っ取ろうと軍艦を動かそうとした。しかし、国連がそれを許すわけもなく、軍事活動を行う場合、粛清に出ると言われてしまい、アメリカは何も出来なくなった。
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「まずは未来くんが流星と、混沌をシャトルマーカーで反射させたものを放ち、フロンティアの封印を解く。重大な役目を押し付けてしまう形になるが、よろしく頼む」
「はい」
今二課はフロンティアの沈んでいるポイントのすぐ目の前に来ている。ここまでは仮設本部の潜水艦で来て、この場所に停泊している空母に乗り換えて、今甲板には二課の主要メンバーが揃っている。
友里や藤尭などは潜水艦の中で常に装者のバイタルを確認するために残っていて、シンフォギア装者と弦十郎と流と了子がこの場にいる。緒川は遊撃として、どこかに潜んでいる。
フロンティアの出現位置を除いたこの海域には、様々な国の船が来ていて、フロンティアを、そしてシンフォギアを監視しに来ている。もちろん上空にはフロンティアの浮上を邪魔しないように、各国の飛行機やヘリが飛び回っている。
流は響からガングニールのペンダント、マリアから受け継がれた物を一時的に預かっている。未来が甲板のギリギリにいて、その横には響が寄りそうように立っている。
もし間違ってガングニールを神獣鏡の光線に巻き込んだら、洒落にならないので、このような対策が取られた。その二人から少し離れたところには、クリスと翼がシンフォギアを纏って周囲を警戒している。マリアと調と切歌はいつでもlinkerを打って、変身できるように構えている。
流は決して光線が当たってはいけない。流の左手親指についている指輪は多分聖遺物なので、それを分解されたら奏やセレナと話せなくなるし、流の体にはデュランダルの欠片と、ソロモンの杖が融合されているので、下手に聖遺物を強制分解されると肉体が崩壊する。
そんな流は上空を飛び回るヘリの一機に乗って、周りを警戒している。いつ錬金術師セイントが現れてもいいように、全力で警戒している。
「本当に、本当に大丈夫なんだよね?」
「響は心配しすぎだよ。行って!」
未来はミラーデバイスを所定の場所に向かわせて、足のギアから大型のミラーを展開する。
ミラーデバイスから放たれる混沌は威力自体は低いが、それを収束させ、流星と合わせてフロンティアに打ち込む。
前までなら心配する未来と心配される響だったが、今は逆の立場で、響が慌てまくっている。未来はチャージが完了すると無線で指示を仰ぐ。
『……浮遊式反射鏡シャトルマーカーの角度、オールグリーンです。いつでもどうぞ』
未来は藤尭の言葉に頷き、響と手を繋ぎながら歌を紡ぐ。サビに突入した時に、未来と響が叫んだ。
「「いけえええええええ!!」」
【混沌】
【流星】
流星の邪魔にならない角度で混沌が発射され、シャトルマーカーによって一筋の光に束ねられる。そしてフロンティアの沈んでいる場所に掃射され、流星は未来の位置から直接放たれて、収束混沌と流星は同時に海の中に消えていった。
すぐに海底から強烈な光が放たれ始め、その光が収まると、海底からフロンティアという巨大な星間航行船の一部がゆっくり上がってきた。
「未来!」
「響!」
作戦の第一段階成功に喜び勇む二人の元に流は飛び降りた。
「おめでとう。ガングニールを返しておくぞ」
「……もう少し感動を分かち合う時間をくれても良かったと思います」
「まあまあ。うちのガングニールがお世話になりました!」
未来が不貞腐れているが、未だ響と抱き合ってあるので、その顔に険しさはない。
「ライブは後日だから帰ろう。あまりここに装者がいるのも良くないしね」
露骨に装者を狙っている国はいないが、ふとした拍子に鉛玉のバーゲンセールが起こる可能性もあるので、空母にいる響と未来、翼とクリスはすぐに仮設本部である潜水艦に戻った。
流が戻らないことは作戦の一部だが、クリスが心配げな顔でこちらを眺めていたので、手を振って見送った。
「要らぬ混乱を招かない為に少ない方がいい。マリアくん、頼む」
「わかりました」
空母に持ち込んでおいたエアキャリアに、流と弦十郎と了子、あとはF.I.S.の装者達が乗り込み、マリアの操縦でフロンティアに乗り込んだ。
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「まずはジェネレータールームのコアにネフィリムの心臓を融合させて、フロンティアを起動させちゃいましょうね」
「了子くんはあまり目立たないようにしてくれ。ここにはいないことになっているのだからな」
了子がフィーネの意識を持ったまま生きている事は、日本の二課に近い部分でしか知られていない。国のトップ達はフィーネの被害者であり、利用できる存在としての認識しかない。そして世界へはフィーネの肉体諸共死んだことになっている。
この了子はアニメと違い、了子とフィーネをしっかり分けていた。暗躍はフィーネ、二課で母親をするのは了子と切り替えていたので、日本以外ではフィーネイコール了子の考えは普通出てこない。
「私は解説くらいしかやることないんだし、別にいいじゃない。ここには私達以外は入ってこないことですし」
「でも、なんで他の国の人達は入って来ないのデスか?」
「切ちゃん、それは説明されたよ」
「え? あっ! 覚えているデスよ! 確認の意味も込めてあえて言っただけデスからね!」
切歌の言う通り、フロンティアに上陸した人間はここにいる人以外だと、アニメでクリスと翼が戦った所にダミーカンパニーの人達がいるくらいだ。
当初は改良版フロンティア計画に必要ではない、各国の代表を出して、このタイミングで上陸しようとしていた。だが、もしフロンティア計画の要が盗まれたりでもしたら地球が滅びる。
このフロンティアを私的に利用する可能性はどの国にもあるので、各国は互いに牽制状態になり、改良版フロンティア計画が終わるまでは上陸しない契約が結ばれた。
「本来なら世界の反逆者となった私達がいるはずだったのに、不思議なものね」
「それをさせないために俺は色々やったんだし、一々IFなんて考えなくていいから。にしても、誰がシンフォギア装者を公開したんだろうな」
「流はわからないのよね?」
マリアがアニメのような事を想像し始めたので、流はすぐに止めさせて、未だ答えの出ていない問題を口にする。
「ああ、これはわからない」
アニメ知識ではフロンティア事変の後にあった、シャトル救出でバレてしまったので、今回のようなことはない。
だからといって、バラした人が思い浮かばないかといえば嘘になる。流の頭にセイントと名乗る女性が頭を掠めるが、確実ではない情報で混乱させるのも良くないので、言うのを控えている。
「……ごめんなさい。私はその犯人に心当たりあるわ」
「なんだと! 何故前に言ってくれなかった? いや、あえて言わない選択を取ったのか」
ジェネレータールームに向かっている足をマリアは止めて、俯きながら告白をした。弦十郎は言っている途中でマリアの意図を察する。
「ええ、私達は流と弦十郎、あとは
「あれ? 私は? ねえ、私は?」
「ごめんなさい」
「デース……」
マリアに続いて、調と切歌が頭を下げた。特にスタッフと積極的に会話をしていた、切歌はつらそうな顔をしている。そんな切歌の頭を弦十郎が優しく撫でてあげる。
了子は当然まだ信じられていないのだが、自分だけハブかれたことに落ち込んでいる。流も弦十郎も放置することに決めた。
「いや、内部にスパイが入り込まれている可能性はあった。ルナアタックの時だって、内部による犯行だったしな」
「それを言われちゃうと、私はすこーし反応に困っちゃうわね」
弦十郎の言葉に了子を苦笑いを浮かべ、流はそっぽを向く。マリアも了子の軽いノリに、硬かった表情から軽く笑みを浮かべて、思い当たる節を口にする。
「パヴァリア光明結社。月の落下についての隠蔽に関わったであろう組織で、私達がフィーネとして動こうとしたきっかけ、後押しをしてきた秘密結社よ」
「パヴァリア光明結社……欧州の闇であり、その組織の起源は数百年前とまで言われているな」
「フィーネとしての私からしたらまだまだ子供よね。でも、その組織名はいつの時代かに聞いた気がするのよね……思い出せないってことは、その時の私にとっては取るに足らなかったのでしょうね」
さらっと了子が年増発言をして考え込むが、やはり興味がなかったようで覚えていなかった。フィーネは基本的にどうでもいい事は覚える気がない。利用していたF.I.S.の組織名ですら、どうでもよかったのだから相当である。
流は欧州という言葉で錬金術を連想し、キャロル達やセイントを思い出す。
「あの組織なら私達の事はもちろん知っているでしょうし、日本のシンフォギア装者を知っていてもおかしくないわ」
「この後は国連直轄の組織になるだろうが、ガワが変わるが中身は早々変わらんだろう。国際的な異端技術の事件に介入しないといけなくなる。きっといつかは相対するだろうな」
「ま、異端技術の事件で放置していいものなんてないからしょうがないわね。大抵は世界に何らかの影響を与えるのが、異端技術ですもの」
「フィーネママみたいにね」
「異端技術の塊がよく言うわ」
位相が違う、ノイズに触れる、デュランダルの融合症例、ソロモンの杖の完全融合症例。二課は確かにシンフォギア装者がバレてしまい、少女達が更に大変な目に会うので心配しているが、流の事が流出しなくてホッとしていた。
流は上記にプラスして、弦十郎と同じように憲法に接触する単独戦力であり、忍術も覚えていて、フィーネの独自言語を理解しているやばい存在だ。
本人は弦十郎やセイントよりも弱いと認識しているので、そこまでおかしいとは思っていない。
それから少しすると、ジェネレーターのある部屋に到着した。部屋の中心には丸いスフィアがあり、その周りを結晶が囲んでいる。
「融合させるよ?」
「いいぞ」
「いいか、勝手にフロンティアを乗っ取ろうとするなよ? 心臓の姿で生かしてやってるけど、本当に死にたくないなら、俺に従え。ちょくちょく会いに来てやる」
流は心臓でしかないネフィリムに意識があるとは思っていないが、一応脅しておく。脅した時に左手が一瞬光った気もするが、スフィアに心臓を融合させた時に発生した光に気を取られて、認識出来なかった。
スフィアを囲んでいた結晶の中を光が通り、フロンティア内を循環する。結晶はエネルギー導管の役割があるらしい。
「凄いデス」
「本当にネフィリムの心臓で、このフロンティアを維持するエネルギーを賄えるのね」
「綺麗」
流はスフィアをぺたぺたと触るが、今まで聖遺物に触れると、使い方やその他情報が頭に浮かんできたが、フロンティアからは何も感じない。
「……起動もできたし、制御室に行って月の軌道修正システムについて確認してから帰ろうか」
「そこら辺はこのできる女に任せなさい。パパっと見つけてあげるわよ!」
「頼りにしているぞ、了子くん」
了子は胸を張って宣言して、チラチラ弦十郎を見ているが、いつも通りの返しで少しだけ了子のテンションは下がった。
この後制御室に行き、了子がすぐに月の軌道修正プログラムを見つけ出し、やはり大量のフォニックゲインが必要な事が分かった。
国連に色々弄られるのは嫌なので、管理者権限を流と了子と弦十郎とマリアに渡し、それ以外は表面しか触れないような設定を施した。