戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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今回と次回はシリアスなし?の日常回です。GXが戦闘ばかりなので調整と、しないでやっていたイベントの消化です。

後書きにこの作品が4期を書いた場合の方針、若干のネタバレがありますので、それらが嫌な方は後書きを見ないことを推奨します。


#35『家事をしないお正月』

「なあ、何がいいと思う?」

 

『もう少し主語を足せ』

 

「ああ、クリスの誕生日プレゼント。クリスマスが24日25日だろ? クリスの誕生日は28日なんだよ。クリスマスは各人の好みに合わせたお菓子のバケットをあげるとして、クリスの誕生日はどうしようかなって」

 

 9月にあった響の誕生日は、響の注文に答えた大量のご飯&ご飯がプレゼント。11月にあった未来の誕生日はホテルで響とディナーに行かせた。もちろん昼間に盛大にお祝いした後でだ。

 

『んなの、いつもみたいに適当に決めればいいじゃねえか』

 

『恋しちゃってますからね』

 

「適当は駄目でしょ。恋とか何それ? って感じなんだけど」

 

『あー、そうですか。意識的に感情を押さえ込んでいるんですね。クリスさんに聞いてみては?』

 

 セレナはつまらなそうに、流の頬をつついている。流はクリスに向きそうな感情から無理やり目を背ける。今その感情に身を委ねると、流は弱くなりそうな気がするからだ。

 

「何となく、サプライズにしたいんだよね。あとクリスとクリスマスって音同じだな」

 

 クリスマスプレゼント用の材料を選びながら、流は奏とセレナに相談をしていた。クリスマスはもう間もなくだ。

 

 

 **********

 

 

「父さん」

 

「なんだ? それ右な」

 

「わかってる。いやさ、二課は日本の特務機関だったし、色々無理を通せたのはわかるんだけど」

 

「ああ」

 

「再編成された国連直轄のS.O.N.G.でクリスマスパーティーってやってもいいの?」

 

「ははははは、了子くんが全てやってくれたわ!」

 

 流と弦十郎、それにいつもバックで色々補佐をしてくれているスタッフ達は、S.O.N.G.の次元式潜水艦、仮設本部の中にある、レクリエーションルームでクリスマスの飾り付けをしていた。

 弦十郎はハット帽を被り、流はサンタの帽子を頭に乗せながら、縦横無尽に飾り付けを行っている。

 

「それデータの改竄とかだよね? え? 父さんってそういう不正は嫌いだろ!?」

 

「いやいや、慰安も大事だからな。一般企業もスタッフの連携を高めるために、レクリエーションをしたりするだろ? それと一緒だ」

 

「だったら、なんで了子ママにやらせたの?」

 

「えーっとな……面倒な上司を通さないで出来るって言われたからよ。わかるだろ? 一々国連側に報告しないといけないって意外と面倒なんだぞ? あと他にも色々とな?」

 

 流は弦十郎が心配しているのは国連の方ではなく、風鳴の上の奴らに、許可を取らないといけないのだろうと理解した。

 父親と息子の語らいを少し離れたところから見ている人たちがいる。

 

「司令や流くんがいると、高い位置の飾り付けに脚立要らずで楽ですね」

 

「あんまり二人を酷使すると、クリスちゃんと了子さんに怒られるわよ」

 

「いやいや、流くんはわからないけど、司令がやりたがってるんだから、大丈夫ですって。このくらいじゃ了子さんもクリスも怒りませんよ」

 

 飾り付けのまとめ役をやっている友里と藤尭が、温かいものを飲みながら休憩している。

 入口横で休憩している二人の元に、了子がいきなりやってきた。ちなみに了子は今日、休暇をもらっているのに何故かここにいる。

 

「藤尭はまだ元気なようだし、ツリーの搬入に行ってきなさい。一人で」

 

「あー……わかりま、あれ? 待ってください! ツリー搬入の情報見ましたけど、搬入用機材が一つもないんですけど! 人名なんですけど!」

 

 藤尭は情報端末を見ると、巨大なクリスマスツリーに使われる搬入用機材の項目に『風鳴弦十郎』『風鳴流』と書いてあった。他の所の同じ項目を見ると、クレーンやトラックなどと書いてある場所に、人物名が書いてある。

 

「私の弦十郎くんや息子の流をこき使ってるんだから、二人がやるはずだった仕事を貴方がやってもいいでしょ?」

 

「友里さん!」

 

「了子さん、私は別の場所で仕事がありますので、行ってきます」

 

 友里は既に離れた場所にいて、了子に敬礼をすると、足早にその場を去った。

 

「行ってらっしゃい。さあ、藤尭も行く!」

 

「助けて! 流くん!!」

 

 高速フラグメイカー(藤尭)は何とかツリーを一人で運ぼうとしたが、やはり普通の人間には動かすことが出来なかった。電話で(普通ではない人)に泣きつき、クリスマスツリーを運んでもらったのだった。

 

「ねえ、僕も映画を見て鍛えれば、このツリーを運べるようになるかな?」

 

「シンフォギア装者にボコボコにされるよりも辛い苦しみを数百回耐えられるなら行けるかな? 挑戦する?」

 

「……僕は一般スタッフでいいや」

 

 この後、流は藤尭と一緒に作業して、藤尭は既に流の事を友達だと思っていた事が判明した。流は初の男友達を手に入れることが出来て歓喜した。

 

 

 **********

 

 

「クリスマスパーティーをこれより開催する! それと同時に、クリスくんの誕生日会も同時開催だ! クリスくん誕生日おめでとう、乾杯!」

 

『『「「「「乾杯!」」」」』』

 

 クリスマスパーティー兼クリスの誕生日会がイブの日に幕を開けた。

 主賓のクリスはまずは大人達の元に連れて行かれ、揉みくちゃにされている。

 

「こういう騒がしいのも良い物だな」

 

「クリスちゃんも楽しそうで……今、了子さんのこと殴ったよね!?」

 

「どうせママがセクハラしたんだろ」

 

 マリアと調と切歌はちょうど、S.O.N.G.のほぼ全ての人が集まっているので、挨拶回りをしていて、端の人から順番に自己紹介と挨拶をしている。

 

「やはりこういう催しはやった方が良かったのかもしれぬな」

 

「……去年とか、それ以前はやってなかったんですか?」

 

「俺と翼が絶縁状態だったから、父さんとかは空気を読んでここまで大きなものはやってないね。軽くお祝いくらいはしたけど」

 

『仇を見る目で見てたもんな』

 

『でも今は結構仲いいですよね』

 

『そりゃ、私が繋いだ絆だからな。私関係の問題が解決したから、昔みたいな仲の良さに戻ったんだよ。一緒に川の字で寝る関係にな』

 

「私が二課に来た時は『あんな者と関わるな!』って私を引き離してましたもんね」

 

 響は剣を相手に突きつける(翼のいつもの)ポーズをしながら、翼の声真似をした。流は吹き出してしまい、翼にスネを蹴られた。

 奏が懐かしむように、セレナに語っているが、聞いている流は少し小っ恥ずかしい思いになる。

 

「そうだったの? 私が来た時は流さんも翼さんも仲良くしてたけど」

 

「あの後色々あったのだ。なあ」

 

「ああ、翼が俺にボコられてデレた」

 

「待て、確かにあの時に比べてデレたという表現には間違いない。だが、しっかり説明をしろ! 誤解を生むような表現は慎むべきだ!」

 

 流はオーディンとして翼を病院送りにし、その後屋上で若干隠していることはあるが、奏に関するわだかまりは解消した。絶縁状態の時に比べて翼はデレているが、その言い方では誤解を産み、下手したら翼はクリスにぼこぼこにされるので、急いで訂正させる。

 

「お化け屋敷が怖くて一人では寝れなかった翼。『奏……一緒に寝てもいい?』なんて言ってた、あの時の翼に戻っただけだもんな!」

 

 マリアにキモいと言われた、緒川家忍術の一つ、声真似で当時の、今と比べて高めの翼ボイスを真似した。

 

「貴様!!」

 

 翼がペンダントを外して、聖詠を口ずさもうとしたが、掲げていたペンダントは未来に取られた。

 

「パーティーの場で、変身は駄目ですよって言いましたよね?」

 

「……すまない」

 

「流さんも反省してないなら、神獣鏡の光線を浴びせますよ?」

 

「まじごめんなさい。それガチで死んじゃいますから」

 

 クリスやマリア達が来るまで、その場の空気はとても重かった。

 

 

 

「了子が既にべろんべろんで酷い目にあったわ」

 

「酔ってるママの方には絶対に行かないからな!」

 

 クリスの言葉に流は先手を打っておいた。

 了子は息子とも飲みたいと言っているが、流は飲むと不味い事になる事を翼から聞いたので、絶対に大人達が集まってる方には行かない。

 酔うとどう不味いのかは、翼は教えてくれなかった。

 

「F.I.S.と研究テーマは類似するのに、全然スタッフの方々の気性が違うのね。皆とても優しい人達だったわ」

 

「クリスマスプレゼントとして、沢山お菓子をもらった」

 

「お菓子がいっぱいデス! でも、食べさせられたドリアンは……うっぷ」

 

 誰かが調子に乗って、ドリアンなどの珍味を頼んだのだろう。切歌が臭いも味もあまり合わなかったようで、口を抑えている。調もいつもに比べて、切歌から少しだけ距離を離している。

 

「ここにいる人達は、弦十郎父さんや緒川父さんが人柄を見て入れてるからね。屑みたいなやつはその時点で弾かれるし」

 

「……フィーネは?」

 

「櫻井了子を演じている時はいい人だしね。てか、既に内部にいた時に、フィーネとして復活したから、流石に無理でしょ」

 

 流がマリアと話していると、調が流の服の端を引っ張っているのでそちらを向く。

 

「流、飲み物あげる。一気飲みが良いらしい」

 

「イタズラしてないよね?」

 

「混ぜたりしてない」

 

「それは私も保証するデース!」

 

「切歌の念押しとか逆に不安になるわ。いただきます」

 

「何ですと!?」

 

 流は了子の事をフォローしつつ、調が持ってきてくれた飲み物を一息に飲んだ。

 

「これ……めっちゃ強い、お酒、じゃん」

 

 流は酔う以前にアルコールで意識が朦朧とし、すぐに気を失った。流は酒には弱いが、一杯を一気飲みした程度ではぶっ倒れたりしない。後で聞いたところ、弦十郎(人外)を酔わせるために調合した了子謹製の酒だったらしい。

 

 

 

 流は医療室のベッドに運ばれて寝ていた。その横には調と切歌が座って項垂れている。ちなみにクリスは二人に譲ってあげたらしい。

 二人によると、1時間ほどで起きたようだが、調も切歌も元気を失っている。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」

 

「ごめんなさい。悪気は本当になかったデスよ……」

 

「いや、大丈夫だから。はっちゃけたママのせいだし」

 

 了子は風鳴八紘の酔っ払い方を聞き、弦十郎も酷い酔い方をするのではないか? と考え、酒を作ったようだ。いきなり弦十郎で試すのもリスクが大きいので、酒には弱いけど、身体機能でどうとでもなる流で試すことにした。

 

 流はそこまで危険ではない了子の実験によく付き合っている。結果的にローリスクハイリターンなものばかりなので、手伝っていたが、酒関係は拒否していた。翼の言葉がチラつくからだ。

 今回はちょうどパーティーが開かれ、調と切歌に流は弱いことは分かっていたので『流の好きな飲み物』と言って、運ばせたらしい。

 

 現在了子の研究室にあった酒は全て破壊(物理的)され、了子自身は拘束されて、何も出来ない状態で放置されているらしい。了子に一番効くのは放置なので、なかなか堪えていると聞いた。

 

「でも危険なことをしたのは事実」

 

「流が倒れたのなんて初めて見たデス」

 

 相当落ち込んでいるのか、有耶無耶では終わらせられないようだ。打開案を考えていると、少しずつ了子への鬱憤が溜まっていくが気を逸らし、二人への提案を思いつく。

 

「……わかった。なら、二人にはこれからやってもらいたい事がある」

 

「なに?」

 

「何でも言う事聞くデスよ!」

 

「これからも俺に沢山迷惑をかけて、色んなお願いをしろ。もちろん危険な事でどうしても必要なら、許可を取れよ」

 

 マリアも調も切歌も流の家に来てから、やりたい事を願ったことはあまりない。クリスがお願いをし過ぎなだけなのだが、流の中ではクリスくらいの頻度が標準になっている。

 切歌が夕食のメニューに口を出したりする程度で、調など全くお願いしていなかった。ちなみにマリアのお願いで一番多いのは、トマトを事前に入れないでほしいというものだ。

 

「それがやってほしい事?」

 

「罰になってませんよね?」

 

「罰になってないかもしれないけど、俺は他の人に世話をするのが好きみたいだからね。翼は迷惑かけないし、クリスのお願いはじゃれてくるものが大半……でも、俺がマゾって事ではないぞ? 可愛い子達の世話がしたいだけ。さあ、やるのかやらないのか、どっち?」

 

「わかった。出来るだけ迷惑をかける」

 

「わかりました! 遠慮せず沢山お願いするデス! まずはクリスマスプレゼントが欲しいデスよ!」

 

「各人の部屋にそれぞれが好きなお菓子の詰め合わせが置いてあるよ。もちろん自家製。来年からは事前に欲しい物を言っておいてくれれば、枕元に置いておくから」

 

「早く見に行こ!」

 

「デスね、早く帰りましょう!」

 

 流はベッドから起き上がると、二人と手を繋いで、家まで走って帰った。急かす二人の願いを聞いて、二人を脇に抱えてビルの上を駆けた。マリアとは違い、アトラクションとして楽しんでいた。

 脇に抱えるということは、胴を持つということだ。流にも役得(胸タッチ)があったので、了子に少し感謝した。

 

 

 

 クリスとマリアも心配して残っていたようだが、置いていってしまい咎められるが、流は笑顔でお説教を受けた。

 

 

 **********

 

 

「切歌、みかん取ってちょうだい」

 

「マリアの方が近いじゃないデスか」

 

「ラストいただき」

 

「ちょっと、今私取ろうとしたわよね?」

 

「早い者勝ちだろ? マリアが遅かったのが悪い。調、ティッシュ取ってくれ」

 

「クリスは少し手を伸ばせば取れるはず。寒いから無理」

 

「流、ミカンが切れたから補充を頼む!」

 

 12月31日。今年最後の日は皆が流の家に集まった。響はおせちを食べるために、未来はその調理過程を見るために、翼は色々ありこの場にいる。翼もマリアも年末に仕事は受けていないようで、コタツで寛いでいる。

 おせちを作っている流に、コタツとぬくぬくやってる翼が命令してきた。

 

 装者達は皆がこたつに入って寛いでいる。調は調理の手伝いをしていたが、少し休憩するためにこたつに入った。

 

「流先輩! おせんべいってまだありますか?」

 

「響、こっち向いて。お煎餅のカスがついてるよ。取ってあげる」

 

「ありがと未来」

 

「どういたしまして」

 

 他に比べて響と未来の距離が近すぎる気がするが、それが当たり前になりつつあり、指摘する人は誰もいない。何故スペースは十分にあるのに、足をぴったりくっつけているのか。

 

「お茶のお代わりが欲しいデース! 我がままを言いまくるデスよ!」

 

「ちょっと調、廊下を歩いて冷えた足を私にくっつけないで」

 

「マリアは温かい」

 

「ちょっと、なんで翼まで付けてくるのよ!」

 

「月読が温かいと言っていたから、試してみようと」

 

「流、ミカンまだか?」

 

「ちょっと待って。今手が離せないの。ジャンケンで誰かをコタツから出せばいいだろ」

 

 流はおせち料理をここにいる人の分と親三人、S.O.N.G.の人達へのお裾分け分も作っているので、割と余裕が無い。

 

「だとよ」

 

「いざ尋常に勝負! 今度こそ勝つ!」

 

「「「「ジャンケンポン!」」」」

 

「また私の負けだというのか!」

 

 歌えば軍隊だって吹っ飛ばせる装者達だが、こたつの誘惑には勝てず、ジャンケンで負けた者が足りない物を取りに行くことになった。

 結果は翼の一人負け。翼以外はみんなが『グー』を出して、翼は自分の思うカッコイイ『チョキ』(銃の指の立て方)で負けていた。これで三度目である。

 

『えーと、斬撃武器使いはチョキを出す統計が出てるんだっけ?』

 

『それなら調ちゃんも切歌ちゃんもチョキじゃないんですか?』

 

『翼は単純だからな。こういう時に頭を全く使わないからこうなる』

 

『なるほど』

 

「……流、ミカンが箱に入っていないのだが、どこにあるのだろうか」

 

「ベランダにあるけど……結構重いよ? 持てる?」

 

「防人を舐めてもらっては困る」

 

 翼は一人で寒さの厳しいベランダに出ていった。窓が空いた時に冷たい風が室内に入り、こたつに入っている乙女達は更に体を縮こませる。

 

「奏は監視してきて。無理してたら呼んでくれ」

 

『過保護だな。本当に』

 

 流の指示に従って、奏は翼を見に行った。

 

『ニシンの昆布巻きの水がなくなりかけてますよ』

 

「ありがとう。今足す」

 

「こんなにミカンを食べ切れるのか? まだ相当数あったぞ」

 

「家に乙女が多いから余裕。みんな果物ならぺろっと食うし。俺が料理に使ったりするから」

 

 鍛えているだけあって、翼は平然とみかん箱を持ってきた。翼の担いでいるダンボールの上に、奏が座っていた。

 

(何やってんだよ)

 

「あのさ、紅白かまぼこの飾り切りはウサギだけでいいよね?」

 

 流はまだ終えていない作業を頭に浮かべる。かまぼこは後でも出来るので放置していたが、量が多いのでそろそろやらなくてはと思い、飾り切りについてみんなに聞く。

 

「何ですかそれ?」

 

 日本人で正月に食べてきたはずの響から疑問の声が上がった。周りもイマイチ分からないようだ。

 

「飾り切りというのは言葉通り、人参を梅の花の形に切ったりするの。かまぼこなら結びかまぼことか松葉なんかもあるけど、流も私も沢山作らないといけないから大変。一番簡単なのがうさぎ。切ってクルっとねじ曲げるだけだから」

 

 調が手で動きをつけながら説明した。この中で料理ができるのは流と調だけだ。マリアは細かい調整などをやらせなければ十分だが日本料理には詳しくなく、未来は切ったりする程度なら問題ない。味付けをさせてはいけない。

 だが、おせちは同時並行で動き回らないといけないので、調以外は邪魔になる。今キッチンに立つ許可を得ているのは調だけだ。

 

「うさぎだけでは寂しくはないか? 松くらいあったほうが」

 

「「無理!」」

 

 かまぼこの飾り切り『松』とは、合計20回ほど包丁で線を入れ、切り込みすべてを織り込まないといけないとても面倒な飾り切りの事だ。リアルにやってもマジ大変。

 翼は平然と言ったが、調と流は翼をぶん殴ってでもやりたくない作業の一つだ。時間が押しているので尚更だ。

 

「そ、そうか。ならウサギだけで」

 

「……はぁ、数個だけ飾りとして作っておくから」

 

「そうか!」

 

「休憩も終わり。おさんどんのお手伝い〜」

 

 調も休憩を終わらせて、キッチンに戻ってきた。少し無言で作業をしていると、流の端末に緊急連絡の通知コールで連絡が入った。

 その音に皆が流に注目する。最悪、調理中の料理を捨てて、出動しないといけない。

 

 

「もしもし」

 

『流ぇぇえええええ!! 何故翼を誘拐した!!』

 

 弦十郎は電話越しに流を怒鳴りつけた。本気で怒っているわけではないが、ちょいキレくらいはしている声だと流はわかる。

 

 

 

 その声はコタツ組にも聞こえていた。

 

「すまない。少しコタツの中に匿って欲しい」

 

 翼は素早い動きで、マリアの横からこたつの中に潜った。

 

「外に出たのに、私に引っ付くのは止めなさい! 本当に冷たいから!」

 

「すまぬ。今しばらく辛抱してくれ」

 

 周りは翼のいつもと違う行動に頭をかしげた。

 

 

 

「は?」

 

『お前は俺の子で正当な風鳴じゃないから、年末年始の風鳴本家の催しには出なくていいと言っていたよな』

 

「ああ。外様の俺はハブられるからって」

 

『そうだ。そんな所にいてもつまらんだけだからな。だが、翼はこの会に絶対に出ないといけないのもわかってるだろうが!』

 

「待って。本当に意味がわからん」

 

 流は翼に今年は本家に行かなくてもよくなった、と聞いているので、なぜ弦十郎から翼の出席について言われるのかがわからない。

 

『本家に『風鳴翼は風鳴流が頂いた。殺されたくなければ年末年始は翼を俺に預けておけ』という手紙を出しただろ?』

 

「出してね……いや、俺が出した。えーと、国防のために翼は借り受けた! 国防のためだから! 国防のため!」

 

 流は弦十郎の言葉を聞いてからすぐに通話を切って、サイレントモードに切り替えた。もし奏が生きてれば、犯人は彼女だが、奏が犯人でないのなら、一人しかいない。

 

「おい、嘘つき歌女! B81女!」

 

『あと少しで抜けるかも!』

 

 流は調に料理番をバトンタッチして、こたつに向かう。翼はいない。しかし、今のリビングで隠れられる所なんて一ヶ所しかない。セレナが変な事を言っているが、当然無視された。

 

 流はコタツの前に立ち、少女達と交渉する。

 

「……翼を俺に差し出した者は、俺のできる範囲で願いを叶える!」

 

「翼はここよ!」

 

「マリア! 何故友を裏切る!」

 

 マリアに腕を引っ張られてコタツから出てきた翼は、流と目を合わせず、マリアを責めだした。流は翼の元に向かい、無理やり目を合わせて聞く。

 

「正直に理由を話せば許してやる」

 

「……友と年を越すというモノを体験してみたかった。それだけだ」

 

『私達の時は風鳴の召集を無視させることは出来なかったのに、翼が自分の意思で逆らったのは初めてか?』

 

 奏が言う通り、風鳴の呼び出しを無視して、友を優先したことは今回が初めてのことだ。流は娘の成長に感動する父親のような心境になる。奏も同じ気持ちだろう。

 

「そうだな……皆と居たいならそう言え。俺は翼の願いも叶えると言っておいただろ? 普通の女の子なら、友達と年を越すくらい普通なはずだしな……普通だよね? 同性の友達二人しかいないからわからん。あと俺は風鳴本家が大嫌いだから大賛成!」

 

「……そうか、すまない。初めから相談しておけばよかったな」

 

 翼はホッとすると、こたつから出て流に詫びた。

 

「何だかんだ(つるぎ)にも可愛い所はあるのね」

 

「か、可愛いとはなんだ! 風鳴の年始の催しはとてもとても、退屈で、格式張っていて、大変なんだぞ!」

 

「はいはい、みかん食べましょ」

 

 うるうるしている少しだけ幼児退行した翼を、マリアは自分の横に座らせた。

 

 流はキッチンに戻る途中、端末にメールが来た。風鳴本家からのメールだった。

 

『風鳴翼誘拐に対する罰について』

 

「ですよね〜」




4期は少し作品の流れが変わるかもしれないので、事前告知をしたいと思います。ネタバレ注意。






AXZ6話で、流は設定によりサンジェルマン達三人との敵対が完全に決定しました。それを変えられるかはアニメの今後によって変わりますが、敵対してそのまま流が殺してしまう可能性が出てきたので、事前告知させて頂きます。

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