戦姫絶拳シンフォギアF   作:病んでるくらいが一番

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#48『錬金術師イザーク』

 イザーク・マールス・ディーンハイム

 

 3期ラスボスであるキャロルの父親であり、キャロルが世界解剖を志すきっかけに()()()()()()()人。

 

 彼自身は温厚でお人良しな性格の持ち主であり、錬金術の研究に没頭していたようだ。山にて採取される『仙草』とも呼ばれる薬草『アルニム』を使った治療によって、流行り病に苦しむ村人たちを数多く救うなど、人間の力で()()を打開しようと努力していた。

 

 自身の錬金術を人々の為に使ってきたが、その力を恐れた人々に異端者としてキャロルの目の前で火刑に処される。そして死の間際にキャロルに『生きて世界を知る』ように遺して亡くなった。この言葉がイザークの意志とは真逆の方向に作用してしまった。

 

 錬金術師としての誇りを持ち、世界のすべてを知り、人々が分かり合える世界を目標としていたらしい。だが、錬金術と同じように配分で味が変わる料理は下手で、いつも娘のキャロルに尻を叩かれていたことはアニメで描写された。

 

 そんな存在が流の下に現れた。

 

 

 流は霊体の事やシンフォギア以外の異端技術は全くと言っていいほど知らないが、それでも分かったことはある。

 

 奏は流のすぐ側で死んだ。セレナはマリアのすぐ側で死んだ。イザークはキャロルのすぐ側で死んだ。

 更にあの時の奏は、流が自分で思うのは少し恥ずかしいが、自分を一番好きでいてくれたはず。セレナも唯一の肉親である姉をあの場で一番愛していた。イザークも娘のキャロルが一番思っていたはずだ。

 

 死にゆくものは強い思いを抱いている者に憑依するのだろう。そして今回はキャロルに憑いていたイザークを、流が暴走して戦っていた時に奪い取ったのだと推察した。

 

 だがセレナをマリアから奪い取った時、セレナがガングニールの繋がりがあって、やっと憑依している霊体を奪えると言っていた。ならばイザークをキャロルから奪うことは不可能なはず。

 しかし、あの時は聖遺物が暴走していたので、いつもよりも何倍もの出力がでていて、流が扱いきれていない指輪の力を発揮したのだろ。

 

 流は一通り考えを纏めると、自己紹介をしたのに黙り込んでしまった流の対応に困っているイザークに声をかける。もちろん統一言語で返事をする。

 

『初めまして。俺は風鳴流だ。聖遺物デュランダルを身に宿し、完全聖遺物ソロモンの杖を身に融合させ、謎の指輪を持つ者だ』

 

『自己紹介ありがとう。流くんが私を知っているのと同じように、私も君の記憶に触れてしまったから、君の事は大体知っているよ。まず君は記憶の共有を止めた方がいい。奏くんやセレナくん、そして私もだけど、君に害をなす気はないが、ほかの存在はそうとは限らない』

 

 イザークはメガネのフレームが曲がっているのか、眼鏡を何度も持ち上げながら、流もよく分かっていないことを指摘してきた。

 

『奏もセレナもちょいちょい言っていたけど、記憶の共有ってなに?』

 

 流のその言葉にイザークは驚いたあと、少し考えてから話した。

 

『なるほど、なら説明から入ろうか。まずこの世界には精神生命体というのはもういないとされている。奏くん達や私は精神生命体だが、魂が残っただけの霊体だから省くよ? 例えば悪魔や天使などといった存在は、もうこの世には存在しない。悪魔も天使も人々の想いで力をつけ、人と対話することで形を得ていたんだ。だけど、その悪魔と天使と対話する方法が失われてしまった』

 

『統一言語が封印されたからか』

 

『そう。君の指輪は多分だけど()()()()()()()と言われている物だね。悪魔や天使などの精神生命体を使役するための聖遺物だとされている。その記憶の共有は説明を省くための機能の一つなのかな? 私もあまり確信がないけど、多分そうだと思う』

 

 イザークの言葉を聞いて、自分がソロモンだと呼ばれている理由がやっとしっくりきたと思った。

 ソロモンの杖は悪魔を使役する杖だから、ソロモンの杖と言われているだけだ。ソロモンの名を使ってはいるが、ソロモンが使用した訳では無い。

 だが、この指輪はソロモンが使っていた物だ。

 

 そこで疑問が発生した。もし杖を持っているからソロモンと呼ばれているのではなく、指輪を指してソロモンと呼ばれていたのなら、サンジェルマン達はこの指輪の存在を知っていたことになる。何故知っていたのだろうか? それとも杖の持ち主だからソロモンと呼ばれていただけなのだろうか?

 わからないことは後回しにして、話を進めてもらう。

 

『続けるよ。今の世には思いは溢れている。そして君のような特殊な人間がいれば、人々の思いから悪魔が発生してしまうかもしれない。そんな存在を君が間違って使役してしまって、記憶を共有なんてしてしまったら危ない。だからこそ、共有を切った方がいいと言ったんだよ。天使だって、悪魔とは表裏一体の存在だから、信用できるかわからないからね』

 

 そのあとイザークに切る方法を聞いたが、思えばなんとかなるのではないか? と言われて、指輪に命令してみたが、特に変化はなかった。変わったのかもしれないし、変わっていないのかもしれない。

 

『……うーん、わからない。初期設定として私は君の記憶を垣間見たから、今はどうなっているのだろうね。出来てると仮定して話を進めよう』

 

 その言葉を境に、頼りなさげだったイザークの顔つきが変わり、真剣味が帯びた表情になった。

 

『君のお父上は人を助けるために自らを犠牲にすることを推奨はしないけど、強く止めたりはしないだろう。君の記憶の風鳴弦十郎はそういった方だ。櫻井了子は君を止めたいとは思っているけど、君の体を使ってデュランダルの実験をしてしまったから、強くは言えない』

 

『あなたは何が言いたいんだ?』

 

 イザークの要領を得ない言葉に流は眉をひそめる。何故そんな表情をしたのかは流にも分からない。

 

『まあそうだろう。君の周りは誰も指摘しないことだからね。君のおかげでキャロルがあんな終わり方、記憶を失ってさまよい歩き、()()()()()()であるエルフナインと融合しないといけない。そんな悲しい状況にはしたくない。君がいれば変えられるし、変えようとしているはずだ。だからこそ、これは私が君に出来るお礼として聞いて欲しい』

 

 流は嫌な気配を感じるが、イザークの目は優しさと真剣味に包まれているので、黙って頷く。

 

『君の記憶を見てわかったけど、君はこの世界の()()だと思っているみたいだね』

 

『だってそうだろ? 俺が介入したせいで、物語が変わってしまった』

 

『確かに君の知っている歴史では、櫻井了子……フィーネは死亡しているし、ナスターシャくんも死亡している。ウェルくんも死亡している。マリアくんに調くん、切歌くんは世界の犯罪者になっている。君がいなければ未来くんは響くんの帰る場所に待つだけだったはずだ』

 

『で? いい改変が出来たから、俺は異物ではないと? これらの改変があったから、未来(みらい)が破綻していたとしても? 破綻しないかもしれない。だけど、俺は()()をねじ曲げている。異物だろ?』

 

 流は常に恐怖している。知っていたのにクリスが何年も捕虜になっているのを見逃した。知っていたのにセレナを救えなかった。知っていたのに奏を見捨てた。流自身知っている人達の幸せのために、多数を既に犠牲にしている。流がいたから翼は風鳴で価値が下がり、すぐに母体として認識されてしまっている。

 

 それら全てがもしバレてしまったら。奏を見捨てたことも、セレナを助けようとしなかった事も。既に流の手は装者達とは違って、取り返しがつかないくらい血に塗れていることを。それらを知られたら、嫌われるかもしれない。だからこそ、流は皆を依存するように()()()に動いている。

 

『君の根底は恐怖と愛と歪みだってことはわかっている。君が愛するという事は()()()()という、負の感情と同じ意味を持っていることもわかっている』

 

 今までの言葉はどれも流に突き刺さる言葉だったが、今のイザークの言葉の意味はわからなかった。

 

『待て。俺の愛するが殺したいってどういう意味?』

 

『あれ? 奏くんとセレナくんは…………あー、なるほど。すまないね、これは言わなかったことにしてくれないかい?』

 

 せっかく真面目な雰囲気だったのに、イザークの眼鏡がずれ、知的な感じが吹き飛んだ。

 イザークは奏とセレナならば、流の人間的な歪みを教えていると思ったが、秘匿していたようなので、言葉を止めた。

 

『無理』

 

『……これを私経由で知ったと、奏くんとセレナくんに知られたら、下手したら君は二人に()()()()()?』

 

 意地でも流は食い下がる気はなかった。だが、最後の一言で彼はすぐに折れた。流は自分自身の事なのに、知らないことが多すぎることに嫌気が差してくるが、頭を切り替える。

 

『すまないね。えーと、そう、君が自分を異物だと思うのはやめようって話だ。さっき君の改変で世界が破綻したかもしれないと言っていたね? 人に信じてもらえず、火あぶりにされた私はあまり言えたことじゃないけど、そういう後悔の仕方は死んでからするべきだよ。もしくは死ぬ瞬間かな。私の場合火あぶりにされた時だ』

 

『は?』

 

 真面目が吹き飛んでしまったため、イザークは少しだけ投げやりになっているが、それでも口を止めない。流の未来のためであり、二人の娘のためでもあるからだ。

 

『あと言っておくけど、君が異物なら、君の傍にいる奏くんもセレナくんも異物だよ。その二人を蘇らせたとしても、君のいう異物だろう。クリスくんだって君に猫のように甘えている。君の記憶にあるアニメの雪音クリスとは違いすぎる。風鳴翼だってそうだ。風鳴よりも友達と遊ぶことを優先したりしている。他だってみんな君の()()()で変わっている。その全ての人々を異物と君は切り捨てるのかい?』

 

『そんな訳ねえだろ』

 

『そう、そんなわけが無いんだよ。君がいた程度で世界が異物で満ちるわけがない。だから、異物だからなんて考えはやめた方がいい。君程度を許容出来ないほど世界は融通が効かないわけがないからね』

 

 流は自分が貶されるだけなら問題ない。だが、仲間達が貶されることは我慢出来ない。しかも流は自分の考えを変えない限り、仲間を貶すことになってしまう。

 

『……はぁ。まあ考えておくよ。俺も言わせてもらえば、イザークはそんなことを言っているけど、娘にしっかりと遺言を伝えなかったから、キャロルはあんなんになっているんだけどね』

 

『待ってくれないか? それを言うのなしだと思うよ』

 

 イザークはやってしまった事を流に突つかれて、膝をついて落ち込み始めた。

 イザークはあの言葉でキャロルが世界に絶望しないで、もっと広い目で世界を見てくれると思ったのだが、思いはちゃんと口にしないと駄目だった事に凹む。しかしキャロルを否定されることは、イザークも許されない。

 

『……私は確かに終わりも酷い感じだったけど、流くんのキャロルを救う作戦はガバガバすぎる!』

 

 彼は自分の非を認めるけど、流に反撃を敢行する。

 

『なにさ』

 

『可愛いキャロルを殴り倒す。オートスコアラーも殴り倒す。そして記憶系の錬金術に強くなっているキャロルに、流くんの記憶、アニメの内容を見せる……はっきり言わせてもらうよ。私の娘を舐めないで欲しいね。今のキャロルはきっと、ボコボコにされても君の言うことには聞かないし、君の記憶を見たとしても、解剖は止めないはずだ』

 

 イザークが言っている通り、流は最悪アニメの記憶はキャロルに全てあげてもいいと思っていた。それを吟味してもらい、それでも解剖を進めようとするなら、シンフォギア装者達と協力してボコボコにして、ファウストローブを使わせないで完封するつもりだった。

 

 流はぶっちゃけ魔法少女事変はチョロいと思っていた……今も思っている。この事変の鍵であるチフォージュ・シャトーの操作に必要な、ヤントラ・サルヴァスパを確保して、バビロニアの宝物庫に仕舞ってしまえば、シャトーは完成しない。この世界にはネフィリムウェルはいないので、これでなんとかなる。

 アニメでキャロルが自暴自棄になったのは、シャトーが完成したのに、ぶっ壊されたからであって、ボコったあとにもう一度記憶を見てもらえば、暴れることはないと思っていた。

 

 流の中では、キャロル達よりもサンジェルマン達の方が怖い存在なので、そちらに思考を傾けていたので、割と雑になってしまっている。

 

『ガバガバでもヤントラ・サルヴァスパは俺が手に入れてるし、いざとなればフロンティアでシャトーをぶっ壊せばいい。神の星間移動船が人類の作った城に負けるわけねえし』

 

『人類が作ったネフィリムに乗っ取られたけどね』

 

 流があまりにも娘を舐めているので、イザークは流の言葉に反発する。流も少しイラッとした。

 

『その身に呪いの旋律を受けてから死なないといけない。それで残機が一体しか残っていない。初めから絶唱を使われてたらどうするの? アニメの映像はイザークも共有しているみたいだけど、あの時に三人がS2CAしてたらどうするの? あの時本気で戦うわけにはいかないだろ?』

 

『マリアくんとかいう子に、君が敵ではないかと疑われているっぽいけど、それを気がつけないのに、キャロルを馬鹿にしないでくれないかな?』

 

『は? マリアが俺を疑うわけないだろ』

 

『そういう素振りを見ても無視しているわけだね』

 

『変な事言って話を逸らそうとするのやめてくれない? 自分の娘が露出狂の毛があるからって、そんなに怒らないでよ』

 

『おいおい、私の可愛い娘であるキャロルがそんな訳ないだろう?』

 

『オートスコアラーの人格データはキャロルを参考に作られていて、人前で所構わずキスをして、それに悪くない感覚を覚えているって映像でありましたけど?』

 

『映像が全てなわけないだろう? 君が来たせいで変わっているかもしれない』

 

『俺程度が世界を変えられるわけないだろ? イザークが言ったんじゃないか。接触していないのに俺が影響する訳がないだろ』

 

『いいや、娘がもし露出狂だったら君のせいだ。君のその思いが娘の思いを塗りつぶしてしまったんだ。ああ、なんて可哀想なキャロル』

 

『……』

 

『……』

 

 言い合うたびに、二人の眉間にはシワが増えていく。

 

『……おい、おっさん。死んでんだから、そろそろ消えろよ』

 

『娘が更生するまで消えるわけにはいかないね。経験すらない童貞は黙っていればいいと思うよ』

 

『料理もまともに出来ないくせに減らず口を叩いてんじゃねえよ』

 

『女性の扱いすらまともに出来ない小僧が吠えない方がいい』

 

『……』

 

『……』

 

『『ふん!』』

 

 二人の拳は互いの頬をぶつかり、そこからただの喧嘩が始まった。

 イザークは娘が露出狂かもしれないし、ミカの待機ポーズをカッコイイと思っているなどの残念感性に育ってしまったかもしれない不安を流にぶつける。

 流は言われたくないこと、実際キャロルの対応がガバガバだった事への不安をイザークにぶつける。

 

 普通なら流が勝つのだが、今の二人は精神体であり、拳の硬さや強さだけが勝敗を決める訳では無い。

 互いに認めたくない思いを抱いて、相手の頬を殴り続ける。

 流は弦十郎以外に初めて殴り合いに負けた。イザークはそれだけ娘の感性に不安を覚えたのだろう。もちろんその後前向きにキャロルの事も話し合った。




流自身への侮辱に対する抵抗<娘の感性や性癖への心配
となった結果負けました。

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