戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#44『イグナイトの暴走』

 流は深淵の竜宮での盗賊活動を終えると、すぐにS.O.N.G.の潜水艦に戻り、自分のベッドに戻ってきた。

 

 潜水艦近くまで戻った時、女装をしたままである事をセレナに偽乳を殴られながら指摘され、そこら辺で適当に服を買って戻るというアクシデントもあったが、無事戻ることが出来た。

 

 戻ること()出来た。

 

「……えっと」

 

「怒られて早々、抜け出すって流石にどうかと思うのよね」

 

「はい」

 

「私は今回流を……いえ、言っても無駄よね。何をしてきたの? 深淵の竜宮でノイズなんか召喚して」

 

 流が寝かせられていた部屋には、了子が青筋を立て、キレながら待っていた。その手に持つ端末には、深淵の竜宮で突如ノイズ反応が一体現れて、海上に出るとともに消えたということなども書いてある。

 

「必要な聖遺物をパクってきた」

 

「何に必要なの?」

 

「脅……交渉かな」

 

 聖遺物を操れる、ネフィリム腕のウェル博士はこの世界にはいない。チフォージュ・シャトーを起動できるのは、機械系を脳波を読み取って、頭で指示するだけで操作が出来るヤントラ・サルヴァスパ。それにネフィリムと同じようなことが出来る了子くらいのものだろう。

 流は元々一時停止状態のものなら、起動させられるが、初期起動はやったことがないので分からない。

 

 了子は謎の女性が侵入した区画にあった聖遺物、ヤントラ・サルヴァスパの機能を思い出し、それをどう交渉に使うのか考える。世界解剖の装置はその装置の機能では、操作しきれないのだろうと理解した。

 

「キャロルと交渉するのよね?」

 

「うん」

 

「はぁ〜〜。流ってアホ」

 

「痛いな!」

 

 了子は最近流が聞いた中で一番大きな溜息をつき、流の頭をぶっ叩いた。了子もネフシュタンが残っていて身体能力が少しおかしく、その了子の叩きは洒落にならない音がしたけど、流はケロッとしている。

 

「そういう事は私に言いなさ……言えないのよね。まあいいわ。どうやって交渉するのかを言ってちょうだい」

 

 了子は部屋に設置されている操作パネルに自分の端末を差し込み、この部屋の管理システムを乗っ取って、流の言葉を記録されないようにする。

 

「多分所々話せない場所が出ると思うから、概要だけ説明するね? まず……」

 

 

 流の説明を聞いていくうちに、また流が無茶をすることを理解したけど、確かにそれなら手っ取り早い。成功が相手依存だが、想い出を焼却なんてする記憶のプロフェッショナルなら、きっと大丈夫だろう。了子は流の作戦に口出しして修正を施す。どうせやらない選択肢は流にはないので、了子は出来るだけ危険度を下げると共に、少しだけ策を講じる。

 

「多分戦闘になるわよ? 説得をする前に襲われるでしょうし」

 

 如何に流が相手の欲しがるものを持っていたり、知っていたとしても、交渉のテーブルに付くには、マリアの時と同じように、ある程度力を示さないといけないだろう。

 

「大丈夫。欧州でボコられた錬金術師は能力がわからなかったけど、キャロルに関しては全て知っているし」

 

 なお、流はファウストローブの最終形態、緑の獅子を知らない。

 

「……装者は連れていくのはダメなのよね?」

 

「下手に刺激したくないし、キャロルの目的が装者だからダメ」

 

 話し合いで連れていかないことが決定したのに、それでも了子はなんとかごり押せないか考える。そして思いつく。

 

「奏ちゃんも連れていった方がいいと思うわよね?」

 

 流が先ほど視線を少しだけ固定していた場所を見て、了子はその空間に話しかけた。

 

『まじで了子さん分かってるじゃん』

 

『あのー? 今度は私がバブられてますよね?』

 

『流石にセレナまで居ることはわからないんじゃねえか』

 

 了子が流の下に奏がいると言った理由が、奏へ向けていた表情と言っていたので、流石の了子ももう一人いて、セレナであることは分からないようだ。

 

「……奏ちゃんは自分の命を捨ててでも、流を優先する子だし、説得は無理か」

 

 架空に話したあと、少ししても流の表情が変わらないことから、説得は失敗したことを悟る。まず奏もついでにセレナも説得などする気がない。言っても聞かないのが流だからだ。

 

「奏は俺をよく理解してるからね」

 

「そうよね。昔linkerの副作用でうなされてた時も……」

 

『あああああああああ! そういう事は一々言うな!』

 

 了子が奏の何かしらを言おうとしたが、奏が流の耳を抑えて叫んだので、なんて言ったのか理解出来なかった。

 

「奏ちゃんなら騒いでいるでしょうね。あとは伝えておいた方がいいこと……あっ、あれね。linkerの濃度を変えて、流に点滴しておいたから、少しは耐性がついたはずよ。多分そんな物がなくても、体調が普通なら、変なフィードバックは来ないはずだけど、バカ息子は体調を考慮せずに使っちゃうでしょうから、慣らしておいたわ」

 

「欧州で体調が悪かったのは色々あったからだし、linkerだってギリギリまで使う気無かったんだよ?」

 

 

 その後最終確認をして、大体の流れが組み上がった。今回の作戦がうまく行かなくて、了子が別案を持っているので、流も少し気が楽になる。

 作戦の話が終わると、了子と雑談をし始めた。流は話しながら見直しとして、アニメの流れを頭に思い浮かべる。

 

 今は電力施設への攻撃前の空白期間のはずだ。

 

(あれ? 空白期間って確か、イグナイトモジュールが改修するのを待つための期間じゃなかったか?)

 

 キャロルはエルフナインの視界をジャックして、イグナイトの完成を待っていたはずだ。了子は出来るだけ早くギアを改修しようとするはずだし、エルフナインは手伝っているだろうから、キャロルにも伝わるはずだ。

 既にギアを壊されて数日が経っている。マリアのアガートラームを前に直したした時は、数時間で直していた。

 

「……ねえ、ママ。シンフォギアの改修って終わってるの?」

 

「天羽々斬、イチイバル、ガングニールは終わってるわよ。他の四人も順次改修するけど、神獣鏡にダインスレイヴって相性が悪そうだし、神獣鏡だけは慎重にやらないとね」

 

 了子はやるべき事がある時は、それを優先して他を全て疎かにするほど集中する人だ。流との雑談の方が改修よりも大切だと思ってくれていたとしても、三人でイグナイトを使っても、負けた場合、流が出動して助けに行こうとすることは目に見えている。

 

 今も裏でエルフナインがアガートラームとシュルシャガナ、イガリマを改修しているのだろうけど、何故了子は戻って仕事をしない?

 流と了子は比較的仕事をサボって話していることが多いが、今は大切な時であり、何だかんだS.O.N.G.は戦力が足りないと思っているはずだ。

 

 なのに何故、了子はここで話し続けている? 了子が時間稼ぎをする理由なんて、一つしかないだろう。

 

「もしかして、今って翼とクリスが出動している?」

 

「そんなわけないでしょ」

 

 了子は流の言葉を否定したが、今の言葉を聞いて、この場にいた奏が急いで部屋から出て行った。奏は指令室に確認しに行ったのだろう。

 

「もし翼とクリスがイグナイトを使って戦おうとしたり、キャロルと戦おうとしてるなら俺は出るからね?」

 

「…………待って、もしかして奏ちゃんって流の下から離れられるの!?」

 

 少しの無言タイムを経たあと、流はそう言い放つ。了子はその言葉の意味を察して、流の周りを見るが、了子には見えない。少しするとすぐに奏は戻ってきた。

 

『響が今出動したぞ! キャロルとも交戦中だ!』

 

「行ってきます!」

 

 了子の目的はキャロルとの戦いから、出来るだけ流を遠ざけるという初めの考えから変わっていなかった。確かに流の計画なら、上手く行けばいい感じに収まるが、下手したら流は死ぬ。肉体的にも精神的にも殺される可能性がある。

 そんな事を容認できるわけが無いので、戦闘が起きていることを気が付かせないために、会話を長引かせていたが、気が付かれてしまった。

 

 流は位相をズラして、その場でベッドや床をすり抜けて、一階層下で位相を正して着地する。

 

「鳥こい!」

 

 いつも流を背中に乗せている飛行型ノイズを召喚して背に乗り、指令室のある方へ向かわせた。

 壁を貫通して指令室にたどり着くと、弦十郎や藤尭や友里、それにF.I.S.組と未来が、キャロルと対峙している翼とクリスを見守っていた。

 

 未来はペンダントが壊れていないはずだが、ここにいるのは改修待ちというのもあるだろう。だが、一番の理由は神獣鏡は仲間との共闘がしにくいシンフォギアだからだ。神獣鏡未来に合わせられるのは、未だ響だけで、他と合わせる場合、未来は近接しか出来ない。

 他の考えを挙げるならば、何かあったらすぐに駆けつけられるような、サブ戦力として温存しているのかもしれない。

 流はそこから少し考えて、イグナイト状態で神獣鏡の攻撃を受けたら、イグナイトが強制解除の危険もあるのかもしれない。イグナイトは怒りや負の感情を押さえ込んで使うため、魔を祓う力に消し飛ばされる可能性もある。誤射をしたらそれだけでイグナイトが剥がれるのは不味いなんてものじゃない。

 

「流!」

 

「あれ? 目の色がおかしくないデスか?」

 

「それよりも何故ノイズに乗っているの!」

 

 調と切歌とマリアが騒いでいるが、流の目は画面に写っているキャロルとの現場を映している。

 

 画面にはイグナイトの失敗というログが出ている。一回目のイグナイトはやはり大抵失敗する定めにあるようだ。

 場所はここからすぐの発電施設のようだ。

 

『うおおおおおおお!!』

 

 ちょうど画面では、キャロルがファウストローブを纏ってアルカノイズの召喚してドやっていると、響がミサイルに乗って現れた。

 

(急がないとキャロルが自殺するかもしれん!)

 

 流はノイズに命令して、ウェルの研究室へ向わせた。ウェルは指令室にいたので、勝手にお邪魔させてもらい、『linker model N』を勝手に頂戴して潜水艦を出た。

 

「あっちに向かって全力で飛んでくれ」

 

 飛行型ノイズに命令して、キャロルと戦闘が起きている場所に急がせる。

 

「戦闘が起きる速度が早すぎる」

 

『そりゃ流の記憶の中には了子はいないからな』

 

『あの人がいれば、改修もすぐに終わりますよね』

 

 流の1期の作戦? も2期の作戦も了子を置いてけぼりにしていたので、あまり時系列も流れの速さも変わらなかった。だが、今回は改修という了子がいないとエルフナインだけでしか出来ないことを、了子やナスターシャまでいたため、相当早く終わってしまい、イベントが圧縮されている。

 

 

 

 潜水艦から離れてすぐ、ガングニールの欠片からとてつもない怒りや悲しみなどの負の感情が溢れだした。

 

「ぐああああああああ!!」

 

 流は感情の放流や全身を苛む痛みによって、ノイズから転げ落ちてしまうが、飛行型ノイズは()()()()()()()()()にもかかわらず、流を急いで拾い上げて、その場で停止した。

 

(やば、便乗フォニックゲインと同じく、イグナイトの暴走も便乗すんのかよ……)

 

 

 ちょうどその頃、キャロルの前に現れた響は、翼とクリスを説得して、イグナイトを抜剣していた。

 

 

 今まで響やマリアがガングニールが纏い、フォニックゲインを発生させると、流の持つガングニールの欠片が共鳴して、フォニックゲイン流れ込んできて、有利に働いていた。

 だが、今回は不利に働いてしまった。改修したイグナイトモードは暴走を制御して、暴走時のパワーをそのままに、理性的に戦えるようするものだ。そのために暴走体の意識、とりわけ理性を保護・維持する機能が付与されている。

 

 当然流のガングニールの欠片には、イグナイトに対するプロテクト何てものは搭載されておらず、纏っている訳では無いのでシンフォギアの3億以上あるロックも機能せず、ガングニールから溢れだした暴走に共鳴するように、デュランダルもソロモンの杖も流を支配して暴走してしまった。

 

 左手親指に輝く指輪だけはその輝きを維持している。

 

 

 **********

 

 

 ○○は目が覚めると、ソファーで寝落ちしていたようだ。寝落ちする前に何をやっていたのか確認すると、どうやらアニメを見ていたようで、テレビには一時中断した画面が写っている。

 

「シンフォギア見てたら寝てしまったのか。今日は休みだし、続きを見ようかな」

 

 ○○は男とも女とも思える声でそう呟いてから、続きを見ようとリモコンを操作して、再生ボタンを押す。

 ○○の手も男とも女とも判断出来ない見た目で、体つきがどんなものかは認識することが出来ない。

 

 テレビには、空を飛ぶ音叉のような城が浮かんでいる。その城から黄緑のビームが地面に掃射された。オレンジの装備を付けた女の子()が地面に手を付き、金髪の弦楽器のような装備をつけた女の子(キャロル)が叫んだ。

 

『世界を壊す、歌がある!』

 

 そこから金髪の女の子が一人語りをしたり、白とピンクと緑のペアが、白い装備を纏う少女と同じ顔の黒い装備の女の子と戦い始めた。その音叉の城で、機能を改変しようとしている博士と会話している赤い男が叫んだ。

 

『藤尭!』

 

『ナスターシャ博士の忘れ形見、使われるばかりでは尺ですからね!』

 

『演算をこちらで肩代わりします。掌握しているシャトーの機能を全て再構築に当ててください!』

 

 そこまではただのアニメ鑑賞だった。

 

「そう、この後あれが起きた。俺/私はこの後、死んだ」

 

 先程までの男とも女とも判断できぬ声が、男の声()に変わった。

 

 病院の車椅子に座っている人やそれを介護する看護師が画面に移り、窓の向こうから黄緑色の光が溢れ、その人達を包み込んだ。

 

 その光はどんどん強くなり、テレビを見ているその人物をも包み込んだ。

 

『何これ!?』

 

 その人物は叫んで、もがいて、逃げようとするが、体がアニメの敵が分解を使ったかのように、端から赤い霧に変化していく。

 

「俺/私が見ていたこの時間、この座標、この位相。全ての条件がたまたま合致してしまったばかりに、あの人は分解現象に巻き込まれた」

 

 テレビの光が止み、テレビが置いてあるその部屋も正常に戻ると、その場所には誰も残っていなかった。




主人公が転生した理由(上)でした。
転生前主人公に特徴がないのは後のち理由がわかると思います。

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