戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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基本19時で前回はミスです。


#4『幼き刀と獰猛な槍』

 父となった弦十郎と鍛錬を始めて1年ほどが経った。

 

 あの風鳴翼でも数年掛かった『影縫い』、他にも『身代わり』などを驚異的なスピードで習得していった。まるで言葉を覚える赤子のように、当たり前のように吸収していったのだ。

 

 彼は知らない事をここまで急速に覚える事は、有り得ないと認識している。

 魂が覚えていた事には頭のリソースを今まで使われてこなかった。だからこそ、知らない事を覚えようとすると、何も知らない赤ちゃんの頭のように覚えられたのではないか? と考えついた。知識だけでなく、体の動かし方もメキメキと覚えるので多分間違っている。

 

 変な習得速度のおかげで体がまだまだだが、技だけは弦十郎より授かったいくつかを覚えることができ、緒川からも数種類の忍術を、了子からはハッキングや考古学に関する事を学んだ。もちろん一般科目も問題なく勉強していった。

 遊ぶという言葉を完全に忘れて、ひたすら学ぶことに費やされた。

 

「了子さん(. . )! 父さんが沢山貰ったからみんなで食ってくれだって!」

 

 流は山篭り(映画的鍛錬)などがない時はよく二課に顔を出す。特に了子の元によく訪れ、知らない様々な事を学んでいる。

 了子や技術屋である部下の人達は、他に比べて常に忙しいという訳では無いので、快く受け入れている。

 

「今ちょうど紅茶を入れてたのよ、一緒に食べましょう」

 

「いいの?」

 

「ええ」

 

「やった! 昨日まで山に篭って、小動物と山菜しか食べられなかったから楽しみ!」

 

 流は前とは違い、本当の子供のように無邪気な笑顔を向けて、了子の出した紅茶を何も考えずに飲む。

 

「ふふ」

 

「どうしたの?」

 

「何でもないわ。さあ、どんどん食べちゃいましょう!

風鳴の家には食べきれない量のお菓子が届いているはずだから、いくら食べても文句は言われないものね!」

 

 了子は一瞬意味深な笑みを浮かべたが、ほかの人が彼女の顔を見た時には、いつもの櫻井了子に戻っていた。

 

 

 **********

 

 

「なんでよ、別に行かせなくてもいいんじゃない? 流も今更行きたくないって言ってたわよね?」

 

「だがな、学校というのは勉学以外にも意味があって」

 

「道徳とか社会性でしょ? それだって私達がしっかり教え込んでいるから問題ないじゃない」

 

 

 現在流は弦十郎と了子と緒川の三人によって、基本教育方針が決められている。主に精神的な育成と肉体の方向性を弦十郎が、勉学やそれに伴う専門知識を了子が、社会性やその他必要になる技術を緒川が教えている。

 そんな中、三人は忘れていた議題を話し合っている。

 

 それは風鳴流(かざなりながれ)の小学校入学についてだ。

 

 弦十郎の厳しい鍛錬にもついてきた事で興が乗り、様々な鍛錬をともに行ってきた。

 了子もまた、流が何故か基礎知識はないのに、シンフォギアシステムの概要や、その他聖遺物関係の知識を少し教えるだけで理解を示すので、(. )しみながら教えてきた。

 緒川も自分の弟子がうまく術を覚えてくれて、更にアイドルの卵も軌道に乗ってきて、裏方以外の仕事も楽しんでいる。

 

 そのためか、流が7歳を迎えていて、既に小学校に入学しないといけない時期を過ぎていた事を忘れていた。

 

 本来なら既に入学させてないといけないのだが、その時期は色々なゴタゴタと、流の鍛錬や勉強や修行が軌道に乗り始めていたので完璧に忘れていた。

 忘れてしまった理由の一つに、流が子供のはずなのに大人びた考え方もでき、一般科目もその他スタッフが教えてしまっていたため、違和感を覚えなかったのだ。

 

 ならばなぜ気がついたのか。たまたま外に出ることのあった弦十郎は仕事中だが、映画でも借りておこうと行きつけのレンタル屋に行った時、目の前を小学生が横切った。

 ちなみに弦十郎が勤務外時間にレンタル屋に行こうとすると確実に閉まっている時間のためしょうがない面もある。

 

『…………そういえば流っていくつだったか?……たしか、ななさい、ナナサイ? 7歳!? 小学校入学させてねえ!!』

 

 事の発端は司令がサボったおかげで発覚した。

 

 

 現在小学校にいますぐ入れるべき派の弦十郎と、入れなくてもいい派の了子がバトルを繰り広げている。そんな中、OTONAの一人である緒川が一言呟いた。

 

「……友達」

 

「え?」

 

「は?」

 

「その、流君には同年代の友達がいるのかなと思いまして。どうやら轟夫妻は保育園や幼稚園には行かせていなかったようです。この年齢の子なら友達くらいいるものですよね?」

 

「当然いるだろう。俺はあれくらいの時、山や海で暴れ回るなんてよくしたものだ。友達がいるとは聞いたことないな」

 

「発掘チームの事務所にそういう場所があったって言ってたけど、確かあまり話が合わなくて仲良くなれなかったって言っていたわね」

 

「そりゃ、流と話が合う子なんて熱心にご両親が教育をしていて、なおかつ精神年齢の高い子じゃないと合わないわな」

 

「「「…………」」」

 

 三人はまだ子供なのに、流に一人も同年代の友達がいない事に気がついた。そして流が子供であった事も再度認識し直した。

 

「えっと、私はわからないのだけど、今の流を小学校に放り込んだとして、無駄にストレスを溜めることなく小学生出来るかしら?」

 

「翼が行っている小学校なら或いは……」

 

「そうですよ! 翼さんとなら話のレベルが合うのでは?」

 

「だが、今は不味くないか?」

 

 弦十郎の脳裏には最近流のように救助された一人の少女の姿が浮かび上がった。

 

「奏ちゃんの事? 問題ないと思うわ。逆に奏ちゃんに依存し過ぎるのも良くないからいいチャンスじゃない」

 

 ここでも僅かに暗い笑みを浮かべる了子であったが、二人に気が付かれる前に顔を正す。

 

「奏さんのスケジュール見てきます」

 

 こうして小学校に入学させる前に風鳴の英才教育を受けてきた風鳴翼と、linkerによる体の酷使を行っている天羽奏に引き合せることが決定した。

 

 

 **********

 

 

「父さんや了子さん、緒川さんと話してた方が楽しいから別にいいのに」

 

「いいや良くない。普通なら小学校に入るべき年齢なのに未だ入っていないのは色々と不味い事だ。流なら分かるだろ?」

 

「……勉強以外の面だよね?」

 

「そうだ。それに轟さんが仰っていたのだろう? 人の流れから想い人を見つける。それをするにも同年代の人々と関わらなければ。この職場じゃ探せんだろう」

 

「……はぁ」

 

 風鳴の娘に会わせると言われて呼び出された流は、愚図りながらも弦十郎や了子についてきた。

 流には原作知識があるはずなのに、風鳴の娘が風鳴翼であると思い付かず、何故か会うことに拒絶感を感じているが、弦十郎や緒川の勧めなので渋々付いてきていた。

 

 近未来的な扉の開く音がして中に入ると、体中に包帯を巻いて幾つもの管が刺さっている赤髪の少女と、その彼女を心配気に見つめる音符のような髪型をした青髪の少女、その横には緒川が立っていた。

 

 青髪の少女は他人が入ってきた事におっかなびっくりと振り返り、流と目が合った。

 

「……ぐぅあああああああああああ」

 

 流は頭を裂くような、蝕むような何かを拒むように、想像を絶する痛みが頭を通り抜け、叫びながら膝をついた。

 

「どうした!?」

 

 流の尋常ではない様子に弦十郎が慌てて近づき、支えようとしたが手で制された。弦十郎が近づく時に踏み込んだ地面が軽く陥没したが、それを問題にする人はここにはいない。

 

(何故俺は原作知識を忘れていた。それ以前に俺としての人格が消えかかっていた気がする。なんだよ、あの無邪気な子供は! 何故フィーネである了子に無警戒にあんなに接していた?…………ああそうか、始めに受けたあの洗脳装置か)

 

 サブリミナル効果が云々と説明をされた機械は始めの一回目以降、何度も使用されていた。その度に少しずつ了子への警戒心が消えていき、了子に従順な子供になっていた。

 

 実際は了子を疑わず仲良くしよう程度の洗脳だったが、原作知識や転生してきた意識があると了子を疑ってしまう。なので、その意識や知識ごと封印するように流の頭が勝手に行ってしまっていた。風鳴翼に会いたがらなかったのも無意識に封印が解ける可能性を感じていたからだ。

 

 それも風鳴翼と会った事で完全に吹き飛んだ。

 

「もう大丈夫。少しふらつくけど……問題ない」

 

 出来る限りフィーネの事を考えないにして、弦十郎を見ながら立ち上がる。了子や緒川も心配し、青髪の少女も不安げにこちらを見ている。

 

「その人は?」

 

 赤髪の子をチラチラ見て心配しながら、青髪の少女が弦十郎に質問をする。それに答えたのは弦十郎、

 

「この子はそうね、奏ちゃんみたいなものよ。家族をノイズによって失って、力を求めている子供」

 

 ではなく了子であった。その了子は流の背中を押して数歩前に歩かせる。流は挨拶しろという事だと理解した。了子(フィーネ)にいきなり触られて、悲鳴をあげるのを何とか抑えて口を開いた。

 

「初めまして。絶刀、天羽々斬に選ばれた風鳴翼さん。それと適性がないのに中途半端にlinkerを使って体を壊し、毎回結果を出せていない天羽奏さん。俺は轟流、今は風鳴流と名乗らせてもらっています」

 

「な!」

 

「てめえ!」

 

 流は煽りとしか思えない挨拶をした。

 

 翼は初対面なのにこんな事を言う人がいることに驚き、奏は歯を見せて怒りを顕にしている。

 OTONA組はまだ伝えていないはずの詳細をしゃべりだしたため、ほかの人が教えたのか? と無言のやり取りをしている。

 

「なあ、聞き間違いならいいんだけどよ。もう一回言ってくれねえか。どうやら実験で耳も逝かれちまったらしい」

 

「適性がないのに死ぬ気でlinkerを打っていない奏さんは耳すら使えないんですか?」

 

「……死ね!」

 

「奏!!」

 

 言葉の途中で奏は流に襲いかかった。無理やり管やパットが外されたので、機械がエラーを告げだした。

 流は避けず、マウントを取られたのにそのまま煽り続け、殴られても流は口を動かし続けた。

 

 すぐにOTONAが止めに入ったが流の顔はぼこぼこで、殴っていた奏は治りかけていた傷から血が吹き出し、翼は弦十郎の側で睨むだけに留まっている。

 

「何故いきなりあんなことを言ったんですか? あとその情報は何処から?」

 

 流は部屋の隅で治療もされず、数時間にわたって緒川に正座で怒られ続けた。

 

 

 

 流は未来について……人物の未来(みく)ではなく、概念の未来(みらい)について自分を取り戻してから考えた。翼と目が合い、了子に押されるまでの一分にも満たない時間の中であることを考えていた。

 

 自分の存在でどれだけ原作からズレてしまうのか。

 

 流の普通ではないアドバンテージは、ノイズと殴り合える事と原作知識を持っている事だ。

 後者はGXで錬金術師(キャロル)が東京の人々を分解した辺りまでは覚えているが、その後どうやって完結したのかを思い出すことが出来ていない。

 

 それでもこれから何が起きるのかはだいたい分かる。流は力を持てる環境にいるし、特異な力を持っているが、まだ自分がいることによる影響は少ないと思っている。

 

 例えば響がツヴァイウィングのファンになる事。これは未来(みく)によって誘われたコンサートでなるので、響のコンサート行きを無くさない限りファンになるだろう。

 

 例えばフィーネの計画。流がいても今のところカ・ディンギルによって月の破壊を行い、人類の相互理解という力を取り戻す。更に重力崩壊や天変地異におののく人類を聖遺物の力で以て纏め上げ支配しようとするのも変わらない。

 

 例えばキャロルがいる事や、雪音クリスが南米で家族を失い奴隷になりエロ同人的な事があったであろうこと。それらも流が干渉しなければ変わることはないはずだ。

 

 流が干渉すればいい方向にいく事もあれば、悪い方向にいく事もあるだろう。最もなのは響がガングニールを体に埋め込むのを防いでしまうと、絶唱を束ねる人が減り、未来(みらい)は潰えるだろう。

 

 流は弦十郎のように崇高な精神を持っているわけではなく、シンフォギアのモブから脱却し、死なないようにする為に力をつけている。だからこそ彼は決めた。

 

 コンサートで死ぬ事になる天羽奏に情が移らないように嫌われよう。なので、第一印象を最悪なものにした。

 

 

 その日は治療もされず、弦十郎と緒川によるとても痛いお仕置きをされ、病室を後にすることになった。

 

 

 **********

 

 

 

 

 

 

「なんでお前がいるの?」

 

「ああ、糞流の言ってたことが気になってよ、規定量以上のlinkerを無理やりぶっ込んだら、何とか起動できたわ。だから、まあ一応お礼を言いに来たってわけ」

 

「……ああ、ソレハヨカッタネ」

 

 弦十郎の本気の鍛錬を受けた後はほぼ毎回入院していて流専用となり始めた病室。そんな場所に体全体に包帯を巻いている奏が来て、お礼を言ってきた。

 彼女の顔は包帯だらけだが、実験が成功した喜びに満ちていた。

 

 

 始めから彼の目論見は、モブエージェントの命のごとく呆気なく潰えた。


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