戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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色々考察を行ったり、参考にしたりしたサイトがありますので、あとがきに書きます。

そして弦十郎が奏の事件以降の2年に強くなったという情報はソースが見つからず、本当かわからないことでした。真実かわからない情報を書いてしまい、すみませんでした。
ここの弦十郎には関係ありませんけどね。


第2.5期 シンフォギアTpF
#37『記憶の中の花畑』


 キャロル・マールス・ディーンハイム。

 

 世界解剖計画『万象黙示録』完遂するべく自動人形(オートスコアラー)を率い、シンフォギア装者達に敵対する錬金術師。『奇跡』という言葉に対して激しいまでの憎悪を向け、奇跡を殺すと豪語する。

 

 キャロルの錬金術は地・水・火・風という四大元素のエネルギーを使いこなすことで、破壊を生み出す。 配下の自動人形オートスコアラーも、それぞれ一つずつの属性をもっている。

 キャロルはこの他に、もう一つの属性を使いこなす。西洋風にいえばエーテル、中国の五行でいうと金に該当するものと思われる。

 

 世界解剖などと物騒な事を企てているが、実際はキャロルの父イザークが、研鑽によって生み出した功績を『奇跡』の一言で片付けられ、挙句異端者として火刑に処された。

 その時に父から託された「世界を知れ」という遺言を、父親の無念を晴らすという解釈を経て歪ませたモノであり、キャロルは父親の遺言を達成しようとしている《《ただの少女》》である。

 

 流からすれば数百年生きていようと、少女ならば少女。同じく生きていようと、母親であれば母親。

 流はその少女が自分の父親の遺言とは真逆の事をしようとしていて、自分がその事を知っているのならば、蛮行を止め、父親の真意を伝えるのが彼の役目だ。彼はそう思っている。

 

 

 

『エトワール凱旋門ですよ! 一度来てみたかったんですよね』

 

『ただの門じゃん』

 

『奏さんは歌は綺麗なのに、感性が割と死んでますよね』

 

『セレナは最近言葉に遠慮が一切なくなったよな』

 

『奏さんに気を使う意味……あります?』

 

『……』

 

「ミスった。5月だからってスーツだけってのは微妙に寒いな。アンダーをもう一枚くらい着るべきか」

 

 流と霊体の奏とセレナはフランスのパリにいた。

 

 

 **********

 

 

 流は訃堂及び鎌倉の組織に、攻撃的国防の計画を掲げ、キャロルの計画を未然に防ぐ……事は出来る気がしないので、計画を修正しないといけなくなるような、何かをするために欧州へと飛んだ。

 

 

 話は変わるが、流の持っている原作知識はアニメ1期と2期、それに3期の世界解剖の部分までと、円盤特典のしないシンフォギアGXまでだ。3期円盤が発売されているという事は、シンフォギアGXの放送が終わっているということ。なのに、キャロルの世界解剖までの知識しかない事に、流は疑問に思っているが、思い出せないものは思い出せない。なのでキャロルナイン(アニメラスト)やウェルによるシャトーの分解術式の改変なども知らない。

 

 このように流の知識は3期に限り穴抜けになっている。そして今回の渡欧はチフォージュ・シャトーを未然にぶっ壊す、もしくはキャロルと接触してダメージを与える事を目的としている。

 

 だが、チフォージュ・シャトーは異空間座標に存在する。ソロモンの杖で開くバビロニアの宝物庫のような、異空間にあるため、流が侵入することはほぼ不可能だ。

 

 流はこの事を元々知っていて忘れたか、知らなかったのかは分からないが、この事実を記憶していない。なので、欧州を探してもチフォージュ・シャトーを見つけることは出来ないのだが、当の本人はその事を理解していない。

 

 簡単に言えば無駄足だ。錬金術師の組織がキャロル達しか居ないのであれば。

 

 

 

「何でだよ! 流はずっと一緒に居てくれるって言ったじゃないかよ! 嫌だ!」

 

 このようにクリスは泣きながら縋り付き、流の渡欧を阻止しようとした。調と切歌も何だかんだ流を気に入っているので、お願いをして止めようとした。

 翼とマリアは何かを知っていて、マリアの時のように事前に終わらせる気なのかと理解し、あまりいい顔をしなかったが、文句は言わなかった。

 

 流の周りで一番大騒ぎをしたのは、櫻井了子だった。

 

 

「駄目駄目駄目駄目。絶対に駄目! 欧州ってあれよね? あれ(死者蘇生)を調べに行くのよね? 私に、フィーネに神を捨てさせたのに、流は傲慢すぎるわよ。絶対に駄目。もしあれ(錬金)術を覚えちゃったら、流ならあれ(死者蘇生)まで行けるかもしれないから、絶対にダメ! フィーネとして、本気を出してでも、両手足を折ってでも、行かせない!」

 

 了子は流が錬金術を覚えれば、確実に神の神罰が落ちるレベルまで研究するだろうと予想している。自分の好きな息子、好きな人、それらを守るために神を捨て、月の装置の起動までした。それなのに息子が神の怒りを買うような事をさせる訳にはいかないと、本気で流を動けないように攻撃を始める。

 

「敵が欧州にいるの。だから、未然に防ぐために行かないと」

 

「ふっざけんじゃないわよ! もし流が向こうに行かないといけないなら、私がフィーネとしてぶっ殺しに行ってあげるから、流は日本に居なさい!」

 

 流が弦十郎達に国から許可が出たから、欧州へ少しの間行く事を告げに行くと、了子が魔力によって生成していた紫のバリア、それを弾のようにして放ち、流の足を撃ち抜こうとした。

 弦十郎達は説得を諦めているようだったが、唯一ママ(了子)だけは、それをよしとしなかった。流を生け捕りにする気だとわかり、仮設二課の指令室から逃げ出した。了子はそれを本気で追ってきている。

 

「あっぶね! 嫌だよ。了子ママは雑魚だし、今の俺には勝てないでしょ? 下手したら殺されたり、無理やり体を使われたりするかもしれない。そんなの俺は認められない」

 

「その思いを私はあなたに抱いているの。欧州の糞錬金術師達は下手したら、流のことを知っているかもしれない。流の体の特異性を理解しているかもしれない。それで行かせられるわけないでしょ! クリスや調、切歌だって泣いて行かないでって頼んでるんだから、いつもみたいに頼みを聞きなさい!」

 

「でも、欧州にだって泣いている子がいるんだよ! ここで見捨てたら、奏にどんな面下げて会えばいいんだよ」

 

『確かに人助けは美徳だが、流のそれは強迫観念に囚われているし、知らない人よりも流や皆の方が大事なんだけど』

 

『そうですよ。もう女の子はいっぱい居るんですから、いいじゃないですか!』

 

「女だからって助けに行くわけじゃねえ!」

 

 流は反射的にセレナの声に応えて、しまった! と思った。確実に口に出してしまっていた。

 

「まーた女だから、胸が見たいから助けに行こうとしてるのね!」

 

「違うって! その子の意志とは真逆のことをしようとしているから、それを止めてあげないと。知ってるものの義務だし」

 

「そんな義務ないって言ってるでしょ! 少しは聞き入れなさいアホ息子!」

 

 弦十郎達が了子の手伝いをするために、次元式潜水艦の入口の隔壁を下げてしまった。

 

「じゃ、ま、だ!!!」

 

 了子の攻撃を避け、流はフルパワーで隔壁を右腕で殴った。響が人助けのために、壁をぶん殴って進んだように、異端技術による攻撃が想定されて作られた隔壁がひしゃげて、流は潜水艦から出た。日々聖遺物に体を侵食されているからこその、頭のおかしい行動だ。

 

「ママ。大好きだから、日本で待っててくれ!」

 

「ふざけるな! 私がいるんだから、日本で待ち構えればいいでしょ!」

 

「だって、そうするとママは命を賭けようとするじゃん! 無事に帰ってくるから、待ってて!」

 

 流はここに来る時に使ったバイクに跨ると、後ろから飛んでくる了子の攻撃を、了子が使う紫バリアを展開させて防ぎ、そのまま一気に飛ばして逃げ出した。

 

「……はぁ。クリスも調ちゃんも切歌ちゃんも、必死になって止めたはずなのに、それでも奏ちゃんを優先するのね」

 

 止めることが出来なかった了子はその場で座り込み、項垂れながら息子の執着にため息をついた。

 今回は奏ではなく、転生者故の強迫観念のような責任感によるものだが、流石の了子もそれは分からなかった。

 

「あーあ。この隔壁いくらすると思ってんだ? 了子くん、大丈夫だ。俺たちの息子がヘマする訳ないだろ? 信じて待つしか方法は無い」

 

 ぶっ壊れた入口から弦十郎も出てきて、了子の頭を優しく撫でながら言った。流が逃げに徹して捕まえられる人は、緒川くらいしか存在しない。それほど弦十郎武術と忍術のハイブリッドは厄介な存在なのだ。

 

「…………やっぱり母親と父親の名字が違うのは、よくないと思うのよね」

 

「それはどうだろうな」

 

 了子も弦十郎も、同じタイミングでため息をついた。

 

 

 **********

 

 

 クリスや了子、調や切歌に謝り倒し、流は日本を発った。何故欧州の中でもフランスに来たのかというと、キャロルの使う錬金術は西欧の錬金術。四大元素などを使うのでそこから判断した。だが、それだと絞り込みが足りない。イギリスだって、フランスだって、ドイツだって西欧に含まれる。

 

 次に絞り込んだ点はキャロルの父親、イザークが殺された時の処刑方法だ。イギリスは魔女狩りで処刑する時、絞首刑を使う。なので、イギリスは除外し、フランスやドイツ辺りに絞られる。

 

 次の絞り込みは『キャロル』という名前だ。キャロルはフランス語だと『輪舞』、オートスコアラー達はまさにそれであるし、チフォージュ・シャトーの『シャトー』やファラの言った『ダンスマカブル』などもフランス語なので、フランスに絞られた。

 

 あとはS.O.N.G.ではなく、鎌倉が放ったエージェントに情報を集めさせ、流達は訃堂との交渉から数ヶ月後に国を発つことが出来た。

 

 既に5月を迎え、3月には翼がリディアンを卒業し、ロンドンでアイドルをやっている。アニメとは異なり、マリアも同じ事務所でアイドルをやっている。

 他の装者は軒並み2年に上がり、クリスは3年に上がった。

 

 

 何故エトワール凱旋門にいるのかというと、セレナが行ってみたいと言ったからだ。凱旋門に着くと地下に降り、入場料を払って凱旋門を登った。

 

『エッフェル塔も見えますよ!』

 

『日本とは違う街並みで面白いな。ここを中心に10本以上の道が伸びてる……渋滞とか酷そうだよな』

 

「セレナって欧州出身じゃなかった? 来たことなかったの? いや、F.I.S.に連れてかれたのは分かってるけどさ」

 

『私とマリア姉さんはもっと東に住んでました。こういう都会には来たことないですね。それに紛争などがあって流浪の難民生活でした。F.I.S.に連れてかれる条件の一つに、孤児や社会とそこまで接していない人たちというものがあります。私達はうってつけだったみたいですね』

 

「そうか。ごめん、変なこと思い出させて」

 

『大丈夫ですよ。今は私もマリア姉さんも、幸せですから』

 

 セレナは凱旋門の端に座り込み、遠くを呆然と眺めながら流に答えた。流はあまりに無神経すぎたので、謝ると、セレナは幸せだから大丈夫だと答えた。

 

 この時ばかりは流は己の勘の良さを後悔した。セレナの言葉には悔しさや寂しさが混じっていたのを感じ取ってしまった。

 

『観光もする余裕はあるけどさ、さっき凱旋門の入口前でエージェントからデータ貰ってたよな? フランスにキャロルは居そうか?』

 

 セレナが見たいと言ったので、現地スタッフとの合流場所はここにした。流は景色を眺めて写真を取りながら、渡されたデータを見ている。

 奏は流れを変えるために、従来の目的を口にする。

 

「……鎌倉のエージェントで拾えるデータでは、シャトーなんていう巨大建造物を作れる物の流れは見当たらないな」

 

『一筋縄では行きませんか。それはそうと、やっぱりこっちのパンはパンですよね。日本で菓子パンというものにはビックリしましたよ。なんでパンなのに、こんなに甘いの! って思いましたもん』

 

『そういえば言ってたな。ここら辺のパンは日本人の米みたいなもんだから、やたらめったら甘くしたりしないって。甘いものを食べたいならタルトとかを食べるんだっけ? ここいらでは』

 

『私がいたところではそんな上等なものはありませんでしたけどね。でも、メロンパンはパンじゃないと思います』

 

『いや、あれは一応パンだけどな。日本人にとっては』

 

『欧米人にとっては違いますね』

 

 セレナは切り替えるように文句を言いながら、バケットのサンドイッチを大きな口を開いてパクついた。空港からここまで30キロほどあったが、車よりも流が走った方が早いので、景色を眺めながら走った。その途中、セレナや奏の気になる店で止まり、食料を買い漁った。

 

 二人は食べて寝れば成長するのに、響並に食べても太らない。そんな二人が景色を眺めながらお喋りをしつつ、クロワッサンを貪っている。

 

「多分表側のデータをハッキングしても分からないしな。裏と言っても、伝手なんて……あるわ」

 

 端末を取り出して、アドレス帳の不可視にしているアドレスを表示させる。そのまま表示させておくと、クリスに問い詰められるので、見えないようにしておいた。

 そこには『セイント』と『カリオストロ』と書いてある。カリオストロはカフェで他愛もない話をしている時に、個人情報や写真が載っている端末データを貰った。

 

「でもなー、こいつらは絶対にキャロルと繋がってるしな」

 

『虎穴に入らずんば虎子を得ず。流の記憶にあるほどの巨大な建造物(チフォージュ・シャトー)を作っているのに、欧州の主要国に目立った物資の流れはなかったんだろ? なら、踏み込まないと情報は得られないと思うぞ。あたし的には観光だけして帰って欲しいけど』

 

『……あの、もしまだ行くところが決まってないなら、行きたいところがあるんですけど、いいですか? 結構遠いと思うんですけど』

 

 セレナは真剣な顔で二人に頭を下げた。流も奏も場所すら聞かず了承した。

 

 

 **********

 

 

 セレナが行きたいと言った場所はパリから1000キロほど離れていて、車でも10時間ほど掛かる場所だった。

 データを渡してくれた鎌倉のエージェントに連絡を入れて、車を借り受け、三人で話したり歌ったりしながら車を走らせる。この距離を走ることは流石にしないようだ。

 

 ここに来た時から定期的に来るクリスやしらきり、了子のメールや電話、頻度は少ないけどマリアや翼や響などからもメールが来るので、それの対応も忘れない。響なんかは流の強さを疑っていないので、美味しいお土産をよろしくと連絡が来て以降、一切連絡がなかった。

 

「ドロミーティ、日本の検索だとドロミテ。イタリア北東部にある山地で、東アルプス山脈の一部か。ここがセレナ達の思い出の場所?」

 

 イタリアのどこかまでしかセレナは分かっていなかった。幼い頃の思い出の場所だからそんなものだろう。それを三人で調べた結果、検索で出たいくつかの風景画像を見たセレナが見つけたのが、ドロミテだった。

 

『はい。そこに私が見たい、マリア姉さんとよく遊んだ花畑があるはずです。居た時期は少しだったんですけど、この季節なら、多分同じ風景が見れるはずなんです』

 

『イタリア……ピサの斜塔とかトレヴィの泉とかがある国だっけ?』

 

『そうですよ。私は見たことありませんけどね』

 

「どうせ虎の穴であるセイントもすぐには会えないだろうし、観光しながら待てばいいよ。セレナも好きな場所の国の名所くらいは見ておきたいでしょ? セレナとマリアの故郷は二人が一緒にいる時に見た方がいいと思うし」

 

『ありがとうございます』

 

 セレナはそのあと、Appleを何度もループさせながら歌い、奏も混ざってコーラスをした。何故セレナの故郷の歌に、ルル・アルメなんて言葉が入っているのだろう?

 

 

 

 

 目的地近くになると、景色がどんどん良くなっていく。切り立った岩山が少し先で山脈を作り、頂上は少しだけ雪が残っている。針葉樹が道を作り、先を見てもどこまでも広がる草原に青い空、そして遠くには黄色い絨毯が見える。

 

『…………』

 

 セレナはその黄色を食い入るように見つめている。流と奏は黄色の絨毯を見つつも、日本ではお目にかかれない、広大な大地が織り成す自然の景色に圧倒される。

 

 黄色の絨毯は花畑のようで、その場所の手前にある街に車を停めた。

 

『流さん、早く行きましょう!』

 

「わかったから引っ張らないで」

 

『ほら、流走れ!』

 

「ああ、もう!」

 

 流が車から出て鍵を閉めると、セレナは周りの目線など全く考えないで、流の腕を引っ張って、どんどん進んでいく。そんなセレナに合わせるように、奏も流を引っ張っていく。

 

「おお」

 

『これは凄いな』

 

『……ああ』

 

 街から花畑を区切っている坂を登り少し進むと、そこには何キロあるか分からない、黄色い花畑が広がっていた。

 

 セレナは目を見張ったまま、ゆっくりと花畑の中に入っていき、地面に座り込んだ。

 

『ここがマリア姉さんと幼い頃、花冠などの色んな遊びをして、私達に残っている故郷といえる記憶の場所』

 

 セレナは涙を流しながら、花を一輪摘み、それを抱きしめる。

 

『私達が辛い中でも、幸せを感じて、共有できていた時の思い出の場所……マリア姉さんとまたここで、お花を摘んだり、飾りを作り合ったりしたいです』

 

 セレナは目から止めどなく流れてくる涙を拭きながら、流と奏のいる方を向く。セレナは死んでいるので、絶対無理な願いが口からこぼれる。

 

『決して流さんと奏さんといるのがつまらないとか、幸せを感じないという訳では無いんです。でも、マリア姉さんや調ちゃん、切歌ちゃん達ともお話がしたい……マリア姉さんと一緒に歌いたい。皆と手を繋いで、もっと色んなことがしたい』

 

『でも、私はもう死んでしまって、他の人達と言葉を通わせることも、手と手を取り合うことも出来ない……流さん、どうして私は死なないといけなかったのでしょう。施設のみんなを守った事に後悔はありません。でも……思っちゃったんです。ここの景色を見て、匂いを嗅いで、昔を思い出したら。ああ、生きたかったなって』

 

 セレナは囁くように、今まで思ってもいなかったことが、この場所に来たことにより、死者は思ってしまった。それを口に出してしまった。

 

 奏は流に自分が死ぬ事を聞かされて、歌わない決断も出来たけど、絶唱を自ら口にして、命を散らした。

 セレナも同じように、自らの意思で絶唱を歌い、そのバックファイヤーで体を虐めて、落石によって死んだ。

 

 二人は同じように見えて、実際は違う。

 

 奏は覚悟が完了していて、自分が死んだとしても、守りたい人が守れるのならよかった。

 セレナはアルビノネフィリムが暴走して、あの時点では装者は一人であり、ネフィリムの暴走を止められる人はセレナだけだった。あの場面でマリアや皆を救えるのは自分しかいない。だからこそ、皆を守るために歌った。

 

 愛する者達を一人でも多く救うために歌った少女と、守るには歌わざるを得なかった少女。奏は今のままでもいいと思っているが、セレナは暖かい思い出の場所に来たことにより、思ってはいけない事を、神の意に沿わぬ事を口にしてしまった。

 

 流はセレナが『生きたかった』と口にした時、セレナにありえない感情が向きそうになった。

 

 セレナを殺したいと思ってしまった。愛するからこそ、殺したいと思った。

 

 その考えを自らの小指を折り、痛みでそのような考えを吹き飛ばした。何故そんなことを思ったのかは、流には全くわからなかった。

 

 そして消えてしまいそうなセレナの元に、いつものように高速移動で向かおうとして、足を滑らして吹っ飛んだ。いつもの地面とは違い、足の下には花ばかりだったので、流はミスを犯した。

 

『あの、え? その……』

 

「……えーと」

 

 セレナが涙を流しながら、流たちの方を見ていると、流が吹き飛んできて、セレナを押し倒した。股の間に足を入れ、首の横に手を置くという完璧なトラブル。

 

「セレナ、俺が絶対に何とかしてやるから、消えようだとか、もう大丈夫だとか……成仏しそうな考えを持つな! 俺がマリアと手を繋げるようにしてやる。どれだけ掛かっても、お前らを会わせてやるから、俺の元から消えないでくれ」

 

 セレナの願いが死者蘇生なのであれば、流はそれを完遂するために命を賭ける。その思いを成仏しそうに、消えそうに感じたセレナにぶつける。

 

『……嫌ですね。私はマリア姉さんの幸せを全て見届けるまで、消える気なんてありませんよ?』

 

「強がらなくていい。マリアと共に幸せを分け合いたい。同じく幸せを隣で感じたいと思うのは悪いことじゃない」

 

『でも、それ、は神様が禁じてる、禁忌です、よ?』

 

 強がっていたのに、流がセレナの顔を拭ったせいで、更に涙で顔がぐちゃぐちゃになる。頑張って留めた涙もこぼれ落ちる。

 

「この世界の神は力を持っている。思うことすら駄目なら、そんな考えが浮かばないようにされているはずだ。セレナは絶対に幸せにしてやるし、皆と遊べるようにしてやる。だから、諦めるな! 生きようとすることを諦めるな!」

 

 流の奏が発した言葉で最も好きな言葉をセレナに送る。響の時以外にも、ノイズ被害にあって死にそうな人へ必死に掛けていた言葉だ。

 

『……生きたい、生きたいです! マリア姉さんと、流さんと、奏さんと、生身で手を取り合って、こごで遊びだいです!』

 

「ああ、俺がその願いを叶えて……やる!」

 

 セレナの言葉を肯定しようとすると、流の胸が張り裂けそうなほど痛む。それでも言い切ると、流の中の()()()()()()()()()()()()

 

『私はマリア姉さん以上にワガママですよ?』

 

「関係ないね。セレナ程度のワガママで、俺がギブするとでも?」

 

『奏さんは許しませんよね?』

 

『あはははは。セレナが奪えるわけねえだろ。こちとら十数年来の()だぞ? 出来るもんならやってみろ』

 

『……えい!』

 

 セレナと奏が睨み合ったあと、セレナは流を抱きしめて自分の方へ寄せ、流の首元に噛み付いた。

 

「……え? 待って、凄い痛い! は? 俺の肉を食う気じゃないよね!?」

 

 セレナは流の首元を喰いちぎるくらい全力で噛み付いた。絶対に離さないとばかりに噛み付いた。

 

『あ! それはなし! セレナ! それはズルだ!』

 

『……流さん、これからも姉共々よろしくお願いします』

 

「ああ……って待って、本当に肉が抉れちゃうから!」

 

 セレナは涙で酷いことになっている顔で微笑みながら、流にそれだけ言うと、また首元を噛み付いた。

 

 奏がブチ切れて、セレナをぶん殴るまで噛みつきは続いた。




ドロミテという場所はAXZのマリアの頭花畑の光景と一致、東欧で流民になったのなら、場所的にも行ける範囲であり、何より検索で出る画像がとても似ていたのでそこにしました。

そしてキャロルの考察ははてなブログの『考察とか色々』の項目、ユーザーはRayという方の考察を使わせていただきました。

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