戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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ここら辺からカストディアンの独自解釈が入り込んできます。


第3期 シンフォギアGX!
#39『早すぎる邂逅』


「くっつくな」

 

「え〜、どうしましょう〜」

 

『うざ』

 

『何故かわかりませんけど、凄い女性の敵って感じですよね。何でしょう? 生理的に受け付けないという奴でしょうか?』

 

『なんか違うんだよな。何がって聞かれてもわかんねえんだけどさ』

 

『とりあえず流さんが胸を当てられても、いつもみたいに嬉しそうにしないから良しとします』

 

『これで喜んでたら、反射でぶん殴っちまうところだったな』

 

 カリオストロに乗せられた車の後部座席で、カリオストロは女性としてのパーツをさりげなくアピールしている。そんな彼女を見て、奏とセレナは今まで見たことないくらい辛辣にカリオストロを扱き下ろして、凄い表情をしている。

 

 普段ならば流はお仕置きの一つでも受けるのだが、胸が見れるのに見ていないし、当たっても嬉しそうにもしていない。流は調の胸でも、クリスの胸でも、ひっそり見ている時以外は嬉しそうに見る。

 だが、今の流にはそれがない。

 

(なんか露骨過ぎてなぁ)

 

 流の今の心境は上記のようなものだった。あと敵の本拠地近くである事に、多少の緊張があるのかもしれない。

 

「それで、なんでサンジェルマンの使いをぶっ飛ばして、俺を連れ出したのさ」

 

「サンジェルマンが結社の目的以外に執着しているのを初めて見たから、何でなのかな? って思ったのよね。流は自分がソロモンと言われている理由と、覚醒の有無のいう意味はわかる? もちろん覚醒の有無は流の事よ」

 

 カリオストロは口に指を当てて、思い出すように言葉をひねり出している。流は同じように考える。

 

「ソロモンと呼ばれる要因はある。覚醒は……少し待って」

 

 流は目を閉じて、奏とセレナに聞くことにした。奏とセレナは大雑把に流の記憶を読み取っているようなので、キャロルなどのことも分かっている。

 前までは二人にすら過去は言えなかった。なのに、今では言わなくても理解してもらえるようになって、イマイチ理屈がわかっていない。

 

『俺が覚醒しているか、していないかってなんだろう?』

 

『そりゃあれだろ。転生者としての知識が覚醒しているか、覚醒していないかじゃないのかね』

 

『それだと思いますけど、流さんが別の世界で生きていた人で、知識を持ったまま、こちらの世界に転生してきたかもしれないと、他の人は認識って出来るんですかね?』

 

『うーん。俺が轟流の時は頭の出来のいい子くらいの振る舞いだったから、悟られることはないと思う。風鳴流になってからは、情報が外部に漏れないようにされていたし、弦十郎父さんや了子母さんなら勘づいていたとしても、ほかの人に流さない。それ以外の人はまず無理じゃないかな。魂の質が云々だったとしても、この体の中には直接ないし』

 

 位相の差などという生易しい場所に流の魂は存在しない。別世界レベルの空間の差があるようなので、それを検知されたとは思えない。

 

『……あれじゃないか?』

 

『どれ?』

 

 流の言葉を聞いて、奏は何かを思い出したようだ。

 

『カ・ディンギルを使った時に、流じゃない奴が流の体を操っていたよな?』

 

『そんな事があったんですか? 流さんの記憶はカ・ディンギル辺りはテレビのノイズみたいなのが多くて、見れないんですよね』

 

 セレナは他に流の記憶で見えないところは、流の幼い時は見づらいと言っていた。奏はカ・ディンギルの時は、自分自身が見ていたからわかるが、()()()()()()は覗けないらしい。

 

『指輪が始めて光った時に現れた人格か……』

 

『あれが現れた事を覚醒と言うのか、あの人格が流の体を支配したら覚醒というかは分からないけど、あんまりいい事じゃない事は確かだよな』

 

『もし……あれ?』

 

 奏の言葉に追走しようとしたセレナだったが、驚きの声を上げたあと、自分の体をぺたぺた触り、流の心臓や腕なども触り始めた。

 

『どうしたの?』

 

『私がアガートラームの力の制御の特性を、どうしてか使えることは覚えてますよね?』

 

『あたしはそういうのないから羨ましいよ』

 

『奏さんはガサツですから。あの力は流さん中にあるデュランダルが少しは起動していないと、使うことが出来ないんです。使用にもエネルギーが必要ですから』

 

 セレナは手をグーパーして、何度も確かめてから言葉を続ける。

 

『流さんがデュランダルを使えるタイミングはガングニールが近くで起動している時と、無理やりデュランダルを覚醒まで持っていく時だけです。なのに、今アガートラームの力が使える気がするんです』

 

『……俺もなんとなく調子がいいのはそういう事か』

 

『あれ? もしかしてあたしだけ仲間はずれか? 全くわかんねえけど』

 

『日頃の行いですね』

 

『セレナが言うな!』

 

 二人はまたバトルを始めたが、流は考え込む。いつからか分からないが、花畑の時点で体に力が漲っている感覚があった。パリでその感覚があったのかわからないが、錬金術師と会う時に力が発揮できるなら都合がいい。

 

「……と……ちょっと!」

 

「ん?」

 

「待ってとか言って、ずっと目を閉じてたから眠っちゃったのかと思ったわ。どう? なんか分かった?」

 

「覚醒はしているのかな? 何を指すのかが分からないけど、覚醒しているかもしれないし、していないかもしれない」

 

「私も詳しくはわからないから、そんなものよね。着いたわよ」

 

 流は二人と予想以上に長い時間会話をしていたようで、車は既にホテル前に付いていたようだ。まず空港からそこまで離れていなかったのだろう。

 カリオストロに引っ張られて外に出ると、日本人がよく頭に浮かべる、隣の家と隙間なくくっついている建物が目の前にあるわけではなく、周りに建材の色を合わせているが、一目でホテルと分かる建物だった。

 

「……なんか違う」

 

「もしかしてゴシック調とかを想像していたのかしら? ごめんなさいね。サンジェルマンは日本人ならこちらの形式の方がいいとか言ってたのよ」

 

「まあ、観光にしに来たわけじゃないし、別にいいけどさ」

 

『パリに行って、日本じゃ見れない高原で寝っ転がり、水の都を楽しんだのに、観光じゃないは通らないんじゃねえか?』

 

『楽しかったからいいじゃないですか。流さんはこういう都合を付けないと、リディアン近くから離れられませんからね』

 

『まあそうだな』

 

 

 流は自由に動いているように見えて、国防のためか、仕事のため、あとは許可を取った場所へしか行けてなかった。あまりルールを無視すると、翼の権利が取られてしまうからだ。

 奏とセレナは話しながら、周りの建物の影や人が隠れていそうなところを警戒して、見て回ってくれている。流も気配を読んでいるが、二人が見てくれれば更に安心できる。

 

「何突っ立ってるの? 行くわよ」

 

 敵の案内した建物に入るので流石に腕を取らせず、でも無駄に警戒しているのを見せるのは良くないので、友人と歩くくらいの距離感を保つ。

 

 建物に入った瞬間、何かを通過したような感覚を覚えた。一番高い感覚で例えると、バビロニアの宝物庫に入った時の感覚に近い。

 

「今の何?」

 

「あれは元々あるものだから、警戒しなくていいわよ。サンジェルマンが所有している建物にはこんな感じの結界を張ってたりするのよ。あの()も敵が多いから」

 

 カリオストロの他人を案じる顔を流は初めて見た。そのような顔をする程度には、カリオストロとサンジェルマンの仲は良いのだろう。

 

 流達は受付には行かず、そのままエレベーターに乗って、最上階についた。カリオストロはどこからか鍵を取り出し、流を招き入れた。

 

 部屋から入ってすぐに見える家具は、どれも一品もののデザイナーズ品である事がわかる。部屋もとても広く、一応は歓迎されているようだ。

 

「一番いい部屋を用意したみたいだから、ゆっくり寛いでちょうだい。3日後にサンジェルマンが直接迎えに来ると思うから、それまでは周りを探索なりして、時間を潰しておいてね。これでも私は忙しいから、まったね〜」

 

 カリオストロは軽快に必要なことを話すと、すぐにテレポートジェムでどこかに消えていった。忙しいなら、自分で送迎しなければいいのにと、三人は思った。特に乙女二人は強く思った。

 

 流は無言で席に座り少しの間待つ。

 

『特にカメラとかそれらしき物は置いてなかったな』

 

『錬金術も何かしらの力が作用しているので、アガートラームの力の制御でわかると思うので、集中しながら見回りましたけど、特に変な力はありませんでしたよ』

 

「……はぁ、そうか」

 

 ホテルに入る時と同じように、奏とセレナに部屋が監視されていないか確認してもらった。その結果物理的にも力的にも問題なかったようなので、一息つくことが出来た。

 

「すげえ不気味だな。俺を説得すれば仲間になるとでも本当に思ってるのかね。情報を盗む気しかないんだけど」

 

『あたし達の知らない何かを知っているんだろうな。流は大半の聖遺物を簡単に扱えるって力もあるから、それ目当てかもな』

 

『異端技術の結晶が聖遺物ですから、ありえるかもしれません。あとあるとすれば、何かしらの方法で洗脳とかはありそうですよね』

 

「薬ならなんとでもなるけど、錬金術で洗脳されたら怖いね」

 

 わかりもしない敵の意思を想像し、明日はどこに行こうか話し合っていると、夕食の時間に近づいてきた。

 

 ここのホテルで出される夕食は気になるが、薬を盛られる可能性があるものを食べるほど、流は飢えていない。バビロニアの宝物庫に入れておいた食べ物を、三人でもそもそ食べた。

 

『……おかしい。なんでロンドンに来てから、一度も鳴っていないんだ?』

 

『あ! 確かにおかしいですよ』

 

 奏とセレナが何か異変を察知したようだ。流は口に入っているものを水で飲み込み、何があったのか問いただす。

 

「なにか分かったの?」

 

『ああ、ロンドンに来てから一度も端末に連絡が来ていないよな?』

 

「……あれ? そういえばそうだな」

 

 数時間に一度は確実にくる通話と結構な頻度で届くメールが、ロンドンに来てから一度も通知音による知らせが来ていない。

 

 流は端末を弄ろうとして諦めた。

 

「ぶっ壊れてるんだけど。外装に変化はないけど、中がイカれたか? 今修理なんてできないし、しょうがないね」

 

 二課の時から使い続けていた端末は、うんともすんともいわず、反応を返すことはなかった。流はその事を軽く流し、シャワーへ向かったが、二人の乙女の反応は違った。

 

『やばくねえか?』

 

『了子さんとクリスさんは特に大変なことになると思いますね。ほかの人達も心配しているので、放置は不味いですよね?』

 

『絶対に不味い。だけど、あたしは教えてやりたくない』

 

『そんな意地悪ばかりしてるから……いえ、私もこの事は黙秘しますね』

 

 あえて言わない選択を取った二人は流がシャワーから戻るまで、周囲の警戒をしていた。

 

 慣れない土地やあまり乗らない飛行機、カリオストロの対応などで疲れていたのか、流は早めに睡眠を取ることにした。霊体だが一定期間で休憩する必要のある奏とセレナは、交代で見張りをしてくれると言ってくれたので、流は安心して寝始めた。

 

 

 

 事が起こったのは、流が寝始めて10分もしない時だった。

 

『流、前に!』

 

 奏の声に寝ていた流は反射的に従い、ベッドの前方へ飛んだ。今まで寝ていたところに、カリオストロの放った錬金術の光線よりも弱い攻撃がベッドを、部屋の外から貫かれた。

 せっかくこのホテルで一番良い部屋を宛がわれたのに、その内装は外からの攻撃で酷い有様になっている。

 

「ああああ、くそが! 何人?」

 

『ホテル外に目視で三人』

 

「わかった。ぶん殴って拷問する!」

 

 光線によって開いた穴の周りを、流は思いっきり殴り、人が通れる大きさにして、最初に見えたローブを着た奴の下へ本気で飛ぶ。

 流はひとっ飛びで襲撃犯の目の前に着地し、あまり手加減をしない拳を放とうとする。

 向こうは慌てずに、こちらに何かを投げてきた。流はそれごと殴り飛ばそうとしたが、その投げた結晶に見覚えがあり、無理やり拳を収めて背後に飛んで回避する。

 

 その結晶は赤い発光体が内部できらめき、地面に落ちると、テレポートジェムと似た形の錬金術の陣が展開した。その陣から現れたのは、流が掌握し、この世に出現するはずのない敵。

 

『まさかノイズ……違う、あれは流の記憶にあった!』

 

「登場がちょっと早過ぎるんじゃないか? アルカノイズ!」

 

「我らの叡智の結晶によって消えるがいい! 異国のスパイよ!」

 

「うるせえ、どうせキャロルに貰っただけで自分で開発したわけじゃねえくせに!」

 

「お前ら、やれ!」

 

 その場に姿を晒している三人のローブは、アルカノイズを召喚する結晶を地面に投げ、追加でアルカノイズを呼び出した。

 

 人型、芋虫型から、武士型などもいるようだ。

 

 流が戦闘に移行した事により、体の強度は増し、長袖の下を見れば、右腕に薄くデュランダルの模様が浮かんでいるだろう。

 

「ノイズに頼ってんじゃねえ!」

 

 近づいてきたノイズを流は殴り飛ばす。その事にローブ達は驚きの声をあげているが、構わず殴り続けようとして、奏に後ろへと引っ張られた。

 

『逃げるぞ!』

 

「なんでだよ!」

 

『眠いからって怒るな! アルカノイズの分解も無効化できるか分からないだろうが。発光部分が分解機構なんだろ? それを完璧に触れないで戦えないんだから、やめろ! 逃げるぞ』

 

 周りの雑魚アルカノイズを倒しながら、流は少しずつ後退する。

 

「威勢が良かった割に、逃げようとするとはな!」

 

 人型や芋虫型は問題なく処理できるが、翼の剣先にぴったり合わせたり、動きが機敏になっている武士型の強さがわからない。流は奏の提案を採用し、そのままアルカノイズによる包囲を突破し、街中へ逃げ込んだ。

 

 街にある暗い路地裏に入り、流はやっと一息つく。奏が路地裏の入口に立ち、警戒してくれている。

 

「眠い」

 

『流やおっさん(弦十郎)は超人的な力があっても、腹は減るし、睡眠を取らないと眠くなるからな』

 

「セレナは?」

 

『今は流の前世の部屋で寝てる』

 

 流は宝物庫を開き、中から水を取り出して一気に飲む。

 

「さて、これは交渉が決裂したのか、別の組織が襲撃してきたのか、それとも別のなにかか」

 

『どうだろうな。それよりも問題はアルカノイズだな』

 

「人型とか芋虫型は問題なく、ノイズと同じように位相を変えることが出来たから、殴れれば殺せる……問題は攻撃を受けて、分解されるかもしれないって事だよな」

 

『そうだ。まずなんで流が炭素変換されないのかも分かっていないからな。指輪の力? 転生者だから? 肉体が特別だったのか? 全くわかってない』

 

「何となくアルカノイズも大丈夫な気がするんだよね。元はノイズだろ?」

 

 その言葉に奏は怒ってますよといった仕草をしてから、流を奏の本気でビンタした。気付けの意味もあったのだろう。流の未覚醒だった頭がしっかり回り始めた。

 

「何さ!」

 

『本来なら、ノイズってのは人間が生身で対処するようなモノじゃねえんだ! かもしれないで、戦わせるわけないだろ』

 

「……わかった。ごめん」

 

 ずっとノイズに触れても何も無かったので、流はノイズを軽視する傾向があるが、奏の言葉で両親が死んだ記憶を思い出し、自らを戒める。

 

「見つけたぞ!」

 

「うっせえ、死ね!」

 

 ローブが路地裏に入ってきた瞬間に、流はその人の元に駆け寄り、本気でぶん殴る。ローブは入ってきた道の方へ吹き飛び、そのまま動かなくなった。流はそのローブに近寄り、服の中を漁ると、アルカノイズを召喚する結晶がいくつかあったので、迷いなく盗んだ。

 

『あれ? 殺した? 日本じゃないから不味いぞ?』

 

「死なない程度の本気だから……多分セーフ」

 

 殴り飛ばしたローブが来た方から、ノイズを引き連れてこちらに向かってくる新たなローブが見えたので、流はその場をあとにする。

 

 その後、サンジェルマンやカリオストロに連絡を取ろうとするが、端末は壊れていて使えない。ほとんど連絡を取らない相手のアドレスまで覚えているわけがなく、襲撃について聞けなかった。

 

 錬金術師の襲撃は昼夜問わず続き、流はサンジェルマンとの約束の3日後まで、一睡もすることは出来なかった。

 

 

 **********

 

 

 サンジェルマンが迎えに来ると言った3日目の朝、流は寝ることの出来なかったホテルの前にたどり着くと、サンジェルマンが既にいた。

 

「おはようございます。さあ、行きましょう」

 

 サンジェルマンは前に日本であった時と変わらぬ顔で、流に朝の挨拶をしてきた。

 

「……三日前からずっと錬金術師に襲撃され続けてたんだけど、お前がやったのか? キレそうなんだけど」

 

『流さん、落ち着いてください。情報を得るために、この三日間、敵を倒すだけに留めて、撤退し続けたんですから』

 

 もしサンジェルマンの組織の人間で、流が殺せば交渉が不利になる可能性がある。例え、相手が送り込んだ刺客だとしてもだ。

 

「いえ、私はあなたを仲間に引き入れようとしているので、そのような小細工はしません」

 

 サンジェルマンの言葉を嘘だと決めつけて、流は警戒し続ける。

 

「……そう」

 

「では、向かいましょう。交渉するにも場所を整えないといけない。車で向かうのと、テレポートで向かうの、どちらがいいですか?」

 

 サンジェルマンは手前においてある車と、テレポートジェムを見せつけて、どちらの移動手段がいいか聞いてきた。

 

『テレポートは論外だ。車にしとけ』

 

『どこに飛ばされるか分かりませんからね』

 

「車で」

 

 奏もセレナも姿は見せず、流に話しかけてくる。姿を見えないが、横にはいるのだろう。サンジェルマンは頷くと、自ら運転するのか運転席に座り、流は後部座に座った。

 

「どれくらい掛かる?」

 

「10分ほど」

 

「わかった」

 

 流はサンジェルマンに質問したあと、霊体二人にお願いをする。

 

『8分ほど寝かせて。なんかあったり、8分したら起こして。流石にやば……』

 

 敵の目の前だが、ローブのヤツらとは違い、サンジェルマンは不意打ちでどうこうしてくるとは思えなかったので、流は二人の返事を待たずに少しだけ眠った。

 

 

 **********

 

 

『歌とは想いを言の葉で紡ぐもの。言の葉は想いに形を与えたもの』

 

 

 **********

 

 

『……起きろ!』

 

 奏が流の耳元で叫んだ声によって、彼は目を覚まします。

 

『ぴったり8分ですね。流さん大丈夫ですか?』

 

『……何が?』

 

『寝始めてすぐに苦しみ出したんだよ。起こそうとしたけど、睡眠を少しでもいいから取らせるべきだと思って、時間まで寝かせてたけどさ』

 

『悪夢でも見ました?』

 

『多分違うと思う』

 

 流は夢を見た。

 聞いたことのないたくさんの声で、何かを語られていた気がする。その声は愛を語っていた気がするし、別の意思もあったように思えた。覚えているのは、歌は想いの形ということだけだけ。

 無理やり起こされたからか、睡眠時間が少なかったからか、夢のせいか頭痛がする。

 

「着きました。行きましょう」

 

 サンジェルマンが車を止めたのは、ただの民家にしか見えない家の前だった。流はもっとそれらしい建物かと思っていたので、少しだけ拍子抜けした。

 

「マジで言ってる?」

 

「ええ。貴方と会っていることを知られたくない人もいるので、結社の施設は使えない。私が個人で所有している建物のうちの一つです」

 

「まあいいか」

 

 流は頭が痛むことを顔に出さず、サンジェルマンについて行った。

 隣の家との距離が全くない縦長の家に入ると、外見と同じ面積しかないようだ。空間がねじ曲がって大きくなっているだとかそういう事は無い。結界は張ってあったが、気にしてもわからないので無視した。

 

 中にはカリオストロが椅子に座っていた。それ以外の人は建物の中に居ないことは、奏とセレナが確認済みだ。テレポートの使い手がいる時点で、内部の警戒はあまり意味が無いのだが。

 

「三日ぶりよね。座ってちょうだい。前にお茶を奢ってもらったことだし、私がご馳走してあげるわ」

 

『は?』

 

『なんでそんな事をしているんですか? いつ奢ったんですか?』

 

 カリオストロが立ち上がって、お茶を入れに行こうとする。

 奏とセレナは知らなかった事実が判明してキレだすが、敵の目の前で姿を表すことも攻撃することもしないので、理性はまだ残っているようだ。

 

「要らん。それよりも早速話に入りたい」

 

「え〜、人の善意は受け取っておくべきよ」

 

「要らん。俺は眠いんだ。セイントとか名乗ってたサンジェルマン。話を始めよう」

 

「そうしたいところだが、こちらにも事情がある。少し」

 

 サンジェルマンが話切る前に、流達が座っている席から少し離れたところに、テレポートの錬金術陣が現れた。そこから出てきたのは、カエルの人形を持ったゴスロリなメガネの少女だった。胸は調レベル。

 

「ふむ、そいつがソロモンってワケダ」

 

 もう当然のように流はソロモンと呼ばれるようだ。

 

「プレラーティ遅いわよ!」

 

「予定よりも到着が遅れている。何か問題でも?」

 

「街中で錬金術師が暴れたせいで、それの後処理をしていたワケダな。二人が朝早くから抜け出したせいで、押し付けられる形だったワケダ」

 

「そう……さて、話を始めましょう。カリオストロもプレラーティも勝手に口を挟まないでね」

 

 流の対面に、サンジェルマン、プレラーティ、カリオストロが座っている。流はサンジェルマンと合流する前に、宝物庫から取り出したある物がちゃんとあるか、ポケットを触って確認する。もちろんそれはそこにあった。

 

「知りたいことがあったから、俺はお前らに会いに来た。答えてくれたからと言って、俺が仲間になる訳では無いが、答えてくれれば考えるくらいはしようと思っている。チフォージュ・シャトーはどこにある?」

 

 なお、考えるだけだ。

 

「それなら教えてもいいでしょう。異空間にある」

 

「……なるほど」

 

 ここに至り、流はチフォージュ・シャトーが本当に異空間にあることを理解した。3期で東京にシャトーが出現した時、分解を応用して空間を割って出てきた。割れた空間の向こうは異空間が広がっていた気がする。

 

 今回の渡欧が無駄足になったことに落胆して、情報だけは持ち帰ろうと色々質問をする。きっと目の前の三人も敵になるのだろうから。

 

「お前らがキャロルの世界解剖を止めることは?」

 

「出来ない。私達にも目的がある」

 

「アルカノイズはキャロルが作ったんじゃないのか?」

 

「シャトー建造を手伝う対価の一つとして頂いたワケダな」

 

「プレラーティ」

 

「楽しそうな事を私に我慢しろと言いたいワケダ。しかも、出来ると思っているワケダな」

 

 サンジェルマンはプレラーティに一言注意するが、注意など知ったことかとばかりに反論された。

 

「今死者蘇生をすることは可能か? この場ではというわけではなく、条件とか呪いで縛られてたりしてるだろ? そういう準備をしたとして」

 

「無理でしょうね」

 

「俺が仲間になったらどうだ?」

 

「私の想定が正しいのであれば、成功確率は50%ほど」

 

「サンジェルマンは何故俺を仲間にしたいんだ? 色々理由を言っていたけど」

 

「私達の悲願に貴方が居れば、細かい調整なしに完遂できる可能性が上がる。だからこそ勧誘している。ある人の切り札にもなり得る可能性もあるので。理不尽には理不尽をぶつけるのが一番」

 

「サンジェルマン達が使う錬金術は記憶をリソースにはしていないよな?」

 

「ええ」

 

「……錬金術を教えて欲しい」

 

 了子との約束を反故にする形になるが、流は力を求めた。まだ力が足りない。

 

「仲間になったらということで」

 

「わかった。次に……」

 

 どうでもいいことから、様々な確信に到れることまでたくさんの質問をした。答えてもらえなかったものも多かったが、この三人は信頼関係にあること、神に関する何かを行うとしていることがわかった。

 そして流が神が禁じている事を行う時のパーツになり得ることもわかった。

 

「こちらもカードを切らせてもらいましょう」

 

「ああ、何?」

 

「私達の仲間になれば、今すぐに日本へ送ってあげます」

 

「……どういう事だ?」

 

「先ほど言っていた、キャロルは既に日本で襲撃を始め、立花響、小日向未来以外の装者は戦闘不能になっているという事です」

 

 流は流石に表情を歪めた。


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